第45話 襲撃
シェルターで生活出来ない難民たちの中には、徒党を組んで荒野や管理されなくなったシェルターを根城に生活を営む者達がいる。当然、専門的な技術者が仲間になってくれるなど稀であり、大半は自給自足を出来る程の資源も人脈も持ち合わせていない。そのため、旅人や輸送車両を襲っては根こそぎ奪える物資を強奪していき、時には殺人や食人に手を染める事もあるという。
”ネズミ”という蔑称を付けられている彼らは、多くの組織や企業が根絶を目指しているが解決には程遠く、未だにシェルターの外では彼らによる犯罪が横行しているのが実情である。
「おっと ! 奴らめ、見境なしだな ! 」
オブライエンは窓ガラスに付いた弾痕に怯み、上体を低くしながら叫んだ。念のために防弾にはしておいたが、やはり攻撃が来ると肝を冷やしてしまう。あちこちから風に乗ってくぐもった銃声が耳に入る。車列の両端から賊達に襲撃を受けているらしかった。タルマン側のドアに飛びついて来た者もいたが、間もなく窓を開けたタルマンによって至近距離から散弾を頭に食らった。
「ハッハー ‼ 見たか今の ! まるで割れたスイカだったぜ ! 」
タルマンは妙にテンションが上がっていた。そのまま窓を閉めてから尽きそうになっていた弾薬を補充し、フォアエンドをスライドさせてガチャリという音と共に準備を終えると獲物が視界に入るのを待ち続ける。
「あんたの連れは大丈夫なのか ? 」
オブライエンは、運転席に比べて乗り込んでくる可能性の高い荷台に行ったベクター達の事を聞いた。
「ん ? 平気だろ。俺みたいな老いぼれが行った所で邪魔になるだろうしよ」
オブライエンが後ろに放り投げてた煙草の箱から勝手に一本取り出し、シガーライターを押し付けて吸い始めてからタルマンは言った。
「誰かタルマン呼んで来い ! サボりやがってあのジジイ ! 」
比較的穏やかな運転席とは対照的に、銃や火炎瓶での攻撃だけでなく直接乗り込もうとしてくる”ネズミ”達への応戦が激化していた。薬莢をばら撒きながら戦闘を続けるベクターは、タルマンがいつまで経っても加勢に来ない事に対する不満が爆発したのか大声で怒鳴る。
「他の連中を見てみろ。そんな暇がある様に思うか ? 」
相変わらず寝っ転がったまま、せわしなく働いてるムラセやジョージを見ながらイフリートが笑った。何か殺意が湧いたのを感じながらベクターは彼に近づき、顔面に蹴りを入れる。
「んじゃあ、お前が代わりに動け ! 」
「無理だ。力がほとんど使えん、武器の使い方も知らん、俺に何をしろというんだ」
「クソッ…図体だけは一丁前にデカい癖によ… ! 」
役立たずっぷり、或いはそのやる気の無さに辟易しながらベクターは文句を言う。イフリートは彼による顔面への蹴りも大して効いていないのか、せせら笑ってから再び仰向けに寝ようとした。直後、サイドラックに何者かの手が掛けられているのを感じ取る。そのまま賊の一人が昇って来ようとしていたが、イフリートを目撃するや否やしまったと言いたげな様子だった。
「そろそろ働くか」
イフリートは呟き、跳ね起きてから慌てて戻ろうとする賊の顔面を鷲掴みにする。そして、このまま殺すには惜しいと考えたのか、すぐに反対側の方向へとぶん投げた。サイドラックを易々と越え、トレーラーから放りだされた賊は仲間達が操るバイクへと激突し、バイクを数台こけさせる。
「何かヤバいのがいるぞ ! 気を付けろ ! 」
こちらへ仲間を放り投げて来たイフリートの姿を一瞬見た者が、口々に周りへと伝達していった。どうにか直接乗り込むのは避けるべきかと考えていた矢先、賊が乗っていた装甲車のフロントガラスを弾丸が突き破る。そのまま運転手が頭を撃ち抜かれ、助手席にいた者が慌ててハンドルを取ろうとするが間に合わない。そのまま岩に乗り上げて豪快に横転した。
「やった ! 」
「伊達にこの道で飯を食ってたわけじゃない」
喜ぶムラセに対して、少々得意げな様子でジョージは呟いてから銃の排莢を行う。ふと背後を見れば、サイドラックに引っ掛けているロープから続々と乗り込んできていた賊達をイフリートが嬉々として殴り殺していた。返り血を浴びながら笑い、相手の脳味噌が飛び散るまで殴り続ける盲目の男という光景の悍ましさは、第三者が止めるには十分すぎる理由だった。
「おいおいおいおい ! …これを外せば済む話じゃないのか ! 」
慌てて駆け出したジョージは引っ掛けられているフックとそこに繋げられているロープを見る。そしてフックを外すのが難しいと分かった後は、ロープの方をナイフで切断した。
「それじゃあつまらん。手を出したらどうなるかを教えてやる必要がある」
「嘘つけ ! 絶対楽しんでただろ ! 」
ある程度敵の数が落ち着いたせいか、心に余裕が出来て騒ぎ始めるジョージ達を余所に運転席から周囲の様子をオブライエンは確かめていた。遠方で爆発が起きたかのような振動と音が聞こえ、立ち上る煙が見えた。タルマンは仰天したのか窓に釘付けになっている。
「今のは何だ⁉」
「さあな。”ネズミ”どもがまた押し寄せてくるかもしれないぜ ? ハハハ」
心配するタルマンに対して、オブライエンは笑いながら冗談を言っていた。そのまま車内に搭載されているレーダーで周辺の生命反応を確認した時、彼は一瞬だけ血の気が引くのを体で感じる。
「え ? 」
彼が見ていたレーダーは、魔力に対して呼応するという特殊な音波を発する事で、周辺に活動しているデーモンの位置を判別できるという物である。魔力の反応は細かい振動をする点として画面に表示され、その数や大きさから群れかどうかやデーモンの強大さをある程度推測できるようになっていた。
小型のデーモンしかいないと予測できるであろう無数の小さい点が周囲から検出され、レーダーに表示されている。これだけならば雑魚が蔓延っているだけだと安心できたが、先程の奇妙な爆発があった地点から、それらの十倍はあろうかという巨大な存在がレーダーに映し出されていた。思わず一瞬だけ窓の向こうを見たが、何か異変が起こっているわけでも無い。再びレーダーへ目をやると、先程の巨大な反応が消えていた。
「おい、どうした ? 顔色悪いぞ ? 」
状況が良く分かってないのか、タルマンは呑気そうに尋ねて来る。答える気にもなれないオブライエンは、慌てて他のトレーラーへと無線の周波数を繋げた。
「こちら二号車。レーダーでも目視でも良い。何か異変は無かったか ? 」
『一号車、レーダーに異常を確認。巨大な魔力を検知』
『三号車もです。短い間でしたがかなり大きな影を確認しました』
『四号車も同じだ。さっき遠くで爆発みたいなのがあったが、関係あると思うか ?』
オブライエンの質問に対して、他のトレーラーを任せられていた運転手は口々に報告をした。震える手で無線を切り、オブライエンは頭を抱えながら今後の対応を考えようと躍起になる。タルマンの心配する声さえ聞こえていない様子だった。




