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殺戮魔人の冒険譚 ~仇探しのついでに仕事を始めた結果、周囲から一目置かれるようになっていました~  作者: シノヤン
パート4:浸食

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第65話 聞き分け

「で、話って ?」


 昼間であるにも拘らず、リーラの行きつけのバーとやらでカウンターに座ったままベクターが尋ねた。彼女が店主に話をしたお陰で見せは貸し切りとなっており、店内にはどことなく陰気なジャズが流れている。二人以外には足音も話し声も聞こえず、時々グラスに入った氷の崩れる音が小さく響くのみであった。


「なんだか嫌な予感がする」


 リーラが飲み干したグラスを静かに置いてから口を開いた。若干俯いている彼女の眉間は、僅かに皺を作っている。


「珍しく弱気だな」


 彼女に話しかけるベクターは暇を持て余しているのか、指先でカウンターを叩きながら棚に並んでいる色とりどりの酒瓶を眺めた。店主も出払わせている辺り、よっぽど聞かれたくないらしい。


「この辺りで失踪や拉致が相次いでいるのは聞いてたけど、まさかハイドリートだとは思って無かった」

「どういう場所なんだ ?」

「歓楽街よ。といっても、あなたが想像している様な場所とは比べ物にならない。大きさにして言えばシェルター二つ…それが丸ごと商業施設や飲み屋で埋め尽くされている」


 彼女の言葉にベクターは興味を示し、少し背筋を伸ばし直すと再び酒を呷った。


「楽園ってわけか」


 グラスに入っていた酒が無くなると、ベクターは無断で棚に近づいてウォッカの入った瓶を掴んで戻って来る。リーラは何を言うわけでも無く、同じく空になっていた自分のグラスを彼に近づけた。


「そうとも呼ばれてる。シェルターに入れるのも高給取りに支配者階級、裏の大物…金や人の動きで言えば間違いなく一番活発になってる地域よ…だけど、人の集まる場所ってのは自由な分、色んな物を隠しやすい」

「見えて来たぞ…さしずめ、ハイドリートで何が起きてるのか調べて欲しいって魂胆だろ。だがなぜ ? 」


 彼女が何を頼もうとしているのかをベクターは言い当てるつもりで得意気に語り、ウォッカを注いだグラスを彼女の前へ滑らせる。それを掴んだリーラは彼を見て小さく頷いた。


「目的は分からないけど、このまま放っておくのも後々を考えるとマズい。多少の根回しで黙殺出来るとはいえ、仲介業者としての関与を疑われて私や他の仕事仲間に飛び火しかねない。そうなれば賄賂を送ってるお役所連中も平気で手を切るでしょうね」

「そうなる前に実態を調べ、必要に応じて二度と嘗めたマネが出来ないようにしたい。だろ ? 」

「…部下が皆あなたみたいだったら良かったのに。手筈は整えるからハイドリートに向かって。活動用の資金と報酬は、それぞれちゃんと工面しておく」


 リーラはグラスに入った酒を全てを飲み切り、大きく息を吐き出した後に言った。ベクターも負けじと飲み干し、グラスをカウンターへ乱暴に叩きつける。


「よし…ああ、そうだ。行くにあたってこっちも頼みがある」


 席を立って店を出ようとしたベクターだが、不意に思い出したかのようにリーラの方へと向き直った。




 ――――一足先に帰宅したムラセは、持ち帰ったアタッシュケースをテーブルへ置くとソファに寝っ転がる。そして、仕事で見た一部始終を居合わせたタルマン達へ伝えていた。


「はぁ~、違法取引の隠れ蓑ねえ。えげつねえ事考えるもんだ」


 残酷さに少し悪寒が走ったのか、タルマンはわざとらしく不快そうな顔をする。


「はいコーヒー。助かった子達は ?」

「ひとまずリーラさんが部下の方を呼んで、暫くは面倒を見るって言ってました」


 カップを手渡してきたジョージの質問に、ムラセも受け取りながら答えてソファに座り直した。勝手にアタッシュケースを開け、中にギッシリと詰まっている札束を前にリリスは目を輝かせる。不愛想ではあるが、イフリートも彼女の背後からその光景を眺めていた。


「それよりこれどうする ? 金だよ金 ! まずは祝杯の酒買おう !」

「バカ、それよりも食料だ。冷蔵庫に何も残ってない。肉を買おう」

「待て待て待て…贅沢はしない。まずは仕事に使う道具を新調して―――」


 早速使い道に関して揉めだすリリスとイフリート、そこに割って入り始めたジョージを見ながら、タルマンは呆れたように苦笑いを浮かべてムラセを見る。そして立ち上がりながら三人の方へと向かった。


「なあ三人とも聞いてくれ。まず、大前提としてお前たちの要望は聞かない」

「…え ? 」

「何で貴様が決めるんだ」

「ノリ悪いぞ~おじいちゃん」


 タルマンが大胆に打ち明けると、三人が口々に文句を垂れ始める。しかし、依然としてタルマンは話を続けた。


「昨日の夜、お前らが眠りこけている間にベクターとムラセも含めて決めた事だ。まずは借金の返済と滞っている家賃諸々の支払い。それが最優先。ついでに、小遣いは支給制にする。それ以上に必要なら理由付きでムラセかベクターに話を通す。それで良いな ?」


 否定は一切受け付けないといった具合の態度でタルマンは腕を組んでいたが、案の定三人は納得してない様子で不満を漏らし続ける。


「ていうかジョージさん、貯金無いんですか ?」

「無いよ…」


 ガッカリした様にソファへ近づくジョージへムラセが聞くと、首を振ってジョージは答えた。


「まだ傭兵になってすら無い時に親父とお袋が借金作った挙句、俺を連帯保証人にして蒸発した。で、ようやく返し終わった矢先にあの騒動。シアルド・インダストリーズからは解雇、住んでた場所も追い出されて今ここにいるってわけだ」


 別に頼んだわけではないものの、ジョージが今に至るまでの経緯を語りながらムラセの向かい側に腰を掛ける。


「…酷い話ですね」

「いや、お前も大概だけどな」


 ムラセが憐れむように反応し、すかさずタルマンもツッコミを入れてから仕事部屋へ向かおうとしていた時だった。ドアが勢いよく開き、若干酔いが醒めているベクターと、その後を追う様にしてリーラが入って来る。


「帰ったぜ~」

「あ、お帰りなさい」


 ベクターに対してムラセも返事をするが、直後に凄まじい勢いでリリスが近づき、彼に抱き着こうとする。


「その子が話に言ってたデーモン…信用できるの ?」


 リーラが尋ねた。


「まあ、時と場合によって考える。それに勝手に暴れて、人目を引いてくれるなら好都合だ」


 ベクターもリリスを手で抑えながら答えた。


「ベクター、聞いて~。あの頑固ヒゲ親父が金くれないってさー ! あんな沢山あるんだから奮発くらい――」

「当たり前だろ、俺が提案したんだ。てか少しは遠慮しろよ穀潰し」

「ひど~い。あーあー、丁度働く気になってたのにー」


 酒が買えない事を根に持っているリリスはベクターに泣きつこうとするが、簡単にあしらわれてしまう。そして渋々と引き下がってから大げさに不貞腐れてソファへと向かった。


「なら良かった。丁度新しい仕事がある」

「え、マジ」

「ああ…しかも全員でな。人手は多い方が良い」


 全員へ聞こえるように喋り出すと、ムラセ達も興味津々な様子で顔を向けてくる。不安要素も多いが、まあ何とかなるかとベクターはいつも通り自分に言い聞かせて不敵に笑みを浮かべた。

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