レベル屋の朝は早い
あれから月日は流れ春となり、レベル屋の方もいよいよ順調に動き出した。
当然俺一人で切り盛りできるわけではないから、スタッフは今のところ総勢34人。
なかなかの大所帯だが、事務以外はどうしても入れ替えが激しいね。
カーススパイダーはポップ範囲が狭い。そして限界数も決まっている。
まあレベル屋から出したら更に増えるが、さすがにそんなドジはしないさ。
1匹でも逃がしたら、この町の半数以上が死ぬだろうからな。
そういった知識が前もってあったからこそのこの施設だが、やはり管理は難しい。
小さすぎるのは飼育しなきゃならんし、でかいやつは素直に死んでくれない。均等に仕留めるだけでも一苦労だ。
落下に合わせて床の槍や高さや密度を変えたりと、案外と頭も使うんだよ。
危険な事は可能な限り自分でやるし、王都から流れて来た元レベル屋も雇いはしている。
しかしそれでも結構人死にが出るんだよ、この仕事は。
一番の問題は残った糸。細心の注意を払うように何度も指導しているのに、手足を失うまで平気で油断しやがる。
首が飛んだ奴よりはマシだけどな。
だがこれ以上の構造は考えられない。悪いが、人の命も必要経費だ。
幸い6匹で60レベルになるし、それだけあれば普通は勇者クラス。
兵士が次々とそのレベルになっていくにつれ、元村であるこの町の防備も強固になって来る。
というか、今は臨時の王都なのでね。陥落は絶対に許されない。
俺の首は当然だが、他にも誰かしらが処分を受けるだろう。
当然、姫様を狙っている奴も同じ事を考えているはずだ。
常に気は引き締めておかないとな。まあ緩めたなんてのはあの屋上の時くらい……いや、それは忘れよう。
「お茶と軽食をお持ちいたしました」
従業員の様子を見ながら確認していると、メイドのロッテ・ユニバス・アンブロンシアがやって来た。
青いストレートなロングの髪。スレンダーだが出るところは出ている体形。
目鼻立ちも整い、明らかな美人系だ。愛嬌のあるメイド長のカイナに比べると、とても静かな感じがする。
年齢は17歳で、身長は165センチとカイナと同じ。
この歳で呼び戻されていないという事は、玉の輿でも狙うか、金持ちの愛人にでもなって来いという感じか。家を考えれば、長女でもない限り妥当だな。
清楚なメイド服はあるが、王宮務めだったフェンケと違い、彼女らのスカートは極めて短い。清楚とは何だろう?
当然俺の指定ではないぞ。
下級貴族であるアンブロンシア騎士家の娘。
そのせいか、常に姿勢がしっかりとしていて、より美人に、そしてより有能に見える。
たまにフェンケがまともに見えるポンコツ具合を発揮するが、実害がなければどうでもいいさ。
実際、特に時間には正確だ。彼女が来たという事は、そろそろ9時頃だろう。
能力的にも家系的にも何一つ問題はない。ただ一番気になるのは――俺と同業者って事なんだよな。本職だった方の。
だが沁みついたような血の感覚がない。
鍛錬だけ受けたか、それとも実戦経験が浅いか……まあ女性は俺たちとは別系統の仕事が多い。実力差もはっきりしているのだし、今は気にしても仕方がないだろう。
指令が来ていないだけかもしれないが、ここまで殺気を感じた事は一度も無いしな。
それ以前に今の彼女が仕事をしても、悪いが犠牲になるのはせいぜい従業員までだ。
「お仕事の方はいかがでしょう? セネニア姫様が気にしておいででした」
「だろうな。一応毎日話はしているよ。知っているだろう?」
「ええ、給仕をしていますから」
それでもメイドが気にするほどには態度に出ているか。
ただこちらも今はというか、ずっと動くつもりはない。
人には適材適所という言葉と、与えられた任務という言葉がある。
俺に与えられた任務はこの臨時王都の守護とレベル屋の経営だ。
因みにこいつらカーススパーダ―のリポップ期間は約8時間。1匹が同個体を産み出す時間だ。
これだと無限に増えそうだが、このレベル屋の範囲だと23匹が限界。それに結構外周に落ちちゃうので無駄が多いのが問題ではある。
ただそれでも使わなければほぼ1日で5人分以上揃うが、実際にはレベル上げで常に減っているからもう少しかかるな。だが上出来だ。
1日4人を60レベルにする分なら十分に回せる。
軍隊として考えれば少ないかもしれないが、全員がそのレベルになっている必要は無い。
要所々々に、そういった指揮官や突撃兵長がいれば良いのだ。
因みに23匹というのはこいつの性質上のものでね。当然種類によって違う。
それに魔物のポップ範囲は、小円、大円に別れると言われている。
小円とはこのレベル屋の大きさほどだ。この範囲にしかポップしないし、それ故に数も計算できる。
当然、知らないうちに町をうろつく事もない。
これは先代の知恵に感謝だ。
では拡張したら? 例えばこの近くにもう1店舗とかね。
そうすると、大円という範囲になってしまう。
種類にもよるが、こいつの場合はおよそ直径5キロメートルが大円だな。
その範囲に点在してしまうと、ポップ数が爆発的に増える。
正確な数は知らんし数えようもないが、文献だとおよそ600匹となっている。
うん、手に負えんな。300匹倒しても、8時間後には300匹増えているんだぞ。どう考えても再生速度の方が早い。
それ以上離せばまた小円に戻るが、同じ町で5キロは無いわ。
やるとしたら別の町に支部を作るとかだな。
実際に、王都の魔物も結構盗まれていた。
他国にもレベル屋があるのは、そうやって色々と流出したのが大きいな。
俺がいたブラントン商会にもよく来ていたっけ。
全部プリズムポイズンワームに食わせたが。
ただ通常は、そこが限界だ。増え続けて世界を埋める事はない。
同じ種類の最も強いやつを中心に大円が決まり、他の連中はそこから出る事はない。
群れ自体が動いても数は変わらないし、大抵はその地域に適した体をしている。
だから魔物は同じ種類が同じ地域に群生し、一度根付くと駆除が難しくなるわけだ。
ただ例外が存在する。今回俺がやったような形だな。
1匹だけを、無理矢理大円から引き離す。
暫くの間は大人しいものだが、自分の周りに仲間がいない事に気が付くと、そいつを中心にポップして来る。
そこまでの期間はおよそ2週間から1ヵ月。
これが5キロメートル圏内なら今頃パニックだが、幸いそれ以上に離れている。
そんな訳で、ここには通常ではありえないカーススパイダーの小円が出来ているわけだ。
レベル屋というものが成り立つ理由だね。
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