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プロローグ『ねばねばはスライムだけじゃない』


「────」


「────?」


 喋り声が聞こえるような気がした。狼狽えるような声と、力強く諦めないような声。


 それは小さな声からやがて大きな声に変わり鮮明に耳へと届く。

 それと同時に深く真っ暗なところへ沈んでいた意識がじわじわと浮上を始めた。


「ぁ────」


「兄貴、大丈夫か?」


「オデ、兄貴がいねェと、オデ」


 なんだかずっと自分の周りが騒々しくて薄っすら目を開けると、逆光とぼやけた視界でよく見えないが二つの影がそこにあった。片方は大きくて、片方は細長いように見えた。

 意識がはっきりせず状況をうまく飲み込めずにいたが、頭を無理やり動すことに努めてみる。


 まず、自分の身体が置かれている状況について考えてみることから始めてみればいいだろうか、

 最初に気づいたことといえば強烈な眠気が襲ってくるせいで意識が遠くなっていく気がすること、そして次に体がやけに寒さや冷えを訴えていること。

 さらに硬い地面の上に仰向けで寝転がっている体制であること。

 体のどこか、手先だけでも動かせないものかと思ったが力を込めることは叶わなかった。


(──もしかして、死にかけてる?)


 嫌な考えが頭を過るが、嫌すぎるので一旦その考えは置いておくこととし、もう一度思考の海に潜る。


 一体自分の身に何が起きているんだろう。と、何度考えてみても説明はつかなかった。そんな思考をしたところで顔の頬に冷たい水滴がいくつも落ちてくる。

 察するに、冒頭にあった影二つのうち片方が流す涙であろうか? それが自分の頬にぽつぽつと落ちていると推測する。


 なぜなら影が自分の顔の位置にとても近いような気がしたから。

 なにより鼻息がダイレクトに聞こえるということは顔同士が近い証拠といえるだろう。

 

 この辺からようやく頭が冴えてきて今度は目の前にいる影達に意識を向けることに成功した。左が細い方で、右が大きい方。

 暗くて見えないが顔立ちもうっすらと見えてきて、二人が人間であることを認識した。しかしどこからどう見ても見覚えのない顔で、困り果てた。


(誰だこの人たち? さっきから兄貴、兄貴って……というか俺ははなにをしてたんだっけ?)


 今いる現状に至るまでの記憶が思い出せないでいた。辛いことがあったのか、それとも単に覚えていないだけか。


「兄貴! 目ェ覚ましたか」


「うぉぉぉおおん! 兄貴!」


「おいばか! そんな泣いてっと兄貴に鼻水つくだろが!」


「だって! だって〜!」


(は、鼻水────)



「鼻水ゥ!?」


 

 鼻水という言葉を理解した瞬間、

 さっきまで力を入れることが叶わなかった体が、その時ばかりはよく跳ねた。



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