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これは想定外だ

 まあそんな未来の事はどうでも良いか。

 とにかく圧巻の早業だったな。フェンケもまだ状況に思考が追い付いていない状態だ。

 取り敢えず何を殴ればいいのか分からず視線だけでこちらをチラチラ見ているが、まあ何もしなくて構わないだろう。


 一方で、俺に右腕を切断された人型の魔物は興味深そうにこちらを見ている。

 不気味だ……腕を斬ったのに、体液が一滴も出ていない。切断面はまるでヘチマのように丸い穴が見えているな。

 肌は白いのに中は鮮やかな緑。それに白い幾つもの断面――あれは骨か。

 硬さと不自然な手ごたえはあれのせいだな。

 人間と違って、体内に枝が生えているようなものか。よくあれで動くものだ。


 ただそういった事よりも、別の意味で妙な感じだ。

 だがそれを表現する言葉が無い。

 何はともあれ、一度距離を取って様子見だ。一旦テーブルの反対側へ退避だな。

 一方で侯爵はどうだろう?

 護衛は失っても高レベルの上級貴族。一人になっても戦闘体制か?

 ただ所詮は武勇伝の無い降伏貴族様だしなあ。この状態では震えて小便でも――なに?


 サリボドール侯爵は目を見開き、口からよだれを流しながら暇様を睨みつけると、


「よくもやってくれたな、小娘が! お前はただでは殺さぬ! まずそのドレスを剥いで全裸にし、3日……いや、一週間は楽しんでやる。その後は魔物どもにくれてやる。殺さぬように嬲って、嬲って、嬲って、自分は何者かもわからぬほどに壊したあとは、兄と共にペットとして飼ってやろうではないか!」


 こいつってこんな性格だったのか?

 それ以前に、状況が見えていないのか?

 ……なんてね。あの目は見覚えがあるよ。ここまで続けば偶然ではない。必然だ。

 姫様にユニークスキルがある事は予想がついていた。ただ明確に発現していなかったから確定できなかっただけだな。


 しかしこれは……恐ろしいスキルだな。侯爵が放っていた高レベルのオーラが完全に消えている。

 こいつにはもう姫様しか見えていない。彼女を求め、下種な欲求を満たす為だけに意識の全てが向けられている。

 もはや俺の姿すら見えてはいまい。


 初めて出会った時のことを考えれば、効果は範囲。

 それも本人の意思とは関わらずに発動するタイプだな。

 しかしあの森を抜けてから、こんな状況になった相手は誰一人としていない。

 なら発動条件は、姫様に対する明確な敵意。

 カモフラージュが解けた時、僅かな時間とはいえ戦士も魔法使いも同じ目をしていた。

 だとしたら、スキルも魔法も満足に使えない状態になるのか?

 ただ何というか、あいつら生きていた時間が短すぎて判断がつかねえな。


 効果範囲次第だが、このスキルは厄介――いやまてよ、知っているぞ。

 マーカシア・ラインブルゼン王国、2代目国王“不敗王”インゼナッセ・バーリント・クラックシェイム。

 最前線に立つだけで、誰もが彼を倒そうと殺到する。そこまでは当然だ。

 だが誰もが作戦も無く、ただ一直線に向かってゆく。

 その姿は、まるで亡者の群れの様。どれほどの大軍や精鋭部隊でも、またこちらが新米の兵士たちでも、そいつらを軽々と殲滅できたという。


 どの位の敵意に反応するのかは分からないが、これは国がひっくり返る可能性を秘めたスキルだ。

 少なくとも、今回の件で別に首謀者がいるとしたら、果たして彼女のスキルに絶えられるだろうか?

 そして今の状況だ。戦地の視察なんてしたら、裏切る意思を持っている奴はその場でああなる可能性がある。

 そうなりゃ殲滅しなけりゃならん。今以上の大混乱だ。

 あのババア、このユニークスキルを知っていたから姫様を俺の手元に隠しておいたんだな。


「それでクラム様、これはどういたしましょう?」


 侯爵はあのまま姫様に襲い掛かったが、まあ相手にもならない。

 下手にタックルの様に低姿勢で飛び掛かったせいで、そのまま背中を掴まれてパワーボムをくらっている。

 首は――折れていないな。あの状態でも手加減したか。まあやっちゃったら聞いてこないとは思うが、やっちゃっても構わなかったんだけどな。


「なるほど、これが人の呼ぶところの王族か。これとは違い、個性というものが極めて違う。これではまるで、別種の生物だな」


「気絶しているそっちの男と違い、お前は元気だな。人型の魔物って言うのはそういうものか?」


 既に斬った手は新しいのが生えてきている。本当にずるっと素早く出てきたな。相当な再生能力だ。


「人型の魔物――そう呼ぶか。されど、人の呼び方などどうとでも良い。あっているかも知らぬ」


 全く興味が無いという感じだな。

 姫様のユニークスキルも魔物には効かないか。

 或いは姫様のユニークスキルのランクより上のユニークスキルを持っているかだが、人型の魔物ってのはそんなのを持っているのかどうか。


「では、こちらとしても今は用件が無いのでね。ここを出て行ってくれないかな? 今は忙しくてね」


「そうか。では全ての用件が終わったらそれも思考の1つに加えよう」


 マズい、空気が歪んだ。

 魔法の事は分からないが、魔物は魔法に詠唱を必要としない。必ず何かが来る!


 既に姫様は侯爵など捨てて跳躍していた。

 刃が通る事は確認している。姫様の狙いは正確に首を打ち抜いた――が、食い込んだのは1センチ程度。

 勢いのまま首を支柱に90度回転して壁へと向かいう。


 あれはスキルの差か?

 考えられないわけじゃない。レベルの暴力は確かに強力だが、所詮は力だけの話だ。

 ただ腕を斬った時の感覚では、姫様の力が通用しないとは思わなかった。

 となると、さっきの魔法は防御かね。有り得ないわけではないが、レベル207の暴力を止められる呪文ねえ……。


 そんな事を考えながらも、もう一度テーブルを飛び越える。

 魔法の防御だろうとスキル不足だろうと、俺が斬ってみれば分かる。

 狙いは当然、姫様が付けた傷だ。


 そう決めた瞬間、俺の心臓は長い槍のような物で貫かれていた。

 白くて細い。こいつはあの骨か?

 まさか飛ばして来るとは少々意外だったな。

 見れば、奴の服の脇腹には穴が空いている。

 肩の突起物を見て、少々先入観にとらわれてしまったか。正面にこの手の攻撃は来ないとね。




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