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殺戮魔人の冒険譚 ~仇探しのついでに仕事を始めた結果、周囲から一目置かれるようになっていました~  作者: シノヤン
パート4:浸食

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第80話 上には上がいる

「ハゲのおじさんバイバ~イ ! 」


 無事にホテルの玄関までイフリートに案内された少女は、手を振った後にベクターといた二人の男女に連れられてその場から避難をする。


「くくっ…ハゲのおじさんって…」

「ハゲじゃない。スキンヘッドだ」


 イフリートに付けられたあだ名をベクターは小馬鹿にする様に復唱したが、そんな彼の頭を叩きながらイフリートは訂正した。


「人間への擬態って見た目も変えられるんだろ ? 何でそんな頭にしたんだ」

「いや、能力でも無ければこの姿から変える事は出来ん…それに俺は気に入ってる」


 ふとした疑問をベクターが投げかけると、イフリートも解説をしてから頭を撫でていた。それなら洗面台の戸棚になぜ育毛剤があったのかと問い詰めたかったが、次はグーで殴られるかもしれないとベクターは敢えて黙る。


「悔いが無いなら結構…それよりムラセだ。リリスが向かったと言ってたが」

「ああ。恐らく小娘は大丈夫だろう。問題があるとすれば、相手が例のシライシとかいう奴じゃない事を祈る他あるまい」


 話題を変え、自分たち以外の仲間の状況についてベクターは尋ねる。ムラセの事はリリスに任せておけば良いだろうと信頼を寄せているらしいが、それと同時にイフリートは不安要素について言及した。


「何でだ ?」

「事によっては死ぬか、まともに喋る事すら出来なくなるからだ。急ごう」

「…はいよ」


 不思議そうにするベクターに対して、何やら物騒な発言をしながらイフリートは急かす。自分達も向かうべきだとは感じていたらしいベクターも彼と共にフードエリアへ向かい出した。




 ――――シライシが攻撃を行う度、リリスはそれを躱して彼の体にパンチを叩き込んだ。肉体の強化による攻撃の加速とそれによって生じる破壊力は彼を覆っている金属の鎧に易々とヒビや陥没を作っていく。変な小細工などは行わず、真正面から迎撃を行う彼女の顔は涼しいものであった。


「グッ…‼」


 リリスによって再びパンチを躱された直後、シライシの顎にパンチが食い込んだ。顎と歯が少々砕け、口を切ったせいか口内は血の味で満たされる。思わず唸って跪くシライシだが、そんな彼をリリスは一度として追撃しようとはしなかった。ひたすら見下すようにして待ち続けている。


 彼女の目的としては戦闘不能にする事であり、殺すつもりなど無い。そのついでとして「その気になればお前程度なんざいつでも殺せる」という、格の違いを見せつける意味も含まれていた。


「すっご…」


 傷の痛みが引き始め、先程に比べれば体を動かす事を億劫に感じなくなったムラセは、体を少し動かして彼らの方を眺める。そして小さく声を出した。ついさっきまで強大に見えていたシライシが、今や虚勢を張るばかりですっかり怯えを垣間見せている。さらに自分が能力を行使した時の様な稲妻がリリスには一切迸ってない。あれですらまだ全力ではないという事実に、彼女は心底震え上がっていた。


「立ち上がるの遅くなってるぞ~」


 何度目かすら分からないダウンを喫したシライシが立ち上がった時、リリスは待たせないでくれと言いたげな発言をする。


「ふざけんなよ…聞いてねえぞこんなの… !」

「良いから来いよ。それとも何、自分より弱いヤツとしか戦いたくないの ? さっきから思ってたけどアンタ、有利だと分かった奴にだけ全力でマウント取るタイプでしょ 」

「んだと…⁉」


 確実に来ると分かった反撃を恐れ、シライシが中々こちらへ攻めて来なくなった事に耐えかねたリリスが煽り出す。思い当たる節があるのかシライシも苛立ちながら反応した。


「虐められる奴も悪いとか問題あるとかって言葉が未だに支持されるけど、なんでかな~ってずっと思ってた。ようやく理解したわ…アンタみたいな奴をぶっ潰すたための免罪符だったわけだ」

「……黙れ」


 リリスが立て続けに喋っていた時、何かがの琴線に触れたらしく唐突に呟きが聞こえた。シライシの顔はみるみる歪み、強烈な憎悪を彼女に向けている。


「ん ? 最近耳が遠くてさ、もっとデカい声で言ってくんない ? 」

「黙れええええええ‼」


 ようやく釣れたとリリスは歓喜し、ダメ押しと言わんばかりに彼を嘲笑う。猛ったシライシはヤケクソ気味に突撃してくるが、そんな彼を前にしてもなぜか退くどころか避ける動作すらリリスは見せようとしない。


「やっぱ終わろっか、飽きたし」


 息を吐く様に呟き、シライシの体が目と鼻の先にまで到達しようとしていた瞬間に彼女は掌を彼の腹の真ん中へ当てる。掌底打ちのように激しいものではなく、シライシ本人でさえ気づかない程に静かな感触であった。


「死なせないけど、地獄見るよ」


 声が聞こえた直後にシライシの体へ強烈な衝撃が走る。腹の奥底から吐き気や息苦しさが込み上げ、思わず吐血した。それと同時に腹部から鈍痛が生じ、一気に体全体へ広がっていく。脳震盪まで起きたらしく、その痛みや朦朧とし始めた意識のせいでシライシは立ち姿を保つのもやっとである。攻撃によって吹き飛ばされたわけでも無く、体が傷ついているわけでも無い。何が起きたのかさえ把握できていなかった。


「行くよ」


 髪や顔に付いた彼の血を拭い、リリスは再び呟いた。拳を握りしめ、まともに抵抗も出来なくなっている彼の脇腹へ勢いよくめり込ませる。肝臓が壊れたと、リリスは手応えで感じ取った。見た所半魔であり、常人に比べてタフではあるが死なせてはならない事は承知である。しかし逆に言えば、殺さない程度には何をしても良いと彼女は解釈していた。


 怯んで後ろへ退こうとした彼の動作に気づき、リリスは高速移動を行って背中を取る。そして次は背骨に向かって膝蹴りを入れた。体中を金属で覆っているというのに、彼の背中や腹にはムラセが付けた物以上に明確な跡がクッキリと残っている。そしてリリスは高速移動を交えつつ、会話やある程度の動作へ支障が出ない程度にシライシの肉体を破壊し始めた。


 上行結腸破裂、両肋骨破損、右腕上腕骨開放骨折、左肘破壊、鎖骨骨折、横隔膜破裂、両脚大腿骨骨折、下行結腸破裂…大して興味も無い辞書の項目を読み上げるかのように、彼女は淡々と彼の肉体に起きた損傷を頭の中で整理していく。そしてこのくらいにしておこうと考えて足を止めた直後に、シライシは前のめりになって倒れ伏した。死んではいないものの、動けなくなった体をピクピクと震わせている。


「何か言いたげだね。大丈夫、後で嫌という程おしゃべりしてもらうから」


 リリスは激しく動いたせいでボロボロになった服の具合を確かめ、そのまま正面に回り込んでシライシへ言い放つ。そして血まみれになった顔に笑みを浮かべ、同じく血に濡れた手を振ってムラセの方へ向かった。


「終わったよ~」


 今までの事をすっかり忘れているかのように明るい調子で話しかけてくる彼女に、当然ではあるがムラセは畏怖を隠しきれない。そんな事など知る由も無いのかは定かではないが、リリスは彼女の前へしゃがみ込んで傷の具合を再確認し始める。徐々に傷が治り始めていた。


「オイオイ、何か凄い事になってんな」


 間もなく聞き慣れた声が耳に入る。辺りの瓦礫に目を配りながらベクターとイフリートも現れ、ムラセの具合を確認する一方でシライシの方を見た。


「あれがシライシねえ ?…別にあそこまでしなくても良かっただろ、死ぬんじゃないか ? 」

「大丈夫、手加減してるし。半魔だからそんな簡単にくたばる筈無いって」


 手を借りながら立ち上がれる程度には回復が進んでいるムラセを引き合いに出し、リリスもあの程度なら死なないと断言する。ムラセもムラセで、以前より自分の体の治りが早くなっている事に驚いていた。


「くたばらないかもしれんが、今から話する身にもなれよ。あそこまで酷い面に変える程ボコりやがって…アレと話しなきゃダメなのか ? 」

「ああ、えっと、いや…顔には何もしてない。話出来なかったら困ると思って…」

「え ? 」


 事情を知らないベクターがよりにもよって一番触れてはいけない部分に触れると、リリスも若干気まずそうに付け足した。キョトンとした様子でベクターはリリス達とシライシを交互に見て、非常に複雑そうな表情をする。


「…それは、すまんかった」


 ひとまずシライシへ小さく謝ったものの、前世で何をやらかしたらあんな顔になるんだろうかとベクターは趣味の悪い罵倒を頭の中に浮かべる。そのまま近づいて行こうとした時、シライシの表情が変わってどこかを見ている事に気づいた。自分達が立っている位置より後方へ視線を送っているように見える。


 背後から足音が聞こえた。振り向いてみれば見た目に似合わない重々しい足音を鳴らし、怪しげな人物が向かって来ている。黒い頑丈そうな装束に備えられているフードを被り、顔は光沢のある鋼色の仮面で隠していた。特に目を引いたのは背丈であり、ベクターと肩を並べられる程の長身である。そんな彼女の背後には、これまた小柄な老人が厳格そうな表情でついて来ていた。


「ふ…まさかとは思ったが、こんな事があるものなんだな」


 その声によって、一同は長身の人物が女性だとようやく気づいた。彼女はそう言いながらムラセと、ベクターの左腕で光っているレクイエムを興味深そうに眺める。ベクター達もまた、彼女が人間ではない事を一瞬にして見抜いていた。


「…父上、それにザガン様… ! ハハハ、やったぞ…ざまあみろ。あの方にかかればお前達なんか…」


 息も絶え絶えにシライシが勝ち誇ったようにを言う。しかしその声が聞こえるや否や、女性は彼の方を睨むと腕を伸ばしてから指先を僅かに曲げた。その挑発しているかのようにも見えるジェスチャーの直後、シライシの体は凄まじい勢いで彼女の方へ引き寄せられてしまう。そのまま引き寄せられたシライシの首を彼女は鷲掴みにすると、いきなり地面へ彼の頭部を叩きつける。


「ゴハァッ ! ザガン様…何で…⁉」


 地面に亀裂を入れる威力で仰向けに叩きつけられたシライシは、彼女へ戸惑いを露にする。


「私にかかればだと ? 自分の立場が分かってるのか ?」


 顔を無理やり引き起こした後にザガンという名の女性は問いかける。無言のまま呆然としていたシライシだったが、再び地面に叩きつけられてしまい小さく悲鳴を上げた。


「本当なら報告が来るまで待っている筈だったものを、わざわざ予定を早めてまで我々が出向く羽目になった。なぜだと思う ? 宣言通り全員を倒すどころか、女子供ごときに不覚を取ったどこぞの間抜けのせいでこうなったんだ」


 こうして喋っている間にも、ザガンは握力や地面に押し付ける力を強めていく。押し付けている箇所に出来ていた亀裂は音を立てて大きくなっていき、シライシも何か言いたげな様子で慈悲を乞う様な顔をしている。


「わざわざ血まで分け与えてやったというのに、貴様は鍛錬もせず能力にかまけて過信し…挙句の果てに尻拭いまでさせようとしている。馬鹿にしているのか ? 私がいつお前の様な穀潰しの世話係になった ? この――」

「ザガン、その辺にしてやりなさい」


 この役立たずに引導でも渡してやろうかとザガンが決断しかけた時、老人が穏やかな口調で彼女を制止した。一度彼の方を見た後で、不服そうにしつつも彼女は手を放して立ち上がる。


「ベクター・J・モーガン様でしたね。立ち話というのも落ち着かないでしょう。事情は追って説明します故、場所を変えさせて頂いても ? もてなしはしますぞ」


 老人は静かに語り掛ける。ザガンもこちらを凝視しており、すっかり断り辛い状況になってしまっていた。

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