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最初から分かっていたような様子だな

 なんだか今までの人生で一番疲れた気がする。

 ただの緊張感だけじゃないな。なんだかんだでここまで結構疲れていたらしい。

 それなり気は張っていたが、それでも飄々(ひょうひょう)としてきただけに、久々に感じた明確な死は強烈だった。だが今の状況を知れた事は良い事だと考えよう。

 それにしても、言いたい事だけ言って帰ったが、拒否できない命令でもある。

 また自由が遠のくと思いつつも、あの言葉が頭を反芻する。


 ”君が真の自由とは何かを見つけるまでの間だけ、我らに協力してくれればいいだけの話だよ”


 自由か……今もそれなりに自由な気分だが、同時に請け負った仕事中でもある。

 何から解放されたら、俺は本当の意味で自由な人間とやらになれるのだろう。


 そんな事を考えながら戻ると、メイドのフェンケが真っ赤な顔をして、プルプルと震えながら手紙を読んでいた。

 剝がれた蝋封からして王室からだろう。

 打つ手が早いというかご愁傷さまというか、何と声をかけたら良いものかだが。


「ちょっとすまないな。少し野暮用で場を離れていた。まあ罠があるから並の相手なら大丈夫だ」


 分かるように足音を立てながら近づいて話しかけたが、どうやら手紙の事が頭に一杯で気が付いていなかったようだ。

 というか、その罠をすり抜けて手紙を渡されたのだ。何と虚しい事を言ってしまった事か。


 メイドはメイドで、慌てて手紙を焚火の中に放り込む。

 大きく口を開いたが、悲鳴を上げなかったのはさすがの忠誠心。姫様はお休み中だからな。

 しかしよく躾けられているものだ。とはいえこの様子だと……。


「王室からの手紙か」


「あ、あなたが私の体をどうしようが構いません。で、ですが、こ、こ、心まで譲り渡す気は、あ、ありませんので」


 ふむ、そっち系の趣味の人に直撃しそうな名セリフだ。

 相手が相手なら朝まで……いや、昼までコースだな。

 下手にしゃべらない方が良いんじゃないか、このメイド。


「まあ気にするな。それは俺が姫様に手を出さない保険みたいなものだが、こっちからすれば男爵家のお嬢様ってだけで雲の上の存在だ。住む世界が違う。手は出さない。ちゃんと綺麗な体で返してやるさ」


「そ、そう……でも」


 焚火に照らされながら、そっと触れてくる。

 明暗がくっきりする分、一部の大きさがより強調されているな。


「服にこんな切れ目が……今までも無かったのに」


「ちょっと手加減してくれない人に会ってね。余計な事は言えないが、まああの手紙を置いて行ったのと同系統さ」


「やはりそうでしたか……取り敢えず、脱いで下さい」


「おや? 朝までコースか? いや求められるなら――」


 ぶんっ! と音を立てて、火の粉と共に燃え盛る薪が目の前を取り過ぎる。

 いや待てって、自分のレベルをよく考えろ。そんなもんが当たったら、普通の人間なら即死だぞ。


「姫様を心配させたくないだけです。すぐに縫いますから、さっさと脱いでください」


 小声だが十分に迫力がこもっている。ドスの利いた声だ。ちょっとからかいすぎたか。


「それじゃあ、お願いするわ」


 さすがに上手いもので、切れられて補修したとは思えない仕上がりだ。

 男爵家の娘とはいえ姫様付きのメイドだしな。徹底的に叩き込まれたのだろう。

 とはいえ、見た感じでは彼女はもう17歳ほど。既に適齢期だ。あのまま城に帰れば侍女から男爵家の娘に戻り、その後はどこぞの誰かと結婚だ。

 取り敢えず、いい奥さんにはなるだろうさ。

 生かしてもらえればの話だけどな。





 ■   ■   ■





「おはようございます」


「おはようございます、セネニア姫様」


「おはようございます、姫様」


 夜明けと共に全員が起きる。

 いや俺もちゃんと寝ていたよ。何かあったらすぐに起きられるけどな。


「大変申し訳ないのですが、朝食が終わったらすぐにここを離れましょう。残念ですが、まだまだ油断はできない状態ですので」


「そうですね。それでここからどこへ行くのです?」


「それなのですが、少々事情が変わりました。途中の町は出来る限り迂回して、村経由でヴィロの町に行くべきかと」


「まあ、随分と遠い所に行くのですね」


 ヴィロの町は目的地のルーベスノア村方面にある大きな町だ。

 少し怪しまれるが、もっと遠い所へ行くとなったら何と言われるか。


「それで本当の目的地はルーベスノア村ですか?」


 思わず朝食のパンを吹き出しそうになった。

 さすがに昨日は寝ていただろう?

 まああの連中が来たんだ。魔法で知らせた可能性もあり得るが、それにしたって冷静すぎるだろう。

 まるで最初からの予定調和の様だ。


「どこでそれを?」


「そうですねえ、勘といいましょうか」


 嘘だね。


「まあ嘘ですけど」


 本当に良い性格をしていらっしゃるわ。


「考えられる限り、一番安全な場所ですので。貴方が最終目的地にヴィロなどという大きな町を選ぶとは思えませんしね。その近くで安全そうな場所といったらあそこでしょう」


「それはそうですが、ルーベスノア村は土地としての危険度は最高級ではありますよ。それに別の意味でも、一番安全と思える場所は実際には一番危険とも言えます。相手も同じ事を考えますので」


「当然ですね。でも大丈夫なんです。向こうは貴方の事を知らない。それだけで一番安全になるのですよ」


「買いかぶり過ぎですよ。世の中には人知の及ばない化け物ってのが存在しますので」


 昨夜の二人のようにな。


「その時には覚悟を決めるしかないでしょう。でもどの町や領地も、誰かしらの側についています。ですが残念ながら、あたしには明確な後ろ盾はいません。だから行くとしたらそこしかないとは思っていたんです」


「つまりは、町に行って報酬を払うという約束は?」


「明確な後ろ盾はいませんが、それなりの知己はおります。ちゃんと払いますが……」


「契約は延長と」


「どのみちルーベスノア村まで一緒に行って下さるのでしょう? その時点で延長ですよ」


 無邪気に笑うお姫様とどんよりした雲を出しそうなメイド。

 ただ姫様も、心から笑っているわけじゃない。今回の事が解決しない限り、常に命を狙われ続ける事は確実だ。

 しかし誰かね。第6王女なんて、王位継承権を持たないのと一緒だ。

 そもそも結婚したら自動的に王位継承権は失われる。

 子供が彼女一人とかならさておき、あの子沢山な王室だ。姫様なんて、成人した時点でさっさと嫁に出されるだろうに。


 いや、違うか。欲しいのは心臓にあるという何か。

 だが上位の王位継承者には化け物が護衛についている。

 むしろ立場が低いから狙われたと見るべきだろうな。

 王権の発動が何たらなんぞ俺や姫様には無縁な話だろうが、欲しい奴は欲しいのだろうよ。




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