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殺戮魔人の冒険譚 ~仇探しのついでに仕事を始めた結果、周囲から一目置かれるようになっていました~  作者: シノヤン
パート4:浸食

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第66話 露知らず

 二週間後、一行はノースナイツの地下から発車した特急列車に揺られていた。一般の人間では立ち入る事の出来ないハイドリートへ向かうには、飛行艇を利用した空路もあったが、特定のコネクションを利用してこういった専用の列車に乗る方が手っ取り早いのも理由である。


「…どうすれば良いんだ ?」


 タルマンはトイレの前で顔をしかめ、出し終わった自分の排泄物と紙が溜まっている便器を睨む。流そうにもレバーが見当たらない。このまま放っておくのもマズいと横開きのドアから顔を覗かせると、丁度車掌らしきスタッフが付近を歩いていた。


「お客様、いかがなされましたか ? 」


 すぐに気づいてくれたらしく、タルマンの方へ近づいてやたらと丁寧さをアピールするような口調で語り掛けてくる。


「ああ…それがよ。どうやって流せば良いのか分からなくて――」

「それでしたら、壁側にあるセンサーへ手をおかざし下さい」


 車掌の言葉の後にタルマンが壁を見ると、銀色の地味な縁で囲まれた黒いパネルがあった。よく見れば「手をかざしてください」と小さく説明書きがある。


「ああ、あれか ! わざわざ悪かったね」

「いえ、こちらとしても今後の改善に役立てる事が出来ますので。それでは良い旅を」


 気づいたタルマンが詫びを入れると、ここまで必要なのかという程に物腰の柔らかい調子で挨拶をした後、お辞儀をしてから車掌はその場を後にする。


「…何か苦手だな。こういうの」


 ここまで他人から下手に出られた経験など無かったタルマンは、贅沢な愚痴を零してからトイレを出ると自分達の座席がある車両へと戻って行く。個室制となっており、ドアを開けると部屋の壁側一面に設置されている長いソファの上でイフリート、ジョージ、ムラセの三人が座っていた。


「なあ、お前らトイレ見たか ? センサーで水が流れるんだぜ、センサーで」

「…今時、それで驚く人を初めて見た」

「悪かったな。ウチにはねえんだよ」


 ジョージは呆れながら言うと、チャンネルを弄って面白そうな番組が無いかを探してみる。タルマンは不愉快そうに言い返すと、隅の方にどっかりと腰を下ろした。


「お、テニスやってる。ノースナイツカップだってさ」

「ああ。そういえば今日からでしたね、本戦」


 ジョージがようやくチャンネルを変える手を止めると、ムラセも同調するように言及した。


「一回戦か。マシュー・ギブソンと、相手は…ミーナ・カーヴァ― ? 俺、こいつ嫌いなんだよな」

「奇遇だな。俺もだ」

「え、何でです ?」


 試合が映し出され、ミーナ・カーヴァ―という名の選手が登場するや否や、ジョージとタルマンが口々に個人的な心象を呟き始める。あまり詳しくなかったムラセは思わず二人に聞いてしまった。


「知らねえのか ? 最近、”デーモンにも生きる権利はある”だの”デーモン狩りはデーモンの命を蔑ろにする野蛮なビジネス”とか訳の分からんこと言ってる愛護団体がいるんだよ。こいつ、それを支持してるどころか知名度欲しさに団体の幹部になってんだぜ」

「へえ。何か、それ聞いちゃうと印象変わってきますね…」


 タルマンが事情を説明し、ムラセは日頃における言動の重要さを感じながら相槌を打つ。


「守られてる分際で偉そうなんだよ。こういう奴は一回シェルターの外に放ってデーモンの餌になっちまえば良いんだ…あ」


 悪口に花を咲かせつつ、ジョージが続けて罵倒していると何かに気づいたように別の方向を見る。視線の先には開け方が分からないのか、珍しそうに缶のコーラを眺めているイフリートがいた。包帯が外されており、完治している目の色やキツイ人相が窺えるものの、目元は確かにリリスとよく似ている。


「…何だ ?」


 気まずそうにこちらを見るジョージ達に気づき、イフリートは不審そうに問いただした。


「ああ、いや…もっと怒るもんかと」

「事実だろ。なぜ怒る必要がある ? 弱いから殺される、それだけだ…おい、これはどうやって開ける ?」


 ジョージが気まずそうに反応すると、イフリートは鼻で笑って言い返した。そしてムラセに缶を渡して開け方を聞き始める。


「体格に見合った器のデカさだな…」


 怒りを買わずに済んで良かったと安堵し、ジョージは小声でイフリートを褒める。


「ところで小娘。あれは何をやってる ?」


 テレビに映っている試合を見たイフリートがふと尋ねた。


「テニス知らないんですか ? 」


 ムラセも少し驚いたように彼へ顔を向ける。


「ああ、全く知らん」

「うーん、ルールが沢山ありますけど…要するに道具でボールを打ち合って、打ち返せなくなった方が負けっていう勝負です」

「勝負… !…なるほど」


 ムラセのざっくりとした説明を聞き、勝負という点に関心を示してイフリートは食い入るように試合を見つめる。


「あ、セット取られた ! ざまあ見ろ」


 少しテンションを上げてジョージが言った。中継の最中、先制に成功したマシュー・ギブソンは椅子に座って休憩を取っているが、その顔はどこか嬉しそうである。


「喜んでるみたいですね」


 ムラセがタルマンに言った。


「曲がりなりにもカーヴァ―は強豪だからな。先にセットを取れたのはデカい。よーし…良いぞギブソン。そのままストレート勝ちで奴に恥をかかせてやれ」


 ここぞとばかりにタルマンも応援を始める。悪口が人を一致団結させるというのは本当だったのかと、ムラセは悪い意味で盛り上がっている二人を見ながら実感した。直後、画面にはムシャクシャした様子でラケットを破壊するカーヴァ―が映し出される。全力で叩きつけた後に足で踏みつけ、挙句にボールボーイへと投げつけていた。


「おい。セット…とかいうのを取られた奴は、道具を壊さないといけないのか ?」


 若干困惑した様にイフリートがムラセへ尋ねる。どうやらルールの一環だと思っているらしい。


「ああ、あれは別にルールじゃないんです」

「じゃあなぜ壊している… ? この後は手でボールを打つのか」

「予備はあると思いますよ、流石に。気持ちを落ち着けるためにストレスを発散させるらしいです。ああやって…まあ、結構疲れるって言いますし」

「落ち着けるも何も自分のミスだろう。それを棚上げして道具に八つ当たりか…分からんな」


 ムラセも説明をするが、腑に落ちない様子でイフリートは眺め続ける。まあ、お前が出ればその日にでも優勝できるだろうさと、その場にいた他の仲間達は思った。


「そういえば治して貰えて良かったですね。ほら、目ですよ !」


 話題が変わり、包帯が取れたことにムラセが言及した。


「まあな。”次は無い”と釘を刺されたが」

「おうよ。また何かしやがったら、ベクターとムラセと…後てめえの姉貴に総出でボコってもらうからな」


 リーラから脅された事をイフリートは伝え、それについてタルマンも虎の威を借りたような発言をした。仕方ないとはいえ他力本願ではないかとムラセは僅かに不服感を抱く。


「そういえば二人共遅いな。煙草吸いに行ってた筈だけど」


 彼らの話題で思い出したのか、ジョージは暇潰しに出て行った二人の事を心配するように言った。




 ――――列車の最後尾にある喫煙用の車両にて、ベクターは殺風景な車内に設置されているベンチに腰を掛けていた。そのまま煙草に点いている火を眺めており、やがて我に返ったように近くの灰皿へ押し付ける。少しして次の一本を箱から取り出そうとした時、ハッチが開いてリリスがやって来た。


「いや~、めっちゃ買えた。さっすが金持ち専用列車」


 包装されたカートンを片手に掴んだままやって来た彼女は、そのままベクターの隣に座って膝を組む。丈夫そうなショートパンツにタイツという組み合わせであり、初対面の時とは大きく服装が異なっていた。どこから手に入れたのか知らない皮のジャケットまで纏っている。


「買い過ぎだろ…てかその服どうした ?」

「だって経費で落ちるって言うから。それなら買える時に買っときたいじゃん ?」

「…まあ良いか。払うの俺じゃないし」

 

 隙あらば金を浪費するリリスにたまげるベクターだったが、リーラが資金面でバックアップしてくれてるという事もあり、仕事後の言い訳を考えておこうかと思いつつ彼女を許した。音を立てながら動き続ける車内には、ベクターと彼女の二人しかいない。


「煙草、吸うんだね」


 話題が欲しかったのか、リリスが彼に話しかける。


「暫くやめてたが、最近考え事が増えてな」

「それって私たち姉弟の事 ? 」

「それ含めた諸々」


 ベクターが答え、彼女もそれに笑いながら返事をするが中々長続きしない。あまり一人でいる時の邪魔をされたくないのかもしれないと、リリスは勝手に彼の性分を推測し始める。


「ふ~ん。まあ、ムラセちゃんの父親の事もあるしね。ただ…あんまり待たせるのも良くないよ」


 唐突にリリスが発した言葉に反応したのか、ベクターは少し俯いていた顔を上げる。


「別に待たせたいわけじゃない。だけど今のアイツじゃ、頑張れよって送り出した所で新聞の死亡記事に載るだけだ。自分の身を守れるように力は付けさせておいた方が良い」

「でも急がなきゃ。もし探してる途中で死んじゃってるなんて事になったら取り返しつかないよ」

「…まあ、ボチボチやってく」


 ベクターが反論をするものの、それに対してもリリスは冗談気味に突っかかった。苦笑いで結論付けたベクターだったが、その顔には話を切り上げたいという本音が見え隠れしている。


「忠告には感謝するが、俺はまだお前を完全には信用してない。ホントに弟が心配なのと、俺の観察だけか ? それだけでこっちに留まりたいと ? 」


 立ち上がって車両を出て行き、二人で通路を歩く最中にベクターが話を振った。


「まあ、基本はね。それと少しムラセちゃんについて気になる事があって…まだちょっと確証がないから言えないけど」


 リリスはポケットに手を突っ込みながら答える。


「勿体ぶってないで教えてくれ。必要なら他の連中にも黙っとく」

「信用してくれない相手に相談する道理は無いんだよなあ」


 ベクターが頼んでみるが、先程自分が彼女に発した言葉をそのまま利用されてしまう。困り顔で後ろを歩くリリスを見るが、そんな自分を揶揄うように彼女は笑っていた。

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