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よし帰るか

 そんな訳で、木の上を枝から枝へと移動する。

 たまに爆裂や雷撃の呪文が飛んで来るが、避ける事は造作もない。

 危機回避を使うまでもない。骨だと詠唱の声が無い事は厄介だが、呪文を使う奴は足が止まる。

 急に不自然に止まる奴がいれば、それはこれから攻撃しますよと教えてくれているようなものだ。

 後はその音だけに気を付けていればいい。

 地上での乱戦ならともかく、樹上でなら聞き分けもたやすい。


「そんな訳で、こんにちはでさようならだ」


 近づくと何があるか分からないので、最後の一体もナイフを投げて倒した。

 木から重い軟体物が落ちる音がして、スケルトンたちは急速に統制を失ってゆく。

 まだ攻撃を仕掛ければ本能で反撃してくるが、基本的には無害。また森を彷徨い続けるのだろう。そんな物よりもだ――、


「お邪魔するよ」


 見えない糸の隙間を縫って、巣の内部へと侵入する。

 こいつらも高レベルだけに、油断は禁物。だがそのレベルは特殊能力に極振りだ。人間のように全体が強くなるのとは違う点だな。

 その中でも、特に小さな奴を選ぶ。

 どうせ湧いて増えるし成長もする。なら今は一番弱い個体が良い。


 そんな訳で、はいこれ。気配からして大きさは40センチほど。

 でかくなると2メートル程になって手が付けられなくなるが、逆に言えばそこまでだ。

 そのサイズであれば、十分レベル屋の施設で管理できる。


「では早速」


 叫ばれたらアウトだからな。先ずは馬乗りになって抑えながら、怨面(おんめん)口を縫い付ける。

 何といってもこれは模様なんだよな。実際に食事をするための口じゃない。

 だから猿轡とかじゃ防げない。模様の口が開く――というより、皮膚が広がらないように摘みながら縫うしかないんだよね。


 面倒だがここをしっかりやらないと全滅してしまう。

 いやまあ、姫様は大丈夫だとは思うがね。フェンケはヤバいというか、俺がまずダメだ。

 こういった知識に関しては、レベル屋にいて良かったと思うよ。

 まあ冷静に考えれば、そのせいでこんな事をやらされているのだが。





 近くまでしか照らせないのと同様、こちらからも焚火の明かりは見えない。

 まあ、自分の通ったルートと方向は常に把握している。

 星とかが見えれば楽だったが、無くてもどうにかなるものだ。

 そんな訳で――、


「今戻った」


 明かりの範囲に入ると、まるで闇の帳を急に取り払ったようになるのは面白い。


「おかえりなさい」


「やはりご無事でしたか。まあ、心配などしていませんでしたが」


「おや、ツンデレ属性でも身に着けたか?」


 無言でモーニングスターを振り回し始めた。

 マジで危ないからやめておけ。


「それよりも、その背負っているものは何です?」


 俺がワイヤーでぐるぐる巻きにした巨大蜘蛛に興味津々の様だ。

 当然だが、顔の部分は布で覆ってある。


「ああ、これな。カーススパイダーだよ。今回の収穫だ」


「ええと……かなりレアな魔物ですね。そんなものが潜んでいたのですか⁉」


 さすがは奇行の影で才女と言われる姫様だ。よく知っているな。


「それ以前に、あの暗闇で魔物(それ)を捕まえて来たのですか?」


「こいつらは巣に触るか自分が攻撃されないと大人しいからな。コッソリ入り込んで、不意打ちした」


「不意打ちしたって……」


「顔の模様が個体によって違うのでね。そこだけちょっと賭けだった。だが大体の位置は同じだし、かなり縫いまくってあるから叫びはしないだろう。というか、叫べたら俺は戻って来ていない」


「そんな危険な賭けを……」


「言っただろ。危険を冒さないとできない事もある。さて、これで今回の目的は完了だ。こいつを連れて魔国まで行く気はないし、そんな時間もない。周囲にポップ――ああ、湧くって事だが今更だな。とにかくそれまでにはしばらくかかるが、一度湧き始めると頻度が上がるからな。今はとにかく、一刻も早く帰ろう。時間との勝負だ」


「分かりました。すぐに引き払いましょう。フェンケ、最低限必要なものはここに置いていきますよ」


「そんなに危険なのですか?」


「そういやフェンケはこいつを知らないか。呪詛の怨面とも呼ばれているレアな魔物でな、背中の模様が叫ぶと周りの生き物は死ぬ。見ても死ぬ。分かりやすいだろ?」


「確かに実に分かりやすいですが、そんなのを連れて行けるのですか?」


「だから時間との勝負なんだよ。ここからはノンストップだ。例えポップしても、それまでに20メートル離れていれば危害は無い。それがこいつらの有効範囲だと覚えておけばいい。まあ叫び声は聞こえるが、範囲外ならうるさいだけだ。こいつらはあくまで“待ち”の魔物だからな。ただ直接見ると距離に関係なく死ぬ」


「思いっきり危険じゃないですか!」


「見ちゃいけないのは怨面でな。それによほど視力が良くなければ、案外はっきりとは見えないもんだ。それに直接見なきゃいいんだよ。ポップしたら音で分かるだろ」


「また無茶を……」


「とにかく、一応往復路の安全を考えてポップしたらそれは仕留める。まあ明るいところなら遠くから矢や魔法でも始末できるが、曲がり角とかに居られると厄介だからな」


「どちらもありませんよ?」


「わ、私は魔法が――」


「その魔法は忘れよう。とにかく俺の投げナイフがあるさ。巣を張る前なら、目を閉じたまま音と気配だけで対処できる」


 そんな話をしている間にも支度は完了し、俺たちは全力でこの森を後にした。

 俺の荷物は武器と捕獲したカーススパイダー。それにランタンだけ。水も食料ももういらない。

 予備の為に魔光は持って行きたかったが、アレはランタンより壊れにくいが重い。それにいつ切れるかのタイミングが分からない。パスだ。

 一応はフェンケと姫様が万が一のために水とマンティコアの燻製肉を少し持つが、やはり寝具などは全部捨て。未練もなくポイだ。


 こうしてただひたすらに走る。

 ポップの話はしたが、大体最初のポップまでは2週間から1ヶ月といわれている。

 こいつはレアだからもう少しかかるだろう――が、“だろう”なんて曖昧なものに命はかけられない。

 俺だけならそれも構わないと思うが……いや違うか、さっきまではそう思っていただな。

 今は何だかんだで、この子らと一緒に居たいという気持ちがある自分に少し驚いているよ。




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