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専用武器があるのは驚かんが

 さて場所は決まったが、特に意味があるわけではないんだ。

 大切なのは、こうして敵がいない間に可能な限り気配を拾う。

 しかし魔物の気配は完全に無いな。

 上手(うわて)がいる可能性もあるが、バルコニー自体は完全に開いた空間だ。跳べる魔物が入ってくる可能性はあったはずだが、どのバルコニーにもそんな様子はなかった。


 それに、この周囲の空気が下とはずいぶん違う

 初めて侵入した時も異様な雰囲気が気になったが、ここは更に空気が澄んでいる気がする。

 まあ特別な区画って話だからな、結界である事は疑う余地もないか。

 そんな事をしている間に、見知った廊下にでる。


「懐かしいですか?」


「初めて会った所だな。部屋から近かったのか」


「ふふ、さすがに王宮の中とはいえ、そうそう遠くまではいきませんよ」


「……あの、1つ質問なのですが」


 ここまで静かに突いてきたフェンケがおずおずと手と上げる。もちろん走りながらだが。


「どうした?」


「ずっと聞きたかったのですが、クラム様はいつからセネニア様と知り合いだったのですか?」


「え、まだ言ってなかったのか?」


「あら? 言って良かったのですか?」


 改めてそう言われると悩む。


「もしかして、闇夜のマウスとかに関係が?」


 鋭い! とか思ったが、あの時点で知り合いだったことがばれている以上はすぐに繋がるか。まあいい――、


「闇夜のマウスはともかく、昔ここでな。あー、なんで会ったかは聞くなよ。ただの偶然だ」


「何で会ったかより、どうしてここに居たのかの方か気になりますけどね。よく王室特務隊に見つかりませんでしたね」


「あの時点からこの国は戦争していたしな。世界中を飛び回っていたんだろう」


「何人かは居ましたけどね」


「それでも完璧じゃなかったって事さ」


 俺たちの様な者を故意に見逃すわけが無い。

 もし“魔略”なんてのがいた日には、確実に死んでいたな。

 だが“絶壊不滅”のババアなら割と真面目にやり過ごせた感じはする。

 確かに強いし1度見つかったら終わりだが、今まで交流の中で探った感じでは向こうの探知より俺の隠密の方が高い。

 実際に試すのはごめんだけどな。

 本気で捜索されたらこちらの体力がもたん。スキルは無限じゃないんだ。





 こうして複雑なルートを辿って先に進む。

 さすがに魔物はいないが、別に驚く事でもない。

 さっき姫様が言った通りだ。ここは王族の為のブロック。

 多種多様な技量・魔法を使う侵入者から自分たちを守る特別な場所であり、同時に最も無防備になる場所でもある。


 迷いの森――魔法によって侵入を拒まれた森がそう呼ばれるが、ここも似たようなものだ。

 設計図自体は頭に入っているが、その通りに進んだら絶対に目的地には辿り着けない。

 もっとも、俺は結構何度も来てはいるがね。

 ただこの王宮は拡張が激しいし、俺の知識は古いからな。姫様の案内が無かったら、いつまでも彷徨っていたかもしれん。


「付きましたよ」


「へえ、ここか」


「懐かしいですね。また戻って来られるとは……」


 フェンケは感無量という感じだが、それは後にしてもらいたい。

 まあ口には出さんがね。睨まれそうだし。


 目の前にあるのは綺麗なレリーフが施された以外は普通の扉だ。

 だが姫様はレリーフの数か所に触れてから扉を開ける。

 まあこういったセキュリティがあるのは知ってはいるけどね。入り方までは知らん。

 なにせ、王族を害せよなんて馬鹿な命令は無かったからな。

 高確率でバレて町が一つ消滅する。そんな事はしないよ。


「さあ、どうぞ」


 敵の気配はない。


「ああ、お邪魔するよ」


 ベッドや本棚、テーブルに椅子。

 どれも立派な造りだが、ぬいぐるみが幾つもあるなど全体的に少し可愛らしさがある。

 そうだな……もう成人したとはいえ、ほんの少し前まで子供だったんだよな。

 なんだかすっかり忘れていたよ。

 何せ本当に子供だったのは最初だけ。大司教に裏切られて時には、もう既に内に秘めた何かが感じられた。


 ふとヘイベス王子が頭をよぎる。

 彼も一見すると凡庸だが、内側には言葉に出来ないような何かを飼っていた。

 姫様も俺の前では――いや、確かに王族らしくは無いが、世間的には破天荒とは言われる人物だ。

 やはり兄妹というか、この王族だからな。内に秘めた何かがあってもおかしくはないさ。


「あ、ありました。やっぱり部屋は荒らされていませんでしたね」


「ん? 大事なものか?」


「ええ」


 そういうと、おもむろに脱ぎ始める。

 咄嗟に両手を広げて間に入るフェンケ。

 忠臣なのはいいが、俺が見てどうこうするわけがないだろう……と思ったが、やはり見られる事自体が問題なのだろう。

 当の姫様は気にしていないようだが、一応は後ろを向いておくか。

 もっとも。気配感知で輪郭まではっきりと分かっちゃうのだがな。もう見ているのと変わらん。

 そもそも一緒に風呂に入っているのに、今更着替えがどうだというのか。

 これが世間でいう女心という奴か? 知らんが。


「はい、準備完了です」


「完了と言われてもなあ」


 どう見てもゴージャスなドレス。

 舞踏会などで着るこってりしたタイプで、ワイヤー入りの広がったロングスカートが特徴的だな。

 メインカラーは薄いピンク色。輪郭が横に広がった分、物凄く子供らしく見える。

 ただノースリーブとそこからできる細い腕。それにレースのロング手袋は、少しだけだが幼さを緩和し、大人びた雰囲気を出しているね

 頭に乗せた白銀のティアラは、金銀には無い深い光沢を放っている。

 全体的に、とても似合っていると言って差し支えは無いだろう。


 まあ正直に言えば、見るからに動きにくい代物だな。

 幾ら王族でも、普段からこんな衣装は着ていない。ましてや、今の状況にはあまりにも不釣り合いだ。

 本当なら美しさを褒めつつも、今の状況を改めて説明したいところだ。


 だがそれを言わせない空気を放っているのが、ちょこんと両手で持っているブツ。

 これは世間一般に言う処刑斧という奴だ。

 巨大で重く、実用性は皆無。だがその重さを利用した切れ味は、苦痛すら与えずに人間の首を叩き落す。


「それで姫様、それはいったい何です?」


「あら、クラム様なら既に存じていると思っていましたわ。これがあたしの専用装備です」


 ……専用装備か。これを考えた馬鹿の顔を是非見たいな。




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