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さすがに粘るものだと感心するね

 周りがスローモーションに見える。

 急に緊張感が引き上がったせいだな。


 心臓に刺さっているのは、さっき切った奴の断面と似たようなものだろう。つまりは枝のような骨か。

 別に驚く事ではない。飛び道具を使う魔物は多い。

 感覚からして、背中は10センチほど飛び出しているか。胸から先は20センチくらい残っているな。

 しかし奴の体はどんな構造なのやらね。

 厚みを考えたら、これを撃ち出すのは相当大変だろうに。


 姫様は驚きの表情に変わりつつある。同時に周囲への警戒心を失い始めているな。

 武器を落とさないのは及第点だが、感情に支配されてしまうのはマイナスだ。

 そんな顔を見たら、絶対にババアが怒るぞ。


 背後にいるフェンケの様子も分かるが、こっちはもっと酷いな。

 既に泣き顔になりつつこちらに走り寄ろうとしている。しかもこっは武器をもう手放しかけているな。

 お前は姫様のメイドだ。その従者がやられたくらいでそこまで取り乱してどうするよ。


 こちらとしては、危機回避が反応しなかった事が驚いた。

 いや、少し反応しようとした感覚はあった。だが、それより早かったってだけだ。

 絶対とはそれを越えられなかったやつの言葉――本当に、ババアが言った事が沁みるね。

 年寄りの言葉は重いわ。

 ただ収穫はあった。危機回避中に失敗した時、危機回避はそこで止まる。

 生まれて初めての経験だ。知れた事は収穫だな。


 もっとも、危機回避は俺の反応より早い。

 思考にあったとしても、結果は変わらなかっただろうけどな。

 しかし2発目が来ない。インターバルが必要か?

 肩の突起も減ってはいない。あれも無関係か。

 面倒ではあるが……関係ないね。


 ”俺がやる事は変わらない”


 机を飛び越え、人型魔物の首に斬りつける。

 体術12、スキル14。俺の全力を出す。ここで様子見の必要は無い。

 おそらく人間には見えない速度。加えて人の限界を超えた威力と正確さで姫様の付けた傷を正確に斬りつける。


 一瞬だが、何かに当たったような感触。これは魔法か? だとしたら予想が当たっていた事にはなる。

 だが断定はできない。種族特性ってものがあるからな。

 それに、本当にその感覚はほんの一瞬だ。

 次の瞬間には、人型魔族の首は完全に切断され地面に転げ落ちた。

 首も骨だらけか。腕を斬った時と同じように、中は緑色でぽつぽつとした穴と白い断面が幾つもある。だが体液は一滴も出ない。元々無いのかね。

 それに――、


「おっと」


 今度は脇腹の一瞬の変化を見逃さなかった。

 完全に至近距離。それが服を突き破って出てくると同時に、返す刃で弾き飛ばす。

 先程は俺の反応より早かったからくらってしまったが、来る事を前提にしていれば受ける事は不可能ではないさ。難しいが、それが人外のスキルというものだ。

 ただ長期間の維持は難しい。体がオーバーヒートしてしまうからな。

 ただねえ――、


 斬った首の下に口が開く。


「これが人か? 違うな。お前は何と定義される者だ? ここまでの全てが人であることを否定している」


「そりゃまあ否定はしないが、お前に言われると傷つくね」


「クラム様!」


 ああ、油断はしていないよ。そんな余裕もない。

 体はまだ余裕で動く。姫様は体の方に行った。なら俺が行くべきはもう一方だよな。

 姫様の一撃は椅子ごと人型魔物を肩口から腰の下まで一直線に切り裂き、俺はさっき切断した頭に短剣を刺した。


 さて、これで死んでくれると嬉しいが、そんな奴なら災厄なんて言われちゃいない。

 切り口から伸びる無数の骨の一部が姫様を襲い、残りは切断された上半身と、俺の手元にある首を繋ごうとするかのように伸びて来る。

 今までと違い、動く枝だな。槍のようにも出来るが、やはり柔軟に動かせるようだ。

 中々にしつこいものだ。さすがだねえ。

 だが早さが無い。こっちは首を奪いに来ているのだからそんなものだと思うが、飛ばした方も遅いし弱い。

 どうやら、操るにはそれなりに手間がかかるらしい。


「姫様に! 触るなあ!」


 姫様へと向かった骨槍を、後ろから飛び込んできたフェンケのモーニングスターが一掃した。

 ちゃんと素早く拾い直してきたのはさすがだが、ついでに体まで巻き込まれた人型魔物は壁まですっ飛んでいったよ。

 椅子も砕け散ったが、姫様が半分切った後だ。構やしないだろう。


 というか、俺が動いているから2人とも少し落ち着いたか。

 3ヵ月の訓練が実を結んだと考えると嬉しいねえ。

 それと、俺に残された時間は短いと考えたか、或いは治療の為か、決着を急いだな。

 今まで一切傷つけなかった王座を迷わず切ったのも、そんな心の動きを現している。

 ここは抑えるより、押した方が良いか。


 というか、あちらさんは完全に油断していたな。フェンケの存在など、眼中になかったって事だ。

 ただその見立ては間違っちゃいない。攻撃そのものは効いていないからな。

 すっ飛んでいった上半身と下半身は既に枝のように伸びた骨で繋がっており、引き寄せられるように下半身は壁側へと引き寄せられる。

 首に伸びてきた骨は切った。こいつに頭なんて必要か? と言われると疑問はあるが、最初にあったのだ。こちらからすれば無い方が良いに決まっている。


「魔法が来ます!」


 頭をフル回転しながら今後の事を考えていたところに、姫様の緊迫した声が響く。

 いやまあ当然何か来ることは分かってはいたけどね。

 こういう時、魔力に敏感な人はいいなあ。

 俺は全く駄目でねえ。




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