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殺戮魔人の冒険譚 ~仇探しのついでに仕事を始めた結果、周囲から一目置かれるようになっていました~  作者: シノヤン
パート2:ターゲット

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第28話 それはそれ、これはこれ

 ――――十二年前、ルキナは父であるロベルトの仕事仲間に同行していた。手伝いなどでは断じてない。医療用物資の闇取引を行うという父が、用心棒として彼女へ頼み込んだ事が始まりだった。


 ついこの間まで食わせてもらっていた身である事は自覚していたが、後に自分も同じ道を辿る羽目になるとは知らず、企業の経営者という立場で薄汚い仕事に手を染め続ける父を彼女は心底嫌っていた。許可を貰う事なく家を飛び出し、見習いから始めたハンターとしての仕事は既に名指しで指名がある程にまで順調だったのである。


 そんな彼女の成長を父は待っていたのかもしれない。都合のいい駒が出来たと喜んでいた可能性さえあった。ならばたっぷり金蔓として使わせてもらおう。そしてとっとと別のシェルターに引っ越してやる。話しかけてくる仕事仲間達に適当な相槌を打ちながら彼女は考えていた。


 そんな自信を持っていた彼女の計画は見事なまでに暗礁へと乗り上げてしまう。予測には無かった大型のデーモンの襲撃によって取引は見事台無しになった。抵抗しようにもこれまで交戦したことの無い強大な相手を前に、ルキナの心は既に折れそうになっていた。


「うう…誰か…」


 千切れかけ、動かなくなった血まみれの足を引き摺りながら彼女は必死に地べたを這って逃げようとする。物資は当然使い物にならなくなっており、自分を残して全員が死に絶えていた。出血によるものなのか、力が入らないせいで身体がいつも以上に重く感じる。千切れ掛かっている足の断面に空気が触れる度、仄かに寒気が走る。そして砂利で擦れたり障害物に足がぶつかる度、寒気を掻き消すように激痛が走った。


 最早、ここまでの道中に見せていた頼れる戦士としての振る舞いなど微塵も無い。ただのくたばり損ないのボロ雑巾である。そんな彼女をデーモンが見逃すはずも無かった。四つ足を生やしている大型のデーモンは、嬉々として彼女の方へと接近しつつあった。


「やだ…‼やだよ…」


 足音と地面から伝わってきた振動でルキナもそれを悟る。そしてデーモンが前足でトドメを刺そうとしていた時だった。後方からロケット弾が飛来し、デーモンの顔面に直撃した。死に至る事は無かったが、流石に効いたのか怒ったようにデーモンは振り返ってから吠える。


 その瞬間、彼女はデーモンの背後より遥か先で撃ち終えたロケットランチャーを投げ捨てる人影を目撃した。片手で撃ったのかと疑うほどに軽々と扱う姿も大概だが、服や体の至る所がデーモンの体液や血にまみれている男であった。彼は言葉を発する事なく、余裕たっぷりに指で挑発をしてみせる。それに応じたようにデーモンが走り出したが、間もなく勢いよく空中へ吹っ飛ばされた。


「…な、何が…今…? 」


 アッパーカットでも決めたかのように高々と上げていた左腕を降ろす男を見て、彼女は慄く他無かった。あの人間のものとは思えない左腕が何かしたのだろうとは分かっていたが、本当に殴り飛ばしただけなのかという疑いは払拭できないままである。


「…おい、こっちだ ! まだ息がある ! 」


 気が付けば辺りに応援として駆け付けて来たらしいハンター達がいた。その一人が彼女を覗き込みながら叫び、他の者達が応急処置用の道具や担架を抱えて彼女に近寄る。遠のく意識の中で、気だるげにどこかへ歩き去っていく男の影をルキナは目に焼き付けていた。


 次に目が覚めた時、彼女は病院のベッドに横たわっていた。失った片足に目を向けながら、ルキナは自分を助けてくれた男が父の顔見知りであり、どういうわけか自分があの現場にいた事を知って助太刀に向かったのだという事を他のハンター達から聞いた。あの人ならざる領域にまで達していなければ戦えない様な怪物が蔓延っている。その事実に震えた彼女は、ほどなくして死んだ父の会社を継ぎ、対デーモン用の兵器開発やそれを主要にした軍事ビジネスを拡大していく事になったのである。




 ――――心なしか、ベクターも少し懐かしげな様子で彼女を見ていた。


「見た所、元気そうだな」


 テーブルとその近くに会ったソファに腰掛けながらベクターは話す。


「金は掛かるけど、もう生活に不便はない。傍からでも見分けがつかないでしょ ? 私が昔どんな目に遭ったかなんて」


 彼女はズボンの裾を直した後で片方の目に指を突っ込んで、眼球を取り外して見せる。精巧に作られた義眼であった。


「ああ。見違えたもんだ…デーモン相手に泣きじゃくっていた頃とは大違い」

「もう。私の事散々言ってたって父さんに聞いたのよ ? 『あんな腰抜けの足手纏いにやらせるくらいなら、最初から俺に任せとけばよかったんだ』なんて…そりゃ縁も切られるわ。父さんが私に愛着を持っていたなんて意外だったけど」


 小馬鹿にするベクターだったが、ルキナはそんな煽り癖があるから父との関係が終わってしまったのだと呆れた顔で彼へ苦言を呈した。ベクター達同様に席へ着いてから、お茶菓子を勧めた彼女はいよいよ本題へ入る。


「散々巻き込まれたから既に知っているだろうけど、話がしたいのは他でもない…彼女の事について」


 ルキナが茶菓子を口に頬張っているムラセを見つめながら新しい話題を切り出すと、ベクターのティーカップを持とうとする手が止まった。


「…今からする話は取引としてか ? それとも顔見知り同士の雑談としてか ? 」

「前者よ」


 そうやって尋ねてきたベクターの顔が少し険しくなる。そんな彼に負けずとも劣らない真剣な表情でルキナは応対を始めた。

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