第一話 『ゴンズとアル』
まず、整理をしよう。
俺の名前は小林、日本生まれ日本育ちの引きこもりニートだ。大学中退就職失敗の親不孝者である。まあ、記憶は確かっぽい。
目をさました時、俺は仰向けの状態で平原におり、およそ自分のいた国では"見かけない装い"をしている男二人が目の前に居座っていたと。まあ、ここまでくると私のようなやつなら確定的に大体何が起きたかわかるだろう。
異世界転生、だ。それもどうやら見る限り今の体は元々の自分の体ではなく、非常に筋骨隆々としていた。
前の俺の姿とは完全に違うということが窺い知れる。前の俺もうちょい腹ぽよぽよしてたし。
とかなんとか考えていたが、なにやら俺が目覚めた事に気がついた二人はとても感激している様子で、いろいろ顔に飛んできて……きたねえな!?
とくにこのデカブツ! 鼻水とか涙とか色んな液体で顔がぐちゃぐちゃになってんじゃねえかこれ?!二人の容姿をあらためて観察してみる。
片方のデカブツは体格のいいデブらしく、とにかく体型が丸い。
そりゃもう丸い、多分こいつを転がしたらどこまでもころがってくんだろなって感じだ。おにぎりだな。
装備としてはバンダナを頭に巻いており、裸の上からしっかりした作りになっている皮のオーバーオールを着ている。腕にはベルトやら鉄でできたガードやらが巻かれており、おそらくだが腕を盾の代わりに使うのであろう、と推測できる。
もう片方はある程度ツラが整っているヤンチャ系といったところ。髭も生えてるが似合わないわけではない。こいつもデカブツと同じくバンダナを頭に巻き、上はほぼ裸である。日本なら美人と結婚して子供授かってすぐ離婚しそうな顔のタイプしてる。
そしてしっかりと右肩から腕にかけて鎧をつけており、厚手のズボンは何度も補修された跡が見えた。デカブツよりは軽やかに立ち回れそうな格好のように思う。どうやらこいつはデカブツが暴れるのを抑えててくれてたみたいだ。
しかし……
どこからどう見ても山賊ですありがとうございます。なんだってこんなやつらにこの体の持ち主慕われて……いや、というか、お、んー?なんか頭がすげえムズムズしてきた!? うおおおおおおおおおお!!
ーーー
────全部思い出したぞ。
この世界のこと、今いる現在地、そしてこの体の持ち主である"俺様"の名前も。
そうだ、名前は確か
「ギガの兄貴?」
「おう、ワリィなオメエら! 気ィ失ってたみたいでよォ」
粗暴な喋りがヤケに口に馴染んだ。きっとこれが本来の喋り方なんだろうな、と思う。
※ ※※※ ※ ※
どうやら俺は頭を思いきりフルスイングされ気絶をしていたそうだ。こんなガタイがいいのに、俺、情けねえなおい……と思ったがそれもそのはずだ
こんな平原じゃ滅多にお目にかからない"トロール"の存在である。
トロールは身長が4mほどあり、俺の今の体が推定2mとちょっとあるとすればトロールはその2倍。さらに先ほど俺の顔に鼻水やらなんやら飛ばしてたデカブツ……名前はゴンズ。こいつと同じくなかなかの重量級だ。
今はいないみたいだが倒したのか?
「俺たちも奮闘したんですが、ダメでやした」
「オデたち、綺麗な人に、助けてもらっただ!」
「そうだったのかよ、借りを作っちまったかもなァ」
お礼をしたかったがすぐに行ってしまったらしい、まあまたどこかで会えるだろ。
そうそう、この世界にはポーションの概念というものはないらしくケガや状態異常の治療をするときは薬草を使うか回復魔法を使うかの二択のみである。
と、いうのも全部元の体の持ち主の記憶を漁って思い出した。ちなみに今のパーティに回復魔法の持ち主はいないため、俺の頭は薬草と包帯でぐるぐるだ。にしても、だ。
「もっとマシなやり方なかったのかよォ」
「ワリィ兄貴……」
そう手を頭の後ろに当て申し訳なさそうに謝るのは、さきほどデカブツのゴンズを抑えてくれていたちょいワルイケメンのアル。
いやなんでお前山賊なんかやってんだよ!っと思わず言いたくなるくらい器用でなんでもできるすげーやつだ。
そんでもって今いる平原、ここは『タオリン平原』という名前で、比較的穏やかで弱い魔物ばかりの場所だったはず。ここから町と反対に奥へ行くと迷いの森とやらで有名なスポットもあるようだ。
そもそも俺たちの今回の目的というのは『商人の馬車を襲う事』だったらしく、なかなかどうして元の体とはだいぶ倫理観やらがかけ離れていることを実感した。