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人の家の地下をなんだと思っていやがる

 それで……なんでこんな事になっちまったんだろうなあ。

 昨日は素直に現状を報告したわけだが、その結果、朝も早くから俺はいつの間にか――いや、最初から設置されていたであろう地下室に来ていた。

 しかもご丁寧に、レベル屋に行って2日間留守にすると伝えさせられたよ。

 これで素敵な予感がするとしたら、それは天界とやらに登っている時だろうな。


 因みに姫様とフェンケがしっかりと付いてきている。

 まあこれに関しては問題ないだろう。どうせ護衛は俺に任されているんだ。

 目が届かないところはどうやらババアやその相方が見ているようだが、今回はそうではないらしい。


「それで、この施設は何だ? ここで俺たちに何をしろと?」


 少し広めの部屋の床には、明るい幾重ものサークル。魔法陣の類ではないな。

 その中央に設置されているのは、石切り場から切り取って来たような美しい長方形の石柱だ。

 こちらも輪郭に沿って地上のサークルと同じような光が動いているが、違う点としてはハッキリと魔法陣が中央に刻まれている。

 因みに当然光っているな。うさんくせえ。


 一応完全武装してから来いと言われた時点でまともな予感はしていないが、武装と言っても俺はまだババアに返していないというか、言われるまで返す気もない借りっぱなしの短剣。それに毒を塗った自前の奴が数本。他には金属繊維のワイヤーだの針に布、幾つかの薬品程度。

 他が必要になったら現地調達が基本だが、ここには何もないな。


 姫様は動きやすいミニスカートのワンピース型ドレスに迷宮で手に入れた大型シミター。

 防御に関しては無いに等しいが、不意打ちでもない限りレベル200の体は鋼より硬くできる。

 そして俺がいる限り、不意打ち(それ)はさせない。まあ鎧などいらんな。


 一方でフェンケはいつものモーニングスターにメイド服。

 言うまでもなく、両方とも鉄並みに硬い強化ガラスで作られた自作の魔道具だな。

 あとは毎度のバックパックか。中身は予想がつくが、別に旅に出るわけじゃないんだぞ。


「そんなに硬くなるな。何もここでいきなり戦えなどとは言っていない」


 ”ここで”だと?

 まあ武装して来いって時点で何かある事は分かってはいるのだが。


「ここは我々特務隊や王族の方々が使うポータルでね。ゲートといった方が良いか?」


 どっちでもどうでも良いわ。

 俺は使った事が無いが、こういったものがある事は知っているよ。

 まさか俺の家の地下にあるとは思わなかったけどな!


「もう言いたい事が多すぎて何処から話せばいいのか分からんよ」


「では纏まるまでこちらが話す事にしよう」


 おい!


「王都が陥落している話は今更だろう?」


「ここが代理の王都になっているのに、知らなかったら阿呆を通り越してスペシャル阿呆だ」


「だが取り返す事は難しい」


「そこが少し気になっていてね。貴族たちや各地の商人からも話は聞いているが、全く手を出せていないそうじゃないか」


「今更だが主力は各地に点在していてね。何処も一進一退の攻防が続いている。特にベルタース王国の攻勢が顕著でな。まるでこの時を見計らっていたかのようだ」


「とぼけるなよ。見計らっていたじゃなく準備していた、だろ。馬鹿親方を騙してロータスツリーを王都に持ち込んだ。偶然と思う方がおかしい」


「確かに今更だったな。サリボドール侯爵の話はもう聞いているのだったか」


「ベルタース王国の間者。というか、元々こちらの国が占領した時に降伏した男だ。結局元鞘に収まったってだけだな。そしてロータスツリーを持ち込み、第2王子をそそのかした張本人。まあ知っているのはその程度だけどな。その時点では俺は既に奴隷だったが、なぜそのままの地位にしていたんだ? 侯爵となれば、その地位はさすがに無視できないだろうに」


「領地は大幅に没収したが、やはりその地位が問題でね。求心力を考えたら、素直に降伏した以上は爵位の降格までは出来なかったという訳だよ」


「急速に拡張した弊害ではあるか……」


 今もそうだが、攻められれば降伏し、元の主人が攻勢になれば再び寝返る。

 だからといって、攻め落とした領主をいちいち処刑などしていたら戦況の泥沼化はさらに進む。

 統治の為の戸籍作りから人心の掌握。そういった事は地元の風習なども理解していなければ務まらない。

 おいそれと首のすげ替えなどは出来ないわけだ。

 以前に姫様を襲った連中は、そういった政策に失敗した中の一部だろうしな。


「それで最初の話だが、現状では王都を奪回するだけの戦力が無い。消滅させる事は容易いが、そんな事をすればどれだけの混乱が起きるか分からん」


 表情も変えずに物騒な事を言いやがる。


「ロータスツリーは確かに色々と危険な相手だが、精鋭が行けば……というか、ババ――アンタ一人で殲滅できるんじゃないのか?」


「潜入程度なら可能だな。造作もない。ツリーだけなら確かにどうにかなるだろう。だが王都には多数のレベル屋があってな」


「聞くまでもない事だったな」


 ……一斉に解き放たれたと考えれば、小円どころじゃない大円を形成している。いったいどれほどの魔物がいるか見当もつかない。しかもどれも、超が付くほど特殊で危険な曲者ぞろいだ。

 確かに、これはどれほど強くても単独ではリポップに追い付かない。行くだけ無駄か。

 ん?


「それに、どうも王都には人型の魔物がいる。そいつがさすがに厄介でな。それに第2王子クランツの件も知っているだろう」


「あの戦闘の時以上の情報は無いな。どう調べても、生きているという情報は無かった」


「さすがに調べているか。なかなか抜け目がないな」


「ぬかせ。こっちの情報も掴んでいるだろうに」


「それは当然だがな。だが手にした権力も、財力も、自己の享楽には使っていない。来賓への対応も含め、全てをレベル屋と今の国内外の情勢を調べる事に使っている。なかなか出来る事ではあるまい。もう少し自分を誇っても良かろう。故に褒めたのだよ。もう少し肩の力を抜け」


「権力にも金にも興味がないだけだよ。それに今は無理だな。情勢が不安定すぎる。もう少し落ち着かなければ息抜きも出来ないさ」


「良い答えだ。そこで、その為の手伝いをしてもらおうと思ったのだよ」


「そろそろお客様はお帰りだ。俺達も戻ろう」


「既にお約束のやり取りだな。故に、それが通じぬ事くらい理解しているだろう?」


 ……実際に見た事はないが、悪魔ってのはこういった存在なのではないだろうか?

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