表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
殺戮魔人の冒険譚 ~仇探しのついでに仕事を始めた結果、周囲から一目置かれるようになっていました~  作者: シノヤン
パート3:争奪

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/171

第43話 収穫あり

「う~ん、これは何というか…」


 シアルド・インダストリーズの予備施設にて、マークが実験台に固定されたオベリスクを手元の資料と交互に眺めていた。倒壊した建物の撤去作業を行っている最中に発見された物らしく内部の機構には大きな損傷が見られる。乾いた血痕が多数残っている事から、戦闘で使用したものを放棄したという結論に至っていた。


「何か分かったか?」


 ラボの入口であるハッチが開き、アーサーが入って来るや否や彼は真っ先に収穫があったかどうかを尋ねる。ラフな格好に着替えており、仄かに石鹼の匂いがする。シャワーでも浴びたのかもしれない、つまりトレーニングでもしていたのだろう。そういう所に関しては昔から真面目な奴だったとマークは頭の中で勝手に推測を並べ立てる。


「確かに使い込まれた痕跡は嫌という程ある。”死神”の得物かどうかは別にして、中々ユニークな武器だ。チェーンソーをモチーフにしているんだろう。デーモンの中には、皮膚が硬質化してしまって攻撃を通しづらい個体もいる。きっと、そういうヤツらへの対策だろう。この武器はチェーンに付いている細かい刃で装甲を削り取って、そのまま勢いに任せて切断するってのが目的なわけだ」


 オベリスクの元までアーサーを連れて行きながら、マークは武器の特徴や性質について淡々と語る。そして「見てろよ」と小声で何度か呟き、柄に取り付けられているアクセルを二回ほど回した。エンジンが起動し、オベリスクのチェーンが音を立てて目まぐるしく回転し始める。そして一回だけ反対側の方向へアクセルを捻ると、今度はエンジンが停止した。


「手探りではあったが、ある程度は修復できた。見ての通り、柄の部分にバイクのアクセルと似た機構が備えられている。ここを二回捻るとスターターが始動、反対側に一回捻ると停止…後はついさっき見つけた事だが、稼働中にもう一回同じ方向へ捻った時は、捻っている間だけチェーンの回転数が大幅に上がった。恐らく敵にこの武器を突き刺した時や、斬りつけたは良いが上手く切断できない場合のための機能だろう」


 マークはこんなものだと再び彼を連れ出して、アスラの装備を管理している保管庫へ向かう。その隣には兵器の実験場も用意されており、潤沢な資金源の存在を改めてアーサーに思い知らせた。


「武器ってのは作り手や使い手の考えが強く反映される。きっと、あんまり細かい事は考えないタイプなんだろうな。確かに強力な装備ではあるが、あくまで『理想論』を形にしたに過ぎない」

「どういう事だ ? 」


 そのまま耐熱加工を施した防弾ガラス越しに実験場を眺めつつ、通路を素通りしてからマークは自分の臨時オフィスへと到着した。実験の報告書が散らばっており、それらを端に追いやってから席に座って足を上げる。そしてリラックスした様に椅子を軋ませた。


「あんなのを作ったとしても扱える奴がいない。ここへどうやって運んだと思う ? ターレットやら小型のクレーンやら…人手を使うにしても片手の指以上の数だ。君の事は同僚及び友人としても信頼しているつもりだが、本当に”死神”はアレを一人でぶん回してたのか ?しかも右手だけで ? 」


 オベリスクを扱える時点で、人間の膂力を遥かに越えているとマークは警戒心を露にしていた。そして見間違いでは無いのかとアーサーに尋ねるが、彼の顔からして嘘はついていない事が分かると再び黙りこくる。


「記憶が正しければな」

「そいつ本当に人間か ? 」

「…出来ればそうであって欲しい」


 自分は真実を話していると告げる友人に、マークはどうしても慄きを隠せなかった。そんな彼へ不穏な一言を付け足したアーサーは、ソファに座り込んでから天井を仰ぐ。




 ――――車体にくすみと錆が目立ち始めているトレーラーが数台と、それを前後から護っている歩兵用の輸送車と四輪駆動車の群れがあった。トレーラーの運転席にはモヒカンの若い男が座っており、隣ではタルマンが周波数を弄ってラジオを聞こうとしている。


「悪いね、丁度ぶっ壊れてるんだ」


 モヒカンの男が笑いながら言った。少し困り顔をしながらタルマンは手を引っ込めて、軽く首を鳴らして周囲を見る。相変わらず淀んだ雲によって暗い景色が続いている。


「俺はオブライエン。あんたは ? 」

「タルマンだ。それと、後ろにいるのがムラセ」


 男に合わせてタルマンが名乗り、ついでに後方の寝台で座っていたムラセについても教えた。人と会うという事もあってか、彼女は念のために眼帯を付けている。土足で上がっても構わないと言われた際の理由がムラセには分からなかったが、いざ座ってみると辺りが薄汚れている。基本は頭上に備えられているハッチから後方の荷台へ行くための足場として使われているらしかった。


「しっかし、高い金払ってやらせる事が荷物運びとはな。周りは妙に物騒だしよお…何を運んでるんだ ? 」


 とりあえず目に付くところにあった雑誌をタルマンは手に取りながら尋ねる。


「密輸品だよ。どっかの企業や組合から横領した薬や食料、あと燃料に金属…それと盗んだ車。どれも一級品、バレたら皆揃って指名手配犯の仲間入りだ」


 オブライエンが積荷の中身を離すが、タルマンは「そうか」と興味ありげな様子だけアピールする。しかし内心では自分達に関してはもう手遅れだと自嘲していた。


「そろそろ夜かな。ムラセ、三人に飯持って行ってくれ」

「はーい」


 タルマンが小さい縦長の小包をムラセに四つ持たせる。それをバックに入れてからムラセはアサルトライフルを背負ってハッチを開けた。一瞬、風圧とそれに伴う寒気に驚いてしまったが、すぐに慣れてから荷台へ向かう。厳重そうなケースや無数に配置されている小型コンテナの間をすり抜け、奥で屯している三つの人影の方へ歩いていく。


「何でこんな事に…」


 ジョージは座り込んだまま嘆いていた。ギルドを通してシアルド・インダストリーズから解雇された事が告げられたらしく、行く当てが無いならこき使ってやると強引な形でベクターに雇われる羽目になった。そんな雇い主は彼の隣で座り込み、ヘッドホンで何かを聞きながら歌っている。ハッキリ言って音痴だった。


「ご飯ですよ~」

「…おお、来た来た」


 食事を持ってきたと現れるムラセに対して、荷台に伝わる震動で誰かが来るのに気づいたベクターがヘッドホンを外して振り向いた。食事の入った包を開けると、不恰好な見た目のブリトーが顔を出す。


「あ、鶏肉入ってる」

「トマトソースとチーズも付いてるぞ、贅沢だなあ」


 ジョージとベクターは口々に具を吟味しながら齧り始める。そんな二人を尻目にして、ムラセは周囲の気配を探る様に立ったまま辺りへ首を向けるイフリートを呼んだ。色々とデーモンに関する事情に詳しいという点から、最終的に彼の面倒も見る事になってしまっていたのである。


「イフリートさーん、食べないんですかー ?」

「…」


 呑気に叫ぶ彼女を無視して、イフリートは空気の流れと辺りの音に違和感を覚える。何か強い殺気がこちらへ向かっているのを彼は確かに感じ取っていた。「う~ん、これは何というか…」


 シアルド・インダストリーズの予備施設にて、マークが実験台に固定されたオベリスクを手元の資料と交互に眺めていた。倒壊した建物の撤去作業を行っている最中に発見された物らしく内部の機構には大きな損傷が見られる。乾いた血痕が多数残っている事から、戦闘で使用したものを放棄したという結論に至っていた。


「何か分かったか?」


 ラボの入口であるハッチが開き、アーサーが入って来るや否や彼は真っ先に収穫があったかどうかを尋ねる。ラフな格好に着替えており、仄かに石鹼の匂いがする。シャワーでも浴びたのかもしれない、つまりトレーニングでもしていたのだろう。そういう所に関しては昔から真面目な奴だったとマークは頭の中で勝手に推測を並べ立てる。


「確かに使い込まれた痕跡は嫌という程ある。”死神”の得物かどうかは別にして、中々ユニークな武器だ。チェーンソーをモチーフにしているんだろう。デーモンの中には、皮膚が硬質化してしまって攻撃を通しづらい個体もいる。きっと、そういうヤツらへの対策だろう。この武器はチェーンに付いている細かい刃で装甲を削り取って、そのまま勢いに任せて切断するってのが目的なわけだ」


 オベリスクの元までアーサーを連れて行きながら、マークは武器の特徴や性質について淡々と語る。そして「見てろよ」と小声で何度か呟き、柄に取り付けられているアクセルを二回ほど回した。エンジンが起動し、オベリスクのチェーンが音を立てて目まぐるしく回転し始める。そして一回だけ反対側の方向へアクセルを捻ると、今度はエンジンが停止した。


「手探りではあったが、ある程度は修復できた。見ての通り、柄の部分にバイクのアクセルと似た機構が備えられている。ここを二回捻るとスターターが始動、反対側に一回捻ると停止…後はついさっき見つけた事だが、稼働中にもう一回同じ方向へ捻った時は、捻っている間だけチェーンの回転数が大幅に上がった。恐らく敵にこの武器を突き刺した時や、斬りつけたは良いが上手く切断できない場合のための機能だろう」


 マークはこんなものだと再び彼を連れ出して、アスラの装備を管理している保管庫へ向かう。その隣には兵器の実験場も用意されており、潤沢な資金源の存在を改めてアーサーに思い知らせた。


「武器ってのは作り手や使い手の考えが強く反映される。きっと、あんまり細かい事は考えないタイプなんだろうな。確かに強力な装備ではあるが、あくまで『理想論』を形にしたに過ぎない」

「どういう事だ ? 」


 そのまま耐熱加工を施した防弾ガラス越しに実験場を眺めつつ、通路を素通りしてからマークは自分の臨時オフィスへと到着した。実験の報告書が散らばっており、それらを端に追いやってから席に座って足を上げる。そしてリラックスした様に椅子を軋ませた。


「あんなのを作ったとしても扱える奴がいない。ここへどうやって運んだと思う ? ターレットやら小型のクレーンやら…人手を使うにしても片手の指以上の数だ。君の事は同僚及び友人としても信頼しているつもりだが、本当に”死神”はアレを一人でぶん回してたのか ?しかも右手だけで ? 」


 オベリスクを扱える時点で、人間の膂力を遥かに越えているとマークは警戒心を露にしていた。そして見間違いでは無いのかとアーサーに尋ねるが、彼の顔からして嘘はついていない事が分かると再び黙りこくる。


「記憶が正しければな」

「そいつ本当に人間か ? 」

「…出来ればそうであって欲しい」


 自分は真実を話していると告げる友人に、マークはどうしても慄きを隠せなかった。そんな彼へ不穏な一言を付け足したアーサーは、ソファに座り込んでから天井を仰ぐ。




 ――――車体にくすみと錆が目立ち始めているトレーラーが数台と、それを前後から護っている歩兵用の輸送車と四輪駆動車の群れがあった。トレーラーの運転席にはモヒカンの若い男が座っており、隣ではタルマンが周波数を弄ってラジオを聞こうとしている。


「悪いね、丁度ぶっ壊れてるんだ」


 モヒカンの男が笑いながら言った。少し困り顔をしながらタルマンは手を引っ込めて、軽く首を鳴らして周囲を見る。相変わらず淀んだ雲によって暗い景色が続いている。


「俺はオブライエン。あんたは ? 」

「タルマンだ。それと、後ろにいるのがムラセ」


 男に合わせてタルマンが名乗り、ついでに後方の寝台で座っていたムラセについても教えた。人と会うという事もあってか、彼女は念のために眼帯を付けている。土足で上がっても構わないと言われた際の理由がムラセには分からなかったが、いざ座ってみると辺りが薄汚れている。基本は頭上に備えられているハッチから後方の荷台へ行くための足場として使われているらしかった。


「しっかし、高い金払ってやらせる事が荷物運びとはな。周りは妙に物騒だしよお…何を運んでるんだ ? 」


 とりあえず目に付くところにあった雑誌をタルマンは手に取りながら尋ねる。


「密輸品だよ。どっかの企業や組合から横領した薬や食料、あと燃料に金属…それと盗んだ車。どれも一級品、バレたら皆揃って指名手配犯の仲間入りだ」


 オブライエンが積荷の中身を離すが、タルマンは「そうか」と興味ありげな様子だけアピールする。しかし内心では自分達に関してはもう手遅れだと自嘲していた。


「そろそろ夜かな。ムラセ、三人に飯持って行ってくれ」

「はーい」


 タルマンが小さい縦長の小包をムラセに四つ持たせる。それをバックに入れてからムラセはアサルトライフルを背負ってハッチを開けた。一瞬、風圧とそれに伴う寒気に驚いてしまったが、すぐに慣れてから荷台へ向かう。厳重そうなケースや無数に配置されている小型コンテナの間をすり抜け、奥で屯している三つの人影の方へ歩いていく。


「何でこんな事に…」


 ジョージは座り込んだまま嘆いていた。ギルドを通してシアルド・インダストリーズから解雇された事が告げられたらしく、行く当てが無いならこき使ってやると強引な形でベクターに雇われる羽目になった。そんな雇い主は彼の隣で座り込み、ヘッドホンで何かを聞きながら歌っている。ハッキリ言って音痴だった。


「ご飯ですよ~」

「…おお、来た来た」


 食事を持ってきたと現れるムラセに対して、荷台に伝わる震動で誰かが来るのに気づいたベクターがヘッドホンを外して振り向いた。食事の入った包を開けると、不恰好な見た目のブリトーが顔を出す。


「あ、鶏肉入ってる」

「トマトソースとチーズも付いてるぞ、贅沢だなあ」


 ジョージとベクターは口々に具を吟味しながら齧り始める。そんな二人を尻目にして、ムラセは周囲の気配を探る様に立ったまま辺りへ首を向けるイフリートを呼んだ。色々とデーモンに関する事情に詳しいという点から、最終的に彼の面倒も見る事になってしまっていたのである。


「イフリートさーん、食べないんですかー ?」

「…」


 呑気に叫ぶ彼女を無視して、イフリートは空気の流れと辺りの音に違和感を覚える。何か強い殺気がこちらへ向かっているのを彼は確かに感じ取っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ