転生したら平和に暮らそうと思っていたのに最強の能力を手に入れてしまった!
平凡な日常を続け歩んでいたら自作小説の世界に転生してしまった!!
俺の名前は影山零、趣味で小説家になろうという小説投稿サイトに小説を投稿している高3男子だ。
受験も近いというのに俺は毎日小説を書いている。
まぁたまに休んだり、遅刻したりはしてしまうが。
正直自分に文才はないため、周りの投稿者には評価ポイントなどで負けている。
もう投稿を初めて1年以上経つというのにランキングなんて遥か遠いところにある。
書き方も独特だと自覚しているが、一度ついた癖はなかなか治せない。
俺は今「転生したら平和だったのに最強の能力を手に入れてしまった!!」という作品と「異常者の恋愛は異常です」という二つの作品を投稿している。
「ふー、何とか今日の分間に合った。23時58分。ギリギリだったな」
俺は高校生なので当然学校がある。
部活は帰宅部とはいえ日中は小説をかけない。
課題もあるのでどうしても小説を書くのは夜になってしまう。
そのためいつも小説が書けるのは投稿時間ギリギリだ。
なんなら最近は遅刻も多い。
実を言うとこれでも最近は小説を短くしている。
俺は小説を書き始めた当初、1話4000字を目安に書いていた。
しかし、高校生活との両立もあって俺は1話4000字が難しくなってしまった。
結果、結構前からだが俺は1話3000字としている。
勿論書けるならば長くする話もある。
といっても4000字までいくのはかなり稀だが。
「はぁー。寝るか」
俺は自室に独り言ちて眠る。
明日も高校だ。
そろそろ寝ないとまずい。
俺はベッドに入り、眠りについたのだった。
「ううん」
俺は目を覚ます。
目がまだ明かない。
なので俺は目を瞑ったまま伸びをする。
「はぁ、高校いかなきゃ」
そう言って俺は目を開けた。
目に映る景色は見慣れた俺の寝室、ではなく全く知らない部屋だった。
「知らない天井だ」
人生で一度言ってみたかったセリフの1つだ。
まぁ伸びをして起き上がってしまったので最初に目にしたのは天井じゃないことだけが惜しいところだが、まぁいいだろう。
「ってそんなことを考えている場合じゃない。ここはどこだ?」
周りを見回して状況を把握する。
まず間違いなく俺の部屋じゃない。
俺が小説を書く時に必須なパソコンも、正直自他ともに認める依存症なスマホも、お小遣いで地道に集めたラノベもない。
「うっ、あぁぁぁ」
周りをキョロキョロとみていると、突然激しい頭痛に襲われる。
頭の中にたくさんの情報が流れ込んでくる。
これは僕が生きた6年間の記憶だ。
約1分後、ようやく頭痛は収まり。
俺はこの世界で生きた6年間の記憶を完全に思い出した。
「そうだ、僕はリーヒット男爵家次男。モノルワ・リーヒットだ」
モノルワ・リーヒット。
それが僕の名だ。
だが、その名前、どこかで聞いた記憶がある。
いや、自分の名前だから聞いたことがあるのは当たり前なんだけど。
俺は自分の記憶を探っていく。
「あっ、そうだ。モノルワ・リーヒットって俺が書いてた小説の悪役だ」
俺が書いていた小説「転生したら平和に暮らそうと思っていたのに最強の能力を手に入れてしまった!」に出てくる悪役勇者の名前がモノルワ・リーヒットだった。
この小説は4000年前に最強と謡われた魔王が転生し、更なる力を得て4000年前の配下や新たな仲間と共に楽しく過ごす。
そんなありふれた話だ。
世界観は剣と魔法の世界で、加護、スキル、称号、魔物など異世界物のテンプレをこれでもかと俺が思いつく限り詰め込んだ。
さて、そんな物語に出てくる俺の転生体、モノルワ・リーヒットだがはっきり言おう。
悪役だ。
モノルワは現代の正教会というシン(主人公)たちと敵対している宗教組織に今代の勇者として祀り上げられた存在で正義感が非常に強い、善人だ。
この小説のシンは魔王だが、悪人ではない。
むしろ4000年前は平和を望んで戦って平和を実現したくらいであり、善人よりだ。
だが、転生して少し考えが変わったのもあってモノルワとはまったく合わない。
シンは別に悪いことはしていない。
が、多少貴族的な傍若無人なふるまいをするので真面目で正義感の強いモノルワとは合わないのだ。
モノルワは人は皆平等であるとか平気で心から言えちゃうタイプなのだ。
なのでモノルワは登場すれば大抵シンともめる。
まぁシンからすれば羽虫がないてうざい程度の認識だったりするが、自分よりも強く偉そうで権力を使って好き勝手するシンを罰しようと決闘(摸擬戦)をしたりもする。
勇者なのに主人公の敵小説としておかしくない?となるかもしれないが、まぁ主人公が魔王だから割と自然な流れだろう。
最近のWEB小説やラノベでは勇者が敵というのも結構よくある話だ。
さて、勇者と聞けば何か特別な能力を持っていると思われるかもしれないがそんなものはない。
なぜならモノルワは本物の勇者じゃないからだ。
勇者とは称号「勇者」を持っている者のことを指す。
だがモノルワは「勇者」なんて称号、持っていない。
モノルワはただ一宗教に勇者任命されただけの一般人なのだ。
「はぁ、夢の異世界転生。しかし転生先が自作小説の世界に悪役とは。いや、悪役転生って最近よく見るけど。っていうかさすがに死ぬような生活はしてなかったから転生か転移かどうかは分からんな。まぁ今はどうでもいい。この先どうするかを考えよう」
俺はモノルワの設定を思い出していく。
小説ではモノルワは最後、シンの仲間であり、モノルワが恋している聖女ミゼに滅茶苦茶拷問されて殺される。
さすがにそれは嫌だ。
最近多い悪役転生物なら、実は才能があって、努力しまくって主人公よりも強くなちゃって、主人公と立場逆転。
みたいなのが多い。
だがこの世界は違う。
そもそもモノルワは努力家だ。
それはもうとんでもなく。
だからこそ本物の勇者でもないのに、天才であるシンとだいぶ手加減はされたものの一応摸擬戦という形が成り立っていたのだ。
ではそこに俺が入ったらどうなるのか?
俺はものすごく怠惰な人間だ。
俺は努力という言葉が世界で3番目に嫌いだ。
ちなみに1番目が虫で、2番目が正義だ。
さて、今はそんな話はどうでもいい。
まぁ結論から言えばモノルワには主人公に勝てるほどの才能はないし、モノルワのように努力する気は俺にはないから、小説のモノルワよりも強くなるのは無理だ。
ラノベでは裏設定で無双。
なんてのもあるが、使えるような裏設定はない。
裏設定自体は結構色々とあるが、大抵は作者である俺がいつかこの設定使えるかも、って考えた伏線のようなものだし、強くなるのに使えるものとかもあるが、それって結局シンたちの話だから意味ない。
そもそもあるかも分からないしな。
「死ぬのを回避すること自体はそこまで難しくないんだよな-」
俺は再びベッドに体を預ける。
そう、死ぬことを回避するのはそこまで難しくないのだ。
一番簡単な方法としてはそもそも正教会から勇者認定されなければいい。
そうすれば学園にもいかなくなるためシンと会うことがなくなる。
モノルワはシンとさえ会わなければ死亡フラグなんてないのだ。
モノルワが勇者とされた原因はモノルワが7歳の時に得た称号「勇気ある者」だ。
「勇気ある者」には一応身体能力や魔力が強化される効果がある。
それに疑問を持ったモノルワが兄に「鑑定」してもらったことで「勇気ある者」の称号を得たと判明し、正教会に勇者に認定されるのだ。
本物の勇者にはれっきとした「勇者」という称号があるんだが、昔、それを見つけられなかった正教会が似た名前を持つ称号である「勇気ある者」を獲得した者を代々勇者として祀り上げたのだ。
モノルワは今代のその祀り上げられた勇者ってわけだ。
「つまり、「勇気ある者」を獲得さえしなければ勇者に認定されない」
俺は「勇気ある者」の称号を獲得しなければ拷問されて死ぬようなことはなくなる。
そして高校生陰キャコミュ障の俺に勇気なんてこれっぽっちもない。
本来小説ではモノルワは7歳の時におきたダンジョンスタンピードという魔物が町に襲ってくる現象にて、魔物に襲われそうになった同年代の女の子を助けるために魔物を殺して「勇気ある者」の称号を得る。
それをしなければ問題ないし、しようと思っても臆病な俺には無理な話だ。
ダンジョンスタンピードが起きても家でおとなしくしておけばいい。
さて、それじゃあ、これからどうするか。
俺はいわゆる憑依転生とかいう奴だろう。それ系の物語の主人公は本来の人格を殺してしまったと罪悪感を覚えることも多いが、俺はそんなもの感じない。
なにせ、モノルワというキャラクターは俺の嫌いな要素を全て詰め込んだからな。
罪悪感なんてこれっぽっちもない。
「せっかく夢の異世界転生。WEB小説とラノベが読めないのは痛いが、楽しむとするか」
俺は結局、陰キャオタクなのだ。
異世界にワクワクするのはどうしようもない。
しかも、ここは文字通り俺が創った世界。
俺はこの世界について誰よりも知っている。
それこそ、設定場この世界を創った創造神すらも上回るだろう。
「一つ気になるところがあるとすれば、俺が書いてない部分までいけばどうなるかだな」
俺は最新話時点でシンたちが15歳になる年までしか書いていない。
つまり、そこから先どうなるかは分からない。
もしかしたら世界が崩壊するかもしれない。
「まっ、今考えてもしょうがない。異世界転生したとはいえ、中身は俺で身体はモノルワ。どうしようもない。世界を救ったり滅ぼしたり出来るのはシンたちだけだ」
俺は思考を放棄していかにしてこの世界を楽しむか考えることにした。
モノルワ君の記憶によると、6歳時点の俺はかなり活発に外で遊ぶ子らしい。
ご飯を食べて、たくさん遊んで、寝る。
まぁ6歳なんてそんなものだろう。
「とりあえず、気を付けたいのは大体1年後にあるダンジョンスタンピードくらいか」
ダンジョンスタンピード、忘れて外で遊んで魔物に殺されましたというのは避けたい。
「とりあえず、そろそろ起きないとな」
そうして俺は服を着替えたり朝の支度をする。
そこで鏡を見たが、モノルワの顔は悪くなかった。
俺は底辺小説投稿者だし、絵なんてかけないのでキャラクターは髪色とか目の色とかは設定したがどんな顔かなんてイケメン。
とかしか決めてなくてイメージもしてない。
家族の顔も記憶にはあるが、見ても驚かないようにしないと。
「それじゃあ、ご飯食べるか」
そうして俺は部屋を出る。
こいつ、6歳で個室貰ってるとか贅沢な奴だ。
リーヒット男爵家は貧乏なのでメイドなんて数人しかいないし、俺専属とかもない。
少し裕福な平民と生活は変わらない。
部屋を出て記憶を頼りに食卓に進むと母親、父親、兄、メイドがいた。
しっかりと記憶と合致する。
しかし、モノルワの家族は皆俺含めて顔が良い。
特にモノルワとモノルワの兄なんかは日本ならばアイドルや俳優になれば余裕でヒットするくらいにイケメンだ。
「モノルワ、おはよう。今日はちょっと遅かったね」
「兄さんおはよう。寝坊しちゃって」
「あら、兄さんなんて。いつもお兄ちゃんなのに」
「まぁ、そういう年頃なんだろう」
「兄さんは今まで通りお兄ちゃんの方がいい?」
「モノルワの好きな方でいいよ」
「じゃあ兄さんで」
そんな会話をこなす。
今一度繰り返そう、俺は陰キャコミュ障オタクだ。
記憶としては家族と言え、精神的には赤の他人に過ぎない。
そんな人と家族のように接するのは膨大なエネルギーを消費する。
俺はモノルワの記憶を思い出しながら、なんとか朝食をこなした。
「それじゃあ、遊びに行ってくる」
「気を付けていきなさいよー」
「夕飯までには帰るんだぞー」
普段のモノルワはご飯を食べたらすぐに外に遊びにいく。
平民の友達と木の枝を使ってチャンバラしたり、鬼ごっこしたり、まさに子供って感じだ。
だが、今の俺の精神は高校生。
そんな物で遊ぶのは精神的にもキツイ。
それにせっかくの異世界なんだから魔物と戦いたい。
これは男の性という奴だ。
だが俺はレベル1の6歳児。
この世界にはレベルが存在し、レベルが高ければ子供でも大人に余裕で勝てる。
それがこの世界だ。
だが、レベル1の6歳児ってのはぶっちゃけ滅茶苦茶弱い。
当然武器になるような物は持っていないし、身体能力も低い。
普通に考えて魔物と戦うだなんて現実的じゃない。
だが、
「それで、やめるようならオタクやってねぇよ」
俺はモノルワの記憶を頼りに一番近い森に行く。
その森には弱い魔物が出るのだ。
その森の中にダンジョンスタンピードの原因となるダンジョンがあるようだが、まぁ気にしなくていいだろう。
親からは当たり前だが森に入ることは禁止されている。
が、知ったことではない。
俺は森まで走っていく。
速度はそこまで速いわけじゃないが、全然疲れない。
モノルワは特別な力はないが、病などの特別な弱みもない。
前世?の俺は最低限しか外に出ないから体力がガチでなかった。
持久走で自分だけ2周遅れになったことがあるほどだ。
あの時は地獄だった。
肉体的にも精神的にも。
「っと、そんなことを考えてたら着いたな」
目的の森に到着した。
俺は丸腰だ。
モノルワの記憶によるとここに出るのはスライムとゴブリン、あと奥の方に行くとフォレストウルフなどの魔物がいるらしい。
小説で俺はここまで描写してないし、裏設定として考えた覚えもない。
つまり、こういった矛盾や抜けはこの世界では修正されているというわけだ。
「まっ、今は好都合だ。まずはステータスを見よう」
この世界のステータスとは名前、年齢、加護、スキル、アーツ、耐性、称号をまとめた言い方でこれらはスキル「鑑定」を使えば知ることが出来る。
加護、スキル、アーツ、耐性、称号は異世界物でよくある割とオーソドックスなものだ。
加護とは生まれたときから魂に刻まれる上位存在から与えられた力のことでその加護にあったスキルを手に入れる。
スキルというのはその人が使える特殊な力のこと。
ぶっちゃけ説明のしようがない。
スキルには加護によって得る固有スキルと一定の条件を達成することで取得することが出来る常用スキルがある。
しかし、何事にも例外はあり常用スキルである「鑑定」だけは生まれたときからあるのだ。
これは主人公であるシンたちですら知らない裏設定だが「鑑定」の取得条件は他人に「鑑定」されることだ。
スキルを見るためには「鑑定」を使わなければならないから、結果的に誰もが持っているスキルとなる。
生まれた赤子のステータスを見るのは普通のことだしな。
まぁ、今考える必要もない。
アーツは魔法やスキルを組み合わせ、人が独自に創る技のことだ。
それを一定レベルの効果がある行動だと認められるとアーツとなる。
耐性はそのまま、耐性を獲得した事柄に置いてはダメージを受けずくなる。
例えば炎耐性があれば、火でダメージを受けずらくなる。
また、耐性より上位の無効であれば全く受けない。
強力なスキルやアーツ、魔法ならそれが発揮されない場合もあるが例外中の例外だ。
称号はその者の行動が世界に一定レベル認められたときに得られる。
最も有名なのは剣聖の称号で、これは対象の剣技が世界に認められたことを表す。
また、一部の称号には多少の恩恵があり先ほど出した剣聖の称号ならば素の技能に上乗せして更に剣が上手くなったりする。
まぁどれもわりと異世界あるあるなものだ。
さて、今直面している問題は俺がスキルを使えるか、ということだ。
スキルは魂に付随するという設定があるので、今の俺が「鑑定」を持っていない可能性もある。
まぁとりあえずやってみよう。
まずは魔力を感じるところからだ。
身体中に流れている血とは違う何かを、感じ取る。
うん?これか?
とりあえずこれだと仮定しよう。
これを操作して、目に集中させよう。
そして「鑑定」と唱える。
これは口に出さなくてもいい。
が、出した方がやりやすい。
「鑑定」
次の瞬間、俺の視界を文字が覆った。
名前:モノルワ・リーヒット
年齢:6歳
性別:男性
レベル1
魔力量:1200/1200
種族:人間
加護:魔剣士
スキル:鑑定、スラッシュ、マナバレット
耐性:
適正属性:火、水、風、土、雷、光
称号:転生者、作者
「おぉ」
俺は今感動している。
この目でステータスを見る日が来るとは。
「だが、おかしい。魔力が高すぎる」
魔力というのは人によって違う。
が、一般人ならば100程度だ。
俺の魔力量1200って宮廷魔法師団並みだ。
しかも俺はまだレベル1。
モノルワは秀才だ。
しかも努力すればするだけ結果がついてくるタイプだ。
だが努力なしにこれはおかしい。
「やはりこの世界は完全に俺の書いた小説のままじゃない。が、俺の記憶にある周辺環境や常識、そして今「鑑定」出来たことから俺が書いた小説に酷似した世界。と考えるべきだな」
俺の予想も出来ないことが起こる可能性がある。
あまり、俺の中の小説知識に頼りすぎないようにしなければ。
「加護は魔剣士の加護か。モノルワの加護は設定していなかったが魔剣士の加護なのか。まぁこれは納得だな。属性はかなり多いが、シンと戦うんだからと闇以外の基本属性は全て使えるようにしたんだっけか。個人的には闇が一番好きで主人公によく使わせてたから正直闇属性使いたかったが、しょうがないか」
さわさわ
「何だ?」
近くないる草むらから音がしたので、俺はそちらを見る。
ポヨンポヨン
草むらから出てきたのはスライムだった。
「スライム。ファンタジーの定番だよな。それに初めて倒す魔物にちょうどいい」
ステータスを見てはしゃいでいたが、俺は今日。
この森に魔物を倒しに来たのだ。
「さて俺、どうする。スライムとはいえど6歳の子供なら殺される可能性がある。俺は丸腰でレベル1。俺は格闘技を習ったこともなく、そもそもスライムに打撃攻撃は効きにくい。なら」
俺は手に魔力を集める。
「とりあえず、魔法を試してみよう」
俺は小説で決めた設定どおりに魔力を手に集めて体外に放出し操る。
本来なら練習が必要なそれを俺は簡単に出来た。
何故か理由は気になるが好都合だ。
後は魔法陣を形成し、それに魔力を流せば魔法が発動する。
普通は魔法陣を見ながら頑張って形成する。
一度形成することが出来れば後は体が覚え、その魔法のイメージを明確にし、魔法名を心の中で唱えるだけで魔力が勝手に魔法陣を形成してくえっるようになる。
一般人がシン達のように複雑な魔法陣を複数覚えられるほどの卓越した記憶能力を持っているというのはおかしいと判断し、盛り込んだ設定だ。
記憶違いでなければ本編のかなり序盤で描写したしたはずだ。
まぁモノルワは魔法陣なんて一つも形成したことがないがな。
「風よ、我が前の敵を、切り裂け。風属性下級魔法「ウィンドカッター」」
俺は裏設定として考えていた風属性下級魔法「ウィンドカッター」の詠唱をして、風の刃がスライムを切り裂くイメージをしながら魔法名を言う。
が、何も起きなかった。
魔法には属性がある。
基本的には火、水、風、土、雷の5属性。
そして使える者の少ない、光、闇の稀少2属性が存在する。
魔法には位階というものがあり下から、最下級、下級、中級、上級、最上級、災害級、破滅級、絶望級、伝説級、神話級、終末級、始原級がある。
ちなみに現時点で作中で出てるのは終末級までだ。
魔法は基本的に位階が下の方が威力や効力が低く、消費する魔力も少ない。
逆に位階が高い方が、威力や効力は高いが、消費する魔力も多い。
そしてモノルワの才能で使えるのは出来て最上級が限界だろう。
俺がした詠唱というのは、魔法の補助として使用でき展開を速めたり威力を高めたり出来る。
「ダメか」
残念ながら俺に魔法関係のチート能力はないらしい。
まぁ魔力が多いのは転生特典的な奴なのかもしれないが。
ポヨンポヨン
スライムがとびかかってきた。
「やばっ」
俺は後ろに跳ぶ。
ギリギリのところで俺はスライムを避けた。
「っぶねー。前世から反射神経だけは良かったからな。さて、魔法が使えないのなら。本命だ」
俺は再び手に魔力を流す。
だが、意識的に体外に放出はしない。
「マナバレット」
俺はスキル「マナバレット」を発動する。
俺の掌から魔力の弾丸がスライムに向かって発射される。
それはスライムを貫いた。
スライムは動かなくなった。
どうやら殺せたようだ。
「いけるもんだな。魔石を取り出してみたいが、無理はしない方がいいか」
魔石とは、魔物の体内にある石でありしかるべき場所へもっていけば売れる。
まぁスライムの魔石なんてたかが知れてるだろうが。
「レベルは、上がらなかったか」
さすがにスライムを一匹殺した程度ではレべルアップは無理か。
ポヨンポヨン
目の前の茂みからまたスライムが出てきた。
「ちょうどいい。今度はこっちだ「スラッシュ」」
俺は手を手刀の形にして振るう。
すると、俺の手から斬撃が飛んでいきスライムを真っ二つにした。
この「スラッシュ」というスキルは本来、剣から斬撃を飛ばすスキルだ。
だが、このスキルはイメージ次第で手刀でも発動できる。
これは小説でもしっかりと描写しているから間違いないとは思っていたが、よかった。
ポヨンポヨンポヨンポヨン
すると、別方向から二匹のスライムがとびかかってきた。
俺はそれを前に飛ぶことで何とか避け、振り返って無我夢中で左手で「マナバレット」、右手で「スラッシュ」を発動させる。
魔力の弾丸と斬撃はそれぞれスライムの当たってスライムを殺した。
その瞬間、俺の身体に電流のような何かが走った。
「何だ?」
俺は「鑑定」を使ってみる。
すると、レベルが2に上がっていた。
「これが、レベルアップの感覚か」
夢にまで見たレベルアップ。
まぁ俺は基本夢は見ないタイプだが。
とりあえず、憧れは達成できた。
俺が殺した四体のスライムの死体を眺めていると死体が足りない。
何故だと思いながら周りを見ると、一番最初に出てきたスライムの死体があったであろう場所に赤い石が落ちていた。
俺はすぐさま駆け寄ってその石に「鑑定」を発動した。
結果はこう。
名前:スライムの魔石
概要:何の変哲もないスライムの魔石。
この世界で弱い魔物の中でも上位に入るスライム。
これはその魔石であり、スライムはいたるところにいるため大した価値はない。
「やっぱ魔石か。そしてスライムの魔石の価値なんて決めてないけど、やっぱ価値なんてほとんどないようだな」
スライムの魔石の設定はしていなくとも、スライムはいたるところにいる魔物っていう設定?裏設定?描写したかは分からないが、とにかく俺がそう考えていたためそれが反映された可能性が高い。
「まぁ今考えてもしょうがないな。さて、まだ時間はある。できればレベルを上げたいところだ。かといってあまり森の奥に入りすぎると強い魔物が出てくる可能性がある。こっちは丸腰。リスクは避けたい」
俺はしばしの間思案して結論を出した。
「よし、今日は初めてだしレベル4にまで上げたら帰ろう」
俺は現代日本人、身体的な体力は問題ないが、精神的な体力は少し疲弊している。
慣れないことなんてするもんじゃない。
ちなみに4なのは俺が一番好きな数字だからだ。
そうして俺はレベル4になるまで出てくるスライムを倒しまくるのだった。
幸い魔力が多かったのと、レベルが上がったことによって素の身体能力もあがったおかげかスライムに怪我させられる。
なんてことはなかった。
魔物も森の浅いところにしかいかなかったとはいえ、スライムしか出なかったのは幸運だったな。
俺はそんなことを考えながら、モノルワの記憶を頼りに帰路に着くのだった。
「ママ、パパ、兄さん、ただいま」
「おかえりー」
家に帰ると母親が迎えてくれた。
すると母親の目の前に魔法陣が現れた。
「クリーン」
母親によって俺の汚れが落ちる。
母親が使った魔法は「クリーン」という無属性の魔法で汚れを落とすことが出来る。
この魔法さえあれば、手洗いうがいも、風呂も不要。
そんな素晴らしい魔法だ。
今までのモノルワは服を汚したりなんて日常茶飯事だったが、俺は今日森を適当に歩いただけだったからほとんど汚れなかった。
まぁこの世界じゃ手洗いうがいも出来んし、「クリーン」は助かる。
というか覚えたい。
幸いこの身体は記憶力がいいらしく、クリーンの魔法陣は覚えているようだ。
まぁよくよく考えれば、モノルワは毎日「クリーン」をかけられているから、毎日「クリーン」の魔法陣を見てきたんだ。
ある程度覚えるのも当然か。
多少ミスっても無属性魔法だし何とかなるだろう、後で試すとしよう。
その後は家族で夕食を食べた。
今までのモノルワは夕食後家族団らんを過ごしたようだが俺はそんなことよりしたいことがあったため家族には寝るといって部屋に戻った。
部屋に戻ると、俺はベッドに横になる。
勿論寝るわけではない。
俺は身体全体に魔力を流し、自身の身体能力が高くなるイメージをする。
俺が今何をしているのかと言えば、スキル「身体強化」の会得だ。
このスキルはその名の通り、身体能力を魔力を使って強化することのできるスキルだ。
この身体は幼い。
今日戦ったスライムにだって、油断すれば殺されていただろう。
レベルを上げれば身体能力も上がるとはいえ、そのレベル上げで死んでは意味がない。
そこでスキルだ。
スキルがあれば、多少格上の魔物にだって勝てるようになる。
特にこの「身体強化」というスキルは幼く運動能力が低い俺にとって滅茶苦茶有用なスキルだ。
ということで今頑張っているのだ。
この世界の魔力はとても万能だ。
身体に魔力を流すだけで、身体能力を強化できる。
スキルとは簡単に言えばその技術が出来ると世界に認められ、魔力を消費することでその結果を簡単に起こせるようになったものだ。
つまり、全く出来ないことをスキルとして取得することは出来ない。
逆を言えば、世界から出来ると認められれば取得できるのだ。
俺は「マナバレット」を使ったときに感じた魔力の感覚を思い出しながら、魔力を少しずつ操作して身体の中にめぐらせていく。
「出来た、か」
一応、身体全体に魔力が廻ったような感覚があった。
俺は魔力を途切れさせないようにしながら、座っていたベッドから立ち上がり軽くジャンプしてみる。
すると、見える景色が普段の数倍になった。
「成功だな「鑑定」」
俺は「鑑定」で自分のステータスを確認してみる。
しっかりと「身体強化」のスキルを会得出来ていた。
「よし」
そうして俺は身体中に魔力を巡らせるのをやめて、「身体強化」のスキルを発動してみる。
すると、さっきのようにずっと意識しているわけでもないのに魔力が身体中に均等にめぐらされている感覚がした。
俺はまたジャンプしてみた。
すると、不自然なほど高いところまでジャンプすることが出来た。
「よし、「身体強化」はOKだな。次はっと」
俺はそれから現段階で取得できるスキルを片っ端から取得していくのだった。
翌日
俺は今日も森に来ていた。
「鑑定」
ステータスを確認する。
スキルの欄にはたくさんの文字が増えていた。
昨夜取得したスキルは「身体強化」「索敵」「魔力感知」「魔力視」「魔力操作」の5つ。
「身体強化」は魔力を使用し身体能力を強化するスキル。
「索敵」は魔力を薄く周りに広げることで周囲の状況を知ることが出来るスキル。
「魔力感知」は直感的に魔力を感知できるスキル。
「魔力視」は目に魔力を流すことで視界に入っている魔力を視認することが出来るスキル。
「魔力操作」は魔力の操作がしやすくなるスキルだ。
どれも読んで字のごとく、シンプルながら有用なスキルだ。
今日は昨日よりも少しだけ森の奥に入る。
この森は深くまで入れば入るほど基本的に魔物は強くなる。
だから俺は浅いところで狩りをするのだ。
だが、さすがにスライムではレベル上げの効率が悪い。
スキルも手に入れたので、いけるだろうという判断だ。
「グギャ」
森に入って少し経った頃、ファンタジーでのスライムに並ぶ定番。
人のような体系をした緑色の肌を持つ魔物、ゴブリンが現れた。
そして、すぐに襲い掛かってきた。
「スラッシュ」
俺は咄嗟に普段よりもたくさんの魔力を込めて「スラッシュ」を手刀で放った。
俺が放った斬撃はゴブリンの首と胴体を切り離した。
「威力が上がってる。まぁ、魔力をたくさん込めたからか」
ゴブリンを真っ二つにした威力は過剰な魔力によるものと結論づけた。
「さて、普通は魔石を回収するものだが」
俺はゴブリンの死体を見る。
「あれに触りたくはないな。まぁゴブリンの魔石はスライムの魔石と大して価値が変わらなかったはずだし、まぁいいか」
ということで俺はゴブリンの死体を捨て置いて更に奥に進むことにした。
そこからもひたすらに「スラッシュ」や「マナバレット」でゴブリンを倒していく。
そして数十体程ゴブリンを倒し、レベルが10を超えた。
スライムよりも経験値が良いゴブリンを倒しているからか機能よりもレベルが上がるのが早い。
結局、その日はレべル11まで上げて家に帰った。
翌日
俺はいつも通り家族で朝食を食べた。
「そういえば、最近は誰と遊んでいるんだ?」
突然、父がそんなことを言ってきた。
「前までは町の子供たちと遊んでみたいだけど最近、皆がモノルワが来ないーって言ってたわよ」
「あぁ、別の友達が出来てそこで遊んでるよ」
「あら、そうなのね。何してるの?」
「木の枝でチャンバラしてる」
「おっ、チャンバラ。いいじゃないか」
俺は嘘をつく。
前世から嘘をつくのは得意な方だ。
身体は幼い子供だし、精神も若干それに引っ張られているがそれでも俺の根本は影山零だ。
嘘をつくなど造作もない。
「怪我しないようにね」
「はーい。それじゃあ行ってきまーす」
そうして俺は家を出た。
そして森に向かおうとすると。
「あっ、モノルワじゃん。最近見なかったけど何してたの?」
俺と同じくらいの年齢の黒髪の少女が話しかけてきた。
こいつはモノルワの記憶にある。
この領で唯一の宿屋の一人娘だ。
名前はシェリー。
モノルワの一番の親友かつ幼馴染らしい。
というか、この世界で黒髪って珍しいな。
この世界で黒髪はいないわけではないが、珍しい。
異世界あるあるというか、髪色は色々だ。
地毛で綺麗な赤や青などのカラフルな人も少なくない。
一番多いのは茶髪だが、
「いやぁ、ちょっと別の友達とチャンバラにハマって」
「もう、モノルワったら。私ともたまには遊んで」
「分かった。分かった。悪かったなシェリー」
しょうがない。
この子の親はこの子を溺愛しているからな。
邪険に扱って泣かれたりしたら面倒なことになる可能性が高い。
あと、自覚していなかったようだが行動的にこの子はモノルワの初恋らしい。
本編ではモノルワはミーゼという聖女に惚れていたが、初恋じゃなかったらしい。
よく考えれば自然なことなのかもしれない。
本来のモノルワの性格は俺が嫌いな要素がこれでもかと詰め込まれている。
俺は惚れやすいキャラが嫌いなので、この俺の思考を謎に忠実に読み取ったこの世界ならば、モノルワが人に惚れやすいのは自然なことなのかもしれない。
その後はシェリーと一緒に町の中を巡った。
今までは森と家の往復だったので、こうしてちゃんと町を巡ったことはなかった。
今回の散策でモノルワの記憶と合わせてこの辺地理を割と頭に入れられた。
シェリーは将来、冒険者になって世界を旅したいようで鍛冶屋や道具屋にいった。
オタクとして至福の時間だった。
ただ、周りの子供からの視線が痛かった。
シェリーは顔が良い。
子供に何言ってるんだと思われるかもしれないが、普通に顔が良いのだ。
これも異世界あるある顔面偏差値が高い。
が、その中でもシェリーは軍を抜いている。
普通にヒロイン級だ。
異世界あるある、主要キャラクターは特に美少年美少女、美男美女が多い。
設定的にパッとしないとかになっていてもアニメで見れば普通に顔が良い。
なんてことざらだ。
ちなみに前世の俺はフツメン。
不細工ではないと思いたい(評されることもないくらい陰キャだった)。
モノルワは一応顔は良い設定のおかげでイケメンだ。
俺はモノルワを性格は俺が大嫌いな正義感とか強めな感じで、他作品なら王道系主人公になれるような感じ。
というイメージをしていたので、顔は良いと設定しておいたのだ。
さて、話は戻るが。
顔面偏差値が高いこの世界でもシェリーは格が違う美少女だ。
モノルワ君は自覚しなかったが、街の子供たちはかなりの数シェリーに惚れているらしい。
そして今日知ったことだがシェリーは明るい癖にコミュ障のようだ。
鍛冶屋で目をキラキラさせながら武器や防具を見ていたのに、突然店員に声を掛けられた瞬間に俺の後ろに隠れた。
隠れたいのは俺なんだよ!!
俺は高校生にもなって人と話したくなくてセルフレジ使うタイプのコミュ症なの。
最低限の会話は出来るけど、物凄く疲れるから嫌なタイプのコミュ障なんだ!!
っと、シェリーへの不満はおいておいて結局話しかけてくれた店員さんには最低限の会話だけで会話を終了させた。
俺はこういう技術だけはあるんだ。
人との会話を最低限にする技術はな。
伊達に17年コミュ症してないんだよ!!
また話が逸れたが、シェリーは基本コミュ障なので町の男の子達に話しかけても相手にしなかったり逃げたりするようだ。
いわば高嶺の花とかそういのだったんだ。
だが、俺とシェリーが普通に一緒に街を散策しているのを見てシェリーの事が好きな男の子達は俺に嫉妬と殺意を向けてきたのだ。
陰キャコミュ障である俺は人との関りを最低限にしてきたからそういう感情や視線を向けられるのは初めてだったが少し鬱陶しく感じるだけだった。
相手が子供だっていうのもあるだろうが。
まぁ、なんだかんだで楽しめた。
俺は初恋もまだだが、さすがにいくら顔が良くてもこんな幼女に惚れたりしない。
これはオタクあるあると言えないが、アニメ好きとかだとたまに顔は自分が不快だと思わなければ恋愛する分には問題ないという奴もいる。
俺の場合、現実のアイドルとか女優を見ても容姿が綺麗という情報しか出ないし、何なら興味を持てなくて似た顔の人だと名前を間違えたりするレベルだ。
昔は俺だけだと思ったものだが、中学の知り合いで同じ考えを持っているオタク女子がいたから多分一定数いるのだろう。
ちなみにそいつには俺は男だと思われていなかったらしい。
まぁお互いの好みとかを開示してたからな。
向こうには俺は人間ですらなくオタクという種族だと思われているらしい。
あいつも中学生ながらショタの膝を舐めたいとかいうヤバい奴だったし。
他にも俺の知り合いには騎士団長とかでありがちな筋肉質な奴が好きなオタク女子とか、ショタやロリを監禁して泣かせたいとかいう男友達もいたからな。
本人たちに自覚はないようだが俺目線オタクという種族は俺だけじゃなかったのだ。
俺はヤンデレと共依存と百合と異世界ファンタジーをこよなく愛する純粋なオタクなのであれらとは違う。
また思考が逸れてしまった。
俺とシェリーは今帰路に着いている。
記憶を頼りにシェリーをシェリーの家の宿まで送っているのだ。
「ねぇ」
シェリーが突然話しかけてくる。
だが、少し声が冷たい感じがした。
「どうした?」
「貴方、誰?」
「え?」
俺は今、とても動揺している。
俺が本来のモノルワじゃないってことに気づかれたか?
何故?どうして?
俺の行動はなにもおかしくなったはずだ。
実際にモノルワの家族にはここ数日バレていない。
なのに、この子にはたった数時間でバレている。
いや、待て。
落ち着け、俺。
こんな少女にバレる方がおかしい。
きっと別のことを言っているのかもしれない。
「貴方、モノルワじゃない。誰?」
その目には光がなかった。
俺は自分の心臓の鼓動が速くなっていくのを実感した。
俺はずっとこの少女に違和感を感じていたのだ。
俺はこんなキャラを書いた記憶はない。
だがこのキャラは明らかに他とは違う。
モノルワの両親のようなモブにしていい性能じゃない。
容姿も性格も主要キャラに勝るとも劣らない。
そんな性能だ。
この世界で小説で名前の出てないモブたちは本当にモブだ。
異世界であるため多少整っている者が多いにしろ、性格も普通だし何か特筆している点はない。
そこで俺はモノルワの家族の顔が出てくる。
そういえばモノルワの家族も周りの一般人に比べて顔が良い。
だが、モノルワの記憶にあるモノルワの親族。
叔父や叔母、祖父や祖母はそうでもなかった。
そこで俺はある可能性に至った。
モノルワの父、母、兄は小説で存在は描写している。
もしかしたらそれがこの容姿の良さの秘密なのかもしれない。
小説で存在を描写している存在としていない存在。
それに、何か大きな違いがあるのかもしれない。
ならば、恐らくこの少女を俺は書いたのだろう。
俺は必死に頭を回らせる。
モノルワと関係する少女。
そして俺は一つ、思い出した。
モノルワが「勇気ある者」の称号を得た出来事。
モノルワの住んでいるリーヒット領が襲われたとき、モノルワは親に見学していろと外に出て戦いを見ていた。
最初、モノルワは魔物を倒す気なんてなかったのだ。
だが、偶然いた美しい女の子が魔物に襲われそうになっときにその女の子を助けるために護身用に持ってきた剣で人生で初めて魔物を倒した。
これがモノルワが「勇気ある者」を得た経緯だ。
だがこれには分かりやすく不可解な点がある。
そもそもスタンピードに親が子供を外に出すわけがない。
それも、魔物の近くにいさせるわけがない。
更に言えば、7歳児の少女が魔物を間近で見て逃げも泣きもしていなかった。
これは明らかにおかしい。
更におかしいことと言えば、その後その少女はいなくなっていることだ。
普通はお礼、そこまでいかずとも何かしらのアクションをするのが普通だ。
だが、何もなかった、なんならその後モノルワと少女会った描写がないことからその少女は町から出た可能性すらある。
そんな不思議な少女をモノルワは助けたのだ。
実はこの少女、ただの少女ではない。
書いていた当初はこの少女は魔王と関係があって、その時から確定していたモノルワの手酷い死は何らかで登場させた彼女によってもたらされる予定だった。
まぁ結果的に程良い登場のタイミングがなくて没にしたんだが。
だが、俺が書いていた時の思考まで細かく再現しているこの世界なら没にしたこの案が何らかの形で再現されている可能性は十二分にある。
つまり、シェリーは俺を殺しうる力を持っている可能性があるわけだ。
次の返答次第で俺は殺されるかもしれない。
ここで俺のすべき最適解は……
「何を言ってるんだ、シェリー。俺は正真正銘、モノルワ・リーヒットだぞ。それ以外の何に見えるんだ?」
誤魔化す。
バレたらヤバいなら隠すしかない。
「貴方はモノルワじゃない。モノルワはもっと私に馴れ馴れしい。鬱陶しい奴。そして私に恋をしている」
モノルワ君、君嫌われてるよ!!
「でも貴方からは、鬱陶しさも恋愛感情も感じない」
この子、本当に6歳か?
人からの感情に敏感すぎる。
「貴方は誰?」
シェリーが無表情で近づいてくる。
俺は無意識に彼女から逃げようと、後ろに下がる。
だが、俺はすぐに近くの建物の壁に追い詰められてしまった。
ドン
「答えて」
シェリーが手を壁につける。
俗に言う壁ドンという奴だ。
こいつ、印象変わりすぎだろ。
街を歩いているときは、普通に可愛い6歳の少女だったのに今はそうとは思えない。
「だから、俺はモノルワだっ」
ドカンッ
俺の背後の壁に罅が入った。
今俺が「身体強化」を発動して避けていなかったら、俺の頭ははじけ飛んでいただろう。
「お前、殺す気か」
「あら?何で「身体強化」なんて6歳の少年が使えるのかしら?」
しまった。
「身体強化」は全身に魔力を纏うことで身体能力を強化するスキルだ。
だがこれがなかなかに難しい。
大抵の者は数千回とやってようやく取得できる。
そんなスキルだ。
そのため「身体強化」のスキルを使える人はあまり多くない。
そして、6歳で取得している奴なんて才能があってと取得の適切なやり方を知っている俺じゃなきゃ無理だ。
そのはずなんだが…………
俺は「魔力視」を発動する。
このスキルは魔力を見るスキルだ。
主人公たちレベルの才能があればスキルを使わなくともある程度魔力を感じることが出来る。
だが、モノルワの才能はそこまでじゃない。
魔力を見るには「魔力視」のスキルを使わなければならない。
「魔力視」を使った結果は俺の予想通りだった。
シェリーは「身体強化」を発動している。
しかも、6歳とは思えないほどの魔力量を持っているようでかなりの魔力を使っているようだ。
そりゃ、壁に罅が入るわけだ。
そして一撃でも喰らったら死ぬ。
「その言葉、そっくりそのまま返す。なんで6歳の少女が「身体強化」を使えるんだ?」
俺とシェリーはにらみ合う。
「はぁ、人がいない場所に行きましょう。我ら、思い描く地への転移を願う。無属性最上級魔法「エリアテレポート」」
シェリーが突然魔法を発動する。
しかし、この魔法は作中で頻繁に使用されている魔法だ。
無属性最上級魔法「エリアテレポート」。
術者が指定した範囲の物を任意の場所に転移させる魔法。
作中でも複数人を転移させる際に頻繁に使用される魔法だ。
俺が転移した先は周りに誰もいない草原だった。
これは、本格的にまずいことになった。
今の俺は転移できる魔法なんて使えない。
さっき「エリアテレポート」の魔法陣は見えたが、さすがに一度では記憶しきれていない。
それに、そもそも発動には魔力が足りない。
「さて、見たところ魔力量自体はそこまで見たいね。その魔力じゃあ転移魔法は使えないでしょう」
シェリーは「身体強化」を発動し、一気に加速して俺の首を片手でしめる。
幸い手が小さいため、すぐに意識を失うようなことはないが、時間の問題だ。
「俺を殺す気か?」
「いいえ。私は貴方を殺す気はないわ。大切な親友兼幼馴染だもの」
シェリーは笑う。
朝あった時と印象違いすぎだろ。
「じゃあ、何が目的だ?」
「貴方の正体。それだけ」
シェリーが更に力を強める。
「身体強化」に使っている魔力を増やしたようだ。
これは、まずい。
賭けにはなるが、俺を殺す気がないという言葉は信用できない。
なら、
「分かった。俺の正体を言う。だから、やめてくれ」
「素直なのはいいことよ」
シェリーは俺の首から手を離す。
「はぁはぁはぁ」
「それで、正体というからには。やっぱり貴方モノルワじゃなかったのね。貴方は何者?」
「俺の口から言ってもいいが、それだと信用できないだろ。俺に「メモリートレース」を使え」
俺の言葉にシェリーは目を見開く。
「驚いた。貴方の口から「メモリートレース」の名前が出るとは思わなかったわ。あれは現代では失われた魔法なのだけれど」
「知ってるってことはやっぱり使えるんだな。さっさと使え」
「それじゃ、遠慮なく。「メモリートレース」」
シェリーが「メモリートレース」を発動する。
「メモリートレース」この魔法は無属性上級魔法だ。
効果は対象の記憶を読み取ること。
ただし、読み取る記憶の量によって魔力の消費量が変わるため俺の18年分の記憶を読み取るにはかなりの、それこそ最上級魔法の発動に必要なレベルの魔力量がいる。
更に、ある程度の強者でないと対象の記憶という膨大な情報量が頭に流れることにより頭痛が起こり、最悪の場合死ぬこともある。
が、問題なさそうだな。
先ほど「エリアテレポート」を使ったばかりなのに連発できるということは、シェリーの魔力はかなり多いみたいだな。
この世界、割と魔力量の多さが強さに直結する傾向がある。
というか、この世界割と努力よりも才能の方が大事だ。
どれだけ凡人が頑張っても、天才には敵わない。
この世界はそんな風に書いた。
シェリーが最初から「メモリートレース」を使わなかったのは、俺が何者かの予想が出来なかったから。
俺がシェリーよりも強い可能性を考慮した結果だろう。
シェリーはかなりの強者であるにも関わらず、かなり慎重な性格のようだ。
「何、これ。こんなの、私知らない」
シェリーが困惑しきった声を出す。
まぁそれはそうだろう。
この世界が小説の世界で、しかもその小説を書いたのが俺だなんて。
「俺の正体、理解してくれたか?正直俺としては、説明が難しいんだ。ただ、お前が知っているモノルワじゃないことは確かだ。先に言っておくがお前に害を与えるつもりは一切ない」
俺はとにかく、シェリーに自分が無害であることを伝える。
正直シェリーはイレギュラーだ。
実力も俺では逆立ちしても勝てない。
なら、友好を結ぶしかない。
「はぁ。とりあえず、貴方が何者かは分かったわ。正直信じられないけど、記憶を除いたんだもの。信じる他ないわね。実際貴方は6歳とは思えないし」
「そういうお前も、6歳には見えないな。俺はモノルワに幼馴染のキャラなんて作った覚えはない。お前は何者だ?」
「貴方にだけ、正体を明かさせて私は明かさない。なんてのはフェアじゃないか。いいわ。教えてあげる」
すると、シェリーはまた「メモリートレース」を発動する。
この魔法は対象の記憶を読み取るだけでなく、逆に自分の記憶を対象に流しこむこともできる。
勿論、頭痛等のデメリットは健在だ。
「あ、う。ああああああ」
頭に膨大な情報量が流し込まれる。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
脆弱な6歳の脳が痛む。
俺の意識はシェリーの記憶と言う情報の濁流にのまれるのだった。
私は普通の女の子だった。
両親は定食屋を営んでいて、私は幼いながらそれを手伝っていた。
幸せな日々だった。
裕福ではないけど、困ることのない生活。
でも、ある日私はお母さんから頼まれた買い出しの途中、人攫いにあった。
私を攫った人達の会話を聞くと、私を奴隷にして貴族に売るらしい。
私は怖くて怖くてしょうがなかった。
縄で拘束され、馬車で運ばれた。
他にも数人、私と同じように攫われた子供たちがいた。
皆絶望していて、顔を下に向けていた。
でも私は違う。
私には誰にも話していなかった力があった。
今考えたら私は昔から頭が良かったんだと思う。
私の加護は創造神の加護。
ありとあらゆる物を創り出すことが出来る加護だ。
幼いながら私はこの加護の力を理解していた。
都合の良いことに私には「偽装」のスキルが生まれながらに備わっていた。
そしてそれを無意識に発動してたらしく、私の加護は料理人ということになっていた。
そのおかげで両親は私の加護を料理人だと思っている。
それでよかった。
創造神の加護なんてたいそうな力、私には不釣り合いだと思っていたから。
でもその時ばかりは創造神の加護に感謝した。
私は「創造」でナイフを創って縄を切った。
そして、馬車が止まった瞬間に私は「創造」で創った剣を使い無我夢中で馬車の扉をたたききって逃げ出した。
そこがどこかも分からなかったが、私はとにかく私を攫った人達が怖くて馬車から離れた。
かなり走って、逃げ切ったと安心したものの私の不幸は終わらかった。
街の中なのになぜか魔物がいたのだ。
私は疲労と恐怖で動けなくなってしまった。
私は死を覚悟した。
でも、私に死は訪れなかった。
私と同い歳くらいの男の子が、剣で私を襲ってきた魔物を倒してくれたのだ。
でも私の幼い心はもう限界で、私は男の子に碌なお礼も言わず逃げ出したのだった。
ひたすらに街の中心に向かって走った。
街に人は全くいなくて、でも私の身体は限界で私は孤独を感じながら意識を失った。
私は可愛い女の子だった。
両親は宿屋をしていて、結構繁盛していた。
私は6歳という若さでお店の手伝いをしていた。
でもある時、お店の階段を踏み外して転んでしまった。
だけどその拍子に、私はを思い出した。
定食屋の娘で人攫いにあった記憶を。
きっとあれは俗に言う前世の記憶。
という奴なのだろう。
そこから私は自分の周囲の状況を把握した。
結果として分かったのは生まれこそ違うが前世と同じ年に生まれたこと。
私を魔物から助けてくれた少年は今住んでいる領を治める貴族令息だということ。
創造神の加護は未だ健在で前世同様料理人の加護ということになっていること。
そこからの私の行動は速かった。
街で遊んでいたモノルワに話しかけて、仲良くなった。
でも、正直モノルワは苦手な人間だった。
仲良くなったとはいえ、モノルワはかなり馴れ馴れしくて鬱陶しかった。
更に私に惚れたらしくて、私にアピールするためかずっと自画自賛をしている。
それでも、私はモノルワと一緒にいた。
前世で孤独を抱えながら死んだ私は人間不信だった。
両親さえも信じることが出来ず、記憶が戻る前からいた友人のことも相手が6歳だというのに怖くなってしまった。
唯一、怖くなかったのがモノルワだった。
前世で私を助けてくれたからだろう。
私はできるだけずっとモノルワと一緒にいた。
モノルワにずっとアピールされるのはうざかったが、しょうがないことと割り切った。
私が前世で死んだとき、街の中なのに魔物がいて街に人がいなかったのはスタンピードが起きていたかららしい。
私が前世で死んだ日は私の6歳の誕生日を1ケ月ほど過ぎたころだった。
私は今世と前世、全く同じ日に生まれている。
そして今世の同じ時期にスタンピードが起きていた。
どうやら前世でモノルワがスタンピードの中外に出ていたのは領主の息子として魔物の脅威を知るため、モノルワのお父様がモノルワに見学させていたらしい。
スタンピードの日、モノルワと一緒にいたらモノルワがモノルワのお父さんからそう言われていたから間違いないだろう。
ただ今世では、私がモノルワにべったりだった関係でモノルワの見学はなくなった。
モノルワの家族には、私はモノルワが好きなことになっているらしい。
まぁ確かにモノルワの家族からすれば息子(弟)とこんなにずっと一緒にいる女の子がいれてばモノルワが好きだと思うことは自然だろう。
そしてモノルワの私への恋愛感情も互いの家族にバレているのだ。
傍からみれば、両片想いのカップルなわけだ。
いつのまにか。互いの両親の顔合わせまでしていた。
一度、本格的に婚約者にされそうになった時は焦った。
何とか誤魔化して回避したが。
生憎と、私には全くそんな気持ちはない。
というか、人間不信な状況で唯一の信用できる人間ならどれだけ嫌いな性格でも普通は多少の好意が生まれるものだと思っていたのに全くモノルワに好意を抱けなかった。
自分でもびっくりだ。
そんなこんなで私達はずっと幼馴染として成長し、私が15歳になったタイミングで私とモノルワは冒険者になり、パーティーを組んだ。
好意はなくても、私が信用できるのはモノルワだけだったからだ。
冒険者の活動については正直楽勝だった。
私の加護、創造神の加護は正直滅茶苦茶に強かった。
冒険者というのは女の子は色々困ると聞いていたけれど、自分でこっそり家を創ったりできるこの力があれば不便など感じたこともなかった。
モノルワの目を盗むのは面倒だったが、モノルワはかなり単純だからそこまで難しくはなかった。
私には普通に才能があったらしく魔法も剣も結構出来た。
モノルワが血反吐を吐く努力をしても、私には届かなかったのだ。
まぁ私は力がバレたら面倒だったので、いつもモノルワの後ろからモノルワの援護をしていたが。
モノルワも決して弱くはなかったので、私とモノルワは冒険者として生活には困らないくらいの金を稼げていた。
まぁ私は何でも創り出せるので、金なんてあまり意味がないが、モノルワには必要なのだ。
かといっても私はモノルワを信用しているが、信頼はしていない。
こんな口が軽そうな男に私の秘密を話す気にはなれないのだ。
そんな安定した生活をしていたある日、新人の冒険者パーティーが大量の魔物に襲われていた。
私は無視しようとしたが、無駄に正義感が強いモノルワは勇気と蛮勇をはき違え新人冒険者を助けた。
だが、そのせいで大量の魔物と一人で戦う嵌めになり結果的には最後の魔物と刺し違えて死んだ。
私は何もしなかった。
モノルワがいないと困るが、私の力がバレるのはもっと困るのだ。
そのせいでモノルワが死んだが、それはしょうがない。
モノルワが愚かだったのだ。
私はそんなことを考えながら、借りていた宿で眠りについた。
私は可愛い女の子だった。
両親は宿屋をしていて、結構繁盛していた。
私は6歳という若さでお店の手伝いをしていた。
でもある時、お店の階段を踏み外して転んでしまった。
だけどその拍子に、私はを思い出した。
二つの人生を。
一つは定食屋の娘で、人攫いにあった人生。
もう一つが、今世と全く同じ状況でモノルワと冒険者になった人生だ。
私は理解した。
今回は転生ではなく、時間が巻き戻ったのだと。
その生では私はモノルワすら信用できず、モノルワとは一切接触しないようにして生きた。
前世で冒険者として生きたときに得たレベルやスキルは引き継いでいたので、楽な人生ではあった。
結局私は誰も信用できないつまらない人生を過ごし、実家の宿屋を継いだ。
ただただ宿屋を運営する日々に飽きていた頃、買い出しに来ていた私は噂話を聞いた。
領主様の次男が死んだと。
私の意識は暗転した。
私は可愛い女の子だった。
両親は宿屋をしていて、結構繁盛していた。
私は6歳という若さでお店の手伝いをしていた。
でもある時、お店の階段を踏み外して転んでしまった。
だけどその拍子に、私はを思い出した。
私は思い出した三つの人生を。
それを理解したとき、私はため息をついた。
またかと。
二つ目と三つ目の人生から、私が巻き戻る原因はモノルワ・リーヒットであるとあたりを付けた。
幸い、私はまたレベルやスキルを引き継いでいた。
私はまたモノルワと仲良くなって、また二人で冒険者になった。
私はモノルワの護衛のように動いた。
ひたすらに、モノルワを死の危険から遠ざけた。
だが、買い出しを任せた際に馬が暴走した馬車から子供を守って死んだ。
それを馬車の持ち主から聞いた瞬間、私の意識は暗転した。
私は可愛い女の子だった。
両親は宿屋をしていて、結構繁盛していた。
私は6歳という若さでお店の手伝いをしていた。
でもある時、お店の階段を踏み外して転んでしまった。
だけどその拍子に、私はを思い出した。
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私の意識は暗転した。
私は可愛い女の子だった。
両親は宿屋をしていて、結構繁盛していた。
私は6歳という若さでお店の手伝いをしていた。
でもある時、お店の階段を踏み外して転んでしまった。
だけどその拍子に、私はを思い出した。
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私は6歳という若さでお店の手伝いをしていた。
でもある時、お店の階段を踏み外して転んでしまった。
だけどその拍子に、私はを思い出した。
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でもある時、お店の階段を踏み外して転んでしまった。
だけどその拍子に、私はを思い出した。
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だけどその拍子に、私はを思い出した。
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だけどその拍子に、私はを思い出した。
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でもある時、お店の階段を踏み外して転んでしまった。
だけどその拍子に、私はを思い出した。
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私の意識は暗転した。
私は可愛い女の子だった。
両親は宿屋をしていて、結構繁盛していた。
私は6歳という若さでお店の手伝いをしていた。
でもある時、お店の階段を踏み外して転んでしまった。
だけどその拍子に、私はを思い出した。
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私の意識は暗転した。
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だけどその拍子に、私はを思い出した。
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私は6歳という若さでお店の手伝いをしていた。
でもある時、お店の階段を踏み外して転んでしまった。
だけどその拍子に、私はを思い出した。
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
私の意識は暗転した。
私は可愛い女の子だった。
両親は宿屋をしていて、結構繁盛していた。
私は6歳という若さでお店の手伝いをしていた。
でもある時、お店の階段を踏み外して転んでしまった。
だけどその拍子に、私はを思い出した。
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私の意識は暗転した。
私は可愛い女の子だった。
両親は宿屋をしていて、結構繁盛していた。
私は6歳という若さでお店の手伝いをしていた。
でもある時、お店の階段を踏み外して転んでしまった。
だけどその拍子に、私はを思い出した。
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
私の意識は暗転した。
私は可愛い女の子だった。
両親は宿屋をしていて、結構繁盛していた。
私は6歳という若さでお店の手伝いをしていた。
でもある時、お店の階段を踏み外して転んでしまった。
だけどその拍子に、私はを思い出した。
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
私の意識は暗転した。
私は可愛い女の子だった。
両親は宿屋をしていて、結構繁盛していた。
私は6歳という若さでお店の手伝いをしていた。
でもある時、お店の階段を踏み外して転んでしまった。
だけどその拍子に、私はを思い出した。
私はもう数えるのが億劫な程の人生を過ごした。
私が巻き戻るのは決まってモノルワが死んだ時だ。
私はこれまでの人生で、多くの経験をし、かなりの力を得た。
ある時は宮廷魔導士団の団長になり、ある時は騎士団の団長になり、ある時は暗殺者ギルドのボスになり、ある時は貴族になった。
正直、どれもつまらない人生だったが途中からモノルワが死ぬまではその人生を全力で楽しもうと努力した。
それでも誰も信用できない人生はやっぱり楽しさを感じれなかった。
歩んだ人生の数は10を超えたあたりから数えるのをやめた。
そして、私が生きるということへの興味を失った頃。
私は、黒髪の美青年シンと金髪の美少女ミコと出会い仲良くなった。
それはただの偶然。
だけど、私には運命のように思えた。
その二人は多くの人生を歩んできた私でも手も足も出ない程強かった。
私は心が疲れ切っていたのもあってもその二人に自分の現状について相談してしまった。
人生を繰り返しているなんて無骨滑稽な話。
普通に考えて、信じる方がおかしい話だ。
だけど、二人は信じてくれた。
そして、私がこの無限のループから抜け出すことに協力すると約束してくれた。
何とシンは私と同じ創造神の加護を持っていて私以上に使いこなしていた。
それで、創造神の加護について色々と教えて貰った。
ミコは魔法の天才で数えきれないほどの魔法を教えて貰った。
「メモリートレース」という情報を脳に直接送る魔法を使ったからそこまで時間はかからなかったが。
そして二人から色々と学んだ後、シンが言った。
「シェリーは運命に囚われている。今からその運命を破壊する。恐らく術が終わった後お前の時間は巻き戻るだろう。だがその時はきっと何かが変わっているはずだ。俺達に出来るのはそこまでだ」と。
嬉しかった。
久しぶりに人を信用するということが出来た気がする。
私はシンとミコに全てを任せた。
「「「超強化」「魔眼」「神化」」」
「破壊」「闇属性終末級魔法「デステニーディストラクション」」
二人が術を行使した瞬間、私の意識は暗転した。
私は可愛い女の子だった。
両親は宿屋をしていて、結構繁盛していた。
私は6歳という若さでお店の手伝いをしていた。
でもある時、お店の階段を踏み外して転んでしまった。
だけどその拍子に、私はを思い出した。
私は何か変わったかとモノルワを探しに行った。
だが、中々見つからなかった。
今までの人生でモノルワはいつも同じ場所で同じ面子で遊んでいたので、そこにいないだけでも何かが変わったのは間違いないだろう。
そして私はモノルワを探し回った。
3日間探し続けておかげでようやく、モノルワに会うことが出来た。
でもモノルワの性格はかなり変わっていた。
モノルワから鬱陶しさも恋愛感情も一切感じなかったのだ。
その違和感は一緒に出掛ければ出かけるほど深まった。
「貴方、誰?」
私はモノルワに問いただしたのだった。
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
「はぁはぁはぁはぁ。ははっ」
俺は思わず笑ってしまった。
まさかシェリーがこんな経験をしていたとは。
強さにも頷ける。
しかも、創造神の加護だと。
それは、主人公と同じ加護。
世界最強の加護だ。
勝てない。
シェリーと敵対すれば、まず間違いなく負ける。
シェリーの記憶から考えて、俺をこの世界に転生させたのは魔王だ。
まさか、自分で書いた小説のキャラクターによって世界を渡るとは。
「どう?私のこと。理解出来た?」
「あぁ。全て理解した。それで、俺をどうする気だ?」
「どうするって言ってもね。魔王様によって間違いなく運命は分かった。私のループの原因となったモノルワの中身が変わるなんて。さすがに私も想定外」
「そりゃあそうか。まぁ。とりあえずこの世界線では長生きできると思うぜ」
「どういこと?」
「俺はモノルワと違って善人じゃないんでな」
「そうだったわね」
モノルワは常に正義を掲げ、誰であっても救おうとする。
底抜けの善人だ。
そして、誰かのためにあっけなく死ぬ。
俺はそう言う奴が一番嫌いだ。
気持ち悪いと感じる。
シェリーの記憶によるとシェリーは毎回20歳になる前に巻き戻っている。
それはつまり、シェリーと同い年のモノルワが20歳になる前に死んでいるということだ。
俺はそんな気は毛頭ない。
前世で17年しか生きれなかったんだ。
今世では長生きしてやる。
「まぁ、お前が俺を殺すなら。話は違うが」
「まさか。さすがに私もせっかくのチャンスを無駄にする程愚かじゃないわ」
「俺を恨んでないのか?お前のループの原因は恐らく俺だぞ」
シェリーがループする原因は恐らく、この世界が俺の思考を再現したものであるためだ。
シェリーは本編では魔王と接触していない。
だが、最初は接触させる予定として登場させた。
結局は没にしたわけだが、俺の思考を再現したこの世界はそうしなかった。
シェリーと魔王の接触についての矛盾。
それを読み取った世界が二つの矛盾した俺の思考を再現するためシェリーが時間をループするなんて馬鹿げた現象を起こした。
というのが現状考えうるループの原因だ。
シェリーはループによって人生が滅茶苦茶にされた。
俺を恨んでいても何らおかしくない。
「そうねぇ。全く恨みがないと言えば嘘になるけど。それと同時に感謝もしているわ」
「感謝?」
「もし私がループしてなかったら私の人生は人攫いに攫われて、逃げのびた先で疲労で力尽きましたっていう。最悪な死に様で終わっていたのだもの。そう考えればループ自体はそうお悪い物じゃないの。まぁ、幸せになれない現状については恨んでいるけどね」
「そうか」
「ねぇ、私達。友達にならない?」
「友達?」
「そう。友達」
「何でだ?お前は俺を恨んでるんじゃ」
「恨んでるわよ。でも、そんなのどうでもいいと思えるくらい貴方は面白いわ。それに、私がループから抜け出すには貴方と一緒にいるのが一番効率的だもの」
「それはそうかもしれないが」
「貴方からしても悪い話じゃないと思うけど?私の力は貴方にとって非常に有用なものだと思うけど?」
確かに創造神の加護はものすごく魅力的な力だ。
その力を貸してもらえるのなら、俺はかなり強くなれる。
それに、どちらにしろこいつと敵対することは出来ない。
したら待つのは死だけだ。
「はぁ、分かった。友達になろう。………この年でこんなこと言うのなんか嫌だな」
「いや、私達まだ6歳だから」
「そういやそうだった。まっ、これからよろしく」
「よろしく」
俺とシェリーは握手を交わすのだった。
「さて、もう遅いし帰りましょうか。送るわ」
「頼んだ」
シェリーは「エリアテレポート」を発動して、俺の家の近くに転移してくれた。
「それじゃあ、また明日会いましょう」
「あぁ、おやすみシェリー」
「おやすみ。モノルワ」
「レイだ」
「え?」
「俺はモノルワ・リーヒットが大嫌い何でね。友人にはレイと呼んで欲しい。前世の名だから愛着があってな」
「ふふ。分かった。レイ。おやすみ」
そうしてシェリーは自分の家に戻っていった。
そのシェリーの表情は少しだけ明るかった。
翌日
俺は朝食を済ませて、家を出た。
「おはよ、レイ」
家の前には既にシェリーがいた。
「おはようシェリー」
「レイの今日の予定は?」
「レベル上げ」
「じゃあ私も行く」
「助かる。そういえば、レベルはリセットなんだっけ?」
「うん。獲得したスキルとかはそのままだけどレベルとか魔力とかはリセットされてる」
「リセットされてあの魔力ってヤバいな。さすがは神族系の加護」
「ほめたたえるがいい」
「さすがだな。シェリー」
「ふっふふー」
こんな茶番じみたノリ。
久しぶりにしたかもしれない。
中学時代はまだ友人が少ないながらいたんだが、高校入ってからは友人0だったからなー。
高校入学のタイミングで引っ越した関係で中学時代の友達の縁も切れたし、ラインも面倒で消しちゃったからここ2年と少しは友人がいない生活だったからなー。
「さて、それじゃあ行こうか」
「転移で行きましょ」
「頼んだ」
「エリアテレポート」
幸い周囲に人がいなかっため、さっさと魔法を発動した。
さすがに大衆の面前で転移魔法を使うわけにはいなかいからな。
転移魔法は失われた魔法だし。
俺の下に「エリアテレポート」の魔法陣が現れ、光り出す。
光が落ちつくとそこは森だった。
「ここは?」
「魔境「デスマーチ」」
「マジかよ」
魔境とは、魔物が多く生息し人類が生きることが不可能とされた場所のことである。
この世界に8つあり、そのどれもが超危険だ。
俺達が今いる魔境「デスマーチ」は森の奥になればなるほど魔物が強くなると言う結構わかりやすい性質を持っている。
ここは周囲に街もないうえ、シンプルに危険が多いため人がほとんどこない。
レベル上げには割と最適だ。
ただ、一つだけ懸念事項がある。
この魔境には転生したらばかりの主人くとヒロインが家を創って1年程暮らすのだ。
そうなるのはモノルワが12歳の時なので6年後だが、主人公と絶対に関わりたくない俺からすれば少し怖い。
さらに、この魔境の近くには主人公の本拠地である魔王城がある。
その付近には恐ろしく強い主人公の仲間がいるためそいつにも会いたくない。
というわけで、正直「デスマーチ」は主人公関係的な意味で怖いのだ。
「大丈夫。魔物からは私が守ってあげるから」
「俺としては魔物よりも魔王関係の方が怖いんだけど?」
「魔王関係?あぁ、この魔境魔王城の近くだものね。魔王様は数年前ここに住んでたって言ってたし。貴方の記憶にもそうあったわね。でも貴方魔王様たちと会いたくないの?子供みたいなものでしょ」
「いや、烏滸がましいわ。シン達魔王軍は俺の理想を性格や強さ、能力を集めた者達だからな。俺なんかが親だと名乗ればけがれる」
「そこまでいわなくても」
「モノルワが、俺の嫌いな要素をすべて詰めこんだ奴だとすれば魔王軍の連中は俺の好きな要素を全て詰め込んだんだ。まさに魔王軍は俺の理想なわけだ」
「なら余計みたいもんじゃないの?」
「いや、俺とシンがあったら世界の強制力的なのが働いて俺が死ぬかもしれないだろ」
「世界の強制力?そういえば貴方の記憶にあった小説にそんな設定もあったわね。考えられないわけじゃないか」
「そそ」
「まぁ大丈夫よ。魔王城の位置は私知ってるから離れられるし、シン達が転生してくるのは6年後何でしょ。だったら今の内は大丈夫よ。むしろ、シン達と出会うリスクなくこの魔境で狩りできるのは、この6年だけなんだから。今のうち有効活用しておいた方がお得じゃない?」
「一理あるな。なら、俺が魔王城に近づいてたら教えてくれ」
「大丈夫よ。ここから魔王城まで「フライ」を使っても1ケ月はかかるくらい遠いところに転移したから。私だって今は弱いから、魔王軍と敵対するリスクは潰すわよ」
「ならよかった。それじゃあ、狩りをするか」
「そうね」
そう言ってシェリーは「創造」で鉄製の剣を創り出す。
「シェリーは神器を創らないのか?」
「創らないんじゃなくて、創れないのよ。貴方の記憶によると魔王様は「創造」で簡単に創ったみたいだけど、それは魔王様が天才だからよ。私の才能じゃあどう頑張っても神器は無理。精々魔剣が限界でしょうね。それもかなり練習しないとだし」
よくよく考えれば、今までシン以外の創造神の加護を持つ存在なんて考えたことなかったが、確かに神器を創るのは創造神の加護があってもシン以外無理だ。
そもそも「創造」を発動するためには、製作物のあらゆる情報をイメージしなければならない。
ただの林檎であっても、色、形、栄養素、味、含んでいる魔力量、などなど他にもたくさんの情報をイメージしなければならない。
ある程度は魔力で補完することが出来るが、それでも限界がある。
ただの林檎でさえ、大変なのだ。
神器の情報量は林檎の比じゃない。
数十倍、数百倍。
ものによっては数千倍だろう。
作中でシンは簡単に神器の「創造」を行っていたが、よく考えればそれはシンの圧倒的な才能によるものだと気づく。
「まぁ、それならいつか魔剣でも創ってくれ」
「そうね、それじゃあ私の20歳の誕生日にあげるわ」
「シェリーのか?俺のたんじょうびじゃ……………いやそういうことか」
シェリーは何度も人生を繰り替えてしているが、まだ20歳の誕生日をだからこそシェリーにとって20歳の誕生日は一種の目標なのかもしれない。
「それじゃあ楽しみにしておこう」
「えぇ、友人に最高の一品をプレゼンとするわ」
「それじゃあ、レベル上げ頑張らないとな」
「そうね」
「それでずうずうしいのは百も承知だが、俺にも一本剣をくれないか?」
「いいわよ「創造」」
シェリーは「創造」で自分に創ったものと同様の鉄の剣をくれた。
「サンキュ」
「さて、早速お出ましみたいよ」
シェリーが後ろを向く、そこからゴブリンが2匹出てきた。
ただ魔境の魔物は他よりも強い。
今の俺にはかなりの強敵だ。
「一匹ずつでいいか?」
「大丈夫?連れてきておいてなんだけど、さすがに貴方には荷が重くないかしら?」
「問題ない」
俺は「身体強化」「索敵」「魔力感知」「魔力視」「魔力操作」を発動する。
魔力視でゴブリンの魔力を見た結果、大した魔力を持っていない。
特にスキルや魔法を使うような固体じゃない。
「魔力感知」で周囲を索敵するが、近くの魔物の反応は目の前の二匹だけ。
俺は「魔力操作」を発動することで、魔力を本来よりもスムーズに操作する。
そうこうしているうちに、ゴブリン二匹が一斉に俺達に襲い掛かってきた。
一昨日に狩っていたゴブリンもそうだったが、ゴブリンは俺達よりも大きい。
まぁ俺達は6歳児なんだから当然ながら身長が低い。
なので大人から見たら小さいゴブリンが大きく感じる。
それはそこそこの恐怖心をあおる。
特に、魔境の魔物は独特の雰囲気を纏っていて恐怖心が強まる。
だが、俺はそれを気にせずゴブリンを回避する。
「火属性最下級魔法「ファイヤ」
俺は「魔力操作」で先ほどから作っていた魔法陣に魔力を注ぎ込み、魔法を発動する。
発動した魔法は火属性最下級魔法「ファイヤ」を発動する。
「ファイヤ」の効果は指定した方向に火を放つという極めて単純なものだ。
込めた魔力や発動時のイメージによって火力や範囲が変わるので、割と汎用性が高い。
今回はそこまで高温には出来なかったが、しっかりとゴブリンに火があたりゴブリンが燃えて苦しみ、俺が目の前にいることを忘れてじたばた暴れている。
この程度の温度ではゴブリンを殺しきるには至らないのだ。
だが、まだ方法はある。
「さて、実験の時間だ。風属性最下級魔法「ウィンド」」
俺は再び「魔力操作」で魔法陣を創り、風属性最下級魔法「ウィンド」を発動させる。
この魔法も単純明快、指定の方向に風を送る魔法だ。
これも「ファイヤ」同様、魔力量とイメージで効果を工夫できる。
今回俺は威力は低く、範囲は広くなるように発動した。
目の前には燃えているゴブリン、に弱い風が吹く。
ゴブリンの火は強まり、数秒後ゴブリンが倒れた。
「水属性最下級魔法「ウォーター」」
俺は「ファイヤ」「ウィンド」同様最下級魔法の「ウォーター」を発動している。
この魔法も単純明快、魔力量とイメージで効果をある程度工夫出来る。
俺は少し高い場所から俺とシェリーにかからないように、ゴブリンの死体とその周辺に水をぶっかけた。
あのまま放置していたら、山火事だったからな。
別に魔境は魔力で溢れているため、植物の成長が早いと言う設定があるため問題ないだろうが。
俺は「鑑定」を発動する。
結果はこうなった。
名前:ゴブリンの死体
概要:魔境で生まれたゴブリンの死体。
魔境で生まれたことで、他の固体よりも少し強かった。
焼死により死亡したため、皮膚が焼けている。
「よし、間違いなく死んでるな」
「結局剣は使わなかったのね」
ゴブリンが襲い掛かってきた瞬間、一瞬で斬り捨てたシェリーが話しかけてくる。
横目に見ていたが、シェリーの剣技は綺麗だった、さすが元冒険者と言うべきか。
「身体強化」の発動もスムーズだった。
まだレベルも体格も低い俺達は身体能力を底上げする「身体強化」は魔物と戦う上で必須と言ってもいい技能だ。
それの発動スピードはとても重要。
もたついていれば、相手に先制攻撃を許すことになるからな。
「後で使うよ」
「それにしても、さっき突然火の勢いが強まったけどあれは何?」
「あれは、燃えてるゴブリンに「ウィンド」で弱い風を送ったんだよ」
「風?それで何で火の勢いが強くなるの?」
「正確に言うと普通よりも酸素を多く含んだ風をイメージしたんだ」
「酸素?ってあれよね空気の中に含まれるとかいう。貴方の記憶にあった」
「現代化科学ってやつだ。火は空気を送り込むとより激しく燃えるんだよ」
酸素の助燃性、中学理科で習う範囲だ。
ぶっちゃけ現代科学という程のものでもない。
俺の高校での成績はそこまでよくはなかった。
特に英語は中学の頃からずっとてんで駄目だった。
毎回赤点ギリギリ。
ただ、理科は中学の頃から好きで得意だったのだ。
なので、小説でもシンに同じことをさせた。
今回はそれを思い出して、やってみたのだ。
魔法はイメージと魔力次第である程度自由が利く。
空気内の窒素と酸素の割合を変えて酸素を8割くらいにした。
シンならもっと酸素の割合を増やせただろうが、俺だとここらが限界だった。
まぁ結果的にゴブリンを殺せたからよし。
「っていうか、そもそも貴方どこで「ファイヤ」「ウィンド」「ウォーター」の魔法陣を知ったの?「メモリートレース」で読み取った記憶にはなかったけど」
「お前の記憶だよ。お前が自力で学んだ魔法の魔法陣は勿論、シン達から「メモリートレース」で受け取った魔法の魔法陣もしっかりこの頭に入ってるよ。この身体のスペックが高くてよかった。前世の俺の脳だったらあんな情報量を一瞬で流されても緻密な魔法陣の記憶なんて全く残らないだろうからな。何ならその前に脳が情報過多で働かなくなるな。その点モノルワの脳は優秀。記憶系のスキルもないのにあれだけ大量に流された情報の中の一つである魔法陣の情報が一つもかけてないんだから」
「確かにモノルワ、昔から記憶力良かったわね。あんまり活かしてなかったけど。まっ、魔法陣の方は納得ね。ってことは私が知っている大抵の魔法は使えるのね」
「魔力量的に無理なものはあるが、魔力が足りるなら時間を掛ければ発動は出来るだろうさ」
「才能あるのね」
「モノルワは割とハイスペックだと思うよ。6歳にしてこれだけの魔力と身体能力。多くの適正属性。そして、努力家な性格」
「そうね。モノルワは割と何でもそつなくこなしてたわ。そして人一倍努力してた」
「そんな姿を見て、好きになったりはしなかったのか?」
「全く。私が簡単に出来ることを何時間もかけて習得する姿を見てどうやって好きになれと?」
「確かにそう考えたら、好きにはならないか」
「そうそう。モノルワの顔は悪くないんだけどねぇ」
「お前、面食いなの?」
「どうせ一緒にいるなら、顔が良いほうよくない?」
「確かにそうだな」
「納得するんだ」
「そりゃ、誰だってそうだろ」
「それを堂々と言えるところはレイの美点だと思う」
「嫌な美点だな」
「ほめてるの」
俺とシェリーは同時に同じ方向を見た。
「どうやら、お客様が起こしのようだ」
「数が多いわね」
「半分こでいいだろ。やばそうだったら、助けてくれ」
「それ、自分よりもレベルが低い女の子に頼むセリフじゃないわよ」
そう言いながら、俺達は剣を構える。
お客様とは、魔物のことだ。
同じ方向からかなりの数が近づいてきている。
俺は常に展開していた「魔力感知」「索敵」「魔力視」のおかげで気づけた。
やはり今発動しているスキルは今後も常に発動しておくべきだろう。
魔力の消費は無視できないが、幸いこの身体は魔力が多く、魔力回復速度も速い。
多少雑な使い方をしても問題ない。
シェリーのレベルは転生してリセットされている。
一昨日に11まで上げた俺の方がレベルだけで見れば上だろう。
だが、戦闘経験という意味なら圧倒的にシェリーが上だ。
こっちは武道の経験0の前世ド陰キャ高校生。
シェリーはレベルこそ低いが幾度も人生を繰り返し冒険者、騎士、魔法使い、暗殺者等々戦闘経験豊富。
魔力やスキルについてもシェリーの方が圧倒的に多く、使いこなしている。
どちらが強いかなどもはや一目瞭然だろう。
「「「「グギャグギャ」」」」
感知していたゴブリン達が現れる。
「次は剣を試すとするか「スラッシュ」「スラッシュ」「スラッシュ」」
3つの斬撃がゴブリンたちに飛んでいき、前の方にいた三匹のゴブリンの首を斬った。
前「スラッシュ」を使ったときは手刀による発動だっだったが、ちゃんとした剣を使った方が威力が高い気がする。
俺はそのまま「身体強化」に流す魔力を増やす。
そして地を蹴って一気に残りのゴブリンに接近して、剣にも魔力を流す。
この世界では武器や防具に魔力を流すことで強度を増したり切れ味や効果を増幅させることができる。
これをマスターすることでスキル「魔纏」を習得することが出来る。
初めて使ったがまぁ、一応使えてはいるか。
これがスキルになってくれたら楽なんだが。
俺はそんなことを考えながら剣でゴブリンの首をはねていく。
よくよく考えれば、今まで遠距離から「スラッシュ」で殺したり魔法で殺したりと実際に自分にお手で魔物を殺してこなかった。
ゴブリンは明確に魔物だし気持ち悪いが、人型だ。
前世で安全かつ平穏に過ごしてきた俺は人型の生物を自分の手で殺した事実に耐えれないかもと思っていた。
まぁ本当の人殺しじゃないし、きっとこういうのはゴブリン程度じゃダメなんだ。
こういうのはやっぱり盗賊とかを殺して、気持ち悪くなってしまう。
異世界での命の軽さを実感する。
みたいなのが、異世界ファンタジーの王道だろう。
ということで、あとで盗賊を狩ろう。
せっかくの異世界、簡単に異世界ファンタジーあるあるを体験できるならやりたい。
そんなことを考えているうちにゴブリンは全滅してしまった。
にしても、予想以上にちゃんと剣が使えた。
俺は前世で運動神経悪かったのに。
これもこの体のスペックか。
正直助かる。
こういう時だけはモノルワに感謝だな。
ちなみにシェリーの方は「ファイヤボール」という火の球を作り出し指定の歩行に射出する火属性下級魔法でゴブリンたちを殲滅していた。
「楽勝だったわね」
「あぁ、この身体のおかげか思っていたより剣を扱えた」
「よかった。これなら別行動でも大丈夫かしら?」
「多分な。魔境でもこのくらい浅いところなら一人でもなんとかなるだろう」
魔境は奥深く程魔物が強い。
逆を言えば、魔境であっても浅いところであればさほど強い魔物は出ないのだ。
今の二回の戦闘の結果、この辺りの魔物ならば単独行動しても問題ないと判断した。
というわけで、別行動開始だ。
俺は「索敵」を発動させる。
周辺の魔物の位置が手に取るように分かる。
俺は一番近い魔物に向かって走り出す。
この時、足にだけ「身体強化」を発動する。
こうすることで、スキル「部分強化」を習得できるのだ。
足だけに強化を施すことで、今の俺はかなりの速さで移動している。
前世の俺だったらとっくにばてているはずなのに、今世では6歳でこれだけの速度で走っても全く疲れを感じない。
レベルがそこそこあるにしろ、やはりモノルワは身体だけは優秀なようだ。
そしてついに、お目当ての魔物たちと出くわす。
魔物はフォレストウルフという狼型の魔物だ。
ゴブリンよりも多少強い程度なので問題ないだろう。
数は15、結構な数だがまぁ問題あるまい。
先ほど移動しながら鑑定した結果、今の俺のステータスはこうなっていた。
名前:モノルワ・リーヒット
年齢:6歳
性別:男性
レベル:21
魔力量:9200/9200
種族:人間
加護:魔剣士
スキル:鑑定、身体強化、索敵、魔力感知、魔力視、魔力操作スラッシュ、ダブルスラッシュ、トリプルスラッシュ。マナバレット、ダブルマナバレット、トリプルマナバレット
耐性:
適正属性:火、水、風、土、雷、光
称号:転生者、作者
ゴブリンを結構な数倒したかいあってか、かなりレベルが上がっていた。
魔力も、かなり多い。
無論シェリーと比べれば天と地ほどの差があるが。
これなら最上級魔法一回くらいなら使えるかもしれない。
おっと、今はこの狼どもを狩るのに集中せねば。
俺は剣を振り新しく得たスキル「ダブルスラッシュ」を発動する。
このスキルは「スラッシュ」の強化版でスラッシュと違って一度のスキル発動で二つの斬撃が放たれる。
ちなみに「トリプルスラッシュ」なら三つだ。
二つの斬撃のうち、一つはフォレストウルフの首に命中し、その命を刈り取ったがもう一つは外れてしまった。
これ、以外と難しいな。
俺はそう思いながら剣を持っていない左手で「トリプルマナバレット」を放った。
三つの魔力弾がフォレストウルフに飛んでいって、三匹のフォレストウルフを一瞬で即死させた。
全て脳を貫いている。
やはり使い勝手なら、「マナバレット」の方がいいな。
ただ、「スラッシュ」の方が一撃の威力がでかい。
今後、格上には「スラッシュ」を格下の雑魚には「マナバレット」を使うようにしよう。
その方が戦いに集中しやすそうだ。
その後俺は魔境を中を駆け回り。
ひたすらに魔物を狩るんだった。
数時間後
俺はひたすらに魔物を狩り続け、そろそろ日が暮れてきたので「索敵」で発見したシェリーの元に移動した。
「部分強化」のスキルも習得し、魔力を無駄なく活用できるようになった。
今は足に強化を施しかなりの速度で走っていた。
「シェリー、そろそろ帰ろう」
「あら、来てくれたのね。こっちから行こうと思ってたのに」
シェリーはそう言いながら魔法で火の槍を放ってオークを倒していた。
ちなみに火の槍は火属性中級魔法「ファイヤランス」でオークとは豚が二足歩行したような魔物でゴブリンよりも遥かに強い。
が、シェリーには関係なかったようだ。
「お互い、かなりレベルが上がったようだな」
「そうね。やっぱり魔境は一定の実力はいるけど狩りの効率は桁違いね。私、今日一日で49まで上がったわ」
「ありゃ、もう抜かされそうだな。まぁそりゃそうか、シェリー俺より強いし。ちなみに俺のレベルは52だ」
「お互い、かなりレベルを上げたわね」
「このくらいのレベルがあれば、大抵の問題は対処できるだろう。無理なのは神や魔王関連だけだ」
「そうね。どんな敵でも逃げるくらいは出来そうね」
この世界でレベル50を超えている者は少ない。
それこそ騎士や冒険者などの戦闘を職とするものくらいだ。
まぁ、作中では主人公たちのレベルは頭の可笑しいほど高いしレベル50よりも上のキャラクターはたくさんいた。
レベル50で安全圏とは言えない。
だけど俺達には大量の魔法の知識がある。
レベルが上がり、魔力量が増えたことで最悪は「テレポート」などの転移魔法で逃げるという手段が取れるようになった。
それに俺達はまだ6歳。
十二分な成果だろう。
「とりあえず、しばらくレベル上げはいいかな」
「そうね。ただステータスの偽装はしておかないと」
「そうだな」
基本的にこの世界では相手の許諾なく「鑑定」しステータスを覗き見ると言うのはマナー違反だ。
ただ、たまに手あたり次第人を鑑定するようなガラの悪い奴もいる。
そういう奴等は相手のレベルや加護を見て標的を決めるのだ。
そして俺達のレベルは6歳で49と52。
バレたら100%面倒ごとになる。
なのでステータスの偽装は必須だ。
俺はこれを見越して、休憩中にこのスキルを習得しておいた。
このスキル自体は、文字通り何かを偽装したり隠すような行為をすれば習得できる。
ちなみにシェリーは既に「偽装」を持っているし、ステータスも偽装している。
シェリーの場合は加護がバレるだけで色々とヤバいからな。
幸いシェリーは前世のスキルを引き継いでいるおかげで問題なさそうだ。
「それで、私が送る?それとも自分で帰る?今の貴方なら「テレポート」くらい余裕で発動できるでしょ」
「そうだな。自分で帰る。また明日」
「えぇ、また明日」
そうして俺とシェリーはそれぞれ「テレポート」を発動して、自宅に帰ったのだった。
それからも俺とシェリーは毎日会って、行動を共にした。
スキルを習得したり、レベルを上げたり。
たまに町に遊びに出たり。
そして、俺とシェリーは互いに親友と言える存在になった。
俺には一応、昔親友と言える友人がいた。
小学校と中学校が同じで、クラスが違っても定期的に互いの家に遊びに行くくらいには仲が良かった。
他にも仲が良かった奴はいたが、親友と言い合える仲なのはそいつだけだった。
まぁそいつとも高校で県外に引っ越すことになって、疎遠になった。
というか、俺が関係を切った。
連絡先を消した。
俺は基本艇に人間関係を面倒に思う人間だ。
高校でぼっち生活をしていいて気づいた。
人間関係は勉強の次に面倒だと。
俺は高校生でこの世の真理にたどり着き、そこからは自由気ままなぼっちライフを満喫した。
そんな俺は、今世で身体が変わっても中身は変わらないのだから友達は出来ても親友ほど仲の良い奴は出来ないだろうと思っていた。
だけど、出来た。
前世の親友とは違い、自分の家族よりも大切な存在。
俺はきっとこれが本物の親友なのだと思った。
前世の親友が偽物だったとは言わない。
だけど、どっちが本物かと言われたら間違いなくこっちだと俺は確信した。
これは、ある種のつり橋効果かもしれない。
でもそれでもいいと、こいつとの仲を大切にしたいと俺は思った。
こいつの運命をぶち壊してやりたいと。
俺は思った。
シェリー視点
それから、私はほとんどレイと一緒だった。
一緒にスキルを習得して、レベルを上げて、たまに遊んで。
私は、楽しさを思い出した。
いつしか私達は友人から親友となっていた。
私には友人がいた記憶なんてない。
いや表面上の友人はいたかもしれない。
でも、結局ループで関係がなくなるのであれば友人なんて作るだけ無駄だと思っていた。
だから、少なくともここ最近の人生で私に心から信頼できる友人はいなかった。
でも、レイは違う。
最初はある種契約のような関係だった。
でもレイと一緒に何かをするのは楽しかったし、気を遣わないでよくて楽だった。
元々、出会った当日にお互いの記憶を共有しているのだ。
互いのことは手に取るように分かる。
私達は既にその領域にまで達していた。
私は最初の人生以来の幸福を得た。
私はこれを失いたくないと強く思った。
そして、レイを襲う理不尽な運命をぶち壊いしてやりたいと思った。
二人はの絆はいつのまにか非常に強固なものになっていた。
それは恋愛か、否。
それは友愛か、否。
それは親愛か、否。
愛というにはあまりに歪で、固く固く結びついた関係。
親友という言葉の中に隠れているものは、誰も分からない。
だけどそれは確実に二人の運命に影響を与えていた。
1年後
俺とシェリーは7歳になった。
スタンピードが2日後に迫った日、俺とシェリーは森の奥深くに二人で作った秘密基地に来ていた。
秘密基地、男のロマン。
そしてここにはそんなロマンが理解できて、なおかつ創造神の加護を持つ我が親友兼幼馴染。
シンならば、「創造」だけで家を創ることもできる。
だがシェリーの「創造」ではそこまでのことは無理だ。
だからシェリーに材料を創って貰って二人で、魔法を使って組み立てて結果的に二人の趣味とロマンが詰まったこだわりぬいた秘密基地が出来上がった。
こだわりぬいただけあって会心の出来だ。
もし、シェリーと離ればなれになって何かあったらここで合流する手筈になっている。
そんな秘密基地で何をしているのかと言えば、2日後の作戦会議だ。
小説では2日後、近くのダンジョンから魔物が溢れ出すダンジョンスタンピードが起こる。
モノルワ君は父親にスタンピードを見学するよう連れ出され、その際に女の子を助けるため勇気を振り絞って魔物を倒し、称号「勇気ある者」を獲得してしまいそれが教会にバレたことで勇者となりバットエンドへとつながる。
最善を考えていた。
ぶっちゃけ、俺もシェリーも7歳だと考えればそりゃ頭はいいが元々考えることに対して才能はあまりないようだ。
どっちかっといえば、困難はスキルや魔法で解決する極度の脳筋面倒くさがりなのだ。
主人公たちのようにぽんぽんと最善手を打てるわけではない。
「一番分かりやすいのは、俺が父親からの見学を拒否することだが」
「モノルワが行かなかったことによって、どうなるか分からないのよね」
俺としては、未来というのはほんのわずかな違いだけで変わると思っている。
それこそ今回ならば、モノルワが行かなかったことで騎士達が油断して結果的にスタンピードの対処が失敗にを終わる。
なんて極端な未来も可能性は0ではないのだ。
「なら、もういっそスタンピードなんてなくしちゃえばいいんじゃない?」
「どういうことだ?」
シェリは妙案得たりと言った顔で話してくれた。
「称号の勇気ある者ってかなりのレア称号なのよね」
「あぁ、基本的に数百年、短くても数十年に一人と言われるスパンだからな」
「なら、今からダンジョンに向かってダンジョンを攻略すればそもそもダンジョンスタンピードが起きなくてレイが「勇気ある者」を獲得する可能性はほぼ0になる」
ダンジョンスタンピードとは、基本的にダンジョンから魔物が出てくることによっておこる。
2日後に発生するダンジョンスタンピードの大本のダンジョンは既に何回か覗いているが、とりあえず一層には大したものは出てこないので問題ない。
ゴブリンやフォレストウルフ程度。
それも魔境の魔物よりも遥かに弱いものだ。
魔境の魔物とダンジョンの魔物では、同種であっても圧倒的に魔境の魔物の方が強い。
正確に言うとダンジョンの魔物もそこら辺の魔物よりも強い。
魔物はレベルを上げる以外にも魔力を吸収することで強くなっていく。
そしてダンジョンや魔境では空気中に魔力が漂っているため、魔物がその魔力を吸収し普通の森の魔物よりも強くなる。
ただ、魔境とダンジョンでは漂っている魔力の濃度が圧倒的に違う。
魔境は深さにもよるが、俺達が狩っていた浅瀬でもダンジョンの数倍は魔力が濃い。
そのため、ダンジョンの魔物と魔境の魔物なら同種であっても基本的に魔境の魔物の方が強いのだ。
浅いところとはいえ魔境の魔物を大量に狩ってきた俺達からすればダンジョンの魔物なんぞ楽勝だ。
「それじゃあ行こっか」
そうしてシェリーは「エリアテレポート」を発動して俺達はダンジョンに転移した。
「索敵」を発動して周囲を確認するが、人はいなさそうだ。
まぁ、ダンジョンスタンピードが起こったってことは、このダンジョンが放置されていた証拠。
人がいることはほぼないだろう。
「それじゃあ入りましょう」
俺とシェリーはダンジョンの中に入る。
ダンジョンの中に入ると、そこは洞窟だった。
俺は再び「索敵」を発動する。
ダンジョンの中は異空間であり、外とは全く違った環境になる。
ダンジョンの法則については明確に考えていなかったので、どうなっているのか分からない。
決めていたことと言えば、倒した魔物が素材になること、時々宝箱があること、いくつかの階層があること、階層ごとにボス部屋があり、中には階層ボスという他の魔物よりも強い魔物がいること、ダンジョンの最深部にはダンジョンボスという強力な魔物とダンジョンコアというダンジョンの核があり、ダンジョンコアを破壊すればダンジョンが崩壊すること。
結構色々と決めているようでどれも異世界物のテンプレだ。
「一本道のようだが、大量のゴブリンがいるな。罠とかはなさそうだ」
「なら魔法で一掃しましょう」
俺達は簡単に打ち合わせをし、一本道をまっすぐ進む。
歩き出してすぐにゴブリンが5体出てきた。
シェリーが無詠唱で「ファイヤ」を発動して、一番前にいた一匹を燃やし尽くす。
そこそこ魔力を込めたようでゴブリンは全てを燃やし尽くされ、魔石だけ落ちた。
「ファイヤコントロール」
シェリーは火属性上級魔法「ファイヤコントロール」を発動する。
この魔法はその名の通り火を操る魔法だ。
シェリーは先ほど放った火を操って目の前に放射状に火を広げる。
それによってゴブリンは近づけなくなった。
一本道なので、避けられないのだ。
俺は無詠唱で風属性中級魔法「ウィンドランス」を3つ発動してゴブリンたちに放つ。
この魔法は指定の方向に風の槍を放つ魔法でシェリーの火を通って槍が一瞬で火の槍に変わる。
それは「ファイヤランス」よりも激しい火だった。
激しい炎を纏った槍は3体のゴブリンに直撃し、一瞬で焼死させる。
残りの一体はシェリーが「ファイヤコントロール」で操った火を放って、燃やし尽くした。
「少々過剰だったな」
「そうね。やろうとも思えば「ファイヤコントロール」だけでどうとでもなったし。まぁ、最近狩りせず遊んでばっかだったしリハビリってことでいいんじゃない。魔力はまだまだ潤沢にあるし」
「それもそうか」
俺達はそんな会話をしながら進んでいく。
ゴブリンの魔石は無属性魔法「ストレージ」に入れていく。
この魔法は異世界物でよくある、異空間に物をしまっておける魔法だ。
出し入れするたびに魔力を消費するが大した量じゃないので重宝している。
主人公たちはこれのスキル版の「収納」を使っているんだが、なぜかそれは習得できなかった。
習得条件は「ストレージ」のを規定回数発動のはずなんだが、何故か習得できなかった。
どうやら小説とは何か相違があるようだ。
まぁ、「ストレージ」があるので大きな問題じゃない。
その後もゴブリンが集団で出てきたが、多くても10体だったし一本道では数がそこまで有利にならないので、剣や魔法でサクッと倒した。
そして、そこそこ歩いた頃に大きな扉を見つけた。
階層ボスの部屋だ。
シェリーがまるで家の扉を開けるように簡単に開ける。
中にいたのはゴブリンリーダーというゴブリンの上位種一体に、ゴブリン二十匹。
ゴブリンリーダーは指揮に特化した上位種で、手下のゴブリンを指揮する。
ゴブリンリーダーがいるだけでゴブリンが一気に厄介になると言われている。
「雑魚ね」
「そうだな」
俺は「部分強化」を足に発動して、一気に地を蹴り加速する。
一太刀。
俺はその一瞬でゴブリンリーダーの首を斬った。
なんだかんだこの1年間でそこそこ戦ってきた。
身体能力が前世の比じゃない程上昇していれば、剣術なんて適当でも人間離れした技が出来る。
ここはそういう世界なのだ。
俺はすぐ様戦線離脱する。
ゴブリンたちは未だ何が起こったのか理解できていない。
「ファイヤランスレイン」
シェリーが火属性上級魔法「ファイヤランスレイン」を発動する。
この魔法は「ファイヤランス」を雨のように降らせる魔法だ。
場所こそ指定できるが槍一本一本の操作までは出来ない。
だが、今回のように大量の敵が固まっている場所には非常に有効だ。
大量の火の槍がゴブリンたちを貫き。
ゴブリンは全滅した。
ボス部屋内の魔物が全て死んだことによって二層への階段が現れる。
俺はゴブリンの魔石を「ストレージ」に収納して、二人で階段を降りる。
「索敵」すると今度は迷路のようになっている。
「急に迷路だな」
「まぁ「索敵」で全容が把握出来てるから全く問題ないけど」
「索敵」の範囲は魔力量が大きければ大きいほど広くなる。
シェリーや俺の魔力量ならば二階層に全容を一度の「索敵」で把握できる。
迷路など、障害に値しない。
出てくるまものはフォレストウルフ。
だが、フォレストウルフの武器は機動力。
狭いダンジョンでは相性が悪く、むしろ迷路がこちら側の有利に働いている。
歩いていると、突然フォレストウルフが飛びかかってくるがレベルの上がった俺の動体視力なら全く問題ない。
むしろ無効から飛んできてくれるので、そこを剣で斬ればいいだけ。
とても単純な作業だ。
そして先ほどと同等かそれ以上の速度で進みまた階層ボスの部屋を発見した。
今回もさっさと開ける。
中にはグリーンウルフがいた。
グリーンウルフはフォレストウルフが進化した固体で外見は緑色の狼だ。
ただ、その速さと力強さはフォレストウルフの比にならずフォレストウルフの群れよりもグリーンウルフ一体の方が厄介だと言われている。
が、雑魚だ。
俺はとびかかってきたグリーンウルフの首を斬る。
それだけでグリーンウルフは死んだ。
三層への階段が出現する。
「簡単なものね」
「これだけで、俺の死亡フラグをなくせるんだ。楽な仕事だな」
そう、このダンジョンを破壊してしまえば俺の死亡フラグを完全に叩き潰せる。
当初はダンジョンスタンピードが来た時に家に引き込まればいいと思っていたが、何がきっかけで「勇気ある者」を得てしまうか分からんからな。
こういう転生先の世界に元のゲームや物語がある異世界物あるある、世界の修正力。
転生した主人公たちが変えた物語を、元の物語に戻そうとする謎の力。
そういったものがあるかは分からんが、可能性は潰しておくべきなのだ。
俺は徹底的にそれを排除する。
正教会を滅ぼせれば一番楽なんだが、そんなことを出来るのは主人公たち魔王軍くらい。
流石に無理なので、出来るだけ正教会とは関わらないようにしている。
そんなことを考えながら階段を降りていると、大きな扉が出てきた。
「最終階層がボス部屋だけのタイプか」
「楽でいいじゃない。何の魔物かしら?」
扉を開ける。
グガァァァァァ
そこにいたのは、とても大きくて赤い、ドラゴンだった。
パタン
シェリーがドアを閉める。
「「え?」」
思わず二人で呆けてしまう。
「一層、ゴブリンリーダー。二層、グリーンウルフ。三層、レッドドラゴン。ってはぁ、どうなってんだ。おかしいだろ」
「どうする?あれ、二人で全力でやれば倒せなくはないだろうけど、結構きついと思うんだけど」
「そうだな。魔物も結構倒したし、とりあえずしばらくダンジョンスタンピードは起こらないようにはなっていると思うが」
基本的にダンジョンスタンピードはダンジョンで魔物が大量発生した際に起こる。
つまり、ある程度定期的に間引いてやれば起こらないのだ。
無論例外もあるが、このダンジョンで明日起こる予定だったダンジョンスタンピードはこの領のアホ領主(父)がダンジョンがあるにも関わらず間引いたりしなかったことによるものだ。
今回、俺とシェリーで間引いたので問題ないとは思う。
「このダンジョンの破壊はしておきたいし。やっちゃう?」
シェリーが妙に楽しそうな声で聞いてくる。
「やっちゃうか」
きっと、戦闘はある程度のリスクを許容せねばならなくなるだろう。
だけど俺は思う。
二人であれを倒すのはきっと楽しいだろうと。
せっかく異世界に来たので俺は今まで、余裕のある戦いしかしたことがない。
それはきっと正しい選択だった。
始めて盗賊を相手にした時も、傍にシェリーがいてくれたし明らかに数が少なく殺しに慣れてない盗賊を狙って殺した。
その時、俺は異世界物の主人公たちのように吐いてしまうようなことも想定していた。
だけど、俺はそんなこともなく何なら少し楽しかった。
きっと転生の際に多少感性が歪んだのだろう。
まぁそういうわけで、俺は今まで勝つか負けるか分からないギリギリの戦いをしたことがない。
しないままにある程度の強さになってしまった。
それはきっとシェリーも同じだ。
シェリーのは才能があった。
きっとちゃんとした戦闘でギリギリな状態になどなったことがない。
だけど今回のレッドドラゴンとの戦いはそうでない。
ドラゴンとは間違いなく天災。
本来数十人から数百人の精鋭で相手する敵。
それをたった二人で戦う。
きっと俺達はかつてないほどギリギリな戦いになる。
だけどそれをどこか楽しみにしている自分がいるのだ。
「シェリー、俺が前に出る。援護を頼んだ」
「了解。最初から全力で行きましょう」
「あぁ」
シェリーも「ストレージ」から剣を出す。
準備は万全とは言い難い。
が、この状態でも勝利は可能だと俺達は確信している。
予想外のダンジョンボス。
レッドドラゴン。
今の俺達をしてなおギリギリの戦いとなることは間違いない。
「いくぞ」
俺はドアを開け、その瞬間に手と足に「部分強化」を発動する。
更に剣に「魔纏」を発動して剣も強化する。
地を蹴ってレッドドラゴンに接近する。
グガァァァァァ
ドラゴンが炎のブレスを吐いてくる。
俺は足の「部分強化」への魔力を増やして速度を上げる。
そこから跳躍して、ドラゴンの首に剣を振るう。
ガキンッ
「かったい」
俺の剣はドラゴンの鱗に弾かれてしまった。
崩してしまった態勢を整えるために、ドラゴンの首に蹴りを入れて地面に着地する。
「硬すぎて剣が通らん。強引に降れば剣が耐えられん」
「了解。こっちも準備出来た。火属性最上級魔法「ハイエクスプロージョン」」
シェリーが火属性最上級魔法「ハイエクスプロージョン」を発動する。
この魔法は指定の場所で強力な爆発を起こす魔法だ。
シェリーはそれをドラゴンの頭に指定して爆発させた。
だが……
グガァァァァァ
ドラゴンには傷一つなかった。
しかし、痛みはあったのか怒り狂ってシェリーに向かってきた。
いくらシェリーと言えど、最上級魔法の発動にはかなりの時間がかかる。
しかもその最上級魔法ですらドラゴンに傷を与えるまでいかないとなると。
「シェリー。災害級魔法、使えるか?」
災害級魔法、最上級魔法よりも一つ上の位階の魔法。
しかしその効果はどれも災害なみのものだ。
発動に時間がかかり、魔力もかなり消費するがこのレッドドラゴンに勝つには災害級魔法しかない。
「魔力的には大丈夫。ただ発動には30秒はかかる」
「上等だ。時間を稼ぐ」
俺は残っている魔力の3割を使い全身に「身体強化」を発動する。
一時的に剣を「ストレージ」にしまい、素手になる。
そして勢いよく地を蹴り。
「よっせい」
思いっきりドラゴンの腹に右ストレートを突き出した。
グガァァ
ドラゴンの鱗はかなり硬いが、ダメージは入っている。
俺はひたすらにドラゴンの腹の同じ場所を両手で殴り続けた。
殴りながら無属性最上級魔法「パーフェクトパワーアップ」と無属性最上級魔法「パーフェクトディフェンスダウン」の魔法を構築し、発動する。
「パーフェクトパワーアップ」は文字通り自身の身体能力を上昇させる魔法だ。
「パーフェクトパワーダウン」は文字通り相手の防御力を低下させる魔法だ。
最上級魔法ではあるが、この魔法は魔法陣自体はそこまで複雑ではなく殴りながらでも構築できるが消費する魔力が尋常じゃない。
既に俺の魔力は全体の1割しか残っていない。
だが、俺の殴りによって着実にダメージを与えられている。
ずっと同じ場所を殴っているため、その周辺の鱗が剥がれ。
よりダメージが大きくなった。
ドラゴンが俺をどうにかしようと手や足で攻撃してくるが、ドラゴンは身体が大きい分そこまで速くないので今の身体能力ならば避けるのは容易かった。
ブレスは先ほど吐いたからか、しばらくはうてないようだ。
俺は無我夢中で殴り続けた。
しかし、ついに限界が来た。
ドラゴンが再び俺にブレスを撃ってきたのだ。
俺は即座に後ろに下がり回避した。
そしてまた近づいて殴り続ける。
「レイ、準備出来た」
「OK。4秒後に発動」
「了解、四、三、二」
「ここだ」
俺は強化された身体能力で全力で跳躍する。
「一、零。発動。火属性災害級魔法「インフェルノキャノン」」
火属性災害級魔法「インフェルノキャノン」、地獄の業火を砲弾にして指定の方向にうち出す魔法だ。
威力、射程ともに最上級魔法とすら比較にならない。
地獄の業火の砲弾は俺が鱗をはがしたレッドドラゴンの腹に直撃し、貫通した。
レッドドラゴンの腹に風穴があいたのだ。
グガァァ
バタン
レッドドラゴンは倒れる。
だがまだあきらめていないらしく、その状態からシェリーに向かってブレスをうとうとする。
「させるか」
俺は「ストレージ」から剣を取り出し、重力に従い上空から自由落下しドラゴンの頭に剣を突き刺した。
残っていた魔力全てを「魔纏」にまわしたので剣は折れずにドラゴンの脳に突き刺さった。
その瞬間、二人はレベルアップした。
思わず二人は地面に座り込んだ。
「はぁー勝ったー」
「レイ、お疲れ様」
「シェリーもお疲れ」
そうして俺達は拳を打ち合わせた。
「とりあえず、こいつ「ストレージ」にしまってダンジョンコア破壊して、秘密基地に帰ろう」
「そうね。コアの破壊は私が行きましょうか?魔力、すっからかんでしょ。意識をつなぎとめるのもやっとなんじゃない?」
「それはそうだが、俺が壊したい。俺の死亡フラグ回避のためだしな」
「そう。なら魔力分けてあげる「マナヒール」」
シェリーが無属性中級魔法「マナヒール」を発動してくれる。
この魔法は他者の魔力を回復する魔法だ。
変換効率が悪いが、確実な方法だ。
俺の魔力が1割まで回復した。
「すまん。助かった、お前も魔力がたくさん残っているわけじゃないだろうに」
「大丈夫よ。まだ3割は残ってるから」
「ならよかった」
俺とシェリーはそう言いながら笑い合ったのだった。
「さてと、それじゃコアだけ破壊しちゃいましょう」
そう言って俺とシェリーはドラゴンを倒した時に出現したダンジョンコアを見る。
赤い球体だった。
ボウリングの玉くらいの大きさだ。
「これ、どうすりゃ破壊できんだ?剣で斬れる気はしないが」
「今の私達じゃ破壊は無理ね。魔力が満タンならいけただろうけど。まっ、ダンジョンコアを「ストレージ」にしまうだけでもダンジョンが崩壊するから今回はそれで行きましょ」
「そうなのか。それじゃ」
俺は「ストレージ」を発動して、ダンジョンコアを収納した。
ゴゴゴゴゴ
ダンジョンが揺れ始めた。
崩壊が始まったようだ。
シェリーが「エリアテレポート」を発動してくれ、俺達は秘密基地に転移するのだった。
翌日
結局、ダンジョンスタンピードは起こらなかった。
自身を一時間ごとに「鑑定」したが突然「勇気ある者」の称号を得ることもなかった。
「とりあえず、これでレイの死亡フラグは一旦免れたかしら?」
「そうだな。一応完全に小説とは違うことになった。ただ、この先どうなるかは分からんがひとまず今出来ることはもうないだろう」
俺を殺すとしたらそれは主人公かその仲間である魔王軍。
いくら俺が強くなったところで勝ち目などない。
既に普通に生活する分には全く困らないくらいには強くなったし、とりあえず未来を憂いて何かの行動を起こす必要はなくなった。
「これで、15歳まで何もなければ安心していいだろう」
「何で15歳?」
「俺が主人公たちと出会うのが15歳だからな。もしそのタイミングで出会わなければ問題ないだろう」
「そう。まぁ私からすればレイが20歳まで安全に生きてくれたらそれでいいのだけど」
「勿論だ。また死ぬつもりなど毛頭ないさ。なんだかんだ、今の生活を気に入ってるしな」
「まっ、何かあっても私が守ってあげるわ」
「それは心強いな」
俺とシェリーはそう言って笑い合う。
あぁ、居心地がいい。
俺は心底、そう感じた。
そこからは平凡で、幸福な毎日だった。
しかし、人生とはままならないもので。
幸福というものは長くは続かないのだった。
5年後、レイの誕生日
今日は俺の12歳の誕生日だった。
ダンジョン踏破から5年が経った。
その間は特に危険なことをせず、定期的に魔境の浅いところに狩りに行くくらいで、シェリーとゆっくり過ごした。
ただ8歳から貴族教育が始まったため、少し忙しかった。
ただ、この世界の設定を創ったのは俺だ。
文字こそ決めてなかったが、それはモノルワが6歳にしてある程度覚えてくれていた。
というわけで習ったのは主に歴史、算術、礼儀作法、魔法、剣術だった。
算術は前世での中学生レベルで十分。
歴史はそもそも創ったのが俺なため、教師よりも詳しかった。
魔法と剣術については言わずもがな。
ある程度目立たないように力をセーブして無難にこなした。
礼儀作法については、こっそり教師から「メモリートレース」で記憶を貰って完璧にした。
この身体の記憶力なら一度読み取っただけで覚えることが出来た。
周囲から神童的な扱いを受けたが、10で神童、15で天才、20超えればただの人という言葉がある。
俺が何もしなければ、周りもいつか忘れるだろう。
貴族家の当主となるならば、学園に通わねばならないがうちでは兄が継ぐことが確定しているので俺は学園に入らなくていい。
上級貴族だと当主のスペアとして次男にも学園に行かせたりするが、うちの家は田舎の男爵家。
それもスタンピードに対する対策も出来てない程の貧乏だ。
優しい家族のことだから俺が行きたいと言えば、何とか金を工面してくれたかもしれないが俺は転生してまで学校に行きたくないので成人したら家を出て冒険者になると親に告げた。
親としては家に残って仕事を手伝ってほしそうだったが、子供の意見を尊重すると最終的には認めてくれた。
今日は俺の誕生日パーティーが開かれている。
上級貴族とかならば、子息子女の誕生日パーティーに貴族を呼んだりするだろうが、うちは田舎の貧乏男爵家。
そして俺は次男。
そんなことは一切ない。
そして俺は転生しても友達作りが苦手だったので、結局シェリー以外に仲の良い友達もできず。
家族とシェリーに祝われていた。
シェリーはうちの家族から未来の俺の嫁と思われている。
事実としては、違うがそれが好都合に働いているのでわざわざ訂正はしていない。
どうせ成人すればさっさと家を出るので関係ないのだ。
それにシェリーは割と人間不信なところがあるから、親友はともかく恋愛は無理だろう。
貧乏男爵家なりに、普段より豪華な料理と少し高級な菓子で祝われた。
また家族全員からと万年筆を貰った。
流れの商人から買ったらしい。
この時代の文明レベルで万年筆なんてないはずなのにと不思議に思ったがまぁ実際にあるし気にすることでもないだろう。
デザインはよかったのでそれから俺は字を書く時はその万年筆を使うようになった。
翌日
朝から我が家に突然人が訪ねてきた。
嫌な予感がする。
訪ね人は父が応対した。
いくら男爵家と言えども、そこらの平民が訪ねてきたからと言って当主自ら応対するなんてありえない。
つもり訪ね人は平民ではなく、父が応対しなければならないほど身分が高い人。
あるいはその使者ということになる。
(レイ、聞こえる?)
使者の正体について考えていると突然頭の中にシェリーの声が響いた。
スキル「念話」である。
文字通り、離れた相手と声を出さずに会話できるスキルだ。
習得条件は声を介さずに他人と意思疎通を一定回数行うというものだ。
一見難しそうだが、筆談でもすれば一瞬で手に入れられる。
ただ相手の思ったことをそのまま把握しなければならないので、綺麗に言葉を飾るような普通の手紙では手に入れられずそういうことが出来ない平民はそもそも手紙なんてほとんどしないためかなり稀有なスキルだ。
その分、誰にもバレずにシェリーと話すことが出来る。
(あぁ、聞こえる。どうした?)
(私の宿に、よくわからない大人が来たわ。父親が相手してるのだけれど、今私はものすごく嫌な予感に襲われているの。情報共有しておこうと思って)
シェリーの勘はよくあたる。
お互いに困ったことがあれば、情報を共有しておこうと取り決めているのだ。
普段ならここですぐさまシェリーの元に向かうのだが、今回ばかりはそうはいかない。
俺も父親に部屋で待っていろと言われているからだ。
普通、人が訪ねたからと言って俺が部屋で待機する理由がない。
つまりあの訪ね人は俺に何かしらの関係があるということだ。
何があるか分からない以上、俺も動けない。
(奇遇だな。今うちにも人が訪問してきた。そしてなぜか分からないが俺は今部屋で待っていろと言われている。そして俺も今、嫌な予感に襲われている)
(そっちも。ってことは私達のことがバレた?)
(分からん。今回ばかりは全く予想できん。小説にこれに類似する展開はない)
(とりあえず、何かあったらすぐに連絡して。転移で駆けつけるわ)
(そっちもな。それじゃあ一回「念話」切るぞ)
俺は「念話」を解除する。
一度落ち着こう。
別に俺達の実力ならばバレても問題ない。
魔法で記憶だって弄れるのだしどうとでもなる。
普通に考えれば、ただ人が訪ねてきただけだ。
俺とシェリーの元に同じタイミングで人が訪ねてくる。
普通はただの偶然と考えるだろう。
しかし、俺とシェリーの場合は隠し事が多すぎる。
そして死亡フラグなんて爆弾がある。
何かあると考えるのが自然だろう。
警戒なんてしておいて損はないのだ。
何もなければそれが一番なのだから。
「モノルワ様、ご当主様から大事なお話があるとのことです。応接間までお越しください」
うちのメイドが俺を呼びに来た。
「分かった」
俺は部屋を出て応接間に向かう。
コンコン
「モノルワです」
「入りなさい」
父親の声がいつになく固い。
「失礼します」
俺は応接間のドアを開ける。
そこには訪問者と父親が対面して座っている。
「初めまして。私は正教会枢機卿、ナホアと申します。以後、お見知りおきを」
「初めまして。私はナイト王国、リーヒット男爵家次男。モノルワ・リーヒットと申します」
まさか正教会の枢機卿とは、こんな田舎の男爵家に何の用だ?
「実は君に用があるんだ、モノルワ君」
「神の御使いであらせられる正教会の枢機卿様が私のような者に何の御用でしょう?」
本来、貴族はへりくだるような言葉遣いはしてはいけないが正教会がその気になればうちなんて一瞬で潰せるからな。
ここはひたすらへりくだっておくべきだろう。
「君は賢いね、12歳でそこまでの礼儀作法を。さすがはリーヒット男爵家の神童と言ったところでしょうか?」
随分こちらについて調べてきたようだな。
「いえいえ、私などまだまだです。これからも精進を重ねたいと思っております」
「ほぉ、その年で謙虚さまで身に着けているとは」
枢機卿はこちらを値踏みするような目で見てくる。
普通ならば分からないレベルの者だが、俺には分かる。
何故なら、陰キャは人からの目線に敏感なのだ。
「では、早速本題に入りましょう。モノルワ・リーヒット殿。神託により、貴殿が勇者であることが判明しました」
「俺が、勇者」
「はい、女神様より神託が下りました。間違いありません」
「しかし、私が勇者だとして私はどうすれば?」
「貴方には教会の英雄になって欲しいのです」
「英雄」
「近年、大陸各地で強力な魔物が出現しているのです」
「魔物が?」
「ええ、勿論。各国も軍を派遣し対処していますが全てに対応できるわけもなく、少なくない犠牲hさが出ているのです。そして女神様より、この状況に対処できるのは勇者であるモノルワ殿だと神託が下りました」
「しかし、私はお世辞にも武の才能があるとは言えません。はっきり言って平凡です」
「心配ありません。モノルワ殿。勇者の強さはその勇気です。女神様はその勇気に答え力を与えてくれるのです。貴方が勇気を出したとき女神様により力が与えられるのです」
「私が、勇者に」
「どうか、我等を困窮している民を救ってはいただけませんか?無論、我らも出来る限りサポートしますしリーヒット男爵家へ多額のお礼はさせていただくつもりです」
「モノルワ。私はモノルワのしたいように生きるのが一番だと思っている。私はモノルワがどのような選択をしてもお前を責めることはない。ただ私から言えるのは、私はお前を愛しているということだ」
父親からそう熱い視線を受ける。
だが、内心俺に勇者になって欲しいという感情が透けて見える。
うちははっきり言って貴族にしてはかなり貧乏だ。
そしてこれから兄の学園の学費なども払わないといけない。
金が欲しいのは分かり切ったことだ。
にしても、俺が勇者とは。
こっそり「鑑定」したが、俺はそんな称号を得てはいなかった。
ということは、俺は本物の「勇者」として世界に認められたわけではなく、小説同様教会の英雄として祀られる存在と言うことだ。
これが世界の強制力か。
俺はすぐに「念話」を発動する。
(シェリー、緊急だ。そっちもまずい状況なら聞くだけ聞いてくれ。どうやら俺は小説同様教会に勇者として認定されたらしい)
(そっちも?私は教会に聖女として認定されたみたい)
どうやらシェリーも似たような状況らしい。
俺は「勇者」の称号も「勇気ある者」の称号も持っていない。
なのに教会に「勇者」認定された。
とにかく情報が欲しい。
俺はこっそり無属性最上級魔法「マインドリーディング」を発動した。
この魔法の効果は簡単で相手の心を読む。
そう言った魔法を妨害するスキルやアイテムがあったり、自分よりもレベルが高い者には効かない。
ただ、この魔法は設定上現代では忘れられたまほうなため、妨害するアイテムは持っていないだろう。
またこれに対抗するスキルmかなり特殊な条件を満たして習得しなければならないため、ほとんど持っている者はいない。
そして今の俺のレベルは141。
たかだか教会の枢機卿が俺よりもレベルが上なことはまずない。
よって俺は簡単に相手の心が読めた。
(さすがは女神様に勇者と認められるだけはある。12歳にしてこれだけ冷静な判断が出来るとは)
ふむ、これによって本当に俺が勇者であると神託によって告げられたということが分かった。
女神、ねぇ。
小説では正教会が信仰する女神はとっくの昔に滅んでいる。
つまり神託などありえないのだ。
このことから、いくつかの可能性が考えられる。
1つ目は、神託なんてないが誰かが神託を受けたと嘘をついてこの枢機卿がそれを信じている可能性。
2つ目は、この世界では小説と違い女神が生きている可能性。
これまでも、微々たるものだが小説との相違点があった。
俺の矛盾を修復したことによる一種のバグか何かだと思っていた。
だが、ここまで大きな相違点があるとなるとこれから先の予想が一切つかなくなる。
3つ目は、他の神が女神が滅んだ後に正教会の神として成り代わっている可能性。
ぶっちゃけこれもあり得る。
正教会の女神に対しては滅んだという設定しかしていない。
新しい神が成り代わっていてもおかしくない。
分からんが、とりあえず。
(シェリー、答えられるなら答えてくれ。お前は「聖女」になるのか?)
(そっちこそ、レイは「勇者」になるの?)
どうやらシェリーと考えていることは一緒だったらしい。
((ならない))
俺とシェリーは性格がかなり似ている。
極度の面倒くさがりの効率厨。
人のためにとかマジで嫌いな人間だ。
そんな俺たちが「勇者」だの「聖女」だのになんてなるはずがない。
さて、決断はした。
後は対処するだけだ。
「お断りします」
俺は枢機卿の目を見てはっきりと告げた。
「は?」
枢機卿は間抜けに口を開けて呆ける。
どうやら俺が拒否するとは思っていなかったようだ。
そりゃあ、この世界の12歳の少年なんて純粋さの塊だ。
人のため、正義のために動くことに憧れる。
あるいは、自分に秘めた力があることに酔いしれる。
大抵はそれだ。
だが、俺は例外だ。
正義なんてくそくらえ。
秘めた力なんぞなくても俺は結構強い。
「聞き間違いですかね?今なんと?」
「お断りすると申し上げました」
「な、何故ですか?今も魔物によって人が襲われ、命が脅かされているのですよ」
「だから何です?」
「なっ」
我ながら不気味な少年だと思う。
12歳で人に一切の興味がないような対応って普通ないだろう。
「貴方は女神様に選ばれた人間なのです。貴方には秘めた力があり、その力は世のため人のためを願って女神様が貴方に与えたものなんですよ」
「何と言われようと。お断りです。なんで顔も知らない誰かのために命を賭けなきゃならんのですか。そういうのは間に合ってるので結構です」
俺はひたすらに冷めた瞳で枢機卿を突き放す。
こんなの、こうでもしないと断れん。
シェリー視点
朝早くから人が訪ねてきたと思ったら何やら父と話している。
なんだかとても嫌な予感がする。
とりあえずレイに「念話」で情報を共有する。
どうやらレイも似たような状況になっているらしい。
私の嫌な予感が更に強まる。
私が今後のことを色々と考えている間に私は父に呼ばれ宿の一室に連れてこられた。
「この方は正教会の枢機卿様。お前に大切な話があるらしい」
「こんにちわ。シェリー嬢。私は正教会枢機卿、カイバーと申す」
「こんにちわ。カイバー様。シェリーと申します。正教会の枢機卿様が私のような者に何の御用でしょうか?」
「おぉ、12歳にして受け答えもしっかりとしている。さすがは、女神様に選ばれし者と言ったところか」
「どういうことでしょうか?」
「あぁ、失礼。シェリー嬢、貴女は女神様に「聖女」として認定されました」
「私が、「聖女」」
「はい、「聖女」とは人々を癒し、「勇者」様と共に悪しき者を討つ存在です」
「私が、人々を癒して勇者様と悪を」
面倒なことになった。
ここでレイから「念話」が入った。
どうやらレイも「勇者」に認定されたらしい。
これが世界の強制力なのだろうか?
まぁ今はどうでもいい。
既にレイと私の考えは出ている。
「シェリー、俺は田舎の宿屋だ。今までお前に大したことは出来てねぇ。だけど、俺はお前の幸せを願っている。お前は俺よりも賢い。そんな才能をこんな田舎で潰すのはもったいないと思っているし、出来れば人を助ける立派な仕事をしてほしいとも思っている。だがな、それは俺が思っているだけだ。お前の幸せは決して俺が決めるもんじゃない。だから好きにしろシェリー。どんな判断をしても俺は何も言わねぇ」
この人は本当に立派な父親だ。
私が聖女になればきっと一生働かず遊んで暮らせるほどの富が手に入るだろう。
だけどこの人はそんなことを考えずに、心から私の幸せを願っている。
この人は娘を大事にしているのだ。
実は私はもう家族というものすら酷く曖昧なものになっている。
幾度も人生を重ねて、様々な経験をした。
そのどの人生でも、この人は私の幸せを願ってくれていたのだろう。
だけど私はその思いを忘れてしまった。
人生に絶望した私は人に関心を持てなくなった。
家族でさえも。
だけど、なぜかレイは違う。
レイは私が関心を持てる唯一の人間。
これは恋愛ではない。
だけど大切に思う。
ある種家族愛に近いものだ。
父は私を愛しているが、私は父を愛せない、興味を持てない。
そして私は興味のない人間のために行動するほど優しくはない。
「お断りします」
私は「聖女」になることを明確に拒んだ。
「へ?」
枢機卿様は随分と驚いている。
断るとは思っていなかったらしい。
確かに田舎にある宿屋の娘から大陸一の宗教の聖女。
栄転であり大出世だ。
きっと受けるのが普通。
だけど私は正教会が嫌いだし、そもそも人のために行動するなんて反吐が出る。
「聖女」になることによって不随するメリットは私にはメリットとなりえない。
レイは私とよく似ている。
努力や正義が嫌いで、究極的な自己中心的思考を持っている。
だけど私達はそれでいいと思っている。
私とレイが二人でゆっくり過ごす分にはそれで全く問題ない。
似ているということは相手のことが理解しやすいということ。
そして、相手を理解できるならば生活にとって自己中心的な思考は問題にならない。
だから私は自分を変えるつもりはない。
それはレイも同じ。
そんな私達が人のために尽くす「聖女」や「勇者」なんかを望むわけないのだ。
「話は終わったな。お引き取り願おう」
父が枢機卿様に言い放つ。
「お待ちなさい。今、大陸各地で強力な魔物が出ているのです。苦しんでいる人がいるのです。それに対処するためには貴女の助けが必要なのです」
「そうであったとしても、私は顔も知らない誰かのために動く気はないので」
「そ、そうだ。モノルワ殿、貴女はモノルワ殿と仲が良いのでしたね。彼は女神様から「勇者」に認定されたのです。貴女が「聖女」にならないのでしたら、離ればなれになってしまいますよ。それでよいのですか?」
「モノルワが勇者?」
一応とぼけておく。
知ってはいるが、ここで相手に違和感を与えさせると面倒だ。
「そうです。モノルワ殿は「勇者」になられるのです。モノルワ殿もきっと貴女が「聖女」になることを望まれていますよ」
「ふ、ふふふ、あはははは。それ、何の冗談?」
「じょ、冗談ではございません」
「いやいや、何でモノルワが勇者になる前提なの?」
「はい?それは、女神様に認定されたからですが?」
「そうじゃなくて、モノルワが私みたいに拒否するとは考えなかったの?」
「確かに貴女は何故かは知りませんが、「聖女」を断られましたが「勇者」も「聖女」もとても名誉なことなのですよ。受けないわけがないでしょう」
「あはは、これは傑作ね。いいことを教えてあげるわ。私とモノルワはとても良く似ているの」
「急に何を?」
「貴方の言葉をモノルワが聞いたら間違いなく、こういうわ」
私は笑う。
これだけ面白い話はない。
まさか、名誉だから拒むはずがないと思っているだなんて。
「名誉で腹は膨れないの。私もモノルワも人々の平和にも名誉にも全く興味がないの」
私はそう言い放った。
これは純然たる事実だ。
「もういいだろう。お引き取り願う」
そう言って父が強引に部屋から枢機卿様を連れ出していった。
「にしても、世界の強制力とは。厄介なものね」
私は思わずそう呟くのだった。
レイ視点
枢機卿様は日を改めると言って出ていった。
「モノルワ、本当によかったのか?「勇者」なんて誰でもなれるものじゃないんだぞ」
父親はやっぱり俺に勇者になってほしいらしい。
こいつ、本当に貴族なのか?
こんなに分かりやすい奴が当主とは。
腹の探り合いが必須な貴族社会でそれが出来ないとは致命的。
リーヒット男爵家が貧乏なのもよく分かるな。
「父上。大切なお話があります」
「何だ?」
「予定より早いですが、私は家を出ます」
「は?」
父は俺の突然の言葉に呆ける。
「今までお世話になりました。失礼します」
「待て、待ってくれ。どういうことだ?何故突然家を出るなど」
父親は引き留めようとしているが、面倒だな。
俺は無視して応接間から出ていった。
さっさと部屋に戻り、誰もいないのを確認して最低限の荷物を「ストレージ」にぶち込み、俺は一旦秘密基地に「テレポート」で転移した。
そこには当たり前のようにシェリーがいた。
シェリー視点
時は少しだけ遡り
父は枢機卿を宿から追い出したら戻ってきた。
「お父さん、大事な話がある」
「どうしたんだ?やっぱり「聖女」になりたかったのか?」
私は首を横に振る。
「それじゃあなんだ?」
「私、家を出る」
「シェリー」
父親が寂しそうな顔をする。
「理由を、聞いてもいいか?」
「本当は成人してから家を出て冒険者にでもなって世界を旅するつもりだったの。でも、今回のことで正教会がうちにちょっかいを出してくるかもしれない。父さんたちに迷惑をかけたいとは思わない」
「子供がそんなことを気にしないでいい。子供は親に迷惑をかけて当たり前だ。確かに今までお前は俺達に迷惑を掛けないようにしてきた。だけど、俺達は親だ。子供の迷惑くらい受け入れなくて何が親か」
「父さんも母さんも優しい人だと思う。感謝してる。だからこそ、私は家を出る。元々外の世界に興味はあった。でも、成人してからの方が色々と都合がいいと思った。けど、今回のことを考えたらさっさと家を出たくなった。お父さんたちが嫌いなわけじゃないけど、もっと世界を見たくなった。私は人のために動くということが出来ない。だけどそれはきっと出来るようになるべきものだと私は思うから。外に出てたくさんの人と出会って学びたい」
「そうか」
父は力なく私の肩に手を置いた。
「シェリー、さっきも言ったがお前は俺よりも賢い。だからいっぱいいっぱい考えて決めたんだろう。俺は親は子供の決断を尊重すべきだと思っている。普通なら12歳で家を出るなんて早いと言うべきなんだろううが、きっとお前ならうまくやれると俺は確信している。だからこれだけは言わせてくれ。お前は俺の子供だ。この宿はお前の家だ。いつでも帰ってきてくれ」
「うん、わかった。ありがとう」
私は「テレポート」を発動する。
本当は隠すべきだけど、これだけ私のことを愛してくれている親に隠し事をするのは嫌だった。
私はいつもの秘密基地に転移する。
父はあの宿を私の家だと言っていたけど、正直私はレイと二人で作ったこの秘密基地の方が安心する。
そこで私が少し、もの思いに耽っているとレイが転移してきた。
きっとレイも家を出てきたのだろう。
何だか、色々と考えていたがレイの顔を見ると、なんだからとても落ち着けた。
レイ視点
「シェリー、そっちも大変だったようだな」
「えぇ、そっちもね。これが世界の強制力って奴なのかしら?」
「そうとしか考えられないな。少なくとも小説で神託なんてものはなかった」
「私も長い間生きてるけど、神託なんてものを聞いたのは今日が初めてよ。まぁ今回の人生がイレギュラーすぎるから何とも言えないけど」
全く、厄介なものだ。
「あ、そうだ。シェリー今日からしばらくはここで生活するからいくつか家具を追加で創ってくれないか?」
「え?レイも家を出てきたの?」
「シェリーもか?」
「うん、親に迷惑をかけたくはないし。さすがに正教会を相手するのは面倒だから」
「そうか。俺としては正教会への対応が面倒なのと父親が俺に勇者になってほしそうだからな。金目当てで」
俺は元々今世の家族に思い入れはない。
俺はモノルワ・リーヒットに生まれ変わったが正直モノルワの家族を家族とは思えなかった。
なので、家を出る判断も容易にできた。
今の実力があれば、一人でこの秘密基地に引きこもって生活できる。
ここは森の奥なので、人も滅多にこないし木の実もあるし動物もいる。
食料にはこまらない。
風呂とも魔法でどうにでもなる。
今の俺は既に一人で生活できるのだ。
「とりあえず、それじゃあしばらくは2人暮らしね。とりあえず家具創るわ」
「頼む」
そしてシェリーは手際よく「創造」で家具を創ってくれる。
さすがにここに住むつもりはしばらくなかったから、椅子や机くらいしかなかったのだ。
だけどここに住むならそうはいかない。
ベッドとか棚とかを創ってもらう。
「部屋は、二部屋あるし。問題ないわね。レイはどっちの部屋がいい?」
「間取りほとんど変わらんし、こっちもらう」
「なら私はこっち」
元々こういったことも想定して、部屋は二部屋創ってある。
部屋もさっさと決めて入る。
定期的に魔法で掃除しているので綺麗だ。
俺は「ストレージ」から私物を取り出す。
リーヒット男爵家にある俺のものは全て持ってきた。
といっても大した量もなく、すぐに終わった。
部屋を出てリビングに行くと、シェリーがソファに座って紅茶を飲んでいた。
「これからどうする?家も出たし」
「とりあえず、ここでのんびり過ごせば大丈夫でしょ。さすがの正教会も「勇者」と「聖女」が家を出てこんな森の奥深くに住んでるとは思わないでしょ」
「それはそうだが、神託という不確定要素がある以上くる可能性もある」
そう、神託がどんなものかは分からないが俺のイメージは神からの言葉だ。
神ならば、俺達の居場所なんぞ一瞬で把握できるだろう。
「神託、本当に何なのかしらね?」
「さぁ、ただ厄介なものであるのは間違いない」
「いっそ魔境に引っ越す?今の私達なら魔境のちょっと深めのところになら住めるし。魔境に住めばいくら神託で場所が分かってもこれないでしょ」
「それいいな」
自然にいる魔物が正教会の者等の行く手を阻んでくれるわけだ。
俺達には転移魔法があるし、利便性とかはそこまでここと変わらない。
ただ……
「1つ問題がある」
「というと?」
「魔境には恐らくシンとミコ《ヒロイン》が住んでいるはずだ。むやみな接触はさけたい。俺達とシン達の肉体年齢は同い年だから、シン達は今12歳。そしてシンは12歳の身体で転生し、魔境の中に降り立って、そこから約1年。魔境にヒロインと二人で住む。このことから恐らくそろそろシン達が魔境住み始める。魔境に住めばいつかシン達の索敵範囲に入ることは避けれない」
「確かに。でも、私一つ疑問に思っていることがあるの」
「疑問?」
「そう。この世界、魔王に関する情報が一切ないの」
それは俺も思っていたことである。
この世界には魔王、つまり主人公たちに関する情報が一切残されていない。
貴族としての授業で習った歴史は確かに俺が創ったものだったが、魔王に関するものだけが抜けていた。
また魔王についての伝説は知らぬものはいないほどの有名な御伽噺という設定なのに俺は転生して6年。
一切聞かなかった。
そして、魔王城の位置についての描写がされていた場所には魔王城なんてなくただの野原だった。
この世界は俺が創った物語が基本なのに、なぜかその最も重要たる要素。
魔王がまるっきりなくなっていたのだ。
魔王城については描写も曖昧で少ないため、見つけられていないものだと思っていた。
御伽噺についても、俺もシェリーも今世ではお互い以外には最低限しか人と関わってこなかったから効かなかっただけかと思っていた。
御伽噺なんて頻繁に聞く者じゃないし。
貴族としての授業も、魔王にいては正教会がある程度の情報操作を行っているから貴族の子息にはあまり詳しく教えられないのかなと思っていた。
今まではそういった偶然で魔王についての情報を聞かなかったと思っていた。
だけど、それに偶然では説明がつかない事態が起きた。
先ほどの枢機卿である。
俺は魔法で枢機卿の心を読んだ。
あの魔法は相手の考えていること以外にもある程度なら現状の思考に関係する記憶を読み取れる。
だが枢機卿の中にも魔王についての情報がなかった。
正教会で勇者と言えば魔王を殺すための人類の希望だ。
なのに神託で勇者であるとされている俺と相対しているにも関わらず、魔王についての情報が一切読み取れなかった。
「実は前に気になって歴史書とかを調べたの。それも一冊や二冊じゃなくて百冊単位。だけど魔王なんてものは一切載っていなかったの。今までの人生でこんなことは初めて。今までの人生で魔王についての話を一回も聞かなかったことなんてない。それくらいこの世界で魔王については有名なの。偶然で済ませれる話じゃない」
シェリーは合計すれば物凄い時間をこの世界で歩んでいる。
そして前の人生では間違いなく、魔王についての歴史があった。
にも拘わらず今回の人生では魔王について一回も聞いていない。
この世界は確かに俺が描いた物語の世界と酷似している。
ただ明確に違う点がある。
この世界は物語ではなく現実なのだ。
「どんなものにでも例外は存在する、ってことか」
俺は思わず力が抜けて座っていたソファにもたれこむ。
「なぁ、シェリー」
「何かしら?」
「お前って前の人生でシン達と出会ってこの世界に来たんだよな」
「えぇ、そうよ」
「その時、シン達って何か言っていたか?」
「そういえば、運命を破壊するって言ってた」
「はぁ、そういうことか」
その時、俺の中に一つの仮説が立った。
所詮仮説は仮説だが、妙にこれだという感じがする。
「大前提。これは完全なる俺の仮説だ。そう思って聞いてくれ」
俺の言葉にシェリーは頷く。
「この世界は確かに元々は俺がかいた物語の世界だったんだ。で、物語のキャラクターってのは最新話時点までの運命は既に決まっている。モノルワが死ぬのは俺が最後に投稿した最新話よりも100話以上前。モノルワは必ず死ぬ、そういう運命だった。だけど何事にも例外はあるものでシェリーはなぜかその物語という運命から外れていた。そんなシェリーだからこそモノルワの運命を、行動を変えられたのだろう。だけど、モノルワの行動を変えることは出来ても完全に運命を変えることは出来ず、結果的にモノルワは運命通り死亡する。それで終わりならよかったが、運命に縛られないという例外的な存在が世界に認められなかったのかシェリーはモノルワの運命に組み込まれた。これによって巻き戻りが起こった。だけど、組み込まれたもののシェリーの性質はやはり例外でシン達と出会った。シンとミコは何かしらの力によってシェリーが運命から外れ、なぜか他人の運命に組み込まれていると理解し、主人公とヒロインが魔王とその配下たる力を使ってシェリーをモノルワに縛られた運命から解放した。そんで物語という運命が存在しないこの世界に飛ばされた。んで今に至るってところか」
「仮説にしては随分と複雑ね」
「純粋に俺ならそんな風に設定づけるなって思っただけ。この世界が俺の発想によって創られているなら俺らしい設定なのかもと思って」
「なるほどね。にしても何で私は運命から外れたのかしら?」
「分からんが、考えられるとしたら俺が中途半端に設定決めて没にしたから。くらいしか」
「モノルワの運命に組み込まれたのは?」
「シェリーと関係のある、小説に出てくるキャラクター。所謂ネームドキャラクターがモノルワしかいなかったからじゃないか?」
「無茶苦茶な理論、理由だけど貴方が言うとありそうね」
「そりゃこの世界の作者だからな。無茶苦茶理論なんてこの世界には溢れてる」
「貴方が転生してきたのも関係があると思う?」
「可能性があるとすれば、シェリーがこの世界に飛んできたことで他の世界やらに影響が及んだとか?そう考えれば万年筆とかダンジョンボスの件とかも納得できる」
所謂バグだ。
予想外の事態が起こったことによる世界の不具合。
それが異常なダンジョンボスや俺の転生。
と考えられる。
何なら主人公達がいないことすらこのバグの影響かもしれない。
「まぁ結論から言えば、この世界は物語の世界と似て非なる世界であり、俺の小説知識は当てにならない。この世界には多分魔王軍なんて存在しないってことかな」
「はぁ、なんか。一気に疲れたわ」
「まぁこの仮説があっているなら、シェリーはもう巻き戻されないんと思うぜ。勇者や聖女の話も世界の強制力じゃなくて、大方この世界には魔王の存在がないから正教会の神が生きていて、この世界で最も強い俺達を勇者や聖女に選んだってところじゃないか?」
「それなら安心ね。私達は余生をこの森でダラダラ過ごせばいいってことが分かったわ」
「そうだな。何かあっても今の俺達ならどうにかなるだろ。それに仮説だろうと、そういう風に考えておくことで気持ちも楽になるさ」
「確かに。それなら私は巻き戻りに勝ったって思っておくわ」
「あぁ、そうしとけ」
「それじゃあご飯にしましょうか」
「あぁ」
それから、俺とシェリーはひたすらにやりたいことをして過ごした。
大好きだったラノベもアニメもWEB小説もない世界だが、問題ない。
この世界は、こんなにも楽しいのだから。
誤字脱字等ございましたらお気軽にご連絡ください。
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こちらもお願いします。
作品についての疑問やご質問、ご指摘も受け付けておりますので感想などを貰えると嬉しいです。
この作品の本編:転生したら平和に暮らそうと思っていたのに最強の能力を手に入れてしまった! ~転生した少年がチート能力で完全無双~
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上記作品番外編
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