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殺戮魔人の冒険譚 ~仇探しのついでに仕事を始めた結果、周囲から一目置かれるようになっていました~  作者: シノヤン
パート4:浸食

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第75話 強硬手段

「…ああ~」


 ひとまず拠点に戻ってシャワーを浴び、ブーツを脱ぎ捨ててソファに寝っ転がっていたリリスがぼやいた。


「めっちゃ3Pしたい」

「何言い出してんだ急に…」


 唐突なセクハラ発言に眉をひそめたイフリートが苦言を漏らして冷蔵庫を漁る。そんな逞しい弟の後姿を見たリリスは一瞬だけだが、いっその事と良からぬアイデアを閃きかけてしまった。


「いやぁ…それに手出したらおしまいだわ」


 独り言と共に結局諦めてしまい、ふと起き上ってみれば床に敷いていたマットでジョージが寝ている。寝床として用意していたその場所で横向きになって目を閉じており、頭の近くには小型のラジオも置かれていた。暇を持て余しているからと、リリスは静かに立ち上がって音を立てないように彼へ近づく。そして慎重にラジオを拾い上げた。


 音量が小さく設定されているラジオからは、何やら癇に障る猫撫で声を発している女性の声がした。いかにも媚を売っているかのような、鼻に付く声と言葉遣いにリリスは小さく嫌悪感を漏らす。そして完全に意識が遠のいてるジョージの様子を確認してから、こっそりと周波数を弄った。


『それではお聞きください。週間チャート第三位にランクインしましたDKリッカーズによる”ショウ・ユア・ドング”です。どうぞ !』


 音楽チャートの週間ランキングを紹介しているチャンネルへと合わせると、今にも楽曲を流しそうになっている。直前で音量を限界にまで引き上げ、ラジオを急いでジョージの耳元へと放ってからリリスはその場を離れた。間もなく轟く様なエレキギターの音とシャウトがラジオから響き渡り、飛び起きるようにしてジョージは目を覚ます。


「何すんだ寝てたのに… !趣味悪いぞ…」


 文句を言ってラジオを消す彼の姿を見たリリスは爆笑し、相変わらず幼稚な遊びで喜んでやがるとイフリートは呆れながら煮豆の缶詰を開けていた。小腹が空いたのである。


「ただいま~」


 少しして週間チャートの二位が発表され始めた頃、ベクター達もドアを開けて戻って来た。再びソファで寛ぎ始めたリリスは手を振り、ジョージやイフリートも反応する。


「…ってランキング始まってるじゃねえか。DKリッカーズは ?」

「三位ってさ。二位は今紹介してるえっと…ツイン・ラヴィだったっけ ?」

「マジかよ~」


 ベクターが思わずラジオに近づきながら話しかけると、ジョージは今流れてる楽曲を歌ったアイドルに売上が負けていたぞと結果を伝える。少し悔しそうにしながらベクターは椅子に座って天井を仰いだ。


「クッソ…リッカーズの方が絶対良いだろ…こんな小便臭いマセたガキのパフォーマンスごっこに何で負けるんだ…」

「何でそんな怒るんだよ…もっとお布施しないと」


 恨めしそうに愚痴を零すベクターにジョージは答え、そっとコーヒーを差し出した。


「もう買ったよ。CD百枚」

「…貧乏って、なるべくしてなるんだな」

「殴るぞ。それより色々情報が手に入った。さっさと整理しちまおう」


 ジョージと雑談を交えた後、気を取り直してベクターは全員を集める。いつの間にか部屋の隅に用意されていたホワイトボードを引っ張り出し、それぞれが集めた情報を箇条書きでまとめていった。


「まず、オーガズゲートは黒。選手達が”商品”としてどこかに引き渡されて人体実験に使われている。俺達が向かったマッドオウルに関しては、取引こそしてなかったが予定はあった。おまけに興味深い名前も聞けたしな」


 ホワイトボードに記された二つの店の名前の下には、それぞれで入手した情報が書かれていた。それをペンでチェックしたうえで、ベクターはホワイトボードの真ん中にシライシという文字を書き込んで円で囲う。


「マッドオウルのオーナーはこいつから仕事を貰う予定だった。オーガズゲートの責任者と知り合いだったって事から、例の人身売買に一枚噛んでると見て良い。斡旋する予定の仕事もそれ絡みだった筈だ。ああ、やば…名前以外の情報聞き忘れてた」


 ベクターが一度ホワイトボードから離れて席に着くと、全員が考え事をするかのように黙りこくる。


「どうして闘技場の方の責任者は殺されたんだろうな。それも…デーモンに」


 タルマンが不意に話題を切り出した。


「その”仕事”っていうのに関わってるかどうかの違いじゃないですか ? マッドオウルに関しては少なくとも真実を知らないから殺す必要も無い…みたいな ?」

「それが正解かもしれん。顎で動かせる奴が多いに越した事はないからな…上司を疑わないタイプの指示待ち人間は特に。問題は死に方」


 マグカップを両手で持ったままのムラセが推理すると、ベクターも同調して次の話題に入る。


「体の中にいたデーモン、ウェジバグとか言ってたよな。何か考えられる線とか無いのか ?」


 リリスが例のデーモンについて名前を口走っていた事を思い出したジョージは、隣に座っていた彼女へ尋ねる。


「考えられる線っていうか、十中八九っていうか…」


 少し垂れている前髪をかき上げリリスが呟く。


「どういう事だ ?」

「あいつを従えさせて操る事が出来るヤツなんざ、ほぼ特定出来たようなものって事だ」

「その通り…”ベルゼブブ”。間違いなくアイツの仕業」


 反応したジョージにイフリートが解説を入れ、リリスも同意してからあるデーモンの名前を出した。


「ベルゼブブ ?」


 聞き慣れない名前に戸惑ったムラセは思わず聞き返した。


「そう。と言っても、私達は直接会った事がある訳じゃない。ただ、使い走りにああいう雑魚を使う事は有名だから」

「ふーん、そのデーモンが何で動き出してるのかも調べないとダメか。人体実験に人身売買…先が見えてこねえな。おまけに向こうは、俺達の事についても知ってて…必要なら始末もするつもりだと」


 詳しい事は自分も知らないと打ち明けたリリスの発言から、タルマンはまた考え事が増えたと嘆く。さらに両グループに起きた出来事を踏まえて、素性が割れてる上に目を付けられている事も指摘する。


「まさかとは思うが、この中の誰かが裏切って情報を…」

「オイオイ、そんな縁起でもないことを言うなよ」

「やけに反応早いな。やっぱりお前――」


 ベクターが揶揄うようにスパイの存在を疑うと、ジョージが焦る様にして否定した。戸惑う彼の姿にリリス達も笑っているとドアが開いて箱を片手に持ったフロウが現れた。


「皆揃ってしかめっ面で頑張っとるな。差し入れ持ってきたで」

「おお~‼」


 箱の中にはクッキーが入っていた。手作りらしく、ナッツとチョコレートが練り込まれている。ベクターはクッキーを片手に持って、これまでのいきさつをフロウへ話す。


「――つまり、そこのリゾートにいるシライシとかいう奴に会いに行く必要がある。聞いた事あるか ?」


 シライシという人物に聞き覚えがあるかと尋ねたベクターに対して、フロウは少し考える素振りをした後にフフッと笑って首を横に振った。


「いや…どうやろ…ウチも歳やけど、ボケたつもりもないしな。記憶が正しければそんな男は知らん」

「…そうか」


 あっさりと返されたベクターは彼女の返答に違和感を覚えたが、敢えて指摘はせずにクッキーを齧る。


「とにかくそのリゾートに行かないと。どうします ? やっぱり客としてコッソリ――」

「いや…でもさ、もうバレてんならコソコソする必要無くない ?」


 とにかく行動をしなければとムラセも提案を始めるが、それに対してリリスが疑問を呈した。話を聞いていたベクターも一度だけ背伸びをすると、もう一枚クッキーを手に取って全員の方を見る。


「カチ込んじゃうか ?」

「そんなコンビニ行くみたいなノリで…」


 ベクターが大胆な手段を提案すると、その言い方の軽さにジョージが困惑を見せる。


「そうですよ。流石にそこまで行くと…」

「でも手っ取り早いだろ。頭使わなくて済むし。フロウさん、車って準備できるかな ? 頑丈なヤツを早めに」


 ムラセも流石に苦言を漏らすが、ベクターは単純明快だから良いとしてフロウに注文を始める。


「出来るけど、たぶん二日は覚悟した方がええで」

「やった。悪いねホント…そうだ。俺ちょっと電話してくるから、好きにやっててくれ」


 そのまま外に出て行くベクターを一同は見送り、やるんなら計画でも立てといた方が良いかと話し合い始めた。そんな彼らを尻目にベクターはホテルの外へ出ると、そのまま公衆電話の方へ向かう。そして硬貨を入れてから少しの間だけ相手が応答するのを待ち続けた。


「…よう、話がある。お前が来る予定なんだが――」


 周囲の警戒をしつつベクターは電話の相手と話し合い、暫くした後に受話器を置いて立ち去った。




 ――――二日後、ハイドリート北部に位置するカジノリゾート、通称”オアシス”はその日も賑わいを見せていた。ドレスやタキシードを身に纏った人々がホテルから優雅に現れ、多様なカジノ施設が立ち並ぶ敷地を闊歩する。そのリゾートの入り口である正門では、複数の兵士が武装して見張りをしていた。


「ん…おい ! 何だアレ⁉」


 叫んだ兵士の視線の先では、大型のダンプカーがこちらに向かって最高速度で向かって来ていた。急いでゲートを閉めるよう呼びかけるが、それよりも先にダンプカーが押し寄せる。


「ひゃっほおおおおおおお !」


 ゲートを破壊し、クラクションを鳴らしながらリリスは車両を暴走させる。どうしてもやりたいと言う彼女にハンドルを譲った事を、助手席にいたムラセは後悔していた。


「ねえ、お願いですからスピード下げないと ! 轢き殺したら大変ですって !」

「オートマの四輪駆動は轢き逃げにも最適だから大丈夫 !」

「そうじゃなくて!!」


 車内で彼女達が喚き合う一方で、車両の屋根に乗っていたベクターとイフリートは敷地の中央にある広場を睨む。そしてこれ見よがしに設置されている黄金の像へ目を付けた。


「いかにも富と権力の象徴って感じだな…腹立ってきた。おいリリス ! あれにぶち当てて車を止めろ」

「りょうかーい !」


 狙いを定めたベクターは無線で指示を出すと、威勢のいい声で返事が来る。間もなくダンプカーが速度を上げて像へと突っ込み、フロント部分を思いっきり破壊しながら停止した。それと同時に台座の部分が破損された像も静かに、しかし重々しい音を立てながら地面へと倒れる。


 二人の兵士がダンプカーへ近づこうとした時、フードを被ってガスマスクを装着したベクターと、同じ様にガスマスクを着けたイフリートが車両から飛び降りて来る。そのまま有無を言わさずに殴り倒している間に、リリス達もドアを蹴破って車から降りた。


「もう取り返しつかないや…」


 名実ともに立派な犯罪者の仲間入りだと、ムラセはガスマスク越しに籠った声で困り果てる。


「しょぼくれちゃって~。陰謀を突き止めるためっていう立派な目的があるわけでさ。要は勝てば官軍だよ ?」


 そんな彼女に抱き着きながら、リリスはこちらには筋の通った理由があると主張し始めた。本来ならリリスとイフリートもガスマスクなど必要無いのだが、顔は念のために隠した方が良いからとして持たせておいたのである。


「その通り、正義を振りかざせば暴力と略奪も許される。歴史がそれを証明してるんだ」


 オベリスクを背負い直して現れたベクターも同調した。


「そんな無茶苦茶な…ちゃんと目的覚えてますよね ?」


 そんな大それた理論がまかり通ったら社会なんて維持できるわけが無いだろう。ムラセはそう思いながら最終確認をしようとする。


「分かってるって情報収集だろ。ついでにちょっと楽しむけど…んじゃ、挨拶でもしに行きますか」


 ベクターの言葉を皮切りに全員で歩き出し、片っ端からやろうと目の前に佇んでいるホテルのエントランスへと向かって行った。

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