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殺戮魔人の冒険譚 ~仇探しのついでに仕事を始めた結果、周囲から一目置かれるようになっていました~  作者: シノヤン
パート3:争奪

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第49話 餌場

 プレタ達は体を震わせながら歩き出し、近くに転がっている土砂や腐乱した死体を手探りで漁り出す。こちらにはまだ気づいていないのか、何かを啜り、水気を含んだものが引き摺られ、叩かれるような音が聞こえる。


「隠れるぞ。まだ俺達には気づいていない…バスの方へ向かうんだ」


 ベクターが吐息と勘違いしそうな程に押し殺した声で語り掛ける。彼が指を差した先には蛆の湧いた死体が多数転がっており、辺りには蠅も飛び交っていた。その上を跨いで、先程探索したバスの中へ入っていくべきという指示なのだと、ムラセも理解はしていたがグロテスクな死体に対して激しい嫌悪感が湧き起こる。


「で、でも…あそこ…」

「良いから行け。あんな数、相手にしてたらキリがない」


 躊躇を見せるムラセだったが、ベクターは軽くどついてから先を歩かせつつプレタ達を見る。恐らくは音や匂いを頼りにしているのだろう。目立った真似はしないようにしなければ。そう思いながら脆くなっている死体の上を歩く彼らだったが、肉が崩れて血だまりのような物まで出来ており、とてつもなく滑りやすくなっていた。蠅たちもここぞとばかりに群がり、雑音と纏わりついてくる煩わしさに二人は骨を折る。


 何とかバスまで辿り着いた二人だったが、ベクターは足を掛ける前に少しだけ体重を乗せて軋み具合を確かめる。かなり深く突き刺さっているらしく、そんな簡単に動いたりする事は無さそうだった。


「よし。行け」


 ベクターが手招きをすると同時に、忍び足でムラセも搭乗する。彼女がある程度入れた所でベクターも続く。ドアを閉める気にはなれなかった。下手に動かして音が鳴っては元も子は無いと踏んだ上での判断である。二人でしゃがみ、苔やら土やら渇いた血の跡で汚れているバスから彼らを見る。発炎筒があちこちにばら撒かれているのには気づいていないらしく、それらは無視するか一度顔を近づけた後に、食える物では無いと判断して違う場所へ歩き出す。


「…土や肉は食べるのに、発炎筒は食べないんですね」


 ムラセが語り掛けた。


「有機物しか食わないって事かもな。よくは分からんが…」


 ベクターも彼女の発言からプレタ達の主食が何なのかを言い当てつつ、時間が経つごとに増えていく数に息を呑んだ。これだけの数が生息しているとは、いったいこのデカブツはどれだけの量を普段食っているのか。そう思っていた矢先に再び大きな震動が起きた。ムラセに身を伏せろと手でジェスチャーを送り、ベクターは自分達が来た時の様に雪崩れ込んでくる土砂や瓦礫を、出来る限り低い姿勢を取ってバスのフロントガラス越しに見る。


「おっと…脱落者が出たな」


 呟いたベクターの先には、瓦礫に揉まれて酷く傷ついてしまった装甲車がひっくり返った状態で煙を上げていた。割れた窓から這い出てくる者がいるのを確認し、ムラセにここで待っていろと伝えてからベクターは外へ体を出す。


「あ、おい――」


 装甲車から這い出た兵士が叫ぼうとした直前、ベクターは再び静かにしろとジェスチャーで指示をする。ベクターによってこちらへジワジワと接近しているプレタの存在に気づいた兵士は、思わずガスマスク越しに口を手で覆いかけた。ベクターがそのまま手招きをするが、なぜか兵士は首を横に振る。そして装甲車を指差しながら自分とは別に仲間が残っている事を身振りで伝えた。出てこないという事は、恐らく死んでいるか気を失っているのだろう。


「クソ…」


 どうするべきかと悩んでいる間にも、音を聞きつけたプレタ達は忍び寄って来る。こうなれば最悪の事態も想定した上で引き摺りだそうとベクターが動きだした直後だった。


「うん…」


 誰も気づいていない中、装甲車の中で気を失っていた兵士の一人が目を覚ます。そして首を横に向けた瞬間、彼はこちらへ向かって来る無数のプレタを目撃してしまった。


「ヒィッ ! 」


 思わず悲鳴を上げただけでなく、身をよじらせてしまった事で車両から音が出てしまった。生物の声と不審な物音は、プレタ達にとって新鮮な獲物がいると認識させてしまうに十分すぎる材料だった。


「キャアアアアアアア‼」


 一斉に甲高いハスキーな声を上げ、プレタ達が一目散に駆け出した。外に出ていた兵士は何とか声を出さずにベクターの方へ向かう。


「俺の仲間がいる。バスに向かえ」


 ベクターはコッソリ言い残した後、おもむろに立ち上がってから駆け出した。何とかプレタ達より先に辿り着くと、「声を立てるな」と怒鳴った後にオベリスクを起動する。そして一気に振り回して周りにいたプレタを数体ほど切り裂いた。


「ここで待っててください。絶対に音を立てないで」


 バスへと着いた兵士に対して、ムラセも言葉を残して飛び出していく。そして両腕から魔力を放出して拳を形成すると、プレタの群れに叩きつけて勢いよく吹き飛ばした。


「お前のそれ、名前考えたんだけど欲しい ? 」


 ベクターは自分の傍らへ来たムラセに聞いた。


「カ、カッコいいやつなら…」


 名称があった方が指示をしやすいという考えによるものだったが、ムラセはいつものノリかと思ってしまい、仕方なく彼に応じる。


「”ゲーデ・ブリング”ってどうよ ? 」

「うーん、もうそれでいいや」

「オッケー」


 提案に対して半ば雑にムラセが答えると、ベクターも返事をしてからオベリスクを肩に担ぐ。そして群がって来ようとするプレタ達を二人で睨みつけた後に構えを取った。

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