昼は昼で忙しいのだよ
軽食が終わって部下に指示をしたら、俺はそのまま家へと帰る。
レベル屋の朝は早くてね。これでもずっと働き詰めだったんだ。
それに、昼と夜は全員で食事をする事になっている。
ただ夜はまあね……それは後でいいか。
「お帰りなさいませ。お二方とも、中でお待ちです」
「ご苦労様」
メイド長のカイナ・エルブーケ・オッセンに挨拶して中に入る。
少しふくよかだが太っているという訳でない。まあ健康的な女性というレベルの範疇だろう。
軽くウエーブのかかった栗色の長髪に、愛嬌のある少し丸めの顔。
年齢は18歳と最年長で、同僚であるロッテと同じ165センチ。
余談だが、この屋敷3人の中でもっともプロポーションが良いな。
彼女もまた騎士家の娘。オッセン騎士家だな。
年齢的にも、社会的な地位はロッテと同じだろう。
それに目的も同じだと思われる。
立場的にそういった斡旋も職務なのだが、俺が誰か男性を紹介できると思うか? 首なら持ってこられるがな。それに2人の警護を考えるとなかなかそうもいかない。
悪いが良い男は自分で見つけてくれ。
「ただ今戻りました」
「お帰りなさい。今日もお疲れですね」
「お帰りなさいませ、ルーベスノア伯爵様」
帰宅して早々、姫様とフェンケが待っていた。
これももう日課だな。
姫様は本気で心配そうだが、そろそろ落ち着いてきたな。
王都陥落は大ニュースだったが、王室関係者は第2王子を除いて全員無事と分かってからはかなり安堵している。
ただ状況は予断を許さない。
周囲の予想通り、さんざん侵略された周辺3国は一斉に反攻に転じた。
当然の様に、呼応した多くの旧敵国の貴族、自治区も蜂起している。
だがそこは混乱していたとはいえ自力で勝るマーカシア・ラインブルゼン王国。
押し返すと同時に裏切っていた貴族や自治区もバタバタと雪崩を打ったように降伏。
しかしどこかで一回でも負けると、またバタバタと裏切るというなかなかにカオス。
まあ国同士なんてこんなものだ。
状況を打開するためにカーススパイダーを扱ったレベル屋の支店が欲しいとの打診が多いが、扱えるとは思えんな。
しかも寝返る可能性のある所には渡せるわけがない。
そもそも王都陥落の原因がその寝返りだからな。
一方で、フェンケは結構楽しんでやがる。今の俺の立場が面白いらしい。
あの冬の塔で、俺は一方的に略式叙勲で伯爵にされた。
正騎士、男爵、子爵に次いで高い位だが、一番の問題はこの伯爵から上級貴族となる。
男爵や子爵は結構数が多い下級貴族。フェンケの実家のように1つの地域を任される例は少なく、大抵は町一つや、その圏内の村まで含む程度の領地しかもたない。
しかし上級貴族は地域を治めるのが本来の仕事だ。当然、領地には幾つもの町が含まれ、そこを治める男爵や子爵、それにお抱えの騎士なんてのが配下となる……が、俺の領地はここだけで配下の貴族もいない。
まあお飾りというか何というか、格式が必要だったから仕方ないとはいえ、やはりこの地位は絶対に俺にあってなどいないよなあ。
はあ……早く返上したい。
こうして昼前には戻り、姫様やフェンケらと雑談。
ただ本当にただの世間話なら簡単なのだがね。実際には、国の状況や俺に来た連絡の確認。
更にはそれへのへの対応を考えてと、話すだけでもやる事が多い。
本格的な作業は夜になるが、急な仕事が入ったら今からでも行かなきゃならん。
本当に誰だよ、俺にこんなバカな仕事を押し付けたのは――まあこの国の国王か。
あまり大きな声で罵倒も出来んな。
「そろそろ昼食にしよう。一応確認しておくが、姫様たちの方は何か問題はなかったか?」
一応、王族の身に関しては王室特務隊が暗躍しているし、当分の安全は、その一人である”魔略”のエナ・ファンケス・ミネストダイエが保証している。
ただ釘も刺されていんだよな。
直接面と向かい合う場合はユニークスキルの強弱はあまり影響しないが、遠視、未来視、精神系などの特殊なタイプはスキル自体がもつ強弱が大きく影響する。
要するに、ユニークスキルのランクが低い方は、高い方には通用しないってことだ。
そして前回、”魔略”の危機に俺が介入した事は彼女にも予想外。
”神知”でも分からなかったそうで、間違いなく彼女らを上回る力をもつ意志が働いたらしい。
まあ聞いた事自体はあったが、今までは気にする立場にはなかった。
注意はするが、ユニークスキルの強弱なんて直接会っても知覚すらできはしない。おそらく無駄だろうねえ。
因みに“絶懐不滅”の凶悪ババア、ケニー・タヴォルド・アセッシェンではないらしい。
あれより上の存在ねえ……。
ただ”魔略”を助けるために動いたのだ。当面の敵ではないが、そんなものはいつひっくり返るかわからんことなんて分かってはいるさ。
「今日は姫様の元に200通ほどの手が来ますよ。それとルーベスノア伯爵様にも100通近く来ていますね」
「俺の分はお前が代わりに読んでおいてくれ」
「判断は誰が下すんです?」
「全部拒否しておいてくれていい」
「ダメに決まっているでしょうが。陛下からの手紙とかだったらどうするんです」
「そういった重要なものは、そんな他に混ざる様な雑な連絡方法なんて使わないよ」
「まあそんなものですけどねえ。あ、でもですよ、主人の手紙を見るという事は、当然それはもう家族と――」
「フェンケの頭には、いつからそんなに蜜が詰まるようになったのかしら?」
いつの間にか背後に回った姫様のコブラツイストが炸裂。
ニコニコとはしているが、骨がきしむ音がこちらまで聞こえてきそうだ。
フェンケの方は声も出せない状態か。これから食事なのだからほどほどにな。
しかし今の動き、目では追えたがかつてとは段違いだな。
レベル自体が上がったわけではないが、次第に意識がレベルに追いついてきたって所か。
「それでは、お食事のご用意ができました」
「ご苦労様」
姫様は素早く席についている一方で、フェンケの方はぐてーっとしている。
まあ食べ始めればすぐに戻るか。
あいつもアレで、もうレベルは65だからな。
これで俺との差は10レベルも上になったわけだ。
一応、俺が子供の頃なら勇者を名乗ってもいいレベルだぞ。
メイドよりもレベルの低い主人ってものどうなのよとか考えちゃったりもするが、気にする事もないか。
カーススパイダーを使ったレベル屋のシステムが機能するか、散々実験に駆り出したからな。
その位のご褒美はあってもいいだろう。
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