本当に引っ越してきやがった
王城を貫いた巨大な蓮の花……というか木か。 アンダーグラウンド・ロータスツリー……対処法が思いつかないが、まあ俺の仕事じゃないだろう。
「それで王都の皆様は? お父様やお母様たちはどうなったのです?」
「ご安心ください。王城に被害が出るまで時間差がありましたし、何より王室特務隊がいます。1人を除いて脱出しました」
「それはまさか……」
「ええ、第2王子 クランツ・イングリア・クラックシェイム殿下です。ですが、何かの責任を感じてとかではありません。あの魔物の胞子は人の脳を乗っ取り、自らの支配下に置く。そうなったらもう助からない。幸いにして――というのは気に食わないでしょうが、事件に関わったクランツ殿下、それにレベル屋や周辺の市民が寄生されただけで、他の人間は逃げる事が出来ました。もっとも、人口の2割はやられましたね。それにこの話はかなりの速さで伝播するでしょう。周辺国の反攻も予想されます」
「そりゃそうだろう。なんたって首都が陥落だ。俺が周辺国でも、攻めるなら今だ。というか、これ以上の機会なんてそうは訪れないだろう」
「まさに千載一遇の好機だな。そんな訳で、生き残った王族の方々は国境近くの大都市へとバラバラに移動した。当然、防衛線を構築するためだ」
確かにこれは伝令だけで『なんとかしろ』なんて命令しても収拾がつかない。
王族自らが前線で鼓舞しないとダメだろう。
ただ気になるな……。
「1つ確認しておきたい」
「無欲だな。それで?」
「さっきの話だと、サイネルとビクターって奴は仕える主を失ったはずだ。だがそうはならなかった。それも憶測ではない。まあユニークスキルだろうが、ちゃんと確認しての結論だろうと見たね。『生きている』そう言っていたな」
「これに関しては残念ながら不確定でな。だが“千里眼”のビクターが確認したのなら、それはおそらく事実だ」
「ではクランツ兄様は――」
「理由は不明ですが、まだ生かされてはいるという所ですか。もっとも、“生きている”と”元気”だの”元のままだ”とかは別の問題であることはご承知ください。その点は今後の報告待ちになりますが、場合によっては人格自体が変わっている可能性もあります」
「魔物に取り込まれた時点でその点は覚悟しております。が、やはり生きていると聞くと希望も感じるものです」
「心中、お察しいたします。さて、それでなのだが……」
こちらを見るが聞きたくねえなあ。
「王都がこんな事になってな。しかも王族の方々は各地の町や要塞へと向かった。今やマーカシア・ラインブルゼン王国は混乱の真っただ中だ」
「そりゃあ、言われなくても分かる」
「それだけに、国民には心の支柱が必要だ。自分たちはまだ負けていないというな」
「当然だろうね。その為に王族は各地に飛んだのだろう?」
「その通りだが、状況は予断を許さない。常勝不敗となればいいが、それは夢想だ。実際には、敗北して脱出する事もあるだろう」
ここまで拡張した国だ。戦力比を考えれば、その可能性は高くはない。
だが拡大の速さに追い付いていないのは王都だけじゃない。国自体がそうだ。
だから未だに各地では戦争が続いている。結局は、100戦100勝とはいかないのが現実だよ。
しかもこう混乱した状況では、さてどこまで人を信用できるかだな。
「そんな訳で、安全な町を新王都と定める事になった」
「ふむ……妥当な判断だ」
王がいる所が王都という訳にはいかない。
何せ最前線。しかも敗走なんてしたら、王都を他国に奪われるという大失態をする羽目になる。
そうなったら、いよいよこの国も終わりだな。
「さてその条件だが、他国が侵略するには難しい位置にある事が最低条件だ」
「俺でもそうするな」
「そしてそこには王族がいて、更には欲になど動かされない忠実な家臣がいなければいけない。理由は分かるな?」
「国がこんな状況だからな。それぞれの領地を統治する貴族は日和見だろう。しかも多くは元々他国の貴族だ。状況次第では裏切るし、そこに王都があったらいきなり国家陥落だな」
「素晴らしい。ならばもう言いたい事は分かるな?」
「さっぱりわからないな。カイナ、ミニス、お客様はお帰りだ。丁重に――」
言葉を遮るように、ババアがトンと人差し指で机を叩く。
それはとても小さな音であり振動。
ただそれだけなのに、 カイナ、ミニスは石になったかのように硬直し、真っ青になって震えている。
これは込められていた意志によるものだ。『話はまだ終わっていない。余計な事はするな』というね。
お前人間やめすぎだろ。
姫様は平然としているし俺は気が付いた程度。そこまではまあ普通として、フェンケはこちらをチラチラとみている。
どうしようかと悩んでいるようだが……逆に図太くなったなあと感心してしまう。
「では本人も理解している事だし、結論から言おう。ここを臨時王都とする。だが安心するといい。我々は信賞必罰を尊ぶ。国家の窮地であっても、一度与えた土地を理不尽に奪うような真似はせぬ」
いや、要らねえ。姫様にでも与えてやってくれ。
「そんな訳で、あくまでここの領主はお前だ。そこが臨時とはいえ王都になるのだ。誉と言っていいぞ」
「俺には首輪にしか感じないがな。自由は何処へ行ったよ」
「まだ見つけていないのだろう?」
「へいへい」
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