これが本当の依頼だな
プリズムポイズンワームを回収するってだけで面倒なのに、他にまだ何かあるってのか?
そういや、以前も魔国を取り戻せとか無茶言いやがったな。
国境線まで行った時点で不可能だと理解できたがね。
あれは本気でやれといったのではなく、俺の判断力を確認したかったのだろう。
「それで、これ以上は何を?」
「王都には、今は人型の魔物――これは1体か数体。正確な様子は不明だな。それとこちらが重要だが、サリボドール侯爵と――状況は分からないが第2王子のクランツ殿下がいる」
「侯爵が単独で震えているのならともかく、そうではないのだろう? 人型の魔物とセットじゃねえか」
「まあそう言うな。そのうちどれでも構わない。君に排除を頼みたい」
「たった今、実質セットだといったばかりだが? それで、その間そちらは何をしてくれるんだ?」
冗談だろうと言いたいが、こいつらはその手の話で冗談は言うまい。
何より、フル装備でと指定された時点で嫌な予感はしていたんだよ。
「すまないが、これでも忙しい身でね。便宜は図るがこちらは参加できない」
酒瓶片手に入ってきた奴のセリフとは思えねえ。
だが重要なのはそこではないか。
戦場以外でも、こいつらの戦いは続いている。こうしている今も、何処かでな。
「今の状態で、重要性の低い王都へ行くわけにはいかない。プリズムポイズンワームは確かに戦局を大きく変えるが、扱えるのは君だけだ。そしてさっきの連中を倒したところで戦局は動かない。ただどうしても状況的に無視できない事もあってな」
「それが本音か。何がどれでも構わないだ。もう1つの本当の任務は、第2王子クランツの排斥だな」
「”絶壊不滅”!」
姫様は驚いたようだが、これは必然なんだよ。
「……そうだ。これは国王陛下からの正式な依頼でもある。まあもっとも、お前にはそんな言葉は響かないだろう。だから――」
片膝を地面に下ろし、首を垂れる。
「王室特務隊、第4席。ケニー・タヴォルド・アセッシェンよりクラム・サージェス・ルーベスノア伯爵閣下に正式に依頼いたします。この案件、どうか引き受けて頂きたい」
「ズルいババアだ」
途中でポイ捨てした酒瓶が割れた音がしたのは忘れよう。
「処世術と言いたまえ」
「姫様の護衛は?」
「可能な限り手配するが、基本的には君だ」
「見事に最悪だな」
「それで大事な件を改めて確認しておくが、本当にクランツ王子を始末して良いんだな?」
「構わない。ビスターがその姿を見て動揺した時点で、これは決定していた事だ」
「了解した。その依頼、受けよう」
こうして、俺達一行はゲートを起動した。
正しくは、姫様がスタスタと食卓に向かうような足取りで石柱まで行くと、何か小声で呟いただけだ。
それだけで、周囲の状況は一変していた。
◆ ◆ ◆
周囲は赤茶色の土で出来た壁。
レンガではないな。何かを積んだような形跡がない。
触感からすると石に近い。それなりには硬いが、比較的柔らかめの石を刳り貫いた感じか。
部屋の端には来た時と同じ石柱があり地面にもサークルはあるのだが、光ってはいない。
一応数か所に松明に似せた魔光が設置されているが、これは違うよなあ。
「これは一方通行なのか?」
「いえ。追手対策で、通るべき人間が全員通ったら自動で切れるのです」
つまり最初からこの3人だけで確定か。
本当に他の援護とか期待していいのかねえ。
「それにしても動じていませんね。私が始めてゲートを使った時はかなり慌てふためきましたが」
そうか、フェンケはあの時入院していたからな。
正直、動じるとか慌てるとかって感覚はまだよく分からないんだよ。
真似なら出来るがね。
「使っている姫様が慌てていないのだから、予定通りって事だろう?」
「確かにそうですね」
まあこんな感じで良いだろう。
「それでここは?」
見たところ、石柱の反対側に登りの階段がある。ドアなどは無いな。変わった場所だ。
これを置くために作られた場所なのだろうか?
「ここは王家の墓所ですよ。あの儀式の後、ここに戻る予定だった場所です」
「ああ、あそこか」
王家の墓。ここで成人の儀式を行い、始めて姫は正式な王位継承者。王女殿下と呼ばれるようになる。
この国のしきたりだ。
ただ公式の場ではそう呼んだりするだけで、普通に姫で通じはするけどな。
その儀式は国を挙げての盛大なもので、大々的な祭りなどが行われるそうだ。
当然ながら、実際に参加した事はないがね。
「じゃあ出るとしよう――と言いたいが」
「なにか?」
「姫様のレベルを感知して、魔物が集まって来た」
「当然ですね。もう聞いていますからちゃんとわかっています」
ふふん、という顔だが、状況はそんなに甘くはない。
つまりこちらはサイレンを鳴らしながら逃げ回り、目的を達成しなければならない。
今までの様に気配を消し、影として行動する事が不可能って訳だ。持ち味を完全に殺されたな。
「それじゃ、行くとするか。姫様はまあ大丈夫だろうが、フェンケは自力で身を守るしかないぞ」
「当然、姫様を優勢して守るのは当たり前です。こちらの事は気にしないでください」
「分かった」
最初から覚悟を決めている目だ。確かに自分を守って姫様に何かあったらお互いお終いではあるが……だからといって見捨てる気は無いよ。やるだけのことはやるさ。
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