お次はフェンケの番だ
こうして何セットかやったらフェンケの番。
こちらは既に姫様付きのメイドから、姫様専属のメイド兼護衛に格上げしてある。
今までと変わらないように見えるが、ただのメイドから屋敷の護衛に指示を出せるようになったのが利点だな。
「さあ、今日こそはその頭を叩き割って上げますよぉ!」
割ってどうするんだこのアホウ。
ちなみにこいつも実際の武器だ。
もう今更感はあるが、木製のも一応は作ったんだよ。
ただ強度の関係で、振り回すと鎖部分のネジが外れてすっ飛んでいく。
まともに振れても、地面に当たるとやはり割れる。というか、重さが早さと強さに直結する武器だ。模造品ではどうにもならん。
そんな訳で鍛錬に入るが、何というか、こいつは意外と武芸の才能がある。
万が一を考えて、木製とはいえ俺が短剣を使う必要がある程度にはね。
まだ魔法戦士と言うには色々と足りないが、そろそろスキルは5に届きそうな程に成長した。
まあまだまだ負ける事はもちろん、危険はない。
それでも制限付きの戦いは案外厄介だ。それにこの武器が拍車をかけている。
先端に棘付きの鉄球を付けたモーニングスター。
その先端と柄の間は鎖で繋がっており、実戦で使われる事は無い。まあおもちゃだ。
どう振り回しても先端の動きに体が引っ張られてしまう。それ自体がまずマイナス1。隙だらけだ。
そして攻撃をすると、どうしても鎖が伸びきってしまう。
しかも槍と違って簡単には戻せない。
熟練の戦士であれば、まさに切ってくださいと言わんばかりだ。これでマイナス2。
ところがこいつは振り回し方が上手い。
アーヴィ男爵家流星鉄球術。最初に聞いた時は何かの冗談かと思ったが、実際にそういった流派の様だ。
当時はまだまだ形にすらなっていなかったが、教本を取り寄せた事は知っている。こいつなりに努力をしているわけだ。
そんな訳で、鉄球に振り回されている様でいて、常に柄の方で攻撃と防御をする形をとっている。
そして本来の弱点の鎖だが、これが切れないのが厄介だ。いや、やろうと思えば簡単なんだけどね。
ついでに棘も本体も、俺のスキルなら壊す事は出来る。
しかしやれない。このモーニングスターは、実は強化ガラス製の魔道具。
更に意外な事に、こいつは滅多にいない高速詠唱の使い手だ。しかもガラスの修復を最も得意としている。
恐ろしい事に、その高速修復呪文のせいで鎖を斬ればそのまま戻って来る。
死角からのこの棘球の攻撃はきつい。
それに加えて、針や本体を破壊してもやっぱり戻って来る。
まあそれが分かっている身としては、残念ながら――、
「はい、こちらも終わりと」
「うぐぐ」
鎖は素手で掴み、姫様の時と同様に首筋に短剣をピタリと付ける。
「動きもかなり良くなってきたな。ただ俺のように速さ重視の相手にはやはりリスキーだ」
何せ重い武器だけに動きは鈍い。
魔法で強化された魔道具だけに鉄よりは軽いけれど、重いほど強力な武器なだけに難しい所だ。
ただこのレベルなら、本来は俺のような格下などこれでも問題にはならない。
ただスキル差は絶望的だ。
ユニークスキルを発動させなくても、俺的には普通に歩いて行くだけで簡単に避けられる。
まだまだ止まっているようなものだ。
「貴方のような相手なんて普通はいませんよ」
「だからスキルの鍛錬になるのだろう。というか、そのモーニングスター、以前のとどう変わったんだ?」
「ふふふ、見たいですか?」
「いや、今度にしておこう」
「ダメです! これを見せずして今回の鍛錬は終われませんよ!」
「見せられなかった時点で、実戦では使い物にならん」
だがめげない。ドヤり顔で、
「最初は今までの技量で何処まで通じるかです。いきなり反則技などしてしまっては、勝った時の楽しみにが無いじゃありませんか」
なんだかものすごい自信だ。
毎回コテンパンにされているのを忘れているのか?
精神支配を受けている可能性はなさそうだが……。
「何を心配そうに覗き込んでいるんですか! さ、行きますよ!」
「へいへい」
フェンケの頭上でブンブンと振り回される棘付き鉄球――鉄じゃないけど。
悪いんだが、実は普通の武器であればこの時点で終わらせようと思えばできるんだよね。
あんなモノを振り回しているんだ。体にナイフを投げれば避けられずに終わる。
それにそんな事をしなくとも、鎖の支点にナイフを投げ込めば鎖は勝手に切れる。ある意味、それを前提にした強化ガラス製だ。
攻撃中ならともかく、振り回しているなら何処に飛んでいくか考えて切ればいい。真後ろとか最高だな。
慌てて高速詠唱で戻しても、俺はすぐに距離を縮めて終わりだ。
そんな事をしても鍛錬にはならないからやらないけどな。
ではまあ、お手並み拝見――っておい!
一瞬にして眼前に迫る棘付きの玉。
まて、鎖はどうした!? と思うが、こいつ自ら切りやがった――じゃないな、外れる構造にしてあったのか。
「汝――命ずる――力を――姿を――せよ。クラバ――ント――ト――デ」
ここで高速詠唱だと?
だめだ、聞き取れねえ。
何のワードが入っていたかもわからないが、考えられるのはそれ程多くなないな。
やれやれ、仕方ねえ。
球は俺の横をすっ飛んでいったが、背後に感じる急激に上がる熱量。ああ、最悪のパターンだ。人とは成長するものなのだなあ。
閃光と轟音を伴って炸裂したブツを感じながら、そんな事を思ったよ。
まあ、当然危機回避で自動的に回避したけどな。
ただこういった範囲系を全て回避するのは無理だ。自動なのは便利だが、俺より下手なんだよこの回避。
もともと高速詠唱が始まった時点で予想はしていたから、一足飛びにフェンケには近づいている。
ただ背中に細かな破片を何発かは当たっちまった。
あの状態で本人に当たっていないという事は、結構考えて作ったものだ。
あいつのドヤ顔が――って、ちょいまて!
「汝――配する我――る。――る姿を――びあ――形へと――ル・ザ――ト・――マジア――デ」
幸い危機回避は切れている。再度発動は出来るが、再生するために後ろから集まって来る破片を全部を回避するほど万能じゃない。
――しゃーない。
短剣を投げると同時に、フェンケに向けて一直線に進む。
「ぐひゃっ!」
ごんと頭に短剣が当たり、あまり淑女が出してはいけない声を上げる。
破片の方が早いが、元々距離は縮めてあったからな。
ささっと後ろに回り、背中を向けたまま頭の上にポンと手を置く。
これで勝負はついた。集まった欠片は本人には当たらない。
結合できずに中途半端な塊となってボロボロと落ちていく。
「まさかフェンケ相手に負傷するとはね。見事だ」
「だ、大丈夫ですか?」
傷なんて大したものじゃない。
もっと鼻息荒く自慢すると思ってただけに、この反応は意外すぎた。
それに追い抜いて背中を向けたのにはちゃんと意味がある。
「問題ない。破片は全てそっちに戻ったからな。それに、まだまだ俺を心配するのは早い」
「むー、精進します」
フェンケの呪文バリエーションが増えているのには驚いたが、まだまだ実戦で戦える魔法使いという訳にはいかないな。
ただ今回は皮膚に食い込む程度だったが、これでスキルが高かったらもっと深く突き刺さっていた。
達人級のスキルなら、今頃貫通した破片でズタズタだな。
案外、こいつは成長すると俺の天敵になるんじゃないか?
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