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潜む者ども

 “王室”

 誰が名付けたというより、昔から伝統的にそう呼ばれている小部屋。


 一般に謁見の間と知られている場所は、高い所に王と王妃の玉座があり、部屋自体も広い。

 普段は大臣や将軍、議題の内容に関係のある貴族が並び、そんな中で他国や地方からの使者との面会。或いは論功行賞。場合によっては軍議なども行われる場所である。


 部屋自体も明るく調節され、立派な柱、豪華な壁画。天井にもまた美しい絵画か描かれ、床は大理石でありながら、来賓に恥をかかせないようにしっかりと滑り止めの加工がなされている。

 まさに国家の事業を行う場所であり、同時に威信を示す場所でもある。


 しかし“王室”というのは全く違う。

 奥に並んだ椅子が2つ。手前に長テーブルが1つだけの小さな部屋。

 ここは国王や王子、極一部の側近等が国家の戦略を語る場所である。

 謁見の間での受け答えなども、大抵は既にここで決められている。


 だが今ここに居るのは本来のマーカシア・ラインブルゼン王国に所属するものではない。

 正確に言うのであれば、所属はしていたのではあるが……。


「やはり2人と考えられる。両方とも、君たちの言う雌という分類であるな。1人は人を遥かに凌駕する存在。君らの言う王族というものか。もう片方も無視は出来ないレベルだと思われるが、今となっては決して少なくもない。ここまで短期間に人がこのような存在にまで変化する事は、かつては考える可能性を必要とはしなかった」


 2つある椅子の片方に座る男が淡々と語る。

 凛とした声ではあるが、発した言葉は独特だ。

 そして姿に関しては、それが人と呼べるものであるかは……。


「2人であれば王室特務隊の可能性も……いや、だがそれならなぜそこまでレベルの差が……それになぜここに? 早すぎる。まるで我らの位置を最初から知っていた様ではないか」


 もう一人の椅子に座った男。

 普段であれば自信に満ちた表情をしているであろう事は、刻みついた皴が教えてくれる。

 しかし今の姿は、服装だけが立派な初老の男に過ぎない。

 何かが彼を恐れさせている。そう見えるだろうし、確かにその通りだ。しかし――、


「ご安心ください。その為に、我らが王より派遣されているのです」


「その通り。少々予定が変わりましたが、第1にして最大の目的は果たしたのです。もう少しすれば状況は変わりましょう。あと暫しの辛抱でございます」


 椅子に座った初老の男に対し、背後から声が掛かる。

 姿は見えない。だがその言葉は力強く、そして安心させるような、確かな説得力を秘めていた。

 歴戦の強者。間違いなくそういえるだろう。だがそれでも、


「我がここを陥落せしめてから既に3月。本来であれば既に領地に戻り、軍を率い、混乱したマーカシア・ラインブルゼン王国軍相手に華々しい戦果を挙げているところだ! にも関わらずだ、一体いつまでこの様な場所に足止めをされねばならぬのだ!」


「それに関しましては、面目もございません」


「しかし外には、未だこの国の王室特務隊が網を張っています。十分な勝算なしにここを出る事は、侯爵閣下の功績に傷をつける恐れもあるかと」


 男女の声ではあるが、先ほどとは違いずっと上。天井付近からだ。

 だがやはり、姿を見ることは出来ない。

 傍から見れば、この部屋には椅子に座った2人に加えもう1人――、


「ええい、忌々しい。こちらも貴様ら14宝星(ほうせい)がいるであろうが! そもそもが……くそっ」


 忌々しいものを見る目つきで、椅子に座ったもう一人の足元にいる人間を見る。

 それが人間かどうかはともかく――、


「話は構わないが、そろそろ到着すると予測される。今はそちらに集中した方が良いのではないかね? あれだけの群れを突破して、いささかも速度を落とさず真っすぐここにくる者たちだ。君たちが言う、脅威というものではないかと考えたが違うのかね?」


「もう来るのか……何と言う事だ」


 初老の男は頭を押さえてうなだれるが、


「ご安心ください。我らは隠蔽の魔法にて潜んでおります」


「もし奴らが攻撃してきても、その時は我ら武の7宝星が抑え」


「我ら魔の7宝星が上空より隠蔽を維持したまま魔法で攻撃を行います」


「ましてやこの浮遊の外套に、魔法はもちろん矢や槍など刺突など無意味。仮に発見されてもどうにもなりますまい」


「そして我々武の7宝星の武器や鎧もまた最高級品。決して王室特務隊に遅れを取る事はございません。もし魔の7宝星に気を取られれば、その瞬間その者たちは血の海に沈みましょう」


「たった2人の侵入者など、指1本触れる事すらできません。ごゆっくり、我らの戦いを御照覧あれ」


「フム。まるで我が囮の様であるな」


「侯爵様の光が眩しければ眩しい程、他の物など目に入らぬもの。ましてや我らの隠蔽は完璧。ご安心ください、侯爵閣下には指一本触れさせることはございません」


「そうであるな。確かに相手はたったの2人だ。しかも実質は1人。長くこの部屋にいて、少々神経質になっていたようだ。君たちの戦いぶり、ゆっくり見させていただこう」


「お任せください。マーカシア・ラインブルゼンの王室特務隊にも劣らぬ力、存分にご披露いたしましょう」


「しかし気づかれる事はないのか?」


「ご安心下さい。我らの精神は常に安定しておりますれば」


「いかなる気配感知に察知される事はございません」


「話は決まったようでなによりというべきか。既に接近する人間はそこにいる。さあ、開くぞ」


「よし、全員支度せよ」




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