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9 アレクサンドルの力

「過去に飛ぶ?」


父の怪訝な問いかけに私は薄く頷いた。


「私は能力持ちです」


「だけど貴方の力はものを止められる、だけ、よね?」


「はい、ものの動きを止められます。人であってもものであっても。それがどういう原理なのか、試しているうちにどうやら動きを止めるのではなく、そのものの時間を止めているのだとわかりました」


私の説明にぐっと身を乗り出した父の瞳が興味にきらりと輝いた。


「時間を止められるのなら戻ったり進めたりできるのではないか、と私はレディアントにいる間に様々なことを試しました。そこでわかったことがひとつ、割れたカップを戻すことはできますが、土にすることはできませんでした」


「アレク、それはつまり…?」


「割れたカップの時間を戻して割れる前に戻すことはできましたが、時間を進めてカップそのものを朽ちらせることはできないのだと認識しています」


過去に戻れても未来には行けない。


「それは人にも有効なのか?」


「わかりません。実験したことがないのです」


「死んだミラーシェを時間を戻して生き返らせる、てこと?」


それには私は首を振って応えた。


「それは試しましたが、うまくいきませんでした。どうやら生き物に関しては命があるものだけに有効なようです。おそらく未来があれば過去がある。死ねば未来が閉ざされるので過去もなくなる、そんな感じではないかと考えています」


「だから過去に飛ぶのはおまえ…?」


言葉を発した父に向き直り、私は深く椅子に腰掛け直した。背筋を伸ばし、しっかりと父を見据えた。


「はい、私が飛びます。そして今度こそ遠慮などせずにミラを私のものにしてマハロから守りたいのです。そのついでに意趣返しとしてマハロを失脚させて第二王子を立太子させます。父上と大伯父の後ろ楯付きで」


父が瞠目したあと、さも可笑しそうに声をあげて笑った。


「そんな!アレクサンドル、危なくないの?!」


悲鳴に近い声を上げた姉の手をそっと包み込んで、私は真っ直ぐに彼女に眼差しを送った。


「カッサンドラ、私はミラを喪ったときに自分も失くしたのです。それに私がなくともアヌシーズ神皇国にはもう教皇がおります。私の命を懸けてミラを救えるかもしれない未来(きぼう)があるなら私はいくらでもこの命を差し出しますよ」


「そんな!」


言葉を失う姉の手の甲を優しく叩いてから、私は父に向き直った。


「宜しいですよね?」


「ひとつ条件がある」


渋く父が応えた。その眼差しからは親愛が消えて、辛辣なまでに厳しい光が宿っている。


「はい」


「必ずフレジエ侯爵令嬢を連れて戻ってこい」


「…は?」


「だから必ず嫁を連れて帰ってこいと言っている」


ぶすりと仏頂面の父が私から顔を背けた。その頬に強張りが浮かんでいて、父も必死に耐えているのだと理解した。


妻を失くし、さらに息子まで失うのは耐えられないのだろう。

でも私の気持ちも汲んでくれた。

だから最低条件が、嫁を連れて帰ってこい、なのだ。


私はふわりと微笑むと、力強く頷いた。


「必ず!」


涙を目尻に浮かべる姉が諦めたように眼を細めて、私を強く抱き締めた。

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