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殺戮魔人の冒険譚 ~仇探しのついでに仕事を始めた結果、周囲から一目置かれるようになっていました~  作者: シノヤン
パート3:争奪

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第44話 リスクとリターン

「食わねーなら貰っちまうぞ ?」

「えーダメです」


 ムラセに背後から近寄って盗もうとするベクターだったが、彼女はさっと身を避けて逃げ出した。少し拗ねた様子でベクターは舌打ちをし、ピリピリとした雰囲気で張り詰めさせるイフリートの隣に立つ。


「お前をウチに置いてやってるのは、仕方なくだ。分かるか ? 」


 ベクターはなるべく他の者達に聞こえなさそうな声量で話し始める。


「だから何だ ? 」

「ルール…というよりは頼みがある。理由は知らんが、あの子の過去について色々と探りを入れるのはやめろ。良いな ? 随分興味を持ってるようだが手出しはさせん」


 唐突な話題に対して困惑を隠さないイフリートだったが、続けざまにベクターは面倒くさそうな態度で釘を刺す。これでも一応は真剣なつもりだったが、イフリートは鼻で笑った。


「そういうお前はどうだ ? 小娘とドワーフから聞いたが、仇を探してるそうだな…ならばあの娘の力がどこに由来するか、調べて損は無いだろう。なぜしない ? 」

「それは…ほら、気が変わった。それだけの事だ」


 イフリートは逆に聞き返して来るが、少々言葉に詰まりながらベクターはあしらった。時計を確認するが、未だ目的地には到着しそうにない。


「何よりお前の方がいくらか面白い情報を持ってそうだ。だから、わざわざあいつの事について探る必要もなくなった。勿論、ムラセの個人的な目的については出来る限りで協力してやるつもりだが…まあ、事情があるんだ。色々と」

「…誤魔化したか。都合が悪いようだな」

「黙れ。こっちからも聞きたい事がまだ残ってる」


 この話題を出したのは失敗だったと、ベクターは苦虫を嚙み潰したような顔で理由を話して切り上げようとする。そのままイフリートに揶揄われた事でムキになりつつも別の話題へとようやく誘導する事が出来た。


「言ってみろ」


 仕方がないと投げやりにイフリートも応じる。ジョージとムラセは携帯型ラジオを取り出して二人で何か話していた。


「ジードって男について知っているか ? 」


 ベクターが神妙な顔で尋ねると、少しだけ黙って固まったイフリートだったが、溜息をついてから口を開いた。


「聞いた事ならある」

「…なに ? 」

「魔界にいた頃、そんな噂を聞いたことがあるよ。ジードという名の人間とその血を引くガキを殺せばオルディウスから報酬が手に入ると騒いでいた…その男がどうかしたのか ? 」

「俺の父親だ。昔…殺された」


 イフリートが耳にした事のある情報を話すと、ベクターは考え込むように黙り込んでいた。ジードとは何者なのかを尋ねてきたイフリートに対し、自分との血縁関係を明らかにしたベクターは礼代わりに肩を叩いてどこかへと歩いていく。何を考えているのか分からないその様子を不思議に思いつつ、イフリートは丁度空いて来た小腹に何か入れようとムラセのいる方へ向かった。


 一方、ベクターは貨物に腰掛けながらイフリートから手に入れた情報について憶測を巡らしていた。完全にイフリートを信用するのであれば、父親が殺される原因を作った張本人である事は分かるが、いかんせん目的が見えない。なぜ自分達を狙っていたのだろうか ?


 やはりもっと聞き出すべきだ。ベクターはそう考えながら後方で屯しているムラセ達を見ていたが、無線でタルマンから連絡が入って来ると急いで貨物から飛び降りた。


「どうした ? 」


 他の者達にも聞こえる様にわざとムラセ達の方へ近づいてベクターは尋ねる。


「そろそろ準備した方が良い。群がって来るぞ」


 タルマンの声が無線から聞こえて間もない頃、遠くからバイクや装甲車のエンジン音が聞こえ出した。これ見よがしに吹かしてる様な音を立て、土煙を巻き上げながらこちらの隊列へ迫っている。双眼鏡で確認しながらジョージはその数に息を吞んだ。頭数だけで言えばこちらの三倍以上はある。


「あんな絵に描いたような賊、生まれて初めて見た…」


 下劣で品性も感じさせない様な面構えや風貌に、ジョージは悪態を尽きながら武器の準備をする。ムラセも銃の安全装置を外しながら、拳を握り締めて魔力によって生み出される稲妻を迸らせた。ベクターは近くに置いていたデカいケースのロックを解除し、タルマンが念のために作っておいたらしいオベリスクのスペアを背中に担ぐ。


「また借金が増える…」


 愛用していた分を無くしたため、一から作り直す羽目になってしまったせいで材料費がかさむ事を彼は嘆いた。こちらのスペアはあくまで緊急用の代替品であり、軽くて取り回しが良い半面、全ての性能において下位互換に等しかった。そして手持無沙汰で暇そうにしているイフリートを呼びつけた。


「一応聞くが、お前は戦力としてカウントしていいのか ? 」

「勝手に判断しろ。まあ、乗り込まれたりでもすれば働いてやる…そうだ、一つ忠告しておこう」

「ん ? 」

「ドブネズミばかりに気を取られるなよ。何かデカい気配を感じた」


 妙な忠告をしてから昼寝を始めようとするイフリートにベクターは詳細を聞こうとするが、間もなく銃声が響き、荷台を囲っているサイドラック代わりの分厚い装甲に甲高い金属音が響いた。敵も丸腰で来るほど馬鹿ではならしい。ムラセ達は既にガスマスクを身に着けており、武器を携えてその場にしゃがみ込んでいる。


「報酬がやけに高い時点で疑うべきだったよ、クソが」


 ベクターは自分のがめつさを呪いながらアサルトライフルの引き金に指を掛けた。

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