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3階 (仮題1)!業務連絡!ハーレムものでお願いします! (2)




「これどう⁉︎」


「...派手すぎ。」


どぎつい紫色をしたペイズリー柄のジャケットを纏った美咲が不満げな顔で試着室のカーテンの奥に消えた。


「じゃあこっち!」


息つく間も無く今度は何とも言えない微妙な蛍光グリーンのカーディガンを羽織って出て来る。

服選びを仰せつかった身として率直に感想を述べさせていただくとしたらこれは、

「...センスねぇ〜〜...。」


「ちょっと!!さっきから何なのよ!」


真面目にやんなさいよね!と美咲は頬を膨らませている。


異性向けの服屋の試着室で、四方八方を女に囲まれたこの状況で、顔も知らない男に告白する為の勝負服を選ばされて、これ以上の反応を期待するのは酷ってものだろう。


「大体その服何なんだよ。何で豹柄なのに虎の顔が描いてあんだよおかしいだろ絶対。」


「カワイイでしょうよ!...はぁ〜っ、あんたみたいなだっさい奴にはわかんないのね!」


「あんだとぉ⁉︎」


「だってそうでしょ!上から下まで黒尽くめのまっくろくろすけだし、なによ!女の子みたいな髪型しちゃってさー!」


美咲がまるで忍者のような横スライドで背後に回り、俺の尻尾髪を捕まえた。


「いででっ!俺のチャームポイントを引っ張るなっ!」


「うっ...しかもあたしよりサラサラ...⁉︎」


がっくりと肩を落としすごすごと退散していくとカーテンの隙間からおばけみたいに顔だけ覗かせてくる。


「はぁ...。自信無くすわ〜。じゃあもうあんたが選びなさいよ。」


今まで散々に詰った奴のファッションセンスに任せようなんて、余程切羽詰まっているんだろう。

それ程までに執着できる相手が居るというのは羨ましいものだ。


「元々着てた服じゃ駄目なのか?まあ、アレも大概ではあるけどさ。」


「制服なんてマンネリでしょ!」


あの妙に胸部がぴっちりしていて、普通に立ってるだけで下着が見えそうな位短いスカートのピンク色したセーラー服は制服だったのか。


「んん〜...じゃあ...コレ。」


女だらけの売場から1分1秒でも早く解放されたい一心で、手近な棚から一着ひったくった。


装飾の少ない、白いレースのワンピースだ。


「...男ってこーゆーの、好きよねえ。“清楚”って感じ。あたしにはきっと似合わないわよ。」


「そうでもねーんじゃね。この俺様がせっかく取ってきてやったんだぞ、いいから着てみろよ。」


カーテンの隙間に捩じ込んでやれば、顔だけおばけも一緒に引っ込んで行った。


ややあって、珍しくしおらしい態度の美咲がおずおずと姿を現す。


「どう...かな。あはは、やっぱ恥ずかしいな。」


「...いや、悪くねーんじゃね、ウン。それなら誰も中身がゴリラだとは思わねーって!...あー、でも、髪は下ろしたほうが」


ツインテールを結ぶリボンを解いてやろうと手を伸ばすと、ギョッとした顔の美咲は勢いよく後退り、本日2度目の張り手を繰り出してきた。


「な、何すんのよ変態!」


立派な紅葉が両頬を彩り、脳がぐわんぐわんと揺れる。


俺が戦闘不能に陥っている間に、元のセーラー服に着替えた美咲は試着室の床に積み上がった抜け殻を丸ごと抱えて敢然とレジに向かって行ったのだった。





服の詰まった紙袋を両手にいくつもぶら下げた美咲は、明日は孝司に目に物見せてやるんだから!と意気軒昂に帰路についていった。


遠ざかる後ろ姿をぼんやりと見送っているといつの間に来たのかディー達3人雁首揃えて俺を見つめていて、危うく口から心臓が飛び出るところだった。


「い、居たなら声かけろよ!」


「アッ、す、スミマセン...良い雰囲気そうだったので...!...しかし、ピンク髪のツンデレツインテ美少女とは良い趣味してますなあ。ツインテ×ツンデレは最早王道中の王道属性ですがそれ故にマンネリ化しやすい傾向がですね、......」


オタク野郎をギロリと目で牽制してやると、萎縮して女子勢の後ろに隠れていった。


『本日はアズマショッピングセンターにご来店戴き誠にありがとうございました。只今をもちまして本日の営業は終了と...』


物悲しい音楽と共に閉店の放送が流れてくる。いつの間にか辺りの人出も疎らになっていた。


「...出よう。どこか休める所を探さないとな。」


探索中に分かった事だが、ここらは通貨が俺たちの知っている物とは違うらしい。


休める所と言ったってホテルに泊まったりは出来ないだろう。

幼い子供も居るのにどうしたものか、と思案しながら出入り口の扉に手を掛けたその瞬間眼前がブラックアウトし、気付けば周りはショッピングを楽しむ客で賑わっていいた。


「え...⁉︎」


背後に居たディー達を見遣ると事も無げにキョトンとしている。


手を掛けたままだった扉を引っ張るが開かない。


よくよく手元を見てみると扉は全てただのはめ殺しで、俺は漸くこのショッピングセンターの異質さに気がついたのだった。




一度違和感を感じれば、等閑にしていた瑣末な事が急におかしいと思えてくる。


言語は同じなのに聞いた事も無い通貨、妙に不埒な学生服、そういえばBGMは同じ一曲がずっとループしてなかったか?


ぞっと血の気が引き、思わず走り出した。


何処へとも無く人並みを縫って行く内に3人とは逸れてしまったらしい。

女子供と情け無い男をこの不気味なショッピングセンターに置き去りにしてしまった。


「くそっ...俺がパニクってる場合じゃねーってのに。情けねー...。」


さっきの出入り口まで戻ろう、と踵を返すと、トンという軽い衝撃と共に懐に白い服の女が飛び込んできた。

ピンク色のツインテール。

美咲だ。


「ライっ...、あたし...!」


気の強そうな眦に涙を湛え、声はか細く震えている。


「あたし...っ、振られちゃった...っ」





「......落ち着いたか?」


「...うん...。ごめんね。」


手近なベンチに並んで腰掛けていると、しゃくりあげていた美咲だったが次第に平静を取り戻していく。


俺はこんな時掛けてやるような気の利いた言葉の一つも浮かばず、ただ黙って座っている事しかできなかった。


「...なんで謝んだよ。」


「だって、あんたには色々迷惑かけたし...。...孝司ね、やっぱり高嶺先輩が好きなんだって。あたしの事は大事に思ってくれてるけど、でもそれは妹みたいにって事で、あたしの“好き”とは違ってて...。」


ぽつり、ぽつりと落ちる涙と一緒に、孝司への想いも零れてくる。


「孝司と、最初に会ったのも丁度このベンチでね、迷子になって泣いてたあたしを励ましてくれたの。」


このショッピングセンターの至るところに孝司との思い出が溢れているの、と寂しそうに美咲は語った。


ああ、そういえば、ついさっき...いやそれとも昨日なのか?俺と美咲が知り合ったのも、このベンチだったな。


「...ごめんね、湿っぽい話しちゃった。」


元はと言えば告白を焚き付けたのは他でもない俺なのだ。

返す言葉が浮かばない。


「ねえ、ライはやっぱり、孝司に似てるよ。」


「え?」


「あたしが泣いてると、こうやって泣き止むまでずっと側に居てくれるとことか...今だって必死に言葉を選ぼうとしてくれてる。そんな、優しいとこ。」


俺は、そんな評価を貰える程立派な奴じゃ無いんだ。


不意に、遠くの方から聞き覚えのある声が聞こえた。


「おにいちゃーん!」


ベンチから立ち上がると人ごみの隙間からリィとエルが駆けてくるのが見える。


泣いている美咲を放っておけず座り込んでいたが、元々は逸れた彼女らを探すところだったのだ。


「えれべーたー!あったよ!」


「え⁉︎本当か⁉︎一体どこに...」


大急ぎで俺を迎えに来てくれたのだろう、2人は肩で息をしている。

リィが俺の袖を引っ張った。


「すぐちかく!こっち!はやくっ」


「ライ...⁉︎」


状況を飲み込めていない美咲が目を丸くして

引き留めてくる。


「...わるい、俺、もう行かないと!」


このまままだ立ち直りきっていないであろう美咲を一人置いて行くのは気が引ける。


だが、あくまで最優先はエレベーターなのだ。


「...そっか、4人で探し物してるって...見つかったのね。」


美咲が掴んでいた腕を放した。


グイグイと引っ張るリィに連れられつんのめりながらエレベーターへと向かう。


「ほんと、ごめん!...美咲!いつか絶対、お前の事を1番に想う奴と会えるからさ!だから...っ!」


遠ざかるにつれ美咲の姿は雑踏に紛れ、言葉はどこまで届いただろう。

つっかえた先は何て言いたかったのか、自分でもよく分からない。


「...バカね...振る時のセリフまでそっくりじゃ無くたっていいじゃない。」





リィに引っ張られて着いた先は、始めに何度も何度も確かめた筈のエレベーターホールだった。


最初に俺たちが降り立った丁度真向かいに並ぶエレベーターの一つにディーが陣取って、他の客が乗らないようぺこぺこ頭を下げている。


「アッアッ!ライさん!良かった...!早く乗ってくださいぃ...!」


どうやら警備員まで呼ばれてしまったらしい。

俺たちは慌ただしく乗り込んだ。


「待って!ライー!!」


「美咲...⁉︎」


まさか追いかけてきたのか。

人波に揉まれ髪留が解けるのも厭わずに美咲が駆けてきた。


ドアはもう閉まりかけている。


「ライ!...さよなら!!」


美咲は大きく手を振った。

その表情は晴々として眩く輝いている。


「...!!...おう!なあ、やっぱお前、髪下ろした方が似合ってるよ!」


ああ、良かった。

やっと笑顔を見せてくれたな。


言わなかったけど、俺の選んだワンピースも、お前は恥ずかしがってたけどさ、似合ってるよ。

告白するって大事なシーンに選んでくれたの、ちょっとだけど嬉しいと思ったんだ。

お前は振られて泣いてたのにさ、俺はそんな事を考えてて、最低な奴だよな。



「......さよなら。元気でね。」


エレベーターは、ゆっくり次の階へと登っていく。

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