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とにかく一度休むとしよう

 まあそんなこちらの思考などお構いなしに、無造作に目の前まで来ると景気よくポンポンと肩を叩く。

 更に握手。本当に気さくだねえ……敵対しなければ。


「実に会いたかったよ、クラム・サージェス・ルーベスノア子爵殿。おっと、初対面で馴れ馴れしかったですかな」


「いえいえ、ヘイベス殿下。こちらこそ先にご挨拶すべきところでございま――」


 跪き、理想的な臣下の礼を尽くそうと思っていたのだが、握手していた手を引っ張られて強制的に立たされる。

 一瞬だけ驚いて意識を持って行かれた。職業柄、この隙は致命的だ。

 狙ったのか? いや、その確率も低くはない相手だ。

 今のではっきりしたが、レベルは209。

 確か俺がレベル屋だった頃、こいつのレベルは207だったはずだ。

 そこから2も上げる?

 プリズムポイズンワームの担当は俺だけだ。そして俺がいなくなってからは、それは消えた。

 なら別のレベル屋? しかしこのレベルを2も上げるなど……自力で上げたとしたら伝説を残せるレベルだぞ。


「私にその様な態度は無用だよ。ここの領主は君なのだからね。最低限の礼で構わない」


 そしてそっと――、


「今ここにいる人間の多くは私の配下だが、それでも領主としての態度はきちんと守り給え。たとえ相手が王族とはいえ、自分の領内で第4王子などに跪いてはいけない」


 ――と耳打ちされた。


「……勉強になります」


 そうとしか言いようがないな。

 レベル差という絶対的な力の差はあるが、それ以上に自分が庶民であると感じさせられた。

 王族や貴族の真似事くらい容易く出来ると思っていたのだけどな。

 やれやれ、俺もまだまだ未熟者だって事だ。

 それとも、相手が悪かったかな?


「セネニアも元気そうで良かった。色々あった様だが、こうして無事に会えると安心するよ」


「こちらこそお久しぶりです、お兄様。それでこちらへはどのようなご用向きで? それにこのものものしさは?」


「いやあ、父上に頼まれてね。ここにレベル屋を作るという事で、その手助けをするようにという事だよ。ははははは」


 ……まだ手を離さねえ。

 そっちの趣味は無いのでそろそろ離してくれ。逃げたいけど逃げないから。


「そうでしたか。それにしても随分とタイミングよく……あ、これは愚問でしたね」


「そういう事だよ。積もる話は山ほどあるし、父上からの伝言もある。だが今日はゆっくり休むと良い。そのカーススパイダーはこちらで引き受けよう。もう保管用の施設は出来ているのでね。安心してくれ」


 いや、いくらなんでも準備が良すぎるだろう。

 だがようやく手を放してくれた。先ずはフェンケの様子も気になるが、今は姫様を家に送るのが最優先だ。





 という訳で旧村長宅へとやって来たが――いやまあ、正しくはかつて旧村長宅があった場所だ。

 そこには庭こそ質素だが、それに似つかわしくないほどの大豪邸が建っていた。

 しかも、入った時に見えた塔の一本はこの屋敷からにょっきりと生えていやがる。普通は別個に作るものだろうが。

 そして門には俺の紋章。塔にはそれが入った旗。

 ……これが恥ずかしいってやつだな。間違いない。


 庭の周囲には軍の施設が並び、ひっきりなしに衛兵が巡回している。

 何と言うか、落ち着かねえなあ。

 ただまあ、警備は必要だ。

 確かに俺は別として姫様は論外のレベル。フェンケだって、決して低くはない。並の刺客など素手で撃退できる。

 だがそれも意識が向いている時だけだ。寝ていたり、意識外からの不意打ちに関してはかなり落ちる。

 フェンケなどは、レベル10の刺客相手にも命を落としかねない。

 いやちょっと感覚がマヒしているが、10レベルの刺客なんて国によっては最強ランクではあるな。


 ただそれ以前の相手にはどっちにしろ無力か。

 王室特務隊や“それ”専門の連中。そういった連中には、並の警備では意味がない。

 つっても、ここの衛兵が全員レベル60になれば状況も変わって来るな。

 結局は、全部ここからの自分次第か。

 まだまだ仕事が終わっていない事をしっかり認識しないとねえ。


 それで思い出したが――、


「姫様、さっき王室特務隊が2人いたよな。なんかちっこいのが」


「ええ。ですが侮ってはいけませんよ」


「あの装備をしている相手を侮る馬鹿はこの世にいないか、あの世への切符を握りしめている奴だけだよ。それより、姫様のその剣に関して全く聞かれなかったな」


 普段は使っていない、秘匿の武器である可能性はもちろんあるが……。


「それなら大丈夫でしょう。おそらくですが、何があったかなどの顛末は既に知られていると思いますよ」


「それはどちらにだ」


「もちろん両方ですが、先ずは入りましょう」


「そうだな」


 とにかく疲れている事は事実だ。

 まだ余力はあるとはいえ、それはあくまで振り絞ったもの。

 まあ姫様はまだまだ余裕があるだろうが、どちらにしてもここで無駄に消費するものじゃない。

 先ずは湯船で温まって、食事をして寝よう。

 カーススパイダーは少し気になるが、連中が大丈夫と言えばそれを信じる以外に選択肢はない。

 どっちにしろ、居場所は分かっている。いざとなったら一人で捕りに行けばいいし、その時は明確な敵が1つ確定になったってこった。損はないさ。




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