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完全に弄ばれた感じだ

 しかし面倒な二人組が来たものだが、こいつの主人まで一緒に来ないだろうな。

 そうしたらさすがに何があっても退散するぞ。

 というか、もう退散したい。ただ今は、こいつらに礼を欠くのは好ましくない。


「さて、では我も入るとするかのう」


 いやまて――⁉


「おやおや、これはこれは」


 だからそこを踏むなって。折角お前らを見て落ち着いてきたというのに。


「ほほう。こ奴、湯舟の中にとんでもない凶器を隠し持っていたのう。しかもすでに抜き身で準備は万全ときたものじゃ」


「クケケ、そんなもので、いったい何をするつもりであったのかねえ」


「ほほう、驚いた事にこやつ、22歳ともあろうに童貞どころかまだ一度も精つ――」


「そこまでになさい。いたずらが過ぎますよ」


 姫様の一言。だがそこに込められた威厳――そう言えば良いのだろうか。

 静かな言葉。なのにほんの一瞬だが、直立しそうになった。

 まあ上に“神知”の奴が乗っているので実現しなかったがね。

 しかし普段の無邪気さからは考えられない迫力だったな。さすがは王族か。


「キシシ、叱られたねえ。まあ、ちょいと遊び過ぎた件に関しては反省いたそうや」


「そうだのう。ただセネニア姫様が選んだ男というものを見たいというのは自然の欲求じゃな。それにこれは職務でもある。許せよ」


 こいつら全く動じねえな。本当に化け物ぞろいか。

 つか――、


「選んだってのはどういうことだ? それにお前らが姫と呼ぶのなら、まだ正式に王女殿下じゃないんだな」


「クヒヒ、それはそうであろうよ」


 そう言いつつお前まで入って来るな!


「対外的には既に王女殿下じゃ。じゃが正式な儀式をしておらぬ。故に、王族の中では姫となるわけよの」


「面倒だな」


「それだけ王位継承権を得るという事には大きな意味があるという事よ。逆に言えば、関係ないものにはどうでも良い事よな。まあ細かい事は気にするでない。姫様はどんなになっても姫様よ。ヒヒヒ。しかしほほう、確かにこれは見事ではないか。クシシ」


 だから足でいじくり回すな!


「そして選んだというのはのう、お主がセネニア姫様の婿候補になったという事じゃよ」


「おいおい、そんな大事な事を本人が簡単に決めて良いのかよ。王室はそこまでゆるくないだろ」


 ちらりと姫様を見るが、微笑んではいるが動じている様子はない。

 始めて襲われていた時はともかく、それ以降は次第に感情を読めなくなってきたな。

 急速に本領を発揮してきたという感じか。


「その点に関しては、良い。が、あくまで星の数ほどいる候補の中に、セネニア姫様が1人加えたというだけの事。ヒヒ、あまり深く考えるな」


「そんなもんかね」


「別の候補などいくら増えてもどうでも良かろう。どのみち、決めるのは国王陛下なのだからのう。故に、お主が選ばれる確率はゼロじゃ」


「クヒヒヒヒヒヒヒ」


「2人ともいい加減になさいね」


 笑顔だけど青筋が浮いている。怒気というより静かな怒りだが、なんだか浴槽が水になったかのようだ。


「ふむ、ではそろそろおいとまするとするかの」


「クヒッ、細かい事は明日にでも詰めるとしよう。レベル屋に関しては協力するように言われているのだよ」


「あ、ああ。その節は頼むわ」


 こうして厄介な2人は出ていたが、なんだか疲れを癒すどころかどっと疲れた。

 見た目に反して無茶苦茶濃かったな。どことなくババアの系列に感じたぞ。


「全く、あの2人にもこまったものです」


 そう言いながらまた浴槽に入って来る姫様。

 そろそろ拷問の様相を呈して来たな。


『さて、何処まで我慢出来るかのう』


『クヒヒ、ここで首が飛ぶのもまた面白かろうよ』


「しっかり聞こえているぞ! さっさと帰れ!」






 その後は2人の話し声が遠ざかり、やがて消えた。

 聴覚強化のスキルを使うと、メイドと衛兵が挨拶をする声が聞こえたが、その後は職務に戻ったか。

 どうやらちゃんと帰った様だな。


「しかし今日はとにかく疲れたが、ちょっと気になる事があったな」


「何かありましたか?」


「坑道で倒した王室特務隊の事だ。あそこまでドライなのか?」


「んー、残念ながらあたし付きの王室特務隊はいませんし、特別な交流などもありませんでした。だから関係は分からないのです」


「まあ人前でお通夜モードは無いか。だが俺がやったことは知っているはずだ。なにか感情の動きのようなものはあるかと思ったが」


「確かにあの2人なら、事の顛末は全て知っていると思います。でもその割には、クラム様は話題に出しませんでしたね。様子を伺うのなら、話しても良かったのでは? あたしもあの2人がどう答えるかには興味はありましたが」


「さすがに『王室特務隊を一人処分しました』なんて、こちらから切り出すのはな」


「それはまあ……そうですね」


「それでだ――」


 一応気配はないし声も無い。そしてどうやら、姫様は俺をそれなりには気にいっているらしい。

 しかもここは浴室。2人とも全裸。

 姫様の好意がどの程度かは俺には分からないが、もしかしたら過ちが起こるかもしれない。

 ……そして俺は死ぬ。

 ああ、分かっているさ。この状況で俺をフリーにするわけが無いってな!

 ここは素直に事務的な話だけにしとこう。


「――あの2人に関して知っている事を教えてくれ」


「なんだ、そんな事を知りたいのか。なら私が教えてやろう」


 そう言いながらタオルを肩にかけておっさんのように入って来たのは“絶懐不滅”のババアであった。


「出ていけー!」


 というか、俺たちが出た。

 もうこんな所に居られるか!





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