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殺戮魔人の冒険譚 ~仇探しのついでに仕事を始めた結果、周囲から一目置かれるようになっていました~  作者: シノヤン
パート3:争奪

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第46話 暴飲暴食

 運転席が少々騒がしくなっている事に気づいたベクターは、様子を見に行こうと荷台の上を歩き出した。しかし、直後に再び地面を突き上げるような震動を感じる。遠くの方からだった。


「お、おい…あれ…」


 ジョージが呆然と指を差し、現在の地点から南西の方角にある丘を震えながら見ている。丘がどうかしたのだろうかと、ムラセは彼の隣に立って確認しようとする。やがて身の毛がよだつのを感じながら、少しだけ後ずさりした。丘と思った”それ”は、静かに地鳴りを響かせながら動いていたのである。やがて大地へと沈み込むように消えていった"それ"を前に、二人は一度だけ顔を見合わせ、一斉にベクターの方を見た。


「今のは ? 」


 ベクターは呑気にしているイフリートへ聞いた。やはり警戒しているのだろうか、質問をする彼に笑顔はない。そして落ち着かなさと苛立ちの表れなのか、何度か息を吐き出していた。


「クロノス、魔界に棲む忌まわしい害獣だ。あそこまでデカくなってるとは珍しいな」

「感心してる場合じゃないだろ…ったく。出来れば戦わずに済むと良いが」


 目が見えないというのに大きさが分かるとは不思議な物だとベクターは内心、そっちの方を聞きたくてしょうがなかった。しかしそれ所ではないと考え、魔力か何かを感じ取っているのだろうと勝手に仮説を立ててから、クロノスと称されていた未知の敵について対策を講じようと脳内で躍起になる。戦わないという選択は当然の如く最優先だが、万が一の事態を恐れていた。例えるなら、どうしようもなく腹が減っていて、主食が生物の血肉や自分達の運んでいる荷物の中にあったとしたら ?


「普段何食って生きてるんだアイツは ? 」


 ベクターは再度振り返ってイフリートに問いかける。


「共食いする事もあれば、こうして現世を出歩く事だってある。そして動くものを気ままに口へ放り込むんだ」

「成程ね、聞かなきゃよかった」


 当然、人間に危害は加えないから安心という訳にもいかないらしく、イフリートの答えを聞いたベクターは頭を抱えたくなった。ただでさえ相手にしたくなさそうな強大さな上に、目的が輸送とあっては不必要な犠牲を出せない。頼むからこちらには気づかないでくれと心の中で願い始めつつ、運転席の様子を見に行こうとしたベクターだったが、直後にタルマンが窓から顔を出して何か叫び始めた。


「ヤバいぞ ! さっきのヤツ見たか⁉」

「ああ、見つからないよう安全運転で頼むぜ」


 必死な様子のタルマンにベクターは苦笑いを浮かべながら言ったが、いつもの様に一笑してはくれなかった。


「言ってる場合か ! こっちに向かって来てるんだよ ! レーダーに映ってる !」

「…は ? 」


 想定していなかった報告に目を丸くするベクターを余所に、再び地鳴りが始まる。次第に大きくなっていくその震動に全員が冷や汗をかき始めた頃、彼らが乗っていたトレーラーの隣に大型の装甲車両が張り付き、並走を始めた。


「おい、誰か動ける奴はいないか!? 」


 銃座から身を出している傭兵が叫んだ。


「一体どうする気だ ? 」


 ベクターも咄嗟に目的を尋ね返す。


「このままじゃ荷物をやられちまう ! どうにかデカブツをトレーラーの列から遠ざけたいんだ ! 手を貸してくれ ! 」

「俺達の報酬を三倍に増やせ。そうしたら考えてやる」

「何だと⁉足元見やがって ! 」

「そうか。じゃあまあ、せいぜい頑張ってくれ」

「ま、待て待て ! 分かった ! 後で掛け合ってやるから !」


 ベクターからの要求に対して最初は渋っていた傭兵だったが、切羽づまった状況で協力してもらえないことを恐れ、努力はするという方向で答えを濁した。護衛に回っていた他の車両もトレーラーの列に近づいている。そして他の荷台の護衛に当たっていた者達を次々に搭乗させていた。


「その言葉忘れさせねえからな。ムラセ、俺と来い。えーっと…後はのんびりしててくれ。来た所であまり役に立たんだろ」


 ベクターはムラセに呼びかける一方で、ジョージ達には残るよう促した。足手纏い扱いするなとジョージは息巻いたが、大きな震動と共に後方の荒廃した道路か物音がすると、恐る恐る振り向いた。鉤爪を付けているぼてぼてとした足を動かし、進み度に震動を伝えてくる怪物がいた。目どころかそれに該当する部位すら確認できない。大きく開かれた顎はまるでブルドーザーの様に大地を抉り、それらを飲み込みながらこちらへ迫って来ている。時たま咀嚼をするがすぐに口を開き、そのまま地面に叩きつけて進撃を再開する。


「来てくれるのか ? 」

「い…いや…頑張ってください」


 一瞬ギョッとしたベクターだったが、すぐに気を取り直して問いかける。先程までは確かにあったやる気が完全に失われ、ジョージは魂の抜けた様な声で声援を送った。装甲車へと飛び乗るベクターに連れられたムラセが一瞬、こちらへ落胆や失望を思わせる寂しげな視線を向けた事にジョージは気づき、彼女に何か言い訳をしようとする前に装甲車に乗られてしまった。


「女の前で良いカッコでもしたかったか ? 」


 ベクター達が飛び乗った装甲車を見送り、ジョージは溜息をつく。そんな彼に笑いながらイフリートは話しかけた。


「何を根拠に言ってんだよ目くら !」

「あんだけデカい溜息ついた癖に気付くなって方が無理だろう」


 言われたくない事を指摘された事で不貞腐れたジョージを尻目に、イフリートは後方から強烈に感じる魔力に身震いをする。そしてクロノスの狙いは食欲を満たす事では無いだろうと察し始めていた。

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