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第三話 『俺様と、オメェらと』

 前回までのならず者


 くれぐれも溜め込まないように。

「おらこっちだ! デカブツ!」


 腰に差していた剣を引き抜いて腕の装甲とで打ち付けると、

 カァーーーーーーーーーン、カァーーーーーーンと夜空に向かって金属音を響かせた。

 これは敵の注意を惹くためと、合図のため毎回すること……らしい。


 目の前の標的であったゴンズから、ゆっくりと音の鳴る方向へ顔を向けるトロール。


 その姿は、深緑を帯びた浅黒い肌色に、ゴンズより大きい図体とそこから伸びるのは太い四肢。大きく出た腹の下は思いやりと配慮の篭ったボロボロな腰巻きがあった。


 ハゲ散らかした頭は産毛でふさふさで、顔はいかにもモンスターって感じの造形だ。醜い。剥き出しの牙とやや黄ばんだ白眼に映る黄色い瞳、皺の寄った眉間からはトロールの苛立ちが表れていた。


「邪魔だゴンズ、退けィ!」


「あいでぇ!」

 

 ゴンズの前に躍り出て剣を構え直すと後ろ足でゴンズのことを蹴り上げた。その拍子でなんとか立ち上がれたのを後ろ目に確認すれば、真っ正面からトロールと対峙する。


「────!!」


「だりゃァ!」


 アルがトロールの死角である横から脛へ剣を斬りつけた。浅く残った傷からはでろりと緑色の血液が垂れ出た。


 き、きもちわり……。


 なおもチャンスを窺うように右へ左へステップすると、焦がれたトロールが棍棒を振り上げた。その瞬間を狙って剣と共に腹へと飛び込む。


「逝けやァ!」


 斬りつけるのではなく突き刺すと、皮膚をぶっちぎる感触が剣越しに握った手へと伝わってくる。グ、と力を込めより深く剣を押し込めると悶えるようにトロールが暴れ出す。


 身体中が歓喜の震えに満ち溢れた。あんなフルスイングされたっぱなしでいられるかってんだ! このデカブツ野郎が、もっともっと苦しめてやる!


「兄貴ィ! あぶねェ!」


 アルの声にハッとし、剣を握っていた手から力を抜いてすぐさまバックステップする。




 直後────ヒュン、と風を切る鼻先を掠めた音がした。


「アル!」


「感謝は後でいただきやすよ! 兄貴!」


 どうやら俺様が覚えた羞恥と屈辱とやらは相当なものだったらしい、我に帰らなければまた二の舞であったところだ。

 それよりお前、けっこういい子分"たち"、持ってんじゃん、俺様!


「オデも、オデだって兄貴の力に、なるだ!」


 後ろから聞こえた訛りの混じった声に、俺はニヤリと口角を上げてしまう。


 担ぎ上げた大斧は夜空の月明かりに照らされて鋭い光沢を放っていた。その武器の主人はまさに今、地面に反ベソで座り込んでいたゴンズでありその顔には決意が満ち溢れていたのだ。


 ゴンズは私とトロールの間を割って入ると、腹めがけて大斧をフルスイングした。

 トロールは緩慢な動きではあったものの腹を腕で守るように覆う。しかしその大斧は肉を断ち、ついぞ骨までをも絶ったのだ。


 空へと緑の血液を撒き散らかしながら吹っ飛ぶトロールの腕。

 そしてそれをポカンとした表情で眺める俺。


 いやいやいや、こいつ、強すぎるだろ!!!!!!


 ヒュー、と思わず口笛を吹いてしまう。いかんいかん、さっきから戦闘中だってのに。

 さきほど吹っ飛んだのはどうやら左腕のようだった。地面にべちょりと落ちた自分の腕を見たトロールは、目が血走っており大きな唸り声をあげながらゴンズに向かって棍棒を振り回す。


「へい、兄貴ィ!」


「おおおアル! これは!!」


 投げ渡してきたものを反射的に掴むと剣であった。ちょっと危ないな!? これ刃の方握ってたら絶対痛かったやつ!


「へへ、盗んできやしたよ! やっちゃってくだせェ!」


 いつから抜いたのか、ゴンズがトロールと対峙している隙を縫って腹にブッ刺した私の剣を取り戻してきてくれたらしい。いや、なんにせよマジで頼もしいなこいつ……。

 小器用というかやっぱやる事がすげえんだよな。俺には真似できないわ。


 しかしそうこうしている間にゴンズもギリギリな状態である。トロールの背中に回り込めば背中に向かって斬りつける。斬りつける!

 改めて3人揃って優位に回っては、トロールに向かって斬りつけて、弱っても斬りつけ、今度は足を落とし指を潰し首を刎ね、そして────────





「勝った……」


「お、おお……!」


「オデ、たちが?」


 トロールが無残な死体となったのを見て、ゴクリ、と誰が先に喉を鳴らしたか。武器を放り投げると安堵から一斉に腰が抜け、地面に座り込むとそれぞれ顔を見合った。


「は、はは」


「ぎゃひひ、」


「ンブ、プフフフ」


 おかしくって、おかしくって……大きな声を上げて笑い声をあげる。みんな、みんな頑張ったのだ。強敵を前にして逃げず、仲間を守り、戦って勝ってみせたのだ。

 肌も服も汗や変な液体やら土やらでドロドロ、でもそれはここにいる3人全員そうなんだ。

 

「オメェら、最高だ!!!」


「兄貴!!」


「兄貴ぃぃぃぃいい!!」


 ゴンズはまた、半ベソをかいていた。アルと二人で最大の功績者に近付くと「こんにゃろ」と頭をぐりぐりしたり背中叩いたりした。

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