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3:少女との出会い

「うーん……」



ぼやっと見えた輪郭は、二つのボール状にたわわに実っており。


「おお、これは立派なミズダコだ……二匹もいるぞ…」


朦朧とする中でそんなことを考えていたら、だんだんと輪郭がはっきりしてくる。



それは女の子の胸であった。青い髪を二つにまとめて若草色のケープ中心に可愛らしい民族衣装に身を包み、頭に魔女帽を被った女の子……


「君は……」


「わ、私はアルミナス寿司の2代目大将。フェルト・レフハンドと言います!」


「君みたいな若い子が……」


俺も大概だが、その女の子は若すぎた。ユリウスのように姿形を自由に変えられるわけでもないなら、見た目からして10代中盤かそこらであろう。それに、これが寿司を握る格好か‥‥?


「あ……昨日の夜に夢枕で女神ユリウス様に啓示を受けて待ってたんですよ!今日ここに異世界から新しい大将が来るって……!そうしたら今、店で寝ているあなた様を見つけて‥‥貴方がそうなんですよね!」


「あ、ああ……いや……大将は君なんだろう……?っ……!?」


女の子は突然、俺の胸元に飛び込んだ。ふわりと柑橘のような女の子のよい香りが鼻腔をくすぐり、柔らかな胸が俺の身体に押し当てられる。

小さく細い肩幅を抱えると、その子が震えている事に気づいた。



「良かった…ぅう……良かったよぉ……お父さんが死んじゃって……私一人じゃ……お店なんて切り盛り出来なくて……!」


俺は女の子の胸の拍動が自らに伝わってくる感覚にドキドキし、生唾を飲み込んでから冷静に周囲の状況を確認する。まず内装。異世界の寿司屋ということでどれほど変なものかと思ったが案外普通に木製のカウンターと座席があり、電気の技術くらいはあるのだろうか。ガラスのようなショーケースは霜と水滴が付着していた。 小上がりには丁寧に座布団が敷かれてはいるが、昼下がりだというのにお客の姿はない。




「あーー…これは‥‥」



まず、カウンターや小上がりのふすまの敷居、真っ白に見えるほどにホコリが付いている。地上界では先輩によくそのような場所を指でシュッ、と擦られ、一つでも埃がついていようものなら殴られた。

これが目に見えるほどとなればまず論外で、もはや営業出来ていると言えない状態であるのは容易に想像できた。


カウンターにあるガラスケースも霜焼けしている上に中には柵付けされた魚の切り身も何もない。



「……ナオ様……こんな……こんな港町の小さなお店ですけど……!どうか救ってはいただけないでしょうか…!」


啜り泣く彼女の目は潤んでいながら真剣にこちらを見つめていた。こんな可愛い子に頼まれているのに、断れば男が廃るというものだろう。



「よっし、わかった……!二人で寿司の握り方を勉強していこう!」


「ナオ様……!わぁああああ……!」


女神ユリウスが言っていた、"俺が大将になる"とはこう言う事だったのか。でも、俺はこの子‥‥フェルに決して辛い掃除炊事雑用役などさせない。親父さんの意思を継ぎ、彼女も寿司職人として成長させたい。そう思いながら、俺は彼女の小さな肩を抱き寄せた。


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