第63話 捜索
ベクター達が暴れている事など知る由もないリリス達は、屋根裏で偶然見つけたというトランプを使ってババ抜きに興じていた。
「だーかーら、知らないって私…おっ当たり」
ジョージからカードを引き、揃った二枚の手札を捨ててリリスは喋る。
「クソ…君がやったんじゃないとすると、誰が ?」
「知るわけないじゃん。話聞く限り、私が来たのクロノスよりずっと後だし。あんな不細工、連れて歩くような趣味してると思う ? 」
ジョーカーを散らばったトランプの上に投げ捨てるジョージを尻目に、リリスは自分がクロノスを現世へ連れて来たという線はあり得ないと念押しする。そのまま立ち上がって軽く背伸びをした。
「まあ知らねえなら別にいいだろ。それよりほら、ビリが昼飯のパシリだぜ。俺インセクトバーガーな。チーズ抜き」
これ以上は不毛だろうと、タルマンも話を切り上げさせる。そして罰ゲームと称したお遣いへとジョージを急かした。
「私ナゲットとポテトサラダ。ビールも買って」
「…カップラーメン」
タルマンが注文を付けたのを皮切りに、リリスとイフリートも欲しい食事を彼に伝える。良心的な価格で済ませてくれるのは嬉しいが、どれも買える店舗の住所がバラバラであった。
「なあ、せめて店を統一してくれないか ? 」
「黙れ。負け犬が意見出来ると思うな」
「はあ…すぐ戻る」
文句を言ったがすぐにイフリートから野次を飛ばされ、ただでさえ暑いのにとジョージは愚痴を零してその場を後にする。
――――扉の向こうへ消えていた見張りが応援を連れてきたが、間もなくベクター達によって殴り倒された。窓を開けてリーラへ手を振るベクターだったが、すぐにムラセへ扉の奥を調べてこいと指示をする。
「分かりました」
息切れをしていたムラセだったが、少し落ち着きを取り戻すと立ち上がって歩き出す。背後に立たせず、正面からタフネスに任せて応戦した方が良いとベクターは言っていたが、その理由が少し分かった様な気がしていた。現状では捌ける相手がせいぜい二人、そこに一人でも加われてしまうと途端に防戦一方になってしまう。だからこそ、ベクターの様に多少の攻撃は物ともせずに押し切れるだけの打たれ強さが必要なのだろう。
打たれ強さを鍛えるにはどうすれば良いのかと考えるムラセを見送り、ベクターは周りで這いつくばっている者達を踏みつけて受付へ戻る。そのまま電話を手に取り、どこかへ電話をしている内にリーラも到着した。
「思っていたより時間が――」
「ペパロニを特大で四枚。その内の二枚にはオリーブのスライスをたっぷり載せて…ええ ?オリーブが品切れ…じゃあトッピングは無くていいや。場所はさっき言った通り。着払いで頼む…ああ、ありがとう」
思っていたよりも時間が掛かったな。そうリーラが皮肉を言いかけた時、ベクターは行きつけのピザ屋と何やら話していた。満足げに電話を切ったベクターは、自分を訝しそうに見つめるリーラへ手を振る。
「誰と話してたの ? 」
「いや…腹減ったから」
おおよそ察しはついていたが、リーラが敢えて尋ねてみると悪びれなくベクターは理由を答えた。
「金持ってないって言ってた気がするけど ?」
「ケチケチすんなよ。現場の人間は汗水流して働いてるんだ」
「…まあ、大目に見とく。行きましょう」
財布事情からして、普段から碌な物を食べてないだろうと推測したリーラは呆れがちに許して部屋へと入っていく。ベクターは小声で「よっしゃ」と呟いて彼女に続いた。
その頃、ムラセは関係者以外立ち入りを禁止されていた扉の向こうにあった事務所の中へ探りを入れる。これといって怪しい物は無く、尚更先程の物音に対する疑念を深めていく。暫く事務室に備え付けられてる家具を見ている内に、ある本棚だけが横に動かされた痕が残っていた。床に傷が付いており、本棚を引き摺って今置かれている場所に動かしたのだと予想が付く。
「お…意外と軽い」
ムラセが一人で動かしてみると、小さく短い通路が用意されていた。奥にはまたしても扉があり、近づいて調べてみるとか簡易的な鍵で閉じられている。壊す事も出来たが、扉の先に何があるか分からない以上は無闇な真似は出来ない。仕方なく彼女は引き返し、トレーニングルームへと再び顔を出した。
「おかえり、何か見つけた ? 」
「どこかに続いてるらしい隠し扉がありました。鍵が掛かってますけど」
リーラが聞くと、ムラセは先程までの経緯を大まかに語る。話を聞いたベクターは、即座に近くで倒れていた一人の髪を掴んでから顔を覗き込む。
「鍵はどこだ ?」
「待って…ここに…」
ベクターが質問していた男とは別の誰かが弱弱しく声を出した。振り返ってみれば、見張りをしていた男が震えながら鍵を差し出している。
「ムラセ、留守番ついでに休憩しとけ。俺が見てくる」
そう言ったベクターが立ち上がって先程ムラセがいた場所まで向かってみると、確かに言った通りの怪しげな通路と扉があった。鍵を差し込んでロックを解除し、恐る恐る開けてみる。部屋はかなり薄暗く、妙な異臭が鼻に入り込んできた。
「うっ…」
不快そうにベクターは顔を逸らす。血と煙草のヤニ、その他の物も混じっている様な悪臭に耐えつつ、扉の近くにあったスイッチを押した。間もなく蛍光灯が明るく光り、ベクターは眼前の状況をよく理解できずに立ち尽くす。
猿轡や縄によって口を縛られ、手足も拘束されている女性が辺りに転がっている。大半は無気力に虚ろな眼差しでどこかをボンヤリと見ており、怯えている者もいた。大小問わず赤紫色の痣や、血が滴っている切り傷が体中についており、意識がハッキリしている者は皆、自分を見て慄いているらしかった。積み上げられた箱が倒れており、先程の音の正体はこれなのかとベクターは納得する。
「おい、大丈夫だ。何もしない」
ベクターは両手を小さく上げて静かに言い聞かせる。やがて一人が小さく頷いたのを確認した後に猿轡を外し、ナイフを取り出して拘束している縄を切っていく。一通り全員の拘束を解き終えてから、暫く待っててくれと彼女たちに言い聞かせて部屋を漁りだした。至る所にゴミ箱などが置かれており、何の目的に使われたのか察しが付くチリ紙や使い捨ての避妊具が捨てられていた。
「掃除くらいしとけよ…ったく」
胸糞悪い臭いの原因に毒づき、ベクターは部屋の奥にもう一つ扉があるのを見つける。そちらも開けて中へ入ってみれば、小汚い部屋が用意されていた。小さく積まれた書類や手紙が机に上にあり、バラバラにされた財布や身分証らしきカードの残骸も散らばっている。
「はは~ん、そりゃ黙っておくわけだ」
書類に目を通していたベクターは、確認して行く内にほくそ笑みながら呟いた。内容に関しては、ほぼ全てが女性たちに関する取引の日程や詳細についてであり、人身売買や臓器の摘出手術、時にはそれら全てなどといった骨も残さない様な鬼畜じみた要望さえ見つかる。どれも金払いが良く、仲介も無しに全てが懐へ収まるのなら当分は遊んで暮らせる額だった。
ベクターは書類の一部を手に取って戻り、リーラ達と再び合流する。そして書類を見せつつ隠し扉の先に何があったのかを説明した。
「へぇ…そういう事」
「男や子供は先に売り払われて、他は玩具として使えるから残してたんだろう。問題は取引相手が誰かって点だ…ああ、ムラセ。これを持って隠し扉の先に行け。話し相手にでもなってやれよ。腹も減ってるだろうしな」
反応するリーラに対してベクターは自分が抱えている疑問や推測を語り、知らない間に到着していたピザの箱を二つほどムラセに持たせる。そしてそのまま面倒を見てやって欲しいと彼女へ一任した。
「まあ、本人に直接聞けば済む話。もう既に呼んでるから少しすれば来る筈」
「…成程、じゃあのんびり待つとするか」
今後の予定へ異議を唱えることなく応じてからピザの切れ端を掴み、ベクターはそれを貪りながら休憩を取り始めた。




