第一話 『季節外れ』
この小説はフィクションです。
実際の人物や団体などとは関係ありません。
ガタンゴトン ガタンゴトン
私は今、友達の葵と旅行に来ている。
友達と初めての旅行で少し不安もあるが楽しみの方が勝っている。
「ねぇねぇ!澄玲!あれ見てよ!めちゃくちゃ綺麗じゃない!?」
「ん〜?わぁ…!綺麗…!」
電車の窓を見るとそこにはまるで宝石のように輝いている海が広がっていた。
「あの海で泳いでみたいなぁ〜」
「確かに(笑)こんな暑さだと特にね(笑)」
「ほんとっ!ニュースだと定期的に水分補給って言ってたしね〜」
「旅行中は水分切らさないように気をつけないとね」
普段乗っている電車とは違い、旅行で乗る電車は特別感があって少し浮かれてしまう。
普段よりも葵のテンションが高いことが見ているだけで伝わってくるが私も人のことが言えないぐらいテンションが上がっている。
「あ!今日、目的地に着く頃にはお昼だけど何か食べたいものとかある?」
「う〜ん、私は特にないかな。強いていうなら、ご当地名物ぐらいかなぁ…葵は何か食べたいものあるの?」
「私?そうだなぁ…そうめん食べたい!」
「そうめんいいね!ちょっと良さそうなところ探してみるね!」
「ありがとう!」
会話を終えると葵はまた電車の外を見始めた。
葵の目はまるで子供のようにキラキラとした目をしていて、見ているこっちが幸せになる。
とその時だった。葵の表情が笑顔から戸惑いへと変化した。
「ね、ねぇ…澄玲…おかしなこと聞くけど…今って夏…だよね…?」
「何言ってんの(笑)そうだよ(笑)」
「じゃ、じゃあ…ちょっとあれ見て…」
「…え?」
葵が指を指す方へ私は目を向けた。
目を向けた先には海の方向を見て、浜辺で立っている男の子が1人いた。
私たちが不思議に思ったのは男の子の服装だ。
男の子が着ている服は誰がどう見ても冬服だとわかるものだった。
「いや…えっ?…なんで冬服…?」
「あの子、今の外の暑さわかってるの…?」
男の子を見て話していると急に寒気がした。
「も、もしかしたら寒がりなのかもよ…!」
「そ、そうだよね…寒がりなんだよね…」
私達はそう言い聞かせた。
あれには関わってはいけないと直感で感じた。
私たちは記憶からすぐ消そうと必死に言い聞かせた。
「は、話の話題変えようか!」
「そ、そうだね…あ、葵はどこ行きたいとかあるの…?」
「うーん…でもお花畑とか行ったみたいな!」
「お花畑いいね!夏にしか咲かない花を見に行こっか!」
「う、うん!」
「そ、そうだ!私ネットで服注文したんだ!」
「ど、どんな服注文したの〜?」
話の話題を変えたとしてもあの子の姿が記憶から消えようとしない。どんなに記憶から消そうとも、あの光景に取り憑かれてしまったかのように脳内で再生される。
目的地に着くまで、そんなに時間はかからないはずだったが私達はその時間がとても長く感じた。
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