素直に姫様に決めてもらおう
目の前にあるのは、なかなかに荘厳な扉だ。
まあ城の中に通じているのなら、ある意味当然か。
しかし先祖代々の墓所が王城に通じているのはなかなか珍しい作りだ。
つっても、儀式の際に王族はここを通って外に行くわけだがな。
「なんかゴチャゴチャ装飾が付いているが、鍵とかは付いていないのか?」
「はい、特殊な鍵が必要になります」
「持ってる?」
「あはは、まさか」
この状況で屈託なく笑えるのはさすがだ。
「だよねえ」
「姫様ですから」
「納得だ」
一応は希望を持って開くか試したが、うん、開かねえな。
「ではどいてください」
「そうなるよな」
元が便利屋だからな、開ける事自体は不可能ではない。
次々と追いかけて来る魔物さえいなければだけどね。うん、見るだけでうんざりするわ。
そんな中、背後で轟音が響く。
理解はしているが、やっちゃったな感は残る。主に魔物の足止め的に。
「まあいいや、とにかく行こう。フェンケは真ん中に」
「は、ハイ!」
破壊された扉を無視して中へと進む。
粗末な土壁の王墓と違い、こちらはまた随分と立派な石造り。
円形の広い部屋。いかにもここで何かやってから王墓へ行きますよという感じか。
魔光もはめ込まれているが、こちらはしっかりと魔道具といった形をしている。
明るさも段違いで、無数の水晶を埋め込んだような美しい壁が乱反射して光り輝いていた。
ただ、その光に照らされている魔物の数が妙に少ない。
普通ならこちらにもウンザリするほどの群れがいるはずなのだが。
ただ背後からは迫って来る。
ヒトデ型だのさっきの大蛇だの、他にも翼のある狼型の奴もいるな。どれもレベル屋の頃に知ったやつらばかりだ。
あんなのを相手にしていたらきりがない。
ただ上にバルコニーがあるな。しかも魔物がいない。
逆に不自然さも感じるが、ここで消耗戦をするよりはマシか。
「姫様、フェンケ、上に行くぞ」
「はい」
「はあ?」
反応は微妙に違うがどうでもいい。2人を小脇に抱えて壁を駆け上がる。
垂直だが僅かに起伏のある石造り。崩れる危険のある崖を登るよりも簡単だ。
何の苦労もなくバルコニーに到着。敵はいないし、奥にある部屋の扉は閉まっている。
それに何より扉の先に気配はない。
問題はなさそうなので二人を下ろそう。
「いきなりですまなかったな」
「い、いえ。大丈夫です」
「こちらも問題ありません。むしろ感謝しています」
どうやらこちらも大丈夫そうだ。まあ下で不毛な戦いを続けるよりずっといいしな。
しかし、構造的にここはどうなっていたかな?
王城には何度か侵入したから、それなりの知識はある。
ただスカーラリア家程度のコネで手に入る図面なんて古いからな。拡張を続けた王都の全体像は把握できていない。
しかしまあ、この辺りは分かるし――、
「姫様、ここの構造を教えてくれ」
当事者がいるのに、俺の記憶を探っても仕方あるまい。
「そうですね……下は儀式に向かうために送り出される場所ですし、同時にお父様が先代と先々代の墓所に行くための入り口でもあります」
なるほど……かつての――王族になる前の墓はひっそりとしたところにあったが、国家として建国してからの王はこちらに埋葬されているのか。
まあ“王墓”だからな、仕方がない。
ただおそらく、それだけが目的でもあるまいが――分からない事を考えても仕方がない。
「王墓の中や出口は?」
「外に出るための道はほぼ一直線で、厳重ないくつもの扉で封じられています。他にも将来の為の部屋が多数あるそうですが、それは特殊な封印がされているとか。もちろん、普通の人には入り口を見つける事も出来ません」
「……ここまでの途中にあったか?」
「そうですね……一か所ありましたが、何があるか分かりませんでしたので無視しました」
あの状況でなかなかに思い切りが良い。
まあ聞く限り、中は袋小路の可能性が高いか。
しかし大切な事は、俺にはそれを見つける事が出来なかった件か。仕掛けの発見にはそれなりに自信はあったのだがな。
初めて出会った時のことを思い出す。王権だったな……。
確かに、使い道が一つとは聞いていない。王族だけが持つ特別な権限だと思えば、むしろ何か1つだけという方が不自然か。
どうせ製作には“神知”か“魔略”、あるいは両方が関わっているだろうしな。
ただこれを今論じても仕方あるまい。どうせ姫様も知らない事だ。
外に出られる道へのルートが確認出来ただけで十分だろう。
ただ扉が全開きなのに、魔物が来ない。まるで何かを恐れているかのようだ。
「それでこちらのバルコニーは?」
「ここは儀式の際に、父上や母上、兄さま、姉さまが見送る場所です。儀式に向かうのは、当人と神官一行だけですので」
「まあ大体様子は分かった。1つ気になったのだが、下とここは繋がっているのか?」
「一応繋がってはいますが、下は神官やお客様なども入れる一般的な場所です。ただ王墓への入り口ですので、さすがにダンスホールなどには使いませんよ」
今のは姫様なりの冗談だったのだろうか?
「一方でこちらのバルコニーから先は、王族と一部の特別な来賓のみが入れる特別な区画となります」
「やはりそうか」
セキュリティを考えれば、大体の構造は何処も一緒だろう。
この辺りは結界か。下のホールは、ギリギリは入れる境界線と考えるのが妥当かね。
「幸いここに魔物はいないが、のんびりもしてられないだろう。ただここを出るとして、何処に行くべきかな?」
「あ、あたしが決めるのですか?」
「結構得意だと思ったけどな」
「ううーん、そうですね……それでは、あたしの部屋に行きましょう」
「じゃあそうするとしよう」
あまり悩まないでくれて助かった。
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