第50話 適材適所
「おい、二人共無事か ? 」
「無事だから黙ってろ ! 後でかけ直す ! 」
不安を感じたタルマンが連絡を入れたが、半ばキレているかのようにベクターは怒鳴なった後に無線を切断した。すぐさま飛び掛かってい来るプレタ達を片っ端から斬り殺していく。ムラセもまた、命名された”ゲーデ・ブリング”によって次々と屠って行った。
レプタ達が次々と細切れにされ、吹き飛ばされた屍が注意を舞う惨劇を車内に取り残されていた兵士達も恐る恐る目撃する。噂に聞いていたノースナイツのハンターの実力がこれほどとは完全に想定外だった。
「何かしなきゃ…」
黙って眺めている自分に情けなさを感じたのか、後部座席にいた女性の兵士が呟いた。自分の手を離れてしまった装備を漁り、アサルトライフルを掴むと死角となっている車窓を割ってから這い出ていく。幸い、ベクター達が暴れている事で意識が彼女の方へは向いていなかった。
「危ない ! 」
ひっくり返っている車両の上へ飛び乗った直後、彼女は叫んだ。大軍を前に疲れを見せたムラセの一瞬を突き、プレタが飛び掛かろうとしていたのである。すぐさま照準で捉えて狙撃すると、プレタは大きくよろけて後ろへ尻もちをつく。ムラセもその声と銃声で気づいたのか、背後にいた立ち上がりかけているプレタへドロップキックを放った。
「援護は俺達に任せてくれ ! 」
遅れて出て来た残る二人も陰から射撃を行いながら叫ぶ。内心喜んでいたムラセとは対照的に、一騎当千感を想像以上に楽しんでいたベクターは少しだけガッカリしつつも手を振って応える。そのまま銃声や只ならぬ衝撃音を響かせながら、デーモンの胃袋という前代未聞の場所にて乱闘が行われ続けた。
「ふう…今ので全部か ? 」
五分程経った後に掃討が終わり、ベクターはオベリスクを担ぎながら周囲を確認する。ムラセも肩で息をしており、他の兵士達も安心した様子で車両から降りて来た。
「弾…残りが確かまだ中にあった筈よね ? すぐに取って――」
女性の兵士が残弾の数を気にして物資の調達をするために動いた直後、暗闇から残って行った一匹のプレタが飛び出したが、間もなくムラセが割って入る。そのまま”ゲーデ・ブリング”で腕を生成し、顎どころか頭蓋骨を砕く勢いで下からアッパーカットを放つと、プレタも上に吹っ飛ばされた。
「うわあ、想像したくねえ」
何かが潰れるような音によってプレタの死体が吹き飛ばされた挙句に叩きつけられた衝撃で潰れ、胃袋の上部に貼りついてしまったという事をベクターは察して呟いた。
「えっと…あの…ああ、ありがとう」
女性の兵士は見た事も無いムラセの力に戸惑っている様子だったが、礼儀を欠かしてしまう程混乱をしているわけでも無かった。すぐに礼を言ってから車両に戻り、バッグパックや使えそうな弾薬の入ったマガジンを取り出してくる。
「ちょっと待て、アルはどこだ ?」
恐らく運転席にいたらしい老兵が言った。
「あそこにいるアイツか ? 」
ベクターが言いながらバスを指し示すと、降車用のドアから申し訳なさそうに顔を出している保護した兵士が見えた。自分達を取り囲む空気が途端に陰険なものになっていくのを、ベクターとムラセはバスに隠れていた兵士を方を見る他の者達の様子で感じ取る。
「み、皆…無事で良かったよ」
静かな足取りとで近づき、妙に腰が低い物言いと共にアルが労った。
「なーにが『無事で良かった』だ ! てめえ、俺達を置いて逃げやがったな ! 」
「だ、だって仕方なかっただろ…皆、気を失ってたし――」
老兵が怒鳴ると、アルは一気に縮こまってから言い分を主張する。
「気を失ってた ? 私と目が合った癖に、あなたったら何の素振りも見せずに出ようとした」
「いや…だから、その…丸腰だったから戦わずにどうにか出来ないかと思って…現にほら、彼らが助けにきてくれたじゃないか。もし僕が出なかったら――」
「気を失ってた俺が言うのも何だが、せめて静かに起こそうとする優しさは無かったのか ? 」
女性や他の若い兵士も口々に彼を非難し、それに対してアルも反論するがイマイチ聞き入れてもらえない。面倒くさいと思いつつ、ガスマスクからはみ出ている髪を指で搔いていたベクターだったが、ムラセが仲裁に入るべきかと迷っている様な不安げな顔付きを見せている事に気づく。ここは上司としてカッコいい所でも見せてやるかと、オベリスクを背負い直して彼らのもとへ向かった。
「彼が言っている事は一理ある」
話に介入してきたベクターへ全員が驚いたように顔を向けた。
「現に俺達も装甲車の中に生き残っている奴がいるとは知らなかった。数的にも辛い相手だったしな。やり過ごそうと考えていたが、アル…だっけ ? 彼が教えてくれたんだ」
ベクターはそう言いながらアルの肩を叩く。
「だから、怪我の功名って事でこの場は一度水に流そうぜ ? 問題が山積みなんだ。出来れば揉め事は避けたいし、生きて出たいだろ ? その後に落ち着いた状況でゆっくり話せば良い。違うか ?」
ベクターが喋り終えると、一同もようやく置かれている状況と向き合い出したらしく、溜飲が下がった様な溜息を交えながら装備を整え出す。女性の兵士だけはアルと何か小さく呟き合ってから立ち去っていた。
「何にせよ助かった。サヴィーノだ、こっちはローマン」
「よろしく」
「こちらこそ。ベクターだ」
老兵はもう一人の若い兵士と共に握手を求め、ベクターも名乗りながら手を握り返した。
「この後はどうする ? 」
「とりあえず準備が整い次第だ。そういえばあそこの二人。さっき何かを話していたようだが、仲良いのか ? 」
ベクターは準備が整ってから今後の対応を考えると答えたが、ふとアルが女性の兵士と何を話していたのかが気がかりになる。
「彼女…ああ、ウィンディか。結婚する予定だったんだよあの二人」
「…何でそんな奴らを一緒に組ませるんだ ? 」
「元々コンビを組んでたんだ。尤も、今回で関係に亀裂が入ったかもしれんが」
ヒソヒソ話でベクター達が話をする一方、ウィンディは下敷きになった銃座へ潜り込もうと躍起になっている。銃座の間から滑るように落ちていた装備の一部が、車両の下敷きになっているらしかった。
「大丈夫ですか ? 」
「ええ。ただ、銃座の方から私の装備が外に出ちゃってて…」
「あ、私がやりますよ。少し下がっててください」
ムラセに対してウィンディが事情を説明していたが、直後に自分に任せて欲しいと言い出したムラセが退くように伝える。何をするつもりなのだろうかと距離を置いてみていた一同だったが、”ゲーデ・ブリング”による巨大な腕を発現させた後に、それを使って易々と車を持ち上げた。そしてそのまま車両を安全そうなところに置いた後に発現を解除して手をはたき、装備である潰れたバッグパックを掴んでウィンディに手渡す。
「だいぶ慣れて来たな」
二人を遠目に見ていたベクターが呟いていたが、サヴィーノ達は全員が呆然としていた。
「こっちからも質問したいが、おたくのシェルターはアンタやあの子みたいなのが普通なのか ? 」
ローマンがひっそりと尋ねて来る。
「普通じゃないから、こんな仕事を引き受けるしか無かったんだ」
ベクターもどこか自嘲気味に言い返してからムラセの元へ歩き出した。




