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殺戮魔人の冒険譚 ~仇探しのついでに仕事を始めた結果、周囲から一目置かれるようになっていました~  作者: シノヤン
パート5:追憶と対峙

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第82話 フェアに行こう

「”再臨” ? 御大層な名前だな」


 ベクターはせせら笑ってからコウジロウが発した興味深い単語を復唱する。


「ですが、その御大層な名前を持つ計画に惹かれ、協力を申し出る者が後を絶たないというのも事実。このハイドリートはそのための資金を集める手段…仮の姿にすぎません。私はその計画とシェルターの管理を任されているというわけです」

「…一体この場所で何をやっている ?」

「平たく言えば生物兵器の開発です。細胞の移植によって後天的に突然変異を促し、半魔へと作り変える技術が我々の主導によって成熟しつつあります。勿論、それ以外の方法による繁殖も行っていますがね」


 コウジロウは自慢げに語るが、所々から滲み出る不穏さにベクターは僅かに鳥肌が立つような思いをした。それ以外の方法による繁殖という言葉に、言い様の無い胸糞悪さを彼は感じる。


「ムラセ殿…あなたの様に世界各地で発見された半魔が、今後のデーモン狩りにおいて重要な位置を占める事となる」

「わ、私がですか ?」

「ええ。これまで人類は兵装の開発によってデーモンへ対抗しようと躍起になっていましたが、”再臨”はさらに根本的な問題の解決に向けて行っている計画です。屈強且つ意思疎通も容易な半魔が兵士として台頭する事で、彼らの膂力を前提にした強力な武器の携行も出来る…結果的に人的資源の浪費や被害も少なくて済むようになるというわけです。私の息子であるハヤトと戦った貴方なら、半魔という存在がいかに強力な武器となるか理解出来た事でしょう」

 

 戸惑うムラセにコウジロウは自分達が進めている計画の将来性と半魔の持つ潜在能力への期待を語るが、相変わらずベクターの顔は険しいままだった。彼の発言は全貌が分からない上に気掛かりな点が多すぎたのである。


「計画の管理にシェルターの運営までアンタ一人がやってるのか ? 特定の場所や人間にリソースを集中させる事、その危険性を知らんわけじゃあるまい…よっぽど企業の連中に信頼されてるんだな」

「信頼をされてるのではなく、計画を行うにあたって彼らは私に頼るしか方法が無いのです。なぜだか分かりますか ?」


 そこまで大がかりな事案だというのに、企業側がなぜこの老人にだけ任せているのかがベクターは理解できなかった。尋ねて来た彼に対して、コウジロウは再び口角を上げて語り掛ける。


「オルディウスというデーモンが作り上げた魔具ですよ。あなたの左腕として使われているレクイエムを含めた三つの魔具…そのうちの一つを私は持っている。それがある限り、彼らは私を切り捨てる事が出来ないというわけです。何しろ”再臨”は、その魔具のおかげで成り立っている様なものですから」


 コウジロウの告白にベクターだけではなく、リリスやイフリートも反応した。驚く彼らの様子を眺めていたコウジロウは再び茶を啜る。


「さて…私ばかりが答えるというのもいささか不公平では ? 」

「今度はこっちが質問に答えろと ? 俺達の事を既に調べ上げてるって言ったのはアンタだぜ」


 なぜか話題を変え始めたコウジロウに対して、ちょうど良い所で話を打ち切られたベクターが不愉快そうに言い返す。


「質問ではなく頼み事です……私と組む気はありませんか ?」


 コウジロウは少しだけ前に屈み、ベクターの目を見ながら問いかけて来た。


「どういう事だ ?」

「私は半魔だけでなく魔具の研究も同時に行っています。あなたの左腕に宿っているレクイエムは大変興味深い事例…もっと深く調べ上げてみたい。私自身、狙われる事も多い身ですし、用心棒となってくれる人材が多いに越した事はない。皆様の実力は監視カメラ越しに十分堪能させていただきましたから…どうです ? 前金だけではありません。計画が上手く行った暁には、そこに関連する権利によって生まれる利益から分け前もご用意します。当然、あなた方が欲しい情報も提供しましょう」


 コウジロウの言葉に対し、ベクターは沈黙をしたまま他の仲間達の様子を見た。やはり罠を警戒しているせいか全員が不安を隠しきれておらず、険しい顔をしたまま彼と目を合わせる。


「もし、嫌だと言ったら――」

「こちらへいらしていない御友人二名についても、私は把握済みです…勿論、彼らが今どこにいるのかも」

「そ、それって…」


 ベクターの質問へ先回りするかのようにコウジロウがタルマン達へ言及すると、胸騒ぎがしたらしいムラセが呟いた。そんな彼女へ正解だと言わんばかりに、コウジロウは視線を送ってから再びベクターの方を見つめ直す。


「簡単な事です。あなたが首を縦に振れば穏便に済むのですから…出来ないのであれば、彼らとの再会は諦めた方が良いかもしれない」

「さっきから思っていたが、アンタはどこでそんな情報を手に入れてる ? 」

「言ったでしょう。情報に目を光らせなければならない立場だと…このシェルターには目や耳となってくださっている方々が非常に多いもので。タルマン・ルベンス殿にジョージ・オコーネル殿…彼らについても協力者から情報を頂いている」


 ブラフかもしれないとベクターは質問をし返すが、コウジロウは一切余裕を崩さずに答えた。彼らの本名まで飛び出した事で僅かにベクターも同様を隠しきれず、少しだけ目が泳いだ上に眉がピクリと動いてしまう。


「殺し屋でも送り込んだか ? 俺達ほどじゃないが、並の連中じゃ手を焼くと思うぞ」

「数名程ですが既に手配済みです。その全員がホテルや敷地内にいた半魔と同程度の実力と見ていい。あなた方にしてみれば大したことはないかもしれませんが、彼らはどうでしょうか…」


 案の定、ベクターの想定をコウジロウは認めた後に脅しをかけてくる。タルマンとジョージに関しては、身体的な実力で言えばここにいる者よりもはるかに劣っている。二人の身を案じたムラセ、リリス、イフリートの三人は、一旦引き受ける姿勢でも見せた方が良いかもしれないとベクターの反応を再び窺うが、彼の態度は更に予想外なものであった。


「……何か、聞いて安心したよ。そんなもんかってさ」


 ベクターは一気に体の力を抜いてからソファの背にもたれ掛かる。そしてなぜか不敵な様子で喋り、コウジロウとザガンに向かって余裕の表れとして一度だけほくそ笑んだ。

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