暗い
そして俺は生まれた。
都会というには少し物寂しい、とある街で、二人の若い男女の間に生を受けた。
色々なことが一気に押し寄せて来た為、死んだ実感も、生まれ変わった実感もあまりない。
男は俺を覗き込んで見て、驚いた。そしてそのままの顔で女に語りかけた
「ヘイタ、この子の脚ムッキムキや」
「あら、そうね。エタ。将来は飛脚にでもなるのかしら」
この親であろう男女が何か言っているがさっぱりわからない、ということは言語をこれから学んでいかなければならないということか。暫くは言語学習に専念しよう。この人生に目的がある訳ではないが、いや、そんなことを言ってしまえば前世の俺だって目的を持っていなかったが、兎に角は、そうだな、友達が欲しい。とはいえ、今の自分に出来ることといえば数える程。
そういえば、『歩行』の能力があったな。試しに使ってみるか。
ええと?念じればいけるか?
お、脚に力がみなぎる感じがするぞ。脚に意識が集中し、感覚が鮮明になっていく。爪先にすら神経が行き届いているかの如く、脳に、脚から足の、形から内までが知覚できる。これは、歩けるかもしれないが、いくらなんでも生まれてすぐ歩く子供なんている訳ない。
ここで歩こうものなら何せおかしい。
試すのは後にしておくか。
日が流れ、弟が生まれた。言葉もある程度わかってきたし、自分の名前や、弟の名前もわかった。
親の名は、父が「エタ」、母が「ヘイタ」。俺は「シュウタ」で、弟は「フルルタ」と名付けられた。(名前の最後に「タ」を付けるのは家名に似たものだと思われる。)
歩くことを不思議がられる歳でも無くなったので、並の子供より少し早くからスキルを使い、歩くようになった。ハイハイした時期もあるが、それは親の前だけで、その時期の親の目が届かない時は普通に歩いていた。
弟が生まれ、すっかり俺はお兄ちゃんになった訳だが、どうやら弟は俺とあまり変わらない大きさらしいのだ。
おかしな話だ。俺は弟より数年程早く生まれ、つい数日前に生まれた弟に身体の大きさが拮抗しているのだ。
いや、おかしいのは弟ではない。俺自身なのだ。生まれてこの方、自分の身体を扱い続けているも、変化が見られない。変化というのは、喋れるようになるだとか、視界がはっきりするようなことではなく、成長のことだ。身体が大きくならないのだ。ただ、つい先程生まれたかのような体型で、とても赤子の成長速度ではない。弟が生まれてからはこのことが深刻に思えるようになっていて、どうしてこうなっているのかと考えるにあたり、始めに除いた推測が頭から離れない。
私は不老不死になったのだ。
不老不死とは、「老いない」「死なない」というだけで、「成長しない」なんてことはないはずだ。これも所詮憶測に過ぎないことだが。
親は、このことを不思議がってはいるのだろうが、実に楽観的で、ただ普通に自分を一人の子供として扱った。
弟は育っていった。自分は、。
弟が学校へ行くようになった。色々教えて貰ったのだろう。学校で見聞きしたこと、全部話すのか思うほど親に長く話していた。明るい性格は親に似たのだろう。聞こえてくる話の内容もまさに良い日々を送っているのだろうと思わせるものばかりだ。
一方俺はこの身体の為なのか、学校へは通わせて貰えない。少し考えてみればそれもそうで、いくら言葉が話せて歩けても身体は非常に弱い。生まれたての身体を持つ子供を一人で外に出す親はいない。
一日中家で過ごす日が続き、外の景色すら忘れてしまった。いつ日からか、ほとんどが睡眠で一日が終わるようになっていた。
眠たいという訳ではない。ただ、この現実を受け入れたくなくて、目を逸らしているだけだ。
きっと寝ることが出来なければ、俺の精神は壊れていただろう。
今日も暫く眠ることにしよう。




