馬鹿には限度というものがないのか
藪蛇だったかもしれないが、ここに連れて来られた時点で選択権など無いのだ。覚悟を決めるしかないだろうよ。
「それで俺に何をやらせたいんだ? そっちが出来ない事を俺が出来るわけがないだろう」
「それがな、お前にしかできない事なんだよ、これは」
ここまでの話しから考えると、このゲートで本来の王都に行かせたいのだと思うが……ババアが出来ない事を俺が出来るわけがないだろう。
「というか、他の特務隊員や部下はどうなんだ? 当然、欠員が出た時の補充要因くらいは育てているだろう。しかも当然、全員がユニークスキル持ちでは?」
「その辺りは当然なのだがな。だが王室特務隊は未だ16人でね。君が考えるよりも、この地位は軽くは無いのだよ」
軽くない事くらいは知っているさ。
だからこそ、戦うとか以前に絶対に会いたくなかったんだよ。
少しは自覚を持て。化け物だというな。
「とはいえ、そんなこちらの事情はどうでもいだろう。本題に入るが、もう分かっているようだが王都へ行ってもらう」
聞くまでもない事だな。
「行ってどうなるんだ? 王室特務隊が行っても奪還は不可能なんだろう」
「確かにそうだな。我らがトップでもそれは不可能だ。どれほど強くとも、王都は個人には広すぎる。無限に戦う事が出来ても、それは本当に無限に続く無駄でしかない。さっきも言ったが、消し去る事は可能でもそれは出来ない。対外的な話だから、興味はないだろうがね」
興味はなくとも影響は分かるよ。しかしトップ……ナンバー1の“鐘の主”か。
さすがにスカーラリアの調査力では異名しか知らない。ただ分かっている事は、このババア――“絶懐不滅”ケニー・タヴォルド・アセッシェンよりも強いという事だ。
そして、更にそういった奴が2人いる。こいつはナンバー4だからな。
魔窟すぎて本当に嫌だねえ。
何が嫌って、こんなのが他の国にもいるって事だよ。
そうでなければ、戦いなどとっくに終わっている。
「それで君にやって欲しいのは、プリズムポイズンワームの回収だ」
これはさすがに想定外だった。
「記憶に間違いが無ければ、全て処分されたと聞いているが」
「それは見たのかね?」
「まさかね」
あれから王都には行っていない。確認など不可能だ。
だが俺以外に、あれを管理できる人間などいない。そんな事は、親方だって分かって……分かって?
いや、なんか不安になって来た。
「まさかとは思うのだが?」
「あの男の事は、君が一番よく知っていると思ったのだがな」
いや知っているさ。どうしようもない馬鹿だよ。
だが馬鹿は馬鹿でも馬鹿なりに……何も思いつかねえ。
「つまりはまだ生き残っているワームがいると」
「生き残りというか、大繁殖だな。おおかたアンダーロータスとの2枚看板にでもするつもりだったのだろう」
「そのアンダーロータスを譲り受ける条件がプリズムポイズンワームの処分と全ての罪を俺に擦り付ける事だったはずなのだがな」
「商売が軌道に乗れば、どうとでもなると思ったのだろう。確かに成功すれば大儲けだ」
「そこまで穴だらけの計画が成功すると思う人間なんて――」
……まあいたんだよな。
今回はサリボドール侯爵に最初から騙されていた訳だが、本気で共に商売をしようとしていたら確実に激怒。
相手の権力を考えたら、絶対に報復が来るぞ。
「そんな事でよろしく頼んだ」
「いや待て、待てって。俺はともかくなんで姫様やフェンケまで? 行くにしても、俺だけで大丈夫だろう。むしろその方が気楽だ。それにもう一つ。毒無効はユニークスキルに比べれば比較的多い。俺は自力のスキルだが、同じ系統ならユニークスキルの方が遥かに強いはずだ。そっちにはいないのか?」
「いるにはいるがな。だが以前言った事を覚えているか?」
言われた事が山盛りすぎるが、関係ありそうな記憶だけ拾っていけばいい――これだな。
『いかなるだの絶対だの、そんなのは攻略できなかった言い訳に過ぎぬ』……そうすると。
「そちらの毒無効では、プリズムポイズンワームの毒を無効化出来ないのか」
「ヘイベス王子も感心していたが、その頭のキレに恐ろしさすら感じるよ。まあそうでなければ、今頃生きてはいないのだがな。言うまでもなく正解だ。毒無効とは言っても、実際には一般的な毒が効かなかったに過ぎない。そこからさらに強力な毒を受け付けない事でよりスキルの裏付けとなるが、それでも人は結局神ではない。何処かで破綻するのだよ。今知る限り、プリズムポイズンワームの毒を無効にできる人間で、尚且つアレに慣れているのは君だけだ」
「事情は分かった。それで最初の件は?」
「魔法を全く使えない君が、どうやってゲートを起動させるのかね?」
戻って来られないって事か。
徒歩――は無理だな。
馬もダメか。沁み出た体液で死んじまう。
馬車……街道を通れば使えなくはないが、速度が遅すぎる。道中で次々とポップしたプリズムポイズンワームを落としていく事になるだろうな。俺が国にトドメを刺してどうするよ。
結局、ゲート以外に方法はない。
奴の出す体液は、結局は袋でも馬車でも通過して地面を汚染する。
普通の手段で王都を脱出する時点でもうダメか。
「理由は分かった。だがやはり姫様はダメだ。フェンケも置いていく。その間の護衛はさすがに任せるぞ。代わりにゲートを起動できる部下を何人かよこせ。俺が戻って来るまで隠れていればいい」
「無理だな。何人派遣しようと、君が戻る頃には死体になっているよ」
そんな所に姫様を連れて行かせようとするなよ。
「それに、どうしてももう一つ頼みたい事があってね」
これ以上増やしてどうしろっていうんだ。
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