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殺戮魔人の冒険譚 ~仇探しのついでに仕事を始めた結果、周囲から一目置かれるようになっていました~  作者: シノヤン
パート5:追憶と対峙

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第97話 生贄

「何だそれ ?」


 実験場に入ったベクターだが、ザガンが片手に紙袋をぶら下げてる事が非常に気になっていた。


「貴様には関係ない」


 ザガンは不愛想に振る舞い、近くにいた職員へその紙袋を渡して歩き出す。白衣を着た者達や、危険な仕事する羽目になったらしい防護服姿の作業員があちこちを出歩いている。そしてもれなく武装した兵士が随所に佇み、怪しい動きが無いか目を光らせていた。


「ザガン様…えっと、そちらにいるのは…」


 殺風景な通路の向こう側から銃を持った兵士が現れると、彼女を呼び止めて敬礼をする。


「ベクターで構わない。今後世話になるかもしれないんで宜しく」

「はぁ…しかし、申し訳ありませんが部外者による私物の持ち込みは原則として――」


 握手を求めながらベクターは挨拶をしたが、兵士は彼が背負っているオベリスクや左腕の事が気になって仕方がないらしく、申し訳なさそうに忠告をして来る。


「必要な時は私が始末する。それより脱走した被検体はどうなった ?」

「はい。体内に埋め込んでいる発信機を頼りに追跡をさせていますが、共謀者がいる可能性が高いです。脱走が発覚する直前から監視システムに障害が発生し、今も復旧が出来ていない状態が続いています…物理的な損傷を加えられていたと」


 ザガンの質問に対して、気を取り直した兵士は落ち着き払った声で冷静に現状を伝える。一方でベクターは他の面々がどこまで来ているのか、それとも一仕事終えた後なのかを情報の中から探り当てようと必死になっていた。


 被検体の脱走の共謀者が身内である可能性は低い。ある程度の情報を手に入れるまでは施設の全体像を把握する事さえ苦労していたというのに、どうやって内部で監視されている人物と手を組めるというのか。さらに脱走したのが一人というのも腑に落ちない。もし攪乱のために止む無く行うのであれば、パニックに陥れるためにも頭数は多い方が良い。脱走だけではなく、恨みを晴らす目的の下で暴動も起こしてくれる。


 つまり何者かが一人の脱走者のために協力し、自分達が訪れる日に限ってシステムを故障させて逃走の手引きをしたという事になる。だがこれはこれで飛躍のし過ぎではないかと疑ってしまい、結局振出しに戻ってしまった。やはり自分に黙って仲間内の誰かが事を進めていた可能性も捨てきれない。


「…おい、ボサッとするな」

「え…ああ、悪い悪い。えっと、何だっけ ?」


 険しい顔をしていたベクターだが、ザガンに急かされて我に返る。


「モニタールームに向かうついでだ。研究の一部を見せてやる…ついて来い」


 そのまま連れていかれた先には、無数のモニターとそれらを険しそうに見つめている頭の堅そうな学者連中が屯していた。そこから先にある別の扉からは警備を行っているらしい兵士が出入りしている。チラリと見えた部屋の風景からして、監視用の部屋と観察用の部屋を分けているらしかった。


「この部屋から実験の観察と現場への指示を行っている」


 部屋の壁に取り付けられている巨大なモニターの前に立ち、報告書を手渡されながらザガンが説明をする。


「具体的には何やってるんだ ?」


 せっかくだし見てみたくなったのか、ベクターは物欲しそうに尋ねた。


「そうだな…第一実験室を見せてくれ」

「分かりました」


 ザガンがモニターの前に座っている監視員に頼むと、監視院は嫌な顔をする事なくスイッチを押してどこかの殺風景な部屋をモニターに写した。台の上にベルトで固定されたデーモンが写っており、眠っているのか目を閉じている。


「解剖か ?」

「残念だが、とっくの昔にもうやった。あれは召喚機で魔界から呼び寄せたスプリンターだ。そいつを生け捕りにして眠らせてある」

「生け捕りか。骨が折れそうだ」


 何をするつもりなのか当てずっぽうで物を言うベクターだが、ザガンはそんな物はとっくに終了した段階であることを告げる。そして、モニターに映っているデーモンの入手経路を説明し出した。


「まあ、殺すのとはわけが違うからな…私も協力している。この間はかなりの大物を捕らえたぞ。最重要機密扱いだが」


 召喚機によって実験に使うモルモットとしてデーモンを調達し、尚且つ自身も手伝っている事についても語られるが、それよりも何を今から始める気なのかがベクターは気になって仕方がなかった。


「ほぉ~、最高機密ね。時間がある時に見てみたいもんだ…ん ?」


 ベクターが反応を示していた時、モニターに人影が入り込む。何やら必死に藻掻いている女性を何人かが抑えつけながら連れてきており、彼らの傍らにはリゾートで遭遇したコウジロウの私兵と同じ装備を身に着けている人物もいた。


「…あれは ?」


 泣き叫びながら部屋に連れて来られている女性を見たベクターが言った。


「実験場と併設している収容所から連れて来た…まあ実験台だな」

「おいおい人権を大事にしてやれよ。で、今から何をするんだ ? まさか、餌の時間ってやつか ? 」

「交配だ」


 実験台扱いをする彼女の言葉に、ベクターは公に出来ない秘蔵の実験場なだけあると思いながら軽い気持ちで質問をする。だが、自身の想像を悪い意味で上回った様な返答を耳にすると、ヘラヘラと笑っていた自分の表情が凍りついた事をハッキリと感じた。


「…は ?」


 自分の聞き間違いだろうか。ベクターはもう一度聞き返そうとするが、モニターの方から声が聞こえて来た。実験の記録を取り始めているらしく、拘束して昏睡状態に陥っているデーモンに興奮剤やフェロモンを投与し、被検体との経過を観察すると口頭で日付と共に宣言していた。


「見ての通り…」


 ベクターが反応するより先にザガンが口を開く。


「召喚機によってデーモンを呼び出し使役するというのはいささか骨が折れる。それならば人間でありながら、デーモンの持つ能力を使用できる存在…つまり半魔を作れば良いというわけだ。元々は血液を人間に投与し、後天的に変異を促す事で半魔を生み出そうとしていたが、例外を除いて上手くいかなくてな…遺伝子そのものを先天的な要因で作り変える事にしたらしい。だからこうなった」


 目が覚めて興奮状態にあるスプリンターが被検体に襲い掛かる姿を眺めながら、ザガンがこの様な実験を行うようになった経緯を伝える。ベクターは非常に気まずい心持で、モニターに映し出されている異常な光景を眺めていた。


「なあ、自分達とは何もかもが全く違う生物相手に○○〇〇するってどういう気持ちなんだ ? ズーフィリアの集まりなのか、デーモンってのは」


 ベクターはふと襲う側は何を考えているのだろうかと疑問を抱いたらしく、ザガンに対して他愛も無い質問を投げかける。


「やろうと思えば人間に擬態も出来るしな。擬態している相手と性交していると思い込んでるのかもしれんが…まあ、あまり深く考えた事はない。いずれにせよ、この実験のおかげで収容している半魔の個体数もかなり増えている。最近はもっぱら、半魔同士で交配をさせている事の方が多いぐらいだ。脱走した被検体も交配実験によって身籠っていたらしい」


 ザガンも想定していなかった質問に対して若干狼狽え、曖昧な答えと共に別の話題へと移っていく。


「他にはどんな実験をやっている ? 」

「治癒力がどの程度の物かを調べるために肉体へ損傷を与えるテストや戦闘訓練など色々だな…いずれにせよ表沙汰には出来ん」

「だと思った」

「…随分冷静だな」

「だって俺がされるわけじゃねえもの」


 その他の実験について会話をしていた所、兵士が監視用のモニタールームへ来て欲しいと呼びかける。そのまま二人で向かった先の部屋は先程の部屋と比べて少々小さ目ではあったが、施設全体に設置されているカメラやセンサーを随一でチェックできるように多様な機材が用意されていた。勿論、監視カメラの映像を映し出すモニターも大量に設置されている。


「何があった ?」


 ザガンが兵士の一人に尋ねた。


「発信機の追跡をしていた所、移動速度からして自動車に乗っている可能性が高いようです。ハヤト様が半魔兵を引き連れて現場に向かっています」

「任せて大丈夫なのか ? 前も脱走した被検体を殺してしまっただろ」

「我々としてもザガン様に向かって頂いた方が良かったのですが…どうも焦っているようで。そこにいる男が会長と手を組むかもしれないという話が出たせいでしょう。このまま手柄も無いんじゃ捨てられるかも、とか思ったんじゃないですか ?」


 ザガンと兵士が現状について話し合っている傍ら、どうでも良さそうにベクターは耳を傾けつつ近くの机に置いてあったキャラメルを勝手に取って食べ始めた。事情を大して知らない彼からして見れば、被検体が捕まろうが逃げ切ろうが知った事では無く、故に気に掛ける必要性もない。この脱走が引き金となって自分が大事件を引き起こす事になるとはまだ知る由も無く、ベクターは話半分に兵士達の会話を聞き続けながら勝手にコーヒーまで飲み始めた。

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