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殺戮魔人の冒険譚 ~仇探しのついでに仕事を始めた結果、周囲から一目置かれるようになっていました~  作者: シノヤン
パート5:追憶と対峙

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第94話 グレイル

 話を遡る事三十分前、ベクター達は今回の視察における最初の目的地に到着していた。


「こちらです」


 ベクターを車から降ろし、コウジロウが案内した先にあったのはハイドリートの中央にそびえ立っている摩天楼だった。螺旋状の形をした階層が積み上げられ、タワー全体が明るい電飾で輝いている。


「観光したいわけじゃないんだが」

「勿論、存じています…来ていただければ分かるかと」


 不思議そうにするベクターにコウジロウはひとまずついて来て欲しいと頼んでから歩き出す。懐疑的な眼差しを向けつつ、ベクターが武器ケースからオベリスクを取り出して背負おうとした時、ザガンがその腕を掴んで引き留めた。


「念のためこちらで預かっておく。内部で暴れられても困るんでな」

「俺を嵌めようとしている可能性も否定できないんだ。こっちは孤立無援…これぐらい良いだろ ? 使わせる様なマネしなきゃ大人しくしてるさ」

「あのな…」


 思わず怯みそうな程の気迫を感じるものの、ベクターも抵抗するように自分の腕を掴んでいる彼女の手を掴み返し、力ずくで引き離してから反論をする。何か言い返そうとしたザガンだったが、「それぐらいなら構わない」と寛大な態度をコウジロウが取った事で最終的には渋々食い下がる。


「しかし…まず最初に魔具が見たいとは意外ですな」


 非常に広いエントランスへ入った時、コウジロウがなぜ実験場ではなく魔具が先なのかを尋ねて来た。


「ああ、計画の要らしいからな。どんなものなのか見ておきたい。それに俺の左腕のコイツと関りがあるのなら猶更だ。何か新しい発見があるかもしれないぜ ? ほら…化学反応 ?みたいな」


 なんて、本気で思ってるわけ無いだろ。ベクターはそう思いつつ、自身の頭の中で考え着く限りで意識が高いと思われそうな理由を付け足してみる。レクイエムをチラつかせて彼が話している傍ら、ザガンはそれを冷めた目で眺めていた。そんな彼女へも笑いながら様子を窺うが、同時にベクターは彼女の言動に随一目を光らせる。コウジロウに従っている者達の中で一番警戒をしなければならないのがザガンであるという事を、彼はアーサーから忠告として聞かされていた。


 自分達が実験場に向かうとなれば確実に警戒態勢に入られてしまう。そうなってしまえば、データを盗みに行っている別動隊にとって確実に不利である。それならば、少しでも警備が厳重になっていないタイミングを狙うしかない。それ故に実験場の前に魔具の視察をしたいと申し出てザガンと行動を共にする。そして実験場から遠ざけてしまおうというのが今回の計画であった。


 自分の視察と別働隊が侵入する日時を別々にすることも出来たが、例外を除いてザガンは実験場に常駐しているという話が確かであれば、場合によっては彼女に鉢合わせてしまう可能性が高い。侵入にあたっての経路といい、アーサーがどのようにしてそんな情報を得たのかは知らないが、なるべく交戦を避けたいのであればザガンが実験場にいないタイミングに限る。自分の目の届く範囲にいれば彼女の行動をある程度は抑止できるかもしれない。


 いずれにせよ、彼女に出張られたらマズいという考えが前提にあったベクターだが、ここに来て本当に手強いのか根拠も無いのに疑念が湧いてしまう。それほどまでに手強い相手なのだろうかと、もう一度だけ彼女の方へ顔を向ける。


「どうした。気色悪いぞ」


 そんなベクターが抱える疑念など知る由も無いのか、目が合った直後にあしらわれてしまった。


「んだと、別に――」

「さあさあ、こちらです」

 

 ベクターが言い返しかけた時、コウジロウがエレベーターの方へと導いてくれた。大人しく乗り込み、上に挙がっていくエレベーターから夜景を一望していいる内にとある階でエレベーターが停まる。しかしどの階にもランプは灯っていなかった。


「私が許可を出さない限り、誰も立ち入れないよう設定されてあります。このタワーそのものが魔具のために用意されているというわけです」


 薄暗い部屋に入っていきながら説明をするコウジロウの後をベクターは追いかける。何やら床や壁にもケーブルが張り巡らされ、その全てが部屋の中央に佇んでいる頑丈そうなカプセルへと繋がっている。そしてその中では、宙に浮いたまま紫色の稲妻を放っている岩の様な物体があった。レクイエム同様に鈍い光を放っており、小さい管の様な物が無数に垂れ下がっている。


「…っ ! 」


 突然、ベクターの心臓に痛みが走った。何かに鷲掴みにされている様な苦しさと、杭を打ち込まれたかのような鋭い痛みが延々と襲い掛かる。視界も僅かにぼやけかと思えば、何か強烈な光でも浴びせられたかのように眩んでしまった。


「平気か ?」

「ああ…大丈夫だ。とうとう健康を気遣う歳になっちまったか」


 心配しているようには見えない程に冷静な声でザガンは確認をしていくる。ベクターも軽口を叩いてから一息ついたが、本音としてはかなり驚いていた。想像を絶する苦痛だったのは確かだが、初めて味わった体験というわけでは無い。恐る恐る左腕を見ると、レクイエムも強烈に光り、そして稲妻を発している。それに呼応するように保管されている魔具らしき物も、さらに強い光を放ち続けていた。


「実に興味深いですな。呼応でもしたかのようだ」

「ハハ…ほら、面白い事が起こったろ ? ちょっと予想外だったが…魔具ってのはこれか ?」


 ベクターの容態もそっちのけでコウジロウが感想を言うと、投げやりな態度でベクターも質問をする。


「その通り。詳しい説明をしたい所ですが…もう一人、あなたにお会いさせたい方がいまして」


 コウジロウが頷きながら話をしていた時、肩の近くで蠅が飛んでいる事にベクターは気づく。手で払おうとしていたが中々しぶとく、挑発するように躱されている内にもう一匹現れた。


「ゴミの片付けちゃんとしてるのか ?」


 どんどん増えて来た蠅を煩わしそうに追い払おうとするベクターだが、数だけの問題ではなく、とうとう蠅以外の虫さえも辺りを飛び交うか、湧き出ているかのように地面から現れ始める。やがてそれら一つにまとまって行き、人型の塊を形成すると蠢く塊の中からベルゼブブが現れた。


「悪い悪い、野暮用でな…ど~も。きみがベクター君だね ? 話に聞いてたよ」


 素足でペタペタと歩き、ベクターへ近づいてからベルゼブブは話しかける。臭かった。


「何だこの薄汚いホームレスもどき」

「ベルゼブブだ…」


 ベクターが罵倒しながら尋ねると、ザガンが面倒くさがりながら答える。


「嘘だろ、こいつが ?」


 自身と同棲している二人のデーモンからして、人間に擬態できるだけの強力且つ高い知性を有している個体はそれなりに整った風貌をしているのだろう。そう思っていた自分の視野の狭さをベクターは認識する事となってしまった。なぜ寄りにもよってこんな見た目に変身しているのかが理解できない。


「レクイエム以外の魔具をご覧になった感想は ? なんてな。俺がこいつを見つけて…くれてやったんだ。そこにいる爺さんに」


 ベルゼブブは少し得意気に言いながらコウジロウを見る。お辞儀をするコウジロウだったが、心なしか萎縮しているようにも思えた。


「そうかい。で、コイツの名前は ? 」

「"グレイル"と魔界では呼ばれていた。手にした者は強大な魔力を肉体に宿せるそうだ。まあ、これまで試した奴は耐えられずに皆死んだけどな…ハハハ」


 気分の悪さがだいぶ収まって来たらしいベクターが魔具を見てから質問をする。ベルゼブブは魔具の名前と、それに纏わる噂を披露してから堪え切れなくなって笑い出す。


「つくづく恐ろしいもん世に出してくれたぜ…なあ、ザガン」


 更に続けて言いながらベルゼブブが振り返る。いきなり話を振って来た彼や興味深そうに見てくるベクターに対し、ザガンはバツが悪そうに目を逸らした。

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