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殺戮魔人の冒険譚 ~仇探しのついでに仕事を始めた結果、周囲から一目置かれるようになっていました~  作者: シノヤン
パート5:追憶と対峙

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第99話 細かい事は気にするな

「そうか…分かった。手筈通りにやれ」


 部下と連絡を取り、何やら不穏な指示を出してからザガンは携帯電話を切った。


「どうした ?」


 だだっ広い空間を見渡しながらベクターが話しかける。


「いや、気にするな」

「そうかい。ところでここは ?」

「訓練やテストに使うために作った。まあ屋内実験場だ」


 ベクターと二人で訪れていたその場所は、戦闘訓練や兵器の運用テストにも使用される場所であった。格納庫やガレージを彷彿とさせる無機質な直方体の空間は、床をコンクリートで補強してある。そして壁や天井は分厚い鋼鉄によって覆われていた。


「ほお。だが、どうしたって急に…おっと…」


 こんな物騒な所へ連れ込んで一体に何をする気なのかとベクターは疑問に感じ、振り返りながらザガンに尋ねようとした時だった。どこからか取り出したらしい鉄球を握りしめていたザガンだったが、その鉄球が突然変形を始める。


 液体の様に溶け出してはいるが、決して床に垂れることなくアメーバの様に蠢き、やがてスラッとした細身の刀身を持つ刀へと変貌した。質量保存の法則という観点から見てあり得るのかはいささか疑問だったが、彼女が自分に殺意を向けている事だけは良く分かる。


「粗末な武器だな」


 ベクターは罵った。


「…ムラセとかいうお前の連れがいただろ」

「ああ」

「脱走した被検体と行動を共にしているそうだ」


 知らせを聞いたベクターは一瞬固まったが、何事も無かったかのようにとぼけた顔で取り繕う。ザガンは続けざまに携帯電話の画面を表示し、どこからか撮影したらしい写真を見せた。ムラセが立ち塞がる背後で、慌てふためいている様子の人影が二つある。さらにその背後にはフロントがボロボロになった車があった。間違いなくセドリックに調達させた物である。


「…あ~…その、あれだ」


 脳内で言葉を必死に選びながらベクターは口を開く。


「世界には自分とそっくりな人間が三人…いや、もっといるかもとか言うだろ ? ましてや他人がやってるなら自分も~みたいな右向け右の精神持ってる奴ばかりなんだ。髪型やら顔の整え方を真似してる奴がいても不思議じゃない。ああいう連中って他の奴らと同じもの持ってる事をなぜか誇りたがるからな」

「他人の空似だと言いたいのか ?だがどう見てもこいつは半魔で─」

「絶対空似だ。間違いない…大体、俺以外の奴らは家で留守番してるんだぜ ? それに接点も無い奴のために体張る義理なんてないだろ。それとも何だ ? 大事なビジネスパートナー様を疑うのか ?」


 目が行き届いていないせいで事情を知る事すらできないベクターは、アドリブを入れるのはやめて欲しいとムラセへ不満を溜めつつ弁明に勤しむ。そっくりな容姿をしている半魔であるという時点でほぼクロといっても差し支えないのだが、もしかすれば気のせいかもしれないと思い込ませることが出来るのではないかと希望を捨てられない。そんな事で騙せるような相手であれば、それはそれで心配になるが手段は選んでられなかった。


「…まあいい。現地に向かった連中の報告を待つしかあるまい」


 露骨に間を空けてから、面倒くさそうにザガンが返事をした。事態の対処に追われる事を嫌がっているのではない。自身の目の前で必死にしらを切り続けようとするベクターとの問答に時間を割く事そのものが無駄だと彼女は判断していたのである。このベクターという男は下手な言い訳を捲し立て続け、相手が折れるのを待ち、その癖何も言わなくなったら喜ぶような幼稚で卑屈な性質の持ち主なのだろう。少なくとも後先の事を考えられるタイプではない。


 そう考えたザガンは脱走した被検体やそれに協力するムラセを捕らえ、追い詰めた上でまとめて白状させてやると決めていた。しかし次の瞬間、辺りが震えているのではないかと思わせるほどの警報が鳴り響く。


『緊急連絡。サーバールームへの不正な侵入を検知。担当の職員及び行動可能な兵士はただちに急行せよ。なお、銃器ならびに能力の使用は許可されている』


 ああ、やっぱりしでかしやがったあのボンクラ共。叫びたくなる程の苛立ちをベクターは堪えてから、声には出さず別動隊であるジョージ達を罵った。いや、恐らく普段の素行からしてジョージではないだろう。ましてや堅物そうなシアルド・インダストリーズの面々でも無い筈である。ムラセも考えられたが、先程ザガンがくれた情報からして恐らくこの施設の中にはいない。


 いや、一人いる。イマイチ危機感を持とうとせず、隙あらば調子に乗ってやらかしそうな者が一人彼らに同行していた。他の連中がやりたがらなかったからといって、なぜあんな目立ちたがり屋の馬鹿を向かわせてしまったのか。ベクターは自分の無能さと先見性の無さを呪った。


「監視カメラの復旧はまだか ? 分かった…もういい、私が行く」


 ふと見れば、ザガンがまた携帯電話を取り出して誰かと通話をしている。


「警報の通りだ。お前もついて来い。因みに聞くがこの件について心当たりはあるか ?」

「いや、全く」

「そうか。なら行くぞ…こっちだ」


 通話が終わるとザガンは尋ねるが、悪びれることなくベクターは嘘をついて乗り切ろうとする。そして背を向けて歩き出したザガンを前に今後取るべき行動について考える。


 このまま素直に向かった所で他の仲間達と鉢合うのがオチである。他人の振りをし続ける事に限界があるのは勿論だが、万が一にも戦闘によってアーサー達の身元が割れてしまえばシアルド・インダストリーズにとってそれ以上の不幸は無いだろう。つまりここで自分が足止めするなりして騒ぎを起こし、彼らの方へ向かう戦力を割くしかない。


「…行けそうか ?」


 ベクターは聞こえないような小さな囁きと共に左腕に目を向ける。その語り掛けに呼応するようにレクイエムは発光していた。出発する前に万が一の事に備えて魔力を補給させておきたいと、リリスやイフリートに頼み込んで血液を拝借して左腕に吸わせた甲斐があったとベクターは安堵し、心に少し余裕が生まれる。


「…”殲滅衝破ジェノサイド・ブラスト”だ」


 再び小さく呟き、レクイエムの形態を変化させてから急ぎ足で歩いているザガンの方へと静かに構えた。彼女は背を向けているせいか、まだこちら側の意図に気づいていない。そして振り向かれるより前に最大出力で光線を発射すると、強烈な爆風が吹き荒れると同時に何かが砕け散り、辺りに散らばる様な音が響き渡った。


 レクイエムの形態を元に戻しながらベクターは煙の上がっている周囲を確認する。光線が通った跡には床が抉り取られた様に吹き飛んでおり、付近に残骸が散らばっている。


「…なんてこった」


 だが、その射線上に佇んでいる影を見たベクターは思わず声に出してしまった。先程まで持っていた刀を盾状に変形させ、攻撃から身を守っていたらしいザガンが首を鳴らしながら防御する姿勢を解いていたのである。


「小賢しいやつめ…」


 これまで見た事がない程に怒りを露にしながらザガンが睨みつけてくる。まだ手の内を少し読まれただけではあるものの、レクイエムによる攻撃を耐えきった彼女の頑強さを前にして、ベクターは苦笑いを浮かべながら内心では戦慄していた。

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