第26話 空飛ぶ木偶
次から次へと飛来してくる羽を躱していきながら、ベクターはどうにか距離を詰めようと観客席を足場にして跳躍する。しかし、すぐに飛んで移動をされてしまうため思う様に攻撃は出来なかった。
「小賢しいヤツだなホント…」
イライラするベクターを嘲笑う様に、デーモンは遠距離から攻撃を行って牽制し続けた。ベクターは躱し続けていたが、左腕が光っているのを見た事ですぐに考えを改める。
「なら良いぜ。同じ土俵で戦ってやる…殲滅衝波」
すぐさま左腕を殲滅衝波へ切り替えたベクターだったが、最大の出力で放つのではなく単発のエネルギー弾として撃ち始めた。攻撃を外した際のリスクを考えれば、いきなり全力で使い切るという事は出来なかったのである。大幅に抑えているとはいえ、その威力は決して侮れない。躱した後に隙を見ては攻撃を行い、デーモンへと命中させていった。
やがて攻撃を厄介に感じたのか、デーモンは翼を体に纏わせて防御をしようとする。羽ばたかせもせずにどうやって浮遊しているのかイマイチ不明だが、直後に羽を広げた。そのまま生えている羽を使って爆発を引き起こし、反動を利用して高速でこちらへ突撃してくる。ベクターは左腕の具合で、まだ変形をさせる事が出来ると悟って破砕剛拳へと変えた。
デーモンによる重力、そして爆発の威力を利用した空からの突撃が行われ、鉄塊に砲弾をぶち当てた様な鈍重な音が響き渡る。辺りに土や瓦礫が舞い、収まった頃には破砕剛拳を使って全身全霊で受け止めているベクターの姿が見えた。
「体重軽いぜ ? ちゃんと食ってるか ?」
そのまま背負い直していたオベリスクを再び掴み、押さえていたデーモンの頭部へと突き刺す。悲鳴が上がり、血がガスマスクに飛び散ったが、それでも手加減する事なく深々と突き刺していった。
――――その頃、辺りを包囲し始めた装甲車の群れを前にして、ムラセ達は若干慄いていた。間もなくアスラを纏った状態で現れたアーサーが彼女達を目撃して驚いたように体を向ける。
「なぜお前達がここに…」
「悪いかよ。ただの小遣い稼ぎだ」
アーサーが尋ねると、ひどく辛辣な態度でタルマンは返答した。ムラセも警戒しているのか拳銃をこちらへ構えている。
「…悪いが今は揉めるつもりはない。うちの部下から話も聞いた…”死神”はどこにいる ? 」
アーサーが再び質問をした時、遠目に見えていたドームの天井の一部を突き破って再びデーモンが現れた。が、苦しそうに藻掻きながら飛行しており、その頭部には深々と突き刺せたオベリスクの刃を回転させて血みどろになっているベクターがいる。
「…ああ、成程」
また無茶苦茶やってるんだなと、アーサーはドン引きしながら空を飛んで抵抗を続けるデーモンを眺めていた。一方でベクターは藻掻く姿に弱々しさを感じた事で頃合いだと判断し、オベリスクを引き抜いた直後に今度は細い胴体へと突き刺す。そしてそのまま切れ味と重力に任せて一気に掻っ捌いた。
「ギャアアアア‼」
そのままオベリスクを抜いてからベクターは地面に着地し、軽い音と共に地面に激突したデーモンの様子を見つめる。そしてもう抵抗は出来ないだろうとすぐに判断し、コアを回収しておこうと接近した時だった。
「レ…クイ…エム…」
デーモンが微かに喋った。これまで遭遇してきた連中に無い違和感をベクターは感じ、思わずぐちゃぐちゃにしてしまったデーモンの顔を凝視する。
「レクイエム ? 」
ベクターが聞き返す頃にはデーモンは息絶えており、ピクリとも動かなくなっていた。喋れるのなら色々と聞いてみたかったと、ベクターは損をしたような気分に陥りながら胴体に埋もれているコアを抜き取る。血みどろではあるが、禍々しい碧色を放っている。正直、指輪に使ってもいいくらいだった。
その時、突然左腕が光り出したかと思えば激しい閃光を放つ。思わず眩んだ目が元に戻った頃には、先程まで持っていたはずのコアが消え失せていた。
「またこれか…」
心当たりがあるかのように悪態をついた後、ベクターが振り返った先にはムラセ達やアーサーが率いるシアルド・インダストリーズの面子がいた。
「おいおいおいおい…‼これはグリフォンじゃないか ! 」
「知ってるのか。てか誰だお前」
なぜか現場に同行していたマークが背後からデーモンの亡骸へ駆け寄ってきた。先程自分が殺したクソッタレの名前がグリフォンだという事に興味を示す一方で、いきなりやってきたこのエルフは誰だとベクターは訝しさを隠さずに尋ねる。
「過去に一度、目撃されただけの超大物だよ…ああ、失敬。マークだ…シアルド・インダストリーズで兵器開発を受け持っている」
自己紹介と共に握手を求めてきたマークへ、ベクターは鼻で笑いながら応じる。すると背後からアーサーが近づいて二人の間へ割って入った。
「ほう、これはこれは…えーっと…」
「アーサーだ」
「ご丁寧にどうも。用件があるのか ?それともわざわざ殴り倒されに来たのか ? この間みたいにな」
名前を教えてくれたにも拘らず、アーサーに対してベクターは酷く喧嘩腰であった。シアルド・インダストリーズの手先であるという点だけでも警戒に値したが、馴れ初めからして戦闘から入ってしまった以上、仲良くするにはバツが悪かった。
「何だと ? 」
「癪に障ったのなら謝るよ。あんなボケ老人ですら怪しむレベルの安い演技に引っかかるノータリン野郎とは思わなかったんでな。馬鹿にされないと本気で思ってるのか ? 何ならどんな負け方したのか、そこにいる同僚に話してやっても良いんだぞ」
特に仲良くする理由も無いのを良い事に、ベクターはキツく罵りながら挑発する。返答はなかったが、アーサーが快く思っているわけがないというのは周りから見ても明らかであった。
「あの~…お取込み中悪いんだが、少しだけ話を聞いてくれないかな ? 」
これでは事を進められないと判断したマークが二人を取り持ち、ベクターに話があると気を逸らさせる。
「話 ? 」
「うちのトップがアンタに会いたがってた。すぐにでも案内できる」
マークがニヤリと笑いながら用件を伝える。ムラセの件か、それ以外なのか。いずれにせよ話だけでも聞いておいた方が良いかもしれないとベクターは考え、間もなく会いに行くという趣旨を彼に告げた。




