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4:ライバル登場

「オラ!クソガキ!!来てやったぞお!!」


その時であった。扉を蹴破り法被を着た男がお店にずかずかと入ってくる。


「っナオ様!離れて!」


「うわっ!」


俺は豹変したフェルに突き飛ばされ、カウンターの角に頭をぶつけてしまった。痛む頭を抑え体を起こすと男の周囲には光り輝く魔法陣が張り巡らされている。




「はーーーっ!!岩魔法!鬼起勢(オニオコゼ)!」


男の発した声と同時に、男の左腕は光に包まれ、やがてその腕の皮膚は変化してゴツゴツした岩を纏う。あの光は、あの時地上界と異界の狭間で女神ユリウスが見せた力と同じ……」


「オニオコゼ・ストライーーーーク!!」



男がその左腕を突き出すとその岩はフェルに向けて飛んでいき、爆音と共に店が煙に包まれる。少しずつ視界が開けてくると、先程まで俺たちがいた場所の真裏の勝手口は跡形もなく吹き飛び、周辺の壁には大穴が空いていた。



「フェル!フェル!」


俺はフェルを探すと先程の男に首を持たれ、苦しそうにもがいているフェルを見つけた。タイツはボロボロに破れ、各所に痛々しい擦り傷を残している。



フェルは苦しそうに口を開き、男に怒りの形相で話しかける。


「マンティ……!貴方達に渡すお金なんて一銭もない!出ていってください!」


「そうはいかねえなぁーアルミナス寿司の親父はウチに借金こさえててねぇー、お金がないんなら

ここのやたらと立地のいい土地を売って欲しいんだわ。"sushiバル・メリージェーン"のテセウス店出店の足がかりにしたいってうちのボスがうるさくてなぁ。」



「嫌です……!ここ、アルミナス寿司はお父さんのお店です……!渡すなんて……!」



「親子揃って往生際が悪いんだよ!クソガキ!」


男はフェルの胸元の衣服を掴み、ビリビリと下に引き裂いた。


「きゃあああああああっ!!」


「いいか!寿司屋ってのはカネが全てだ!カネがないやつはカネがあるやつにケツの穴までむしられて野垂れ死ぬ、そういう世界だ!お前は女だからうちの店で娼婦でもするか?ガハハハハハハ!」



「い、いやああ…!いやっ!」


フェルは足をばたつかせ、丸見えになったその二つの実の先端を必死で手で隠そうとするが、男の手が乳房を覆いそれを邪魔する。男は手をいやらしい手つきでその大きく柔らかな胸に沈め揉みしだく。



「へっへっへ……いい胸だぜ…!」


「やだ…やだああ…」



「おい」


俺はその男が振り向くと同時に、顔面に鉄拳をお見舞いした。



「ぐっはあああああ!」



「へえ、クソ野郎にも痛覚ってあるんだな」


「テメエ、何しやがるんだ!」



「あ、危ない…!ナオ様逃げて!」


フェルの声を無視し、俺は男の左腕を右に左にかわす。神から授かった力によって、俺は地上にいた時とは桁違いの身体能力を手にしていた。



「はあ……はあ……」


「なんだ、もうガス欠か?で、お前はフェルの一体なんなんだよ。」


「俺様はこの港町テセウスから少し離れた大都心"ヴェラスケス"の一等地にある寿司屋 "メリージェーン"で最古参の修行生、マンティン=エシベールだ!


フェルとの関係はさっき言った通り。コイツの親父は港町の貧乏人のために薄利で寿司を出して、そのくせ賭け事にも興じてるから、昔馴染みだったうちの大将にたんまり借金をこさえていたのさ。お兄さんも。あまり逆らうとそっちが裁判で不利になるぜぇ。」


「そうなの?フェル」



「違います……!賭け事でツケを作らせたのも、全部この土地が欲しいメリージェーンの大将の策略なんです!」



「おいおい、女に甘い顔すんなよ!どっちを信じるかって、断然こっちの方が正しいだろ。」


「確かに……」


俺はうんうんと頷くと、フェルはそんな、という顔でこちらを見つめる。



「でもな」


「うがっ!!」


俺はマンティンと名乗る男の顔面にもう一度裏拳をぶち込んだ。



「泣いている女の子と、その子の首を絞めて服を破って高笑いしてるやつ、どっちが正しいと思うかって、断然女の子だろ。 それに俺はフェルと約束したんだ。俺が大将になってこの店を守るって」


「ナオ……様…!」



「ぶっはあ……口の中カツオ臭くなっちまった……!てめえがここの新しい大将だと……?寿司職人としてのキャリアは!」



「見習いを1年と、神様のもとでの修行2週間」



男はそれを聞くと吹き出した。


「ブッッハハハハハ!おい!なんだよ1年って!1年じゃ掃除しかやらせてもらってないだろ!俺は修行歴10年超えのベテランだぜえ!?驚くなかれ、大将の信頼を勝ち取ってミドリギタイのサク取りまで任せられてるんだ!」




「……ミドリギタイがなんだか知らないけど、サクが取りたいなら勝手にやればいいじゃん。何がすごいの?」



俺がそう言い返すと、マンティンはさらに高笑いしながら講釈を続けた。


「ギャハハハハハハハ!!1年じゃお店のことも、寿司の握り方も何一つ学んでねえのに、なんでそれで大将が務まると思ったんだ!?俺だって寿司は握ったことないんだぜ!でもな、大将の手つきを日々見て精進してんだよ!」



「全く合理的じゃないな。普通に寿司ネタ買ってシャリ作って握ってやり方学べばいいじゃん。俺はそうしたよ。女神様のもとでな。」


「は……何言ってんだ……寿司を……握ったあ……?1年目の分際で、か……?」


俺の話が信じられないのか、男はきょとんとする。



俺は呆れ顔で、頭を抱えてマンティンに質問を返す。



「お前、学歴は?」


「あーー?ルミネン魔法中学校中退だよ!俺は寿司に人生かけてんだ!!」


「ブッッハハハハハ!!!なるほどな!お前もお前の大将もそんな程度も知能だから合理的じゃないやり方にとらわれて10年も無駄な時間を過ごしたのか!!これはお笑いだ!俺は有名大学の理学部を中退したんだけど、もうこの時点で差が明らかだよね。」


「うう……だ、大学中退のインテリに寿司が握れるかああああああ!!」



「そんなに高学歴が怖いか?要領のいいインテリが業界を席巻するのを恐れて、機械化や効率化に歯向かう。どこの業界も同じだよな。」



「黙れええええ!おい!クソガキ……フェル!魚を買ってこい!こうなったらどっちが上か寿司の味で勝負しろ!」


「いいよ。見てるだけのお前と、2週間で完璧に寿司を理解した俺。どっちが上かはっきりさせてやる。俺が勝ったら、もちろんフェルの親父の借金はチャラにしてもらおう。」





睨み合った俺たちの背後で、破れた服もそのままにフェルがネタを買いに走る音が聞こえた。



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