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Episode06/2.男女の性差

(18.)

 葉月は一年の教室の中に、なにも躊躇わずに足を踏み入れる。


「はいはい、今日もお邪魔するわよ」


 本当にいつも来ているらしい。


 葉月はそう言いながら、教室の中へと平然とした態度で入っていく。

 そんな葉月に対して周りも慣れているらしく、誰も動じていない。


「し、失礼します」


 葉月につづき、僕もぼそぼそ呟きながら一年の教室に入った。


 しかし、やはり私服姿だからか、幼いのがいけないのかーー何人かは僕を見ながらひそひそ話をはじめている。


「杉井、こっちよ」


 手招きされた席には、机の上に手を伸ばし、うつ伏せのまま寝ている女子生徒の姿がある。

 葉月はその頭を手のひらで叩いた。


「いたっ? ……あれ、姉さん?」


 葉月に頭を叩かれた下級生の女子生徒は、頭を擦りながら面を上げた。


 夏なのに、珍しく長袖を着ている。

 冷え症なのかな?


「あれ、姉さんーーじゃないでしょ? もう昼休みなのよ、わかる? まさか授業中ずっと寝ていたわけじゃないでしょうね? ほら、お弁当持ってきたからさっさと食べましょ?」


 ーー凄い。


 非常に似ていた。


 見た目だけなら葉月とそっくりの存在が、そこには座っていた。

 座っている妹らしき人物は、右のモミアゲに赤いリボンを巻いているから見分けることはできる。


 しかし、髪の長さまで一緒で、顔立ちもパッと見ても違いがわからない。

 リボンを外してしまったら、今の僕では、まだ外見では区別がつかない。


 双子なのかと問いたくなるほど、その顔立ちは似ていた。


「そいつ、だれ?」


 妹さんは眠そうな目を僕に向けて言う。


「その他人に対する口の悪さ、いい加減どうにかしなさい。ほら、たとえば“そのお(かた)”とか、せめて“そのひと”くらいに」

「姉さんも、同じだよ? で、だれなの?」


「……あんたと同じよ。同じ学校に仲間ができたんだから喜びなさい。名前は杉井豊花、私と同学年。つまり、あんたの先輩なんだからね」


 ……瓜二つなのは、どうやら見た目だけらしい。

 外見以外は似ているどころか、真逆とさえ言える。


 葉月は明るくハキハキものを言うタイプだけど、妹のほうは常に怠そうな雰囲気を醸し出しており、喋るのすら億劫だとでも言いたげだ。


「ちょっといい、葉月?」


「うん?」「ん……?」


 まさかのダブル葉月。

 そうだった。

 どっちも葉月じゃん。


「そうそう、これよこれ。こうなるから、杉井には呼び方を変えてもらうって言ったのよ。これからは私のことは瑠璃って呼んで。これは妹の瑠衣(るい)ね?」


 瑠璃は『これ』と言いながら妹の襟首を掴み上げる。


 妹ーー瑠衣は特に逆らわず、されるがままだ。


「ええっと、呼んでもいいなら、そうするけど……」


 いきなりファーストネームで呼ぶのって、なんだか気恥ずかしい。

 僕の場合、裕璃ぐらいしか名前で呼んだ試しがないし。


「べつになにも気にならないからそう呼んじゃって。なんならこれからは豊花って呼ぶことにするから、よろしくね。瑠衣もそう呼びなさいよ? 豊花先輩、みたいに」


 瑠璃はそう言いながら、瑠衣の座る机の周りに椅子を二つ引き摺り寄せた。

 その片方に腰かけると、僕にも座るように促してきた。


 なんだか、瑠璃に豊花と呼ばれるとムズムズする。


「で、さっき言いかけてたのはなに?」


「え?」

「なにか訊きたかったんじゃないの?」


 そういえばそうだった。

 ある点が気になって声をかけたのに、ダブル葉月のせいで頭からいったん吹っ飛んでしまった。


「いや、さっき瑠衣に向かって“あんたと同じ”って言ってたけど、それってどういう意味なのかなって」


「ああ、言ってなかったっけ? それはね、この子ーー瑠衣は貴女と同じ異能力者なのよ」

「え!? 僕と同じ異能力者!?」


 この学校にもひとりだけいるって教師から聞かされていたけど、瑠璃の妹が異能力者だったの!?


「えっと、僕みたいな異能力?」


「いや、さすがにそうじゃないわよ。そんな別人になる異能力者、少なくとも私は今まで担当したことないもの。豊花は身体干渉の異能力者でしょ? 瑠衣は物質干渉型の異能力者でーー」


「ねえ、豊花って、名前のひと。訊いてもいい?」


 瑠璃の言葉を瑠衣が遮り、ワンピースの袖を引っ張った。


「な、なに?」


 というか、呼び捨て……“先輩”どころか“そのひと”扱いされるとは……。


「どうして、僕? 僕っ娘、目指してるの? 見てて痛い、恥ずかしいよ。早く、やめたほうが、いい」

「……へ?」


 いきなり瑠衣に、『僕』という自称が否定されてしまった。


「瑠衣? あのね、豊花はこれでも男でーー」


「うそ。女の子でも見かけないくらい、女の子女の子した、顔してる。でも、しゃべり方、変。僕っ娘に、なろうって、必死にキャラづくりしてるみたい。見てると、痛々しいよ?」


 瑠衣から地味にチクチクする突っ込みが入った。


 あれ、意外と痛いぞ、これ?

 案外、心は痛みやすいんだよ?


 それに、そもそも喋り方が変なのは瑠衣のほうだろう。


「いや、本当に元は男なんだ。異能力が女の子に変身して元に戻れない、ってものだからこの姿なんだよ」


「瑠衣? 豊花は私が第2級異能力特殊捜査官としてしっかりチェックしてるのよ? 霊視つかって幽体の姿だって重なっているのをちゃんと確認した。一通り、神経・精神・身体・人格なんかも異変がないか確認したの、わかる? あんた、私の実力が信じられないっていうの?」

「信じる信じる、姉さんサイコ、こわい」


 さ、サイコ?


「サイコなのはあんたでしょーが! あんたがあんなことしなければ、私だって毎日毎日見張りのようなことする為にこのクラスには来ていないの、わかる?」


 え、あんなことをしなければ?

 おそらく異能力関係なんだろうけど……そういえば。


「はづーー瑠璃、ちょっと訊いていい?」

「だいたいあんたはねぇーーん、なに?」


「気になったんだけど、瑠衣……ちゃん? の異能力がなんなのか、訊いてもいいかな?」


 なんだか直接訊くのは気まずかった。


 けど、異能力の内容を聞けば、瑠衣がなにをしたのか、なんで毎日のように瑠璃は瑠衣の教室まで来ているのかーーその予想が大方つくと思えたのだ。


「えっとね、瑠衣は」


「見せようか?」瑠衣はカッターを机から取り出した。「ひひっ……ひひひっ」


 ーーえ?


「ちょっ、どうしたの、瑠衣ちゃん?」


 尋ねた瞬間、瑠衣は急に口角を上げたかと思うと、不気味な笑い声を漏らした。


「ちょっと瑠衣! あんたそんな危ない物どうして持っているのよ!? そんなこと訊かれたくらいで侵食率が上がることーー」

「いいよ、いい。見たいなら、今から実演するよ、きひひっ!」


 瑠衣は嗤いながら手を空へと掲げる。

 その手にはカッターナイフが握られている。


 瞳孔が開いており、口角がつり上がっているせいで嫌な狂気を感じてしまう。

 だが、掲げた手許にあるのは、カッターといっても百均にありそうな安っぽい物でしかない。


「瑠衣! やめなさい!」

「え、いったいなにをするつもなの?」


 瑠衣はカッターの刃をチキチキ出すと、刃に二本指を付ける。

 その後、カッターの切っ先を真下に向けて机を突いた。


 刃が折れて飛ぶんじゃないかと身構えたが、そうはならなかった。

 普通なら刃が折れて飛んでいるだろう。


 でも、瑠衣は机にカッターの刃を突き刺していた。

 突き立てた、ではなく、突き刺した、が正しい。


 実際に突き刺せているのだから、突き刺しているとしか表現できない。


 机の中心にカッターの柄が生えてきているように見えなくもない。

 硬いはずの机に、カッターがサクッと容易に刺さり、出した刃がすべて机を貫き嵌まっていた。


 おそらく、机の中まで刃が真っ直ぐ届いているだろう。 


「これ、これが、私の能力っ!」


 さらに瑠衣は、机に突き刺さったカッターを握り直すと、机の横へ払うように薙いだ。


 まるで、カッターの刃が当たったところが勝手に消えていくかのような、そんな切断の仕方をしていき、深い傷跡がそこに残る。


 普通ならあり得ない。


 あんな柔そうな刃が、豆腐に包丁を入れるよりも軽やかに机に深い溝をつくってしまうなんて……常識では考えられない。


 つまり、これは“非常識”の力。


 普通とは“異”なる“能力”を操る“者”ーー異能力者という証明だった。

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