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パートナードール  作者: SFX
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プロローグ

 西暦二〇五三年、月のヒンシェルウッドと呼ばれるクレーターにバイオスフィアの建設が始まる。

 バイオスフィアとは、人が月に居住可能な空間を作るだけにとどまらず、密閉された空間の中で生態系を循環させるという施設である。

 地球から物資を送っていては、地球にかける負担が大きいため、月での自給自足の実現を目指すというものであった。

 まず、月に無人で物資を送り、遠隔操作のロボットを送り建設を始め、建設作業の訓練をした宇宙飛行士達を送り、最後に科学者達を送る。

 計画は難航し何度も失敗と中断と頓挫の危機に立たされたが、西暦二〇八〇年についに、持続可能な月面基地の建設に成功。

 送られた一〇〇人の科学者と宇宙飛行士達は、地球からの支援無しで、五年間の生活と研究に成功したのである。

 エネルギーは宇宙太陽光でまかない、植物を持ち込み、農耕による食糧生産と光合成を行い、酸素と二酸化炭素をコントロールする。

 牛や豚、鶏といった動物を持ち込み畜産を行う。

 糞尿や死骸は焼却せず、全てバクテリアに分解させた。

 ゴミと水は全てリサイクルを行い、月面に投棄はしない。

 月に渡った科学者達は、地面を掘って資源を得て、基地を拡張していった。

 どうしても足りない資源だけ、地球から送ってもらうという形をとる。

 月に移住し研究する科学者やそれに従事する者達は、年々増えていき、西暦二一〇〇年頃には一万人を超え、西暦二一五〇年になると、一〇万人を突破する。

 しかし、地球では相変わらず、世界各国はつまらない足の引っ張りあいを続け、地球の環境は悪くなる一方だった。

 月で暮らす者達は科学者や技術者だけではなく、現地で出産し月が故郷という人間も増えていき、月に移り住んだ科学者達は、次第に地球社会を醜いと思うようになっていた。

 月の社会において、環境の安定は絶対正義であり、皆、必死に共存と環境をシビアに考えている。

 何故なら、月の社会は完全自給自足を実行せねばならず、くだらない争いと環境破壊は社会の崩壊と死を招くからだ。

 西暦二一八七年、一人の科学者が発言した。

『俺達は独立して月に国を作るべきだ』

 月は国際条約によって、どこの国も領有を主張することはできないものとなっている。

 月に送られた科学者達は、世界各国の天才達であり多国籍であった。

 彼らは団結し、知恵を出し合い、月での持続可能な社会を実現し、それを誇りに思っている。

 一方、地球は、各地で紛争を起こし、作りすぎた核兵器に怯え、環境破壊は進み、災害は増える一方であった。

 地球では、ロシアやアメリカ、中国といった大国が睨み合い、常にいざこざを起こしているが、月ではロシア、アメリカ、中国の科学者が談笑しながら夢や持論を語り合う。

 そんな状況下では、次第に地球との決別を考えるようになっていく。

『哲学者は言った、理想の国家を作るには、理想の国民が必要であると、俺たちは多国籍で多民族だが誰一人、下らないことでは争わない、俺達こそが理想国民であり理想国家を創る者だ』

 たちまち、天才達が議論する。

 その考えは危険だと。

 しかし、地球の体たらくを見れば見るほど、独立の意思は強くなっていった。

 地球から二〇年以上、支援物資は送って貰っていない。

 欲しいものは大体既に送って貰っていた。

 新たに月に赴任してくる科学者に話を聞けば、地球はとても危うい状態だと言われる。

 著名な科学者がどんなに環境問題を訴えても、まるで話を聞きやしないと嘆いている。

 その上、環境問題を訴える人間を、ビジネスでやっていると批判までしてくる始末。

 科学を使って行うビジネスは大好きであっても、例えば偉大なスティーブ・ホーキング博士の遺言を聞く気は全くない。

 科学者達は議論や討論を繰り返し、最終的に独立は全ての月で暮らす者達に投票権を与え、全員が一致しない限り独立はしないものとした。

 そして、西暦二二〇一年月はついに地球からの独立を宣言。

 この時から、月の暦は西暦ではなく月歴に変わる。

 西暦二二〇一年が月歴元年である。

 もっと早く独立宣言をすることも可能だったが、切りの良い数字に合わせた。

 独立を宣言してから、最初は世界各国から散々文句を言われていたが、やがて地球からの連絡はこなくなった。

 断交というわけである。

 また、地球の周辺に人工衛星を飛ばす事は認めない、飛ばせば撃ち落とすと一方的に通告される。

 インターネットに接続もできなくされたので、地球の情報は月から望遠鏡による観測のみとなった。

 月歴三八年、いよいよ地球の環境が限界に近付いてきたようだ。月から望遠鏡で眺めるだけでも、雲の動きからしても世界各地で起こっている異常気象はわかる。

 そこまで、気象が乱れていては、人類の食料自給率は一〇〇%を下回っているだろう。

 経済は崩壊し、各国の食料の奪い合いが起こっていてもおかしくはない、そしてそんな時。地球の各所で、大きな光と大気の揺れを観測した。

 おそらく、核兵器かそれに類似する兵器を使用したのだろう。

 第三次世界大戦が始まったかもしれない。

 月民は、そんな地球を眺めながら心を痛めたが、正直に言えばもはや他人事でもあった。

 滅ぶなら勝手に滅べと。

 同じ地球で暮らしているのならば、憤慨ものだが、月で自給自足をしている以上、なんの被害もない。

 核爆発らしき、光を確認してからの間は地球は二〇年程の寒冷化に見舞われる。

 俗にいう〝核の冬〟の到来だ。

 地球を回っている人工衛星は地球から指示を受けている様子もなく、燃料が尽き、軌道を外れたり墜落していった。

 それから月は定期的に、地球に電波を送り交信を試みたが、地球からこちらに電波を送ってくることはなかった。

 果たして地球人類は滅びたのだろうか?


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