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先ずは落ち着こう

 本当なら“姫様に手を汚させるわけにはいかない”なーんて忠臣らしい事を言うのだろうが、俺は現実主義者でね。


「姫様、こっちだ!」


 持っていた人型魔族の首を放り投げる。

 同時にもう片方の手でナイフを投げ、それは第2王子クランツ・イングリア・クラックシェイムの額を貫いた。

 それは結局、何一つ感情を出す事もなく、目を見開いたまま崩れ落ちていく。


 同時に姫様はくるりと振り返ると、投げた人型魔族の頭をその勢いで真っ二つに断ち斬った。

 流石のレベルと装備だね。


「クラム様、大丈夫ですか⁉」


 姫様が駆け寄って来るが、持っていた右手の皮膚が結構溶けている。体液の類は無いものだと少々侮った。

 だがまあ――、


「表面的なものだ。少しひりつく程度だな。毒もあったが、それは俺には効かんよ」


 それよりも、フェンケの動きの方が意外だった。

 最初に侯爵の方に向かったが、既に半身が黒焦げで死んでいた。

 どうやら、人型魔族は彼にそれ程の執着は無かったらしいね。

 その割にはこうして安全な場所にかくまっていたのだから、何かはあったのかもしれん。ただ今となっては聞けないが。


 その侯爵の残っていた上半身を、フェンケは徹底的に潰していた。

 一般人が見たら血の気が引く光景だろうが、こちらも命懸けでね。

 そしてその最中、俺の叫び声に反応した訳だ。


 そこからは早かった。


「このバケモノ!」


 迷わず姫様が半分に切った顔の下半分をモーニングハンマーで滅多打ち。

 良い反応だ。感心した。しかも徐々に潰れていく。もうあれはただの残骸か。


 だがその一方で、斬られた頭の上半分は薄黄色の体液を撒き散らしながら器用に飛行して逃走中。

 しかしもはや無駄だねえ。

 あの液体は俺の腕を焼いた酸のような物だろうが、この部屋から逃げるには俺たちが入って来た扉しかない。

 俺たちの退路として開けっ放しではあるから判断は間違ってはいない。

 でも既に、天井には姫様が張り付いて待ち構えているんだよね。

 それでは、さようならだ。


 一閃と共に頭は真っ二つに断たれ、遂にそれは動きを止めた。

 周囲に立ち込めていた特有の気配も消えたな。さすがにこれで終わっただろう。

 最終的にはさほど苦にはならなかったが、それは俺の迂闊さを姫様が帳消しにしてくれたおかげだ。

 当初の力やスキルを前提に、もしこちらの最大戦力である姫様が人型の魔物と戦っていたら?

 おそらくすぐには決着がつかなかっただろう。

 当然、こちらはその間、フェンケと一緒に侯爵と7宝星の4人と戦う羽目になる。あの王室特務隊とやり合って来た連中とだ。

 勝ち目など欠片も無いな。


 今回は、色々な意味でダメすぎた。

 タイムリミットなんて過ぎても挽回は出来るが、命は取り返せない。

 改めて、暗殺者としての心得を思い出そうじゃないか――って、


「いったい何をしているんだ?」


「何とかじゃないでしょう! 安静にしていてくださいって、あたし言いましたよね!」


「今は締まっていますが、完全に貫通していましたよね。分かっているんですか? 心臓のすぐ横なんですよ? 少しでもズレていたら、確実に死んでいたんですよ! 何で動くんですか! 本当に馬鹿なんじゃないですか⁉」


「とにかく治療を」


「でもこんな傷どうやって……やっぱりガラス粉を入れてくっつけるしか」


 ヤメロ。


 なんだかんだで上半身をスポンと脱がされ、薬を塗りまくられて包帯でぐるぐる巻きにされた。

 まあ動きを阻害しない程度なら大丈夫だ。好きにやらせておこう。

 それよりもだ、一応魔物の気配はしないが――、


「なあ姫様。このエリアに魔物が入って来たら分かるか?」


「残念ながら……ですが、幾つもの警戒装置は生きていると思います。途中、今まで以上にはっきりとそれを感じました」


 成長か王権か……今度ババアにでも聞いてみるが、少なくともそれがあるなら安全だろう。

 どうせ侯爵は死んだのだ。となれば、人型の魔物が最後に他の魔物を呼び寄せる可能性もあった。

 しかしまあ、やっても無駄という事だな。


「では、後始末と確認をして次へ行こう」


「ダメに決まっているでしょう?」


「血が足りなくて判断が出来ていないのではないですか? 絶対安静ですよ! 状況理解しています?」


 フェンケは大泣きしそうな顔だが、口がどんどん悪くなるな。

 余裕がなくなっているって事なのだろうが――、


「全く問題はないさ。むしろ危機回避が効かない相手もいるって事は良い収穫だった」


「良い収穫って……」


 さすがに俺に危機感がなさ過ぎて呆れているようではあるが、


「さっきは“それ”がまだ生きている可能性があったから言わなかったが、俺の”ここ”に心臓はないよ」


 そう、正しくは心臓を貫かれたのではなく、心臓があるべきを場所だな。


「え……」


 二人とも理解できないといった顔をしているが、普通はそうだよな。


「姫様は俺の過去に関してフェンケに話したか?」


「そんな女に見えますか?」


 あ、ちょっと拗ねた。


「何ですか! 隠しごとですか!? 今更私たちの間に隠し事など不要でしょう! もうお尻のほくろまで知っている仲なのですよ!」


 そりゃあ一緒に風呂に入れば当然そういう点まで全て確認するが……フェンケの一言で今度は睨まれた。

 ちょいと黙らせないとだめだなコイツは。





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