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殺戮魔人の冒険譚 ~仇探しのついでに仕事を始めた結果、周囲から一目置かれるようになっていました~  作者: シノヤン
パート4:浸食

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第68話 損得勘定

「どういう事だ ?」


 他の仲間達が既に注文をし終えていた事に気づき、ベクターはフロウと同じ物を用意してくれとだけ伝えると再び話を戻す。


「街の様子はどうやった ? 綺麗やろ」

「悪くなかったよ。どこぞのサイバーパンク映画にでも憧れてんのかとは思ったが」

「このシェルターの夜景やシステム…その大半は魔導エネルギーのおかげや。色んな企業や組織が莫大な金と物資で支えとる」


 ベクターがハイドリートについて第一印象を語ると、フロウも同意するかのような含み笑いを垣間見せる。そして街を動かしているエネルギーの動力源とその裏にいる強力なバックアップの存在を匂わせた。


「魔導エネルギー…えっとデーモンの持つコアとか、特定の部位に宿っている魔力をわざと暴走させて、そこから出る熱もしくは衝撃をエネルギーに変える…だったっけか ? あんまり詳しく知らないけど」


 ベクターはイマイチ自信が無さそうに魔導エネルギーについて知っている事を話すと、フロウも軽く頷きながら説明を聞く。他の者達はというと二人の会話に耳を傾けるか、水がコップ一杯で九百ギトルは流石におかしいと言ってウェイターにいちゃもんをつけるなど自由に過ごしている。


「それだけ覚えてるんなら十分や。雑誌か新聞の記事でも丸暗記したやろ ?」

「…バレたか」

「頼んでも無いのに長々喋る奴の言葉っちゅうんは、大概誰かの受け売りやからな」


 どうせ完璧に理解しているわけではないだろうと判断するフロウにベクターは遠回しに同意する。そんな様子を微笑ましそうに見つめながら、フロウは経験則を披露ししてグラスに酒を注ぐ。


「話を戻すで。そんな魔導エネルギーやけど、当然デメリットもある。暴走を抑えきれんかった場合の事故や、エネルギー生み出すんに必要なデーモンの素材の量が有名やな…今の時代やから成り立っている動力ってわけや。ところが、このシェルターは別に他の地域に比べてデーモン狩りに力を入れてるわけや無い」

「待て。じゃあ、どうやってシェルターのエネルギーを賄ってる ? 素材を輸入するにしてもかなりの額が必要だろ」

「そこがうちの情報網でも未だに分かっとらん。飲み屋や娯楽産業で手に入る金だけじゃ足りん事は明白。おまけに、あちこちで行方不明者の数が増えたのと比例して、企業や裏社会からの献金も増えとるらしい、つまり―――」

「あの~…お取込み中悪いんだけど、ここは煙草って… ダメかな ? おばあちゃん」


 ハイドリートにおける魔導エネルギーの事情とそれに付随する不可解な点を整理していた時、二人に向かってリリスが若干申し訳なさそうな顔で喫煙は良いのかと尋ねて来た。ベクターがその空気の読めなさを注意しようとするより前に、フロウがリリスの方を見て口を開いた。


「アホやなあ、何のために個室へ来たと思っとるんや。好きなだけ吸ったらええ」


 煙草の箱を見せながら様子を窺う彼女に、フロウも笑顔で快諾する。顔を明るくしながらライターを取り出し始めた彼女へ目をやり、ベクターも吸おうかと思ったがすぐに手を止めた。彼女との話がまだ終わっていない。


「何か、気を遣わせちまって悪いな」

「気にせんでええわ。倅同然なアンタが友達連れて会いに来てくれたんやで。育ての親としての面子や…仕事の話は後にしよか。料理も来るやろうし、近況も聞きたいしな」


 申し訳なさを出しつつ謝罪をしたベクターに、フロウは気にするわけがないと笑いながら応じる。そして話を一旦取りやめ、食事と世間話でもしようと提案して来た。


「ところで左腕を隠しとるけど、もしかして話に聞いていたバケモンの腕ってそれか ?」


 サラダに付け合わされていたサーモンと香草を口へ運んでいた時、フロウは手袋をしている左手を見つめて尋ねて来た。


「ん ? ああ…ほら、まあ色々あってさ」

「はぁ~これがか…気色悪い見た目やな」


 彼女になら隠す必要も無いだろうと、ベクターも手袋を外してレクイエムの一部を見せる。しかしフロウが手の甲や掌をマジマジと見つめて感想を喋っていた時、突然掌の中央が傷口の様に裂け、そこから巨大な眼球が露になる。「おやまあ」と呟くフロウとは対照的に、ベクターや仲間達も事態を飲み込めず呆然としていた。眼球は瞼を若干閉じ、しかめっ面でもしているかのように目の上部に皺を寄せる。何かに怒っているかのようにも見えた。


「気色悪い言うたのが癪に障ったんか ? フフ、可愛げあるやないか」


 心当たりがあったフロウは呑気に相手をしている。それに気を良くしたのかは定かでないが、レクエイムに現れた目は一度だけ優しげな眼差しを見せた後に瞼を完全に閉じていなくなってしまう。愛想笑いで茶を濁したベクターがもう一度見つめていると、彼の意思に呼応して再び同じ箇所に目が現れた。


「…お前そんな事出来たの ?」


 ベクターは思わず聞いてしまったが掌に現れた目は答える様子も無く、きょとんとした様子で瞬きをして辺りをキョロキョロしている。ベクターは小さく「気色悪っ」と呟き、目を消してから再び手袋を付け直すと食事を再開した。




 ――――食事が終わり、ベクター達が案内されたのはホテルの地下であった。人目もあるという点から、関係者以外は立ち入れないという裏口を出入りに使ってくれと頼まれ、案内された先は物置の一画であった。このためにわざわざ改装しただけあって、寛ぐには申し分ないスペースが広がっている。家具や話し合い用のテーブルまで用意されていた。


「おお~ !」


 部屋に入るなり、リリスが感心した様に声をあげる。そのまま椅子に座ったかと思えば、すぐに立ち上がってから近くに置いてあった冷蔵庫へと向かい、中に入っていたビールを手に取ってはしゃいでいた。


「ここまでしてくれるとはな」


 荷物を置きながらベクターが思わず呟いた。


「こっちに来て始めた仕事が意外と儲かってな。これぐらい造作も無いわ」


 後ろからついて来ていたフロウも得意気に話す。


「商売やめたって言って無かったか ?」

「引退したつもりやったし、この辺の店やカジノを買収したのも暇潰しやったんや。せやけど、暇潰しにしても手ぇ抜いたら客に悪いやろ ? やから色々口出ししとったら、また金が増えてもーてな」

「…羨ましい才能だ」


 商売人としての実力を羨ましがるベクターがフロウと話している間、タルマンとジョージは従業員に連れられ、装備や武器の保管庫も兼ねた即席の作業室へと案内される。「必要な資材、道具、装備があればいつでも調達する」とまで言われ、二人は興奮しながら置かれている道具を調べ始めていた。


「ムラセちゃ~ん、一緒に飲も~」

「もう、まだやる事あるんですから起きてください。こんな生活じゃ年取ってから大変ですよ ?」

「何言ってんの。こちとら今年で五百二歳だぜ ?」

「…え ?」


 一方でムラセとリリスはソファでいちゃついていた。イフリートはといえば、その二人を尻目に椅子に座って雑誌を読み始めている。


「お前ら礼の一言くらいなあ…」

「ええて。自分の家やと思って寛ぎいや」


 呆れるベクターにフロウは気にしてないと許しを出す。


「面目ない…話を戻すがさっきのが本当なら、ハイドリートは攫った人間を連れ来て貰ってる上に金も貢がれてんのか… ? 増々訳が分からん」

「そういう事になるな。分からん事だらけやから、探りを入れてくれるっちゅうなら願ったり叶ったりや。アンタの仕事ぶりはうちも良く分かっとるし…情報は武器になる。闇取引の噂が立ってる場所なら、この二つを当たるとええわ」


 そのまま途中で終わっていた現状の整理へと話題を移した時、彼女はポケットから二枚の写真を取り出しながら説明をした。どこかにあると思われる施設や会場のような物が写り込んでいる。


「一つはマッドオウル。中々儲かってるクラブで、客は女性が多い。もう一つはオーガズゲート…俗に言う地下闘技場やな。試合中なら殺しもオーケーって事で有名や」

「殺しオーケーだと…」

「殺しオーケー… !」


 それぞれの店についてフロウが解説していた時、オーガズゲートと呼ばれる闘技場についてイフリートとリリスが露骨に反応を示す。「殺しもオーケー」という謳い文句に対して、かなり肯定的な意味で興味を示したのか目が輝いているようだった。 


「ここから辿れば何か分かるかもしれん。ま、こんだけ人数がおるんや。無難に手分けでもするのがええんちゃうか ?」

「だな。オイ ! 全員集まれ。作戦会議するぞ !」


 フロウからの助言に同意し、ベクターが手を叩きながら呼び寄せると一同はテーブルの方へと集合する。そして二手に分かれて調べを進めていく事を決めつつ、それぞれのメンバーをどうするべきか話し合い始めた。

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