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今は俺の事などどうでも良い

 姫様の叫びと共に、部屋全体が炸裂した。

 オーソドックスな魔法だなと思いつつも、体の方は危機回避で背後に逃げようとしている。

 ただ眼前に広がる火球。これはダメだ、部屋よりも範囲が広い。


 自分の勢いで背後から壁に叩きつけられると、その勢いで胸に刺さっていた槍のような骨が弾かれるように飛んでいった。

 返しとかが付いていなくて本当に良かったよ。

 ただその槍のような物は、火球に飲まれて消えた。

 さてどうするか……と思った所で、目の前の炎を姫様の斧が斬り裂いた。

 かなり強力な炎だったが、まるで渦を巻くように斬られたところから消えていく。

 正直助かった。死ぬかと思ったよ。


「ご無事ですか?」


「ああ、俺は問題ない。そんなことより助かった――」


 続きを言いたかったのだが、


「良かった……良かった……」


 泣かれてしまうと余計な事は言えなくなってしまうな。


「俺の方は大丈夫だ。今は集中だぞ」


「は、はい!」


 出血はまだあるが、大した量じゃない。

 それに何より、意外な事に最初に動いていたのはフェンケだった。

 無事な方の王座で身を隠した後、すぐに飛び出た様だ。

 そういえば、こいつが一番魔法に精通しているんだよな。

 ただ力不足だ。相手の方が早い。

 急に伸びた右腕と指の振り下ろしを、モーニングスターの柄で受ける。

 勢いで柄は少し曲がり、それでも勢いは収まらずグイグイ押されて膝をつく。


 こいつは驚いた。

 練習では、柄で受けてからぐるりと回転させて反撃して来た。

 当然、今目の前にいる奴相手に出来る芸当ではない。

 だが受けるところまではやり切った。普通なら、今頃あの伸びた指でズタズタになっていただろうよ。

 それでも劣勢だが、あれでも大手柄だ。


 フェンケが抑えている間に、頭上に飛んだ姫様の斧が振り下ろされる。

 奇襲とはならなかったが、こちらは受けようとした左手ごと肩まで真っ二つに斬り裂かれた。

 どうやら防御魔法は切れているようだが、何というか、この成長は嬉しい。

 さて、ここでしっかり働かないと、教えた立場が無いというものだろう。


 既に枝のような骨で再生を始めた奴の目の前まで、こちらも一気に移動する。

 音も気配も消しておいたが……さすがに気が付くか。目が無いのに……と思ったが、小脇に抱えっぱなしの首が見ているのかもしれないな。

 こちらにはフェンケを攻撃していた右手が横薙ぎに襲い来るが――、


「魔法が無ければ、力を振りまわすだけの獣と同じか」


 迫りくる腕をバク転して躱すと、そのまま再び一直線に飛び掛かる。


 ――ここだな。


 迷わず脇腹の少し中よりを刺す。人間なら、特に致命傷にはならない場所だ。

 だが――、


「聞いておかねばなるま……いかに……その……け……つ……ろ……ん……」


 動かなくはなったが、こいつは欠片も信用出来ない。何せ魔物だからな。


「「クラム様!」」


 2人して駆け寄って来るが、どちらも心配そうだな。

 その分、周りの警戒を怠っている。

 ここは一つ注意しておきたいが、多分100倍くらい言い返されそうだからやめておこう。


「心臓を貫かれたように見えたので、本当に驚きました」


「何とかずれていたのですね。ガラス修理の応用ですが、少しなら傷を治せます。応急処置にしかなりませんが……」


 いや、いらねえ。そんな得体のしれない魔法で治療されたくないわ。


「その辺りは問題無い。全てが片付いたら説明しよう」


「胸を貫かれたのですよ!」


「問題無いはずが無いでしょう!」


 二人ともすごい剣幕だが、心配してくれている事は分かる。

 ただここではな。


「見ての通りだ。出血は大したことはない」


 実際、もうほとんど出血はしていない。治ったわけではないが、傷も塞がっている。


「それより、やる事がまだ残っているだろう。優先順位を常に考えるように言っただろう」


「「クラム様です!」」


 なぜそうなる。


「どう見ても重症なんですよ! 絶対安静なんです! とにかくじっとしていてください」


 いや、問題は無いのだが説明が面倒くさいな。

 後で良いか。


「分かった、無理はしない。だがこのままにもできない事は分かってくれるよな」


「分かりました。フェンケ」


 姫様はそういうと、既に半分炭になっている侯爵を目配せする。

 まあ目的の一つだ。フェンケはためらいなくそちらへ歩いて行った。モーニングスターをぶんぶんと振り回しながらね。


 そして姫様はというと、半壊した椅子の影で、犬のような姿勢で微動だにしない兄の元へと歩いて行く。

 足音にも足運びにも何の感情もこもっていないな。実に冷静だ。

 しかしここは止めるべきなんじゃないのか?

 俺がすべきではないのか?

 ただ今の俺は一番厄介な奴から意識を離せない。参ったね。


「お久しぶりです、お兄様」


「……」


 第2王子――クランツ・イングリア・クラックシェイムは何も答えない。ただ虚ろな目で姫様を見ているだけだ。

 それに何より、人間の気配を感じない。

 分かっちゃいるんだ。おそらくは姫様も。


「このような形で再開する事になるとは思いませんでしたが、こうして会えたことを嬉しく思います」


「……」


「ですが、その姿……いえ、首だけとなろうとも、王国を揺るがす要因となる事を看過することはできません」


「……」


「だから、あたしは王族としての務めを果たします。ですが1つだけ。あたしの命を奪おうとした事は恨んではおりません。どうかご安心ください」


 当然もう知っていたか。だが悪いが、優先順位が違う!




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