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パートナードール  作者: SFX
6/14

四つのパターン

 月歴一〇〇年。

「パートナードールを受け取った人間て四つのパターンに分かれるらしいわよ?」

 マリーの誕生日が過ぎて数日が過ぎた頃、マリーがパートナードールの話題を切り出した。

 いつもの三人で、場所はハイスクールの教室、授業はとっくに終わっているので、三人しかいない。

「割とどうでもいいかな……」

「四つのパターン?」

 カナタは流そうとしたが、ネイトが聞き返す。

 というのも、何処かでドールについて、三人で話してみてかったからだ。

 ドールが敢えて人間に感情はないと告げてくる理由も考察したい。

「そうそう……あたしのセバスチャンが言ってたんだけどさ――」

「お前のパートナードール、セバスチャンっていうのかよ」

「別に名前なんかどうでもいいじゃない。話しを続けるわよ?

 最初に断っとくけど、これからする話は学説ではなく、科学的根拠はないから、決して本気にしないというか、血液型による性格診断程度の話と思って聞いてね?」

「ああ……」

「うん、いいよ」

「まずは、主従型。

 パートナードールは我が僕とか道具とか、そういうなんか見下す系……

 手駒の様に考えるタイプで、異性というか性的対象への支配欲求が強いというか……」

「ふ~ん、やなタイプだな……

要はハーレムとか作りたがる独裁者みたいな奴か~……」

 カナタは、他人事だと思っているが、ネイトは少しだけ不安になった。

 もし、自分そうだったらどうしようと……

 とはいえ、カナタと同様、自分もその手のタイプが嫌いではある。

「次に、達観型。

 パートナードールが来ても、特に心が動かないというか、そういう社会制度、そういう現状や一つの時代として受け入れるタイプね。

 ドールを恋愛対象として、見ることはないけど、その半面、毛嫌いもしない。何も感じないというよりは、便利なお手伝いさんと思うタイプね。

 多分、あたしはこれかな~って思っている」

「ふ~ん……

 マリーはパートナードールに無関心なのか……」

「なんでそう思うの?」

「なんかさあ、あたしはてっきり、誰もが羨むイケメン君が来ると思ったんだけど、かなり違うというか意外なのが来たんだよね。ナイスミドルの渋い人って感じの……

 なんでかな~? って思ってたんだけど、あたしがさ恋愛に興味ないというか、イケメンとデートしたいとかそういう欲求が一切ないことに気づいてさ……

 だけど、ドールのおかげで、生活が凄い楽になったしさ、それに妙に落ち着くというか……

 確かにあたしが求めているパートナーってきっとこういうのよねってしみじみ思ったのよ」

「なるほどねえ……イケメンが来ると思ってたけど来なかったのか」

 呟きながら、ちらちらとカナタがネイトの事を横目で見ている。

 当然、ネイトはそれがうざい。

「しかし、そういわれると、マリーにどういうドールがきたのか気になるよね」

 恥ずかしさを誤魔化すため、話題をマリーのドールに持っていこうとするが――

「興味あるなら今度、紹介するわよ。話を続けるわよ?

 三番目は、愛憎型。

 なんていうか、理想が高すぎるというか、ドールに本当の愛を求めてしまうタイプよ」

 うん……僕の事だな……ネイトは率直にそう思った。

 カナタはニヤついた視線を送ってくる。

「愛憎型はね~……

 色々と拗らせやすいっていうか……四つのタイプの中では一番不幸になりやすいらしいわ。

 トチ狂うとドールを捨てて、人との恋愛を求めるけど、悲しいほどモテないのもこのタイプなのよね」

 ネイトの心を抉っていることに気づかず、淡々と話を続けるマリー。

「ちなみに一番もてるのは?」

「主従型らしいわ。有能な人に限るられるけど……

 支配者って危険人物も多いけど、ある意味頼りがいがあるじゃない。あと、人を惹きつけるカリスマっていうかさ……

 んで最後は、発散型。

 なんていうか思う存分、ドールとの恋愛を楽しむタイプらしいわ。

 ドールと会話して楽しんだり、ドールを愛でて楽しんだり、ドールを他人に見せびらかしたり、バカップル化しやすいのが特徴ね。

 まあ、カナタはおそらくこのタイプなんでしょうけど……」

 なるほど……と、カナタを見ながら思う。

 その視線を感じたのか、カナタは開き直るかのように慌てて口を開く。

「別にいいじゃねえか……

 実際、エリカといて楽しいし、俺は満足だねっ!

 月政府はドールを提供し、月民がそれを楽しむ。正しい社会の在り方だろうが」

「今の話を聞いて、思うところが色々とあるだろうけど、どれがダメでどれがいいっていうのはないわよ?

 只の分析結果なんだから。

 んで、ここで問題!

 ドールを虐待しやすいのはどのタイプでしょう?」

「最初の奴だろ?」

 カナタが即答する。

「ぶっぶ~っ! 不正解!

 正解は、愛憎型です」

 やはり……とネイトは思った。

「ネイト、お前、大丈夫か?

 アリアさんを虐待なんてするなよ?」

「するわけないだろっ!」

 強く言い返すが、それは余裕のなさの表れでもある。

「確かに、ネイトは愛憎型っぽいな~って思ってはいたけど……

 へぇ~、アリアっていうんだ。ちなみにどんなドール?」

「え? いや……それはその……」

 恥ずかしそうに視線を逸らして答えを出し渋るが――

「目を疑いたくなるような美人で、めちゃくちゃスタイルがいい。

 率直な感想を言うと、お前どんだけ高望みしてんだよって思った」

 勝手に答えるカナタに、それを聞いて吹き出すマリー。

「あちゃ~……典型的な愛憎型ね……

 達観型を除いて、勿論ドールは基本美男美女になる傾向があるわ。

 でも、いわゆる絶世の美女系がきてしまうのは愛憎型の特徴なのよね……」

「へぇ~……どうしてそうなんの?」

「こっからはあたしの想像も交えて答えるけど。

 今いった四つの傾向を見分けるには、その人のドールを見ればいいのよ。

 ドールを見れば、四つの型のどれかが想像つくわ。

 例えば、主従型も当然、美人を求めるんだけど、客観性に耐えうるテンプレ的な美を求めるのよ。

 歴史的某独裁者じゃないけど金髪碧眼とか、それを連れているとステータスになるっていうかさ。

 だから、モデルさんとか主演を演じる俳優のような相手を求めるし、そしてそれを支配したがる」

「ふむっ……モデルとか主演俳優って、十分、絶世な美人な気もするが、発散型は?」

「ずばり、自分の好み全開っ!

 なんていうか、人間じゃあ極端にありえない髪の色や目の色していても、自分の好みにあってさえいれば無問題みたいなね。

 だから、ゲームとかアニメのコスプレイヤーみたいなのが来てしまうし、それに恥ずかしがることなく大喜びっ!」

「悔しいが、あってる」

「そういえば、エリカについていた耳って……」

「あ~いや、あれはつけ耳だよ。俺も最初は生えてんのかな~? って思ったけど、取り外し可能だった。

 まあ、生えていても別によかったんだけどな……俺的には」

 よかったんかいっ! ……と突っ込むが声には出さない。

 カナタはにやりと笑うと――

「んで、いよいよ、愛憎型は?」

 意地悪な感じで聞いた。

「愛憎型にはね、こだわりがあるのよ、本人にしかわからない妥協できない*何か*が……

 例えば、一般的に美女の特徴みたいな言われる金髪碧眼ではなく、敢えて違う色、例えばブリュネット《栗毛》で黄色の瞳とか、希少性や理想の形を求めているみたいな……」

「ああ……なるっ!」

 カナタの視線を受け、改めてネイトはドールを他人に紹介するという自身の軽はずみな行動を後悔した。

「なんていうか、相手に美しさよりも芸術を求めている感じなのかな……

 だから、確率は低いだろうけど人によっては『ヴィーナスの誕生』や『モナ・リザ』みたいなのが来てしまうってわけね。

 それで? ネイトのドールはそんな感じなの?」

「『叫び』が来なかったことだけは確かだな」

「なるほど……」

 ネイトは何がなるほどなんだよっ! と心の中で叫ぶ。

「芸術家ってさ、壺を作っては『ダメだ~っ!』とかいいながら割ったりするイメージがあるじゃない……」

「確かに……究極を求めるよな……」

 マリーとカナタはうんうんとうなずき合う。

「……愛憎型ってそんなにヤバいの?」

 もはや、落ち込む事よりも自身に対する不安の方が大きくなっていく。

 映画の見過ぎとは思うが、いつか闇落ちするんじゃないかという恐れ。

「ヤバいかどうかはあたしにはわかんないし。

 実際にヤバイ人はごく少数で、愛憎型全員がドールを虐待するわけじゃないわ。

 そんな事が起きていたら、とっくに社会問題としてもっと騒いでいるだろうし――

 ただ、愛憎型はどうしても*人の温もり*とか、*愛*とか、そういうのを追い求めてしまって。

 結果、ドールを受け入れる事ができず暴力をふるったりするケースがあるみたい」

 未来の自分なのかと想像して黙り込んでしまう。

「しかし、意外だな、暴力を振るうのは、主従型かと思っていた」

 急に暗かったマリーの表情が笑顔に変わる。

 聞いてほしい事を聞いてくれましたという感じが伝わってくる。

「確かに、主従型のヤバイのって、ドールを裸にして四つん這いにして床を舐めさせたり、吊るし上げて、体をつねりながら、上から目線でなんか偉そうなことを囁いたりして、とにかく優越感に浸たろうとするって話だけど……」

「うわっ……エロゲーに出てくる悪役みたいな奴いるんだ」

「でもね、主従型のこういう行動はあくまで遊びというか。性嗜好の範囲であって、ドールを壊すって事はないのよね。

 そりゃ、人間にやったら大問題だし、重罪に問われるし、社会的に抹殺されるんだろうけど、あくまで相手はドールだし……

 だから、キモイはキモイけれど、*落としどころ*の範囲内。

 勿論、ガチでヤバイ主従型もいるんだろうけど、流石にそういうのは逮捕されるから」

 ドールに対してハラスメントをしても法的な問題はない、よって罰則もない。

 物理的に壊しかねないDVは罪に問われるが、それこそパワハラ、セクハラ、モラハラをしても特に問題はないし、むしろ、人間同士のハラスメントを起こさないためのストレス避雷針のような役割を兼ねている。

「ガチでヤバイのって?」

「ドールを改造して、本当のしもべにしようとしたりする行為ね。

 ドールはあるじとなる人間に対して服従するけど、*設計者の意向*を最優先としているでしょう?

 つまり、犯罪やテロに加担させることはできない。

 主従型はドールを虐待することはないけど、改造しようとすることは稀にあるのよね」

「なるほどな……ドールを改造か……考えた事もなかったな……」

 何処か感心したようにいうカナタ。

「アンタやめなさいよ?」

「俺がエリカにそんな事をするわけないだろっ!」

「まあ、ドールには月の最先端の技術が投入されているし。

 改造のような行為に対しては抵抗するように設計されているから

 一個人が改造しようたって返り討ちにされてお縄になるのがオチらしいけど……」

 ネイトは俯いてずっと考え込んでいる。

 ドール改造未遂はそこまで重い罪ではないが、ドール改造は死刑となっているからだ。

「発散型のヤバイのは?」

 カナタは愛憎型について聞きたかったが、ネイトの雰囲気を見て話題を変えた。

「う~ん、発散型や達観型で、特有のヤバイってのは聞かなかったな~。

 発散型が一番、幸福なんじゃないかしら。

 達観型は、不幸にならない半面、幸せにもなれない。超有能なお手伝いさんとしか見れないから。

 主従型は、普通に考えれば有能な道具が手に入るわけだから、幸福度はあがるだろうけど。

 *設計者の意向*がある以上、反社的な輩にはそれが枷となるでしょうね。

 愛憎型だけが、幸福になれるビジョンが見えないのよね~……

 四つのグループで一番自殺率が高いっていうし」

「イチかバチか人間同士の恋愛に賭けるしかないってことか?」

「う~ん……

 人と人との恋愛はギャンブルに近いっていうのが一般論よね……あたしもそう思う。

 うまく行けば、それが一番、幸せなんだろうけど……

 深く考えないことよね、所詮ドールなんだから、人と同じものを求める方が無理っていうかさ……」

「まっ! そうなるよなっ!

 エリカは、人には到底できないモノを提供してくれるから俺は不満ねーけど……」

「そうだよね……」 

 ネイトの返事は暗い。

 あちゃ~っ……と、マリーはひたすら落ち込むネイトを見て、自分の提起した話題を後悔する。

「ねえ……気を紛らわしたいから話題を変えたいんだけど……

 パートナードールには感情や性格がないって話は聞いた?」

 ネイトがなんとか気を取り直して、もともとしたかった話題を提起する。

「ああ……」

「聞いたわよ」

「どう思った?」

「全然そんな風に見えないし驚いたけど、エリカは可愛いから無問題」

「まあ所詮アンドロイドだし、それはそうだろうなって……」

 二人の捉え方はまるで違うが、気にしていないというのところは同じ。

「ははん、なるほど。

 お前的には心みたいなものを期待してたってわけかっ!

 愛憎型とはよくいったものだな~」

「うん……それでさ、なんでこんな事をわざわざ言うのかなって……

 正直、僕が死ぬまで黙っていて欲しかった、騙し続けて欲しかったっていうかさ……」

「う~ん……これは重症ね……拗らせすぎ……

 カナタみたいに煩悩全開もひくっちゃひくけど……

 てか、気が紛れるどころか余計、落ち込みそうな話題をぶっこんできたわね……」

 マリーは心配を通りこして、少し呆れていた。

「……んで、ネイトとしては。

 わざわざ、ドールがそれを言ってくる理由が知りたいってわけか?」

「聞いても答えてくれないし、皆で考えろっていうからさ……」

「う~ん……

 それはそうだろうなとしか思わなかったあたしとしては、興味ないことだけど……

 *設計者の意向*って事は、社会全体を考えての事よね。

 個人の精神安定よりも……」


「まあ、そうだろうな……

 俺も、エリカが変わるわけじゃないし、まあいいかなって……

 ショックがないわけじゃないけどな……」

 くそっ! 二人とも頼りにならん……ネイトは、真面目に議論しない二人に苛立ちを感じた。

「まあ、でも、入れ込まないようにって事でしょうね。

 ほら、歴史で習ったと思うけど、地球では性風俗ってあったでしょ?

 娼婦とか仕事で、性行為をする人がいたわけだけど、あくまで相手は仕事でやっているわけで。

 だけど、客の中には娼婦に本気で愛情を求めてしまって、身を持ち崩す奴とかが一定数でるわけじゃない。

 例えば、ドールに*愛*があると信じて*愛*を注いできた人が、結構いい歳になってから、ドールに*愛*なんかないって事実を知ったら。

 トチ狂って、ドール破壊とか、自殺とか放火とか学校に乗り込んで銃乱射とかをするかもしれないでしょ。

 墓まで隠せればいいけど、途中でバレたら、ヤバいから最初から伝えているって方針じゃないかしら?」

 ネイトもマリーの答えくらいは想像ついたが、それだったらアリアがそこまで勿体つける必要はないとも思っていた。

「でも、あれって本当なのかね?」

「ん?」

「いや、エリカと接して、数か月だけど、本当に喜怒哀楽が凄いっていうか……

 その反射感情論とやらで、ここまでできるもんなのかとは思う」

 確かに……とネイトは思った。

 本当に反射感情論というのは存在するのだろうか?

 ドールに対する疑問は尽きない。


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