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殺戮魔人の冒険譚 ~仇探しのついでに仕事を始めた結果、周囲から一目置かれるようになっていました~  作者: シノヤン
パート3:争奪

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第41話 マウント

「邪魔するぜ、って何だコレ…」

「ちょっと…何があったの ? 」


 ノックが聞こえる事も無く、玄関が開かれた。そこから入って来たリーラとケルベロス三匹は早速飛び込んできた穴の開いた天井に仰天し、瓦礫を跨いでリビングへと侵入する。


「よお。うちの同居人が朝の体操をやってたらしい…コーヒー飲むか ? インスタントしかないが」


 ベクターは事情を話し、カップをチラつかせながら一杯飲むかと勧める。ムラセは気まずそうに顔を背けて焼いていないパンに齧りついていた。


「いや結構。随分と呑気ね…ニュース見てないの?」

「真面目を気取る様な優等生じゃない事ぐらい知ってるだろ。何かあったか ? 」


 リーラはなぜそうも余裕ぶれるのかが理解できないと呆れていたが、そういう性分だからどうにもならないとベクターは開き直っていた。


「シアルド・インダストリーズが記者会見開いてたんだけどなあ、とにかく想定外の事態で自分達の責任じゃないの一点張りってわけよ。マスコミも足引っ張りたいのか知らないが揚げ足取るか黒い噂に関する質問ばっかりで…『ウチの状況を知りたいのか野次飛ばすための材料を探してるのかどっちなんだよ能無し共‼』ってキレさせて大揉めだったんだ。久々に報道で笑ったね」


 気が付けばファイがソファを独占し、寝転がりながら今朝のラジオで耳に入った情報を要約する。思い出し笑いのつもりなのか話の最後に鼻を鳴らし、ソファに置かれていたクッションに噛みつき始めた。少なくともベクターだけは「そんな内容ならリアルタイムで確認したかった」と少々寂しげに肩を竦める。


「てっきり俺達が悪いとでも言って責任を押し付けてくるかと思ったが、いらん心配だったか」


 タルマンが食器を片付けながら言った。そのまま良ければ座ってくれとリーラに手招きをするが、彼女は平気だと断りを入れた。


「それでも油断は出来ない。少なくとも今後は過度に目立つような真似はしない方が良いわね」

「え~…?」

「マジか」


 リーラが忠告を入れると、ベクターとタルマンがなぜか不満げに反応を示す。こんな鉄砲玉気質な連中がどうして今日まで生活出来たんだろうとジョージは色んな意味で彼らに関心を寄せ、ムラセはどうせすぐに忠告を忘れるんだろうと彼らを不安げに見つめた。


「…さて、本題に入りましょう。よくこんな人目に付きそうな場所に捕まえておく気になったわね」


 杭で壁に両肩を打ち付けられ、鎖で体を縛られているイフリート見たリーラは様々な意味で疑問が尽きなかった。高い回復力を持つデーモン相手とはいえ、こんな方法で他人を監禁している事がバレたらどうなるか、記憶が正しければ借り家だという建物で杭を壁に打ち付けたりしているのはどうなのか。正直、彼女個人としてはそちらの方が気になっていた。


「まあ、この辺じゃ珍しい話でも無いだろ」

「ここまで開けっ広げじゃ寧ろ誰も近寄って来ねえよ」


 ベクターとタルマンの返答は一言でいえば想定通りのものだった。確かにボロ家で上半身裸な盲目の男が監禁されているなど、見つけたとしても近寄りたくはない。助ける気にすらならないだろう。すぐに保安機構へ駈け込む事も出来るかもしれないが、コネを持っている筈の彼らなら、恐らくあっという間に揉み消せる。そもそもシェルター内でも治安の悪さが際立っているこの第九エリアへ足を運びたいという職員がいるかどうかさえ分からない。


「…迷惑かけない内は好きにすれば良いけど」

「言われなくても。さて…イフリートだっけ ? お前がここに来た目的を教えてもらおうか」


 ベクターが席を立ち、イフリートの前へ向かうと一度だけ彼の顔を叩いた。


「今のお前程度なら素手でもぶちのめせるぜ。目的は ? 」

「フン、素手とは笑わせる…ぶちのめすのに使おうとしているその左腕だ」


 冗談交じりに彼を脅迫するが、イフリートはベクターの左腕に言及した。義手である以上は確かに丸腰とは言えないなと、タルマンがムラセに囁いて彼女は少し笑いそうになる。


「…コイツについて知ってるのか」


 ベクターは少し恥ずかしさを感じつつ、左腕を動かしてから違う質問へ移る。


「そいつの名は『レクイエム』。魔界に存在する意思を持つ金属を素材にして生み出された代物だ。遥か昔に誕生した兵器でな。なぜ一介の人間如きに使えるのかは知らんが」

「へえ、初耳だ」


 イフリートの説明によってベクターは増々レクイエムを気に入ったのか、少し撫でてから誇らしげにする。これまで多くの戦いでその可能性を見て来ただけでなく、デーモンのお墨付きというのが分かった事でさらに有難みが増した。


「お前はかなりのもんだったが、デーモン達の…序列っていうんだっけ ? そういう中でも強い方だったりするのか ? 」

「”深淵”の出身だ。少なくとも並の連中とは比較するのもおこがましい」


 次にベクターがイフリートの強さが魔界でどの程度の位置づけなのかを尋ねた時、真っ先に口を開いたのはリーラの傍らで凛々しく座っているドイラーだった。ティカールはソファで寝ており、ファイはクッションに齧り付いた後にそれをぶん回して遊んでいる。


「まあそういう事だ」


 心なしかイフリートは嬉しそうに相槌を打った。


「じゃあやっぱりアレか ? 『もっと力を手に入れるため…』みたいな―――」

「違う。お達しが来た、それだけの事だ」


 ベクターが彼の見た目や、その荒々しい戦い方を思い出してから付け狙って来た目的を言い当てようとするが、即座に否定された後で指令によるものだと知らされた。あの気迫や態度に反して、想像以上に手駒として都合よく扱われている身だという事実に全員が目を丸くする。


「お前みたいな奴が他人に踊らされる様なクチか ? だとするならよっぽどヤバい奴がバックにいるか、隠しているだけで他の目的があるか…ってなるよなあ。タルマン、高枝切りばさみってあったっけ ? 」

「屋根裏にあるぞ。錆びてるけど」

「…分かった、答える。たぶんだが前者の方だ」


 ベクターがどうも何かを隠していると疑い、いざという時に使えそうだからという理由で道具の準備をしようとする。タルマンが上に置いていると伝えた時、イフリートは危害を加えられるとすぐに悟った。そして彼の推測が当たっていると告げて何とか興味を抱かせる。


「じゃあ言ってみろ」

「今の魔界の状況が関わっている…端的に言うなら、従わなければ殺されてしまう。勿論、歯向かう事が出来たらとっくにやっているさ」


 そうして語り始めるイフリートの声は、どこか嘆きとも取れる寂しさを伴っていた。

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